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『ポジティブ・チェンジ』メンタリストDaiGo|心を変えたいなら、心をいじってはいけない

キャリア・働き方 ✍ メンタリストDaiGo
約7分で読めます

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『ポジティブ・チェンジ』
目次

自己啓発書を何冊読んでも、結局のところ自分は何も変わらなかった。心当たりのある人は多いはずだ。メンタリストDaiGoの『ポジティブ・チェンジ』は、その失敗を意志の弱さのせいにしない。

原因は、人間の脳と体に組み込まれた「ホメオスタシス(恒常性)」、つまり現状を維持しようとする生存本能にある、と本書は説く。ダイエットが続かないのも、早起きが三日で崩れるのも、根性が足りないからではなく、変わろうとする力を打ち消す仕組みが最初から働いているからだ。

だからこそ本書が提案するのは、心を先に整えようとするのをやめ、行動のほうから脳を書き換えていくという順序の逆転である。以下では、その核心にある発想と具体的な仕掛けを、編集部なりの評価も交えて追いかけていく。

心を整えてから動くのではなく、動いてから心が変わる

本書の主張は、削ぎ落とすと一行になる。行動を変えることでしか、心は変わらない。世の自己啓発の多くは「まず意識を変えよう」「なりたい自分を鮮明にイメージしよう」と説くが、DaiGoはこれを真逆だと切り捨てる。心が変わるのを待っていたら、人はいつまでも動き出せないからだ。

たとえゴルフの上達法を頭でいくら考え尽くしても、スイングは一ミリも良くならない。実際にクラブを振り、芯を捉える感覚を身体に刻んで初めて「ゴルフができる自分」に変わる。

人見知りを直したいなら、普段挨拶しない相手に出社時ひと言かける、という行動を先に積む以外に道はない。変化を実感できるのはいつも、行動が変わったあとであって、その逆ではない。

ここで見逃せないのが、本書が「努力と根性」を明確に否定している点だ。つらさを我慢で押し切る方法は、ホメオスタシスの反発を受けて必ず続かなくなる。

だから変化の過程そのものを面白がれる仕組みへと作り替える。「ポジティブ・チェンジ」という言葉には、我慢ではなく設計で自分を動かす、という含意がある。

精神論への安易な回帰を封じている点は、この手の本として誠実だと感じる。

頭・根拠・希望という三つの言い訳を先に手放す

行動を邪魔しているのは、多くの場合もっともらしい思考のほうだ。本書はまず三つの思い込みを外しにかかる。

第一に、頭はいらない。「どうすれば変われるか」と考え込んでいる時間は、じつは行動から巧妙に逃げている時間でもある。あれこれ悩むのは、本音では変わりたくないからだ、という指摘は耳が痛い。

準備を整えてから動くのではなく、見切り発車で走り出し、足りないものは走りながら拾う。第二に、根拠はいらない。「自分は変われる」という保証を探し始めた瞬間、脳は「根拠がないからやめておこう」という安全な結論を差し出してくる。

ここでDaiGoが引くのがアドラー心理学の目的論で、過去のトラウマや学歴のなさは「変われない原因」ではなく、変わりたくないという目的のために後づけで持ち出された道具にすぎない、と読み替える。

むしろ不遇な境遇は武器になりうる。移民の子として工場で働いた鉄鋼王カーネギーは「自分より貧しい者に負けたくない」というハングリー精神を燃料に変え、ビル・ゲイツはジョブズのプレゼン力をうらやむ代わりに自分だけの強みを見極めて世界を制した。

ない物を嘆く思考を、ある物を使う思考へ切り替える発想である。

第三に、希望はいらない。未来に光が見えなくても、目の前の行動に没頭してしまえばいい。チクセントミハイの言う「フロー」の状態では、余計な思考が入り込む隙が消える。

飛行機事故で夫を失い寝たきりを宣告された女性探検家が、悲しむ暇をなくすほど講演に自分を追い込んで立ち直った例は象徴的だ。ネガティブな感情が湧いたら、とりあえず何かをする。

それが心を守る。ただし編集部としては、この「感情を思考で処理せず行動で上書きする」構えは強力である一方、本当に休息が必要な局面まで塗りつぶしかねない危うさも併せ持つ、と留保しておきたい。

準備と計画こそが、あなたの行動力を食い尽くす

「準備してから行動する」は正しく聞こえるが、裏を返せば「準備が完璧になるまで動かない」という言い訳になる。そして準備が完璧に終わる日は、永遠に来ない。

ジョブズが若い頃カリグラフィの授業に熱中したのは、将来マックを設計するためではなく、ただ興味のままに動いた結果だった。点と点は、後からしかつなげない。

DaiGo自身もニコニコ生放送を、ウェブカメラ一つ買ってすぐ始め、必要なものは後から足したという。

さらに厄介なのは、計画を立てる行為そのものが意志を削る、という指摘だ。本書いわく「計画は欲求を消費してしまう」――綿密な購入計画を練るほど、買いたい気持ちは冷めていく。浪費を抑えるライフハックとしては優秀だが、行動したいときには完全に逆効果になる。

