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『Microsoft Wordを開発した伝説のプログラマーが発見した「やりたいことの見つけ方」がすごい!』リチャード・ブロディ|やりたいことは、探すのではなく解剖する

キャリア・働き方 ✍ リチャード・ブロディ
約7分で読めます

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『Microsoft Wordを開発した伝説のプログラマーが発見した「やりたいことの見つけ方」がすごい!』
目次

嫌いな同僚がいた。それだけの理由で、仕事を辞め、家と車を手放し、婚約まで解消してボストンへ引っ越した人がいます。

本書の著者、リチャード・ブロディ氏です。Microsoft Wordの初代開発責任者を務め、ビル・ゲイツ氏の技術アシスタントとしてマイクロソフトの黎明期を支えた人物。ストックオプションで資産を築き、周囲からの評価も手にしていました。

それなのに、引っ越して数か月もしないうちに、新しい職場にも新しい部屋にも新しく出会う人にも、また同じような不満の種が見つかっていく。環境をどれだけ入れ替えても、不満を作り出している本体は自分の内側にあった。原題は『Getting Past OK』。

可もなく不可もない状態を抜けて、その先へ進むための一冊です。

年収や役職が上がっても朝いちばんに気が重い人、「やりたいことを見つけよう」系の本を何冊試しても感覚的な言葉ばかりで続かなかった人。本書がまず手を差し伸べるのは、そういう読者です。差し出されるのはノートと3色のペンを使い、願望を機械的に分解していく、プログラマーらしい手続きです。

「まずまず」の先が、誰にも見えていなかった

本書の出発点は、身も蓋もない指摘です。人類は食料を確保し外敵から身を守る術を身につけ、その結果として余暇という時間を手にしました。ここまでは種として成功したと言えます。

問題はその先で止まっていること。学校が教えるのは生産的な働き手の育て方であって、手に入れた余暇をどう味わうかではありません。だから多くの人は、時間の使い方を誰にも教わらないまま大人になり、人生が「まずまず」で頭打ちになる。著者はここに原因を置きます。

象徴的なのが、著者がハーバード大学の同級生たちと交わした振り返りです。在学中で本当に価値があったのは優秀な仲間との出会いだけだった、という点で全員の意見が一致した。だとすれば難関を突破する必要すらなく、誰かが貸し会議室を借りて志望者を集めれば同じ価値は再現できたことになります。

学歴や肩書きが保証してくれるのは、せいぜい「まずまず」までなのだと、この挿話は語っています。

常識は、誰かの都合で決まっただけかもしれない

本書はこうした思い込みを「ミーム」と呼びます。風習や常識のように、検証されないまま人から人へ複製されていく情報のことです。

引かれる逸話がわかりやすい。母親が肉の端を切り落としてからローストビーフを焼くのを見た子が、理由を尋ねます。母は「祖母がそうしていたから」としか答えられない。曾祖母まで遡って聞くと、答えは呆気ないものでした。「当時のオーブンが狭くて、切らないと入らなかったから」。

いま従っている常識のかなりの部分も、誰かの狭いオーブンの都合が形を変えて残っているだけかもしれません。

本書はこの構造を、ある人物の実例でも描きます。「他人は信用できない」と思い込んだ人が、詐欺や裏切りのニュースばかり無意識に集め、高級車を見ては「金持ちは他人を騙す」という新しい理由づけまで作り出す。信じたい結論に向かって証拠だけが雪だるま式に膨らんでいく現象です。

結果、差し出されたビジネスの誘いも人間関係もことごとく疑って手放し、最後は交際相手から「あなたを信用できない」と別れを告げられます。この人物は後に著者の原稿を読んで思い込みに気づき、他者を信じる見方を選び直した。以前より幸福な人生を送るようになったと本書は書き添えています。

正しさにこだわり続けることが、必ずしも人生の質を上げるとは限らない。むしろ、その正しさを守るために何を差し出してきたかを点検したほうがいい。本書はそう提案しています。

サボっているのではなく、優先順位を取り違えているだけだ

著者はかつて、勤務中についサボってしまう自分を責めていました。ところが行動を細かく記録してみると、実態は違った。重要な仕事を避け、優先順位が3番目や4番目の雑用から手をつけていただけだったのです。

企画書を開いた5分後には受信箱が空になっている、という経験に覚えのある人は多いはずです。

本書はこの行動を「逃避」と名づけ、怠惰ではなく無意識からの警告信号として扱います。パターンを知っていれば、逃避が始まった瞬間に「いま最優先事項から目を逸らしている」と自分で気づけるからです。

罪悪感の扱いも独特です。ある人物は、知人に手紙を書けていないことに60年以上も罪悪感を抱き続けている。それでも手紙は1文字も進んでいません。罪悪感は問題を解決した気にさせるだけで、行動そのものは変えないと本書は言い切ります。

かわりに提案されるのが、罪悪感を理想の自分と現実とのズレを示す計器として扱う発想です。責める道具ではなく測る道具。ズレの正体が「自分との約束を破り続けていること」なら、やるべきことは一つ、やり残しを片付けて約束を果たすことです。

