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ブクドリ | BOOK DRIP

「一番」をやめた人から、代わりがきかなくなる

約5分で読めます キャリア・働き方
目次

一つの分野で一番になりなさい。その助言は、半分だけ正しいです。

残りの半分は、たぶんあなたを消耗させます。

学生時代から、私たちは「一番」を刷り込まれてきました。テストの順位。部活のレギュラー。営業成績。どれも、一人だけが頂点に立つ設計です。

だから多くの人が、仕事でも同じ勝負をしようとします。同じ職種、同じ業界で、隣の人より少しでも上へ。

でも、その勝負は苦しいのです。

たとえば100人が同じ土俵で競れば、100人に1人になるだけでも相当な努力がいります。しかも、上には上がいる。トップに近づくほど、努力に対して差がつきにくくなります。

もう一つ、見落とされがちな問題があります。

一つの分野の一番は、驚くほど替えがききます。あなたが抜けても、2番手が繰り上がるだけ。組織はそう設計されているからです。

一番を目指すほど、代わりのいる椅子を奪い合うことになる。

頂点の椅子は、いつも誰かと奪い合っている

なぜ一つの分野での勝負は苦しいのか。構造を見てみます。

同じ職種・同じ業界の中では、評価の物差しが一本です。物差しが一本なら、みんなが一列に並ぶ。一列に並べば、必ず上下がつきます。

これは椅子取りゲームに似ています。椅子の数は決まっていて、全員が同じ椅子を狙う。

『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』で、国分峰樹さんははっきり言っています。「労働市場で平均点にお金を払う人はいない」。

平均点どころか、上位数パーセントに入っても安心はできません。同じ物差しで測られる限り、あなたの価値は「その物差しの中での順位」でしかないからです。

そして、その物差し自体が、AIや技術の変化で書き換わります。

昨日まで一番だった技能が、明日には自動化されている。一本の物差しに全部を賭けるのは、思ったより危うい賭けです。

では、どうするか。

物差しを増やせばいい。これが、この記事で一緒に見ていく考え方です。

一番より、交差点

希少性は、足し算ではなく掛け算で作れる

教育改革実践家の藤原和博さんが、面白いことを言っています。

一つの分野を1万時間ほど続けると、だいたい「100人に1人」の位置に立てる。ここまでは、多くの人が想像できます。

問題は、その先です。

一つの分野で「100万人に1人」を目指すのは、オリンピックのメダリスト級の話。ほとんどの人には現実的ではありません。

でも、100人に1人を3つ持つとどうなるか。

100分の1 × 100分の1 × 100分の1 は、100万分の1。

掛け算だから、一気に跳ね上がります。一つひとつは「まあまあ得意」でいい。それを3つ重ねるだけで、100万人に1人の希少性になる。(あくまで確率上の目安で、分野が近すぎると効果は薄れます)

たとえば「営業ができる」だけなら、大勢います。でも「営業ができて、ITに詳しくて、文章で発信できる」人となると、急に見当たらなくなる。

希少性は、一つの深さより、複数の掛け合わせで作るほうが速いのです。

軸を固定して、隣にずらす

掛け算と言われても、まったく違う3分野をゼロから積むのは大変です。

ここで効くのが、motoさんの「軸ずらし転職」です。

『転職と副業のかけ算』で、motoさんは自分の年収を240万円から本業1000万円まで引き上げました。やったことは、意外とシンプルです。

「営業」という職種の軸は変えない。業界だけを、小売から人材、IT、広告へと、年収水準の高いほうへずらしていく。

つまり、片方の足は地面につけたまま、もう片方を隣へ踏み出す。

たとえば人材業界の営業で得た経験は、IT業界の営業でもかなり通用します。ゼロからではなく、8割は持ち運べる。残り2割の「新しさ」が、あなたの掛け算を一つ増やします。

尾原和啓さんも、似た表現をしています。「別の業界だけど同じ職種」「同じ業界だけど別の職種」に動くと、成長が加速する、と。

尾原さんは、もう一つ大事なことを言っています。会社の看板が外れても「あの◯◯さん」と思い出してもらえること。それが、持ち運べる本当の実力だ、と。

軸をずらしながら積んだ実績は、会社ではなく、あなた自身に紐づきます。だから次の職場でも、独立しても、そのまま効きます。会社が変わっても、あなたの物差しは持っていけるからです。

全部を捨てて飛ぶ必要はありません。軸を残して、隣へずらす。これなら、消耗せずに分野を増やせます。

掛け算の独自性は、真似されにくい

複数を掛け合わせた人は、なぜ替えがきかなくなるのか。

国分さんは、オリジナリティを「すでにある情報の集合に対する距離」と定義しています。みんなが立っている場所から、どれだけ離れているか。

一つの分野の頂点は、全員が目指す場所なので、実は「距離」が近い。

一方、複数の分野の交差点は、誰もいない空白地帯になりやすい。国分さんは、これを「この領域はアイツに聞け」と言われるポジションと呼びます。

たとえば「経理」と「動画編集」と「地方移住」。バラバラに見える3つでも、掛け合わせた瞬間に、その人にしか語れない領域が立ち上がります。

異質なものが交わるところに、新しい価値が生まれる。あなたの過去の寄り道は、掛け算の材料だったのです。

「一番になる」を捨てる練習

ここまでの話を、明日からの行動に落とします。

誤解: 一つの分野を極めれば、代わりがきかない存在になれる。 → 同じ物差しで競い続ける限り、あなたは「2番手が繰り上がれる椅子」に座っているだけです。深さだけでは、希少にはなりにくい。

正しいアプローチ: 「まあまあ得意」を3つ持ち、掛け合わせる。 → 100人に1人を3つで、100万人に1人。頂点を取らなくても、独自の位置に立てます。

具体的な一歩を、3つ書きます。

一つ。いまの強みを「職種の軸」として言葉にする。営業、設計、編集、なんでもいい。動かさない軸を、まず1本決めます。

二つ。その軸を持ったまま、隣の領域へ半歩ずらす機会を探す。転職でなくてもかまいません。社内の別プロジェクト、副業、ボランティア。尾原さんの言う「試行回数」を増やす場です。

三つ。掛け算の途中経過を、外に出す。ブログでもSNSでもいい。「営業×IT」で気づいたことを書くだけで、「あの人はこの掛け算の人」と覚えてもらえます。純粋想起、という武器になります。

一度に3分野は要りません。まず2つ目を、半歩の距離で始める。それで十分です。

おわりに

一番を降りることは、負けではありません。

一本の物差しの上の順位を手放して、自分だけの物差しを作りにいく。その瞬間から、あなたの代わりは、いなくなり始めます。

参考にした本

  • moto『転職と副業のかけ算』。「職種×業界」の軸ずらし転職で、市場価値と年収を積み上げる実践書。
  • 尾原和啓『どこでも誰とでも働ける』(ダイヤモンド社)。会社に依存せず、持ち運べる信用とスキルで働くための技術。
  • 国分峰樹『替えがきかない人材になるための専門性の身につけ方』(フォレスト出版)。専門性を「新しい知識のアウトプット」と捉え直し、誰もいない空白地帯に立つ方法。
  • 藤原和博の「100万分の1のレアカード」理論(3つの分野で、それぞれ100人に1人)は、広く知られた枠組みとして参照しました。

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