この現象を心理学では「決定疲れ」と呼び、フロリダ州立大学のバウマイスターは、選択を繰り返すたびに脳のエネルギー(ブドウ糖)が減り、肝心なときに正しく決められなくなることを示した。

ジョブズが毎日同じ黒いタートルネックを着たのも、「今日何を着るか」という決定を消して脳を本業に温存するためだった。裏返せば、私たちは日々どうでもいい選択に意志を漏らし続けている、ということだ。

やる気は、動き出したあとにしか湧いてこない

「やる気が出たら始めよう」は、永遠に始まらない呪文である。脳には「作業興奮の原理」があり、手を動かして作業に入ると期待のホルモン・ドーパミンが分泌され、それがさらなる行動を引っ張る。

つまりやる気は行動の原因ではなく、結果として後からついてくる。だから気が乗らない日ほど、ハードルを極限まで下げる。「とりあえず5分だけ」「報告書のタイトルと日付だけ打つ」。

それだけで脳は徐々にその作業へ最適化され、気づけば没頭している。

この発想を日々の運用に落とすのがToDoリストの使い方だ。本書のルールは徹底していて、リストに書くタスクは常に三つだけ。優先順位を頭で悩まず直感で三つ選び、それぞれ別の付箋に書いて重ねて貼る。

すると一番上の一枚しか目に入らず、驚くほど集中できる。しかもこの選定は前夜に済ませ、朝いちばんの創造的な時間を「何をやろうか」で溶かさない。

タスク管理術というより、朝の意志を守るための前倒し、と捉えると腑に落ちる。

意志ではなく環境を操作する、七つのスイッチ

本書の中核は、意志に頼らず環境を操作して自分を変える七つの領域――時間・言葉・友人・モノ・環境・外見・食事――にある。時間では、起床後2時間の「ゴールデンタイム」をメールで潰さず最重要の仕事に充てる。

早起きは「10パーセントメソッド」で、いきなり2時間ではなくその一割の12分だけ前倒しし、体が慣れたらまた12分ずらす。脳の抵抗を刺激しない刻み方だ。

言葉では「アズ・イフの法則」――ある美徳を身につけたいなら、すでに備わっているかのように振る舞う。売れないマジシャンだったコーエンが全財産で高級スーツと時計を買い「セレブ専門」になりきったら本当に一流になった、という逸話が添えられる。

あわせて勧められるのが主語を私に置く「Iメッセージ」だ。「なぜこれもできないんだ」という相手を主語にした詰問を、「これができるようになると私はとても助かる」と言い換えるだけで摩擦が減り、巡って自分の内面も穏やかになる。

言葉は他人への道具である前に、自分の脳に効く暗示なのだ。友人では、ハーバードのクリスタキスらのフラミンガム調査が示すように、肥満や飲酒・喫煙は友人間で「感染」する。

友人が肥満になると自分のリスクは171パーセント上がるという数字は強烈で、付き合う相手を選ぶことが最も効くレバーだと分かる。モノを減らすのは選択のパラドックスによる決定疲れを避けるため、環境を変えるのは適応本能を逆手に取るため、外見を先取りするのは他人の判断が数十秒で決まるため。

そして食事では、血糖値を低GI食品で緩やかに保ち、意志が切れないよう脳の燃料を安定させる。ジャンクフードを与えられたマウスが怠惰になった実験や、クルミ入りパンを食べた学生の推論能力が11.2パーセント伸びた調査が、意志と食事の直結を裏づける。

七つを貫く思想は一つだ。意志は消耗品だから当てにせず、勝手にそう動いてしまう環境を先に組む。並べてみると個々の助言に既視感はあるが、「すべて決定疲れとホメオスタシス回避で説明しきる」骨格の一貫性こそ本書の価値だと感じる。

五週間で「変わり続ける自分」を仕込む

七つのスイッチを日常へ定着させる装置が、五週間のプログラムだ。1週目はA4一枚に今の自分の属性を書き出し、その正反対となりたい方向を具体化する。

2週目は「新しいこと日記」で、その日やった小さな新しい試みを寝る前に一〜三個記す。ピーク・エンドの法則を使い、一日の締めに変化を書き留めることで脳に「今日は良い日だった」と解釈させる狙いがある。

3週目は「めんどくさい」を行動の合図に変える。それは脳が変化を止めようとするサインだから、感じた瞬間に考えるのをやめ、5秒以内に最初の一歩を踏み出す条件反射を作る。

4週目はあえて「超恥ずかしいこと」をやる。コンビニでアイスを温めてもらうような、笑って済む恥をかき、大恥でも社会的には何も起きないと脳に体感させる「心のレジスタンストレーニング」だ。

5週目は敵を利用する。苦手な上司や嫌いなものを避けず、その力をどう自分の目的に使うかを冷静に考える。逆境すら燃料に変える、能動性の完成形として置かれている。

段階を追って負荷を上げるこの設計は、行動療法の曝露に近い。読んで終わりにせず、この五週間を実際に回せるかどうかで、本書の価値は決まると言っていい。


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