頭の中に置きっぱなしの未完了タスクは、本書の言葉を借りれば絶えず球を落とさないよう気を張り続ける「ジャグリング」であり、生きる気力を静かに奪っていきます。

罪悪感を「責める道具」から「測る道具」へ配置し直すだけで、次に打つ手が精神論ではなく作業に変わる。この切り替えの効き目は、実際にやり残しを1件片付けてみるとわかります。

「時間がなくてできない」という言い訳も、この本の前では立場を失います。

「どんなことであれ、君がそのことを行うことの優先順位を上げさえすれば、できないことは何もない」

物理的に不可能なのではなく、優先順位が低いことを体裁よく言い換えているだけだ、と著者は突き放します。だから本書は言い換えを勧めます。「できない」ではなく「私はいま、それをしないことを選んでいる」。主語を自分に戻すだけで、他人への言い訳もそこから生まれるストレスも消えていきます。

目標は終わるが、目的は終わらない

ここが本書の核心です。多くの人が「やりたいこと」として挙げるのは、特定の職業に就く、家や車を買う、年収を上げるといった到達点です。本書はこれらを、達成した瞬間に効力を失う目標と呼びます。

マイクロソフト時代の著者自身が、目標を達成し尽くした直後に空虚さへ落ちた張本人でした。

対して目的には終わりがありません。達成して終わるものではなく、味わい続けられる経験や感情そのものだからです。目標だけを積み上げる生き方は、達成のたびに次の空白を受け取ることになります。

目的を取り出す手順として、本書は願望を三層に分解します。自分が本当に味わいたい経験や感情そのものである根源的な欲求、それを満たすために選ぶ職業や環境というシステム、そしてシステムの中で実際にとる行動や役割である手段。

この三つを混同したまま「やりたいこと探し」をしても、最初の一層目にすら届きません。

著者自身の少年時代のエピソードが、三層の使い方を教えてくれます。11歳のとき少年野球でピッチャーを任され、人生最高の成功体験だと感じていた。ところがコーチから守備位置をライトに変えると告げられ、激しい怒りをぶつけてしまう。

大人になってこの出来事を解剖した著者は、自分が本当に求めていたのはピッチャーという役職ではなく、大勢から注目を浴びるという経験そのものだったと気づきます。

ピッチャーは、その欲求を満たすための手段の一つに過ぎなかった。いまの著者は二度と少年野球のマウンドには立てませんが、講演や執筆という別のシステムと手段で、同じ渇望をきちんと満たし続けています。

欲求の層さえ特定できていれば、特定の職業や環境を失っても、別の手段で何度でも同じ充実を作り直せる。これが三層分解の実用的な効き目です。万人に共通する唯一の人生目的というものは存在しない、と本書は断言します。だから、自分の心の中から掘り起こす以外に近道はありません。

この根源的な欲求を見分ける目印として、本書は一つの基準を置いています。周りから何度やめろと言われても、やめる気になれないくらい好きなこと。損得を度外視してでも手を伸ばしてしまうものこそが、その人の渇望の在りかだという基準です。

ノート1冊と3色のペンで、欲求を解剖する

抽象的な理屈だけでは終わらないのが、本書の実用書としての強みです。手順は具体的に落とし込まれています。

まずノートに「やり残し」「言い訳」「逃避」という3つの見出しを立て、頭の中に居座っている雑用や、先延ばしのときに口にする理由、それを避けるためについやってしまう行動をそれぞれ書き出します。壮大な夢は対象外で、書くのは具体的なタスクだけです。

次に、書き出したやり残しを赤ペンで二択に仕分けます。「絶対にやる」ものはいつ着手するかを決めてスケジュール帳へ移し、「やらない」ものは線を引いて消す。決められないものには「やるかやらないかを決める」という新しいタスクを一つ加えます。

最後が7つの質問への回答です。子どもの頃に夢中になった遊び、自分の基準での一番の成功体験、憧れる人物の魅力、理想の仕事と人間関係、やりたいことを最低10個。

答えの中から、味わいたい経験と感情には赤、職業や環境には青、具体的な役割や道具には黒で丸をつけていく。赤丸の中で繰り返し現れる言葉をつなげた一文が、そのまま人生の目的になります。

著者自身、この一連の作業を最初に形にするまで数時間、しっくりくる言葉に磨き上げるまでにさらに2年をかけたと明かしています。ただし価値の9割は最初の数時間で立ち上がる、とも書き添えている。完成を待たずに始めていい理由が、ここにあります。

書いておくべき留保もあります。本書の前提は、自己選択の自由があり生存の心配がなく余暇も確保されている先進国の読者です。生き延びること自体が困難な環境にそのまま当てはめられる方法ではありません。

また、一見崇高とは言えない渇望もそのまま肯定してシステムで満たそうとする発想には、倫理的な線引きの議論がもう少し欲しいところでもあります。

それでも、本書がいちばん長く読者の頭に居座らせる一文は、これだと思います。

「あなたのこれまでの人生は、あなたのこれからの人生に何の関係もない」

「やりたいこと」がつかめないのは、探索の技術が足りないせいではなく、頭の中の棚が未処理の案件でふさがったままだからかもしれません。だとすれば最初にやることは、探すことではなく空けることです。

手元のノートを開き、ページの一番上に「やり残し」の4文字だけ書いてみる。今日やれるのは、そこまでで十分です。


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