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『行動科学が教える 目標達成のルール』オウェイン・サービスさん|意志力は、もう当てにしない

生産性・時間術・習慣
約5分で読めます

「今年こそダイエットする」「英語をやる」。元旦に立てた目標を、春には忘れている。

私もそうでした。続かないたびに「自分は意志が弱い」と落ち込む。でもこの本を読んで、考え方が変わりました。

続かないのは、意志が弱いからじゃない。意志力に頼る計画を立てていたからです。

『根性論や意志力に頼らない 行動科学が教える 目標達成のルール』(原題 Think Small)の著者、オウェイン・サービスさんとローリー・ギャラガーさんは、イギリス政府の「行動洞察チーム」、通称ナッジ・ユニットの出身です。

国民の行動を実験で変えてきたプロが、その技術を「自分自身」に向けて使う方法を体系化したのが本書です。読み終えたとき、いちばん腑に落ちたのは「努力の総量が足りなかったのではなく、努力の置き場所を間違えていた」という感覚でした。

意志力に頼る計画は、なぜ構造的に崩れるのか

まず、なぜ意志力が当てにならないのか。

本書は心理学者ダニエル・カーネマンの「二重過程理論」を下敷きにします。人間の思考には、無意識で自動的に働く「ファストシステム」と、意識して努力する「スローシステム」がある。意志力は後者の仕事で、ここが肝心なのですが、スローシステムが一度に処理できる注意力には上限がある。

スマホのバッテリーみたいなもので、使えば減る。だとすれば「強い意志で誘惑と戦い続ける」という作戦は、最初から無理筋だということになります。

本書の発想はシンプルです。意志力で戦うのをやめて、ファストシステムを味方につける。自動的に正しい行動が出るように、環境とルールを先に設計してしまう。

大きく届くために、小さく考える。

著者はこの本全体を、この一行に集約します。そのために本書は目標達成を「建築」にたとえ、まだ弱い新しい習慣を支える「足場」を、全部で7つのステップとして組み上げていく。私が膝を打ったのは、この足場の比喩そのものでした。意志力という不安定な土台の上ではなく、外付けの構造で行動を支える――発想がまるごと反転するのです。

ここでは、その中から私がいちばん効いたと感じた2つだけを取り上げます。残りの足場が何なのかは、ぜひ本書で確かめてほしい。順番にも意味があるので、通して読む価値があります。

足場その一――目標を「1つ」に絞るという痛み

最初の足場は、目標設定です。そしてここで、たいていの人がつまずく。

私たちはつい欲張ります。「痩せる」「貯金する」「資格を取る」と全部やりたい。でも本書は、目標は1つに絞れと言い切ります。理由はまた、あのスローシステムの容量です。複数の困難な目標を同時に掲げると、限られた注意力を目標どうしが奪い合ってしまう。

ここで本書は、インドの労働者を対象にした貯蓄実験を引きます。目標を「1つに絞ったグループ」と「複数掲げたグループ」を比べると、絞ったほうが何倍もの貯蓄額を達成した――その具体的な倍率は、本書の数字で確かめてほしいのですが、想像よりずっと大きい。「あれもこれも」が、いかに自分の足を引っ張っていたか。読みながら、自分の手帳に並んだ未達成の目標たちを思い出してしまいました。

この章には、目標の「選び方」の基準や、お金の使い方と幸福度をめぐる意外な研究も登場します。さらに絞った目標を小さな塊に砕く「チャンキング」の考え方も出てきますが、ここでは深入りしません。要は「1つに削る」という一歩が、想像以上に難しく、そして想像以上に効く。それだけは強調しておきたい。

足場その二――「いつ・どこで・どうやるか」を先に決める

私がこの本でいちばん即・実用だと感じたのが、2つ目の「プランニング」でした。

カギは「If-thenプランニング(実行意図)」。「もしXという状況になったら、Yをする」と、状況と行動を事前に結びつけておくテクニックです。「水曜に帰宅したら、1時間走る」「帰宅が午後8時を過ぎたら、仕事のパソコンは開かない」。

こうしておくと、いちいち「よし、やるか」と考えなくて済む。意志力を使わずに、合図に反応する形で行動が出る。これが習慣の正体だ、という説明には説得力がありました。学生にレポート課題で「いつ、どこで机に向かうか」を事前に書かせたら達成率が跳ね上がった実験など、エビデンスも豊富に添えられています。

合わせて紹介される「ブライトライン」も効きます。逸脱したかどうかが一発でわかる、シンプルな一線のこと。著者自身が酒を減らすために引いたのは、面倒なカロリー計算ではなく「家では飲まない」というたった一本の線でした。守れたかどうかが瞬時にわかる――この「判定の軽さ」こそが続く秘訣だと、本書は教えてくれます。

このプランニングの章には、誘惑が来る前に対処法を仕込む「メンタル・コントラスティング」など、すぐ試せる道具がまだいくつもあります。その全部は、本書で手に取ってほしい。

どんな人に効くか――「自分は弱い」と思っている人へ

これは、意志力が強い人のための本ではありません。むしろ逆です。

「自分は意志が弱い」と自覚している人ほど、この本の仕組みは効きます。なぜなら本書の戦略は、弱さを克服しようとせず、弱さを前提に環境を組み替えるものだからです。新年の抱負を毎年立て直している人、ジムの会費だけ払って通わなくなった人、大きな目標を今日の行動に落とし込めない人――心当たりがあるなら、響くはずです。

逆に、根性と気合いで突破したい人や、壮大なビジョンを語ること自体を目的にしたい人には、物足りないかもしれません。本書が描くのは、地味な足場の組み立てだからです。

残る5つの足場には、逃げ道の塞ぎ方、報酬設計の落とし穴、仲間の使い方、フィードバックの質、そして「終わりの祝い方」が並びます。とくに最後の足場で本書が締めくくりに置く法則は、なぜ達成の「瞬間」を祝うことが次の挑戦の燃料になるのか――その理屈が腑に落ちて、私は読後にひとつ、自分の小さなゴールを祝ってみました。

読み終えて、楽になったこと

この本を読んで、いちばん楽になったのは「意志が弱い自分」を責めなくてよくなったことです。

続かなかったのは、性格の問題ではなかった。意志力という有限のバッテリーに、全部を背負わせていただけ。だから足場を組む。1つに絞り、If-thenで仕掛け、線を一本引く。戦わずに、勝つ。

壮大な夢を抱くこと自体は否定されません。ただ、そこへ続く道は、今日できる小さなディテールの積み重ねでしか作れない。まずは、目標を1つに削るところから。それだけで、景色が少し変わります。

残りの足場が、あなたの目標をどう支えてくれるのか。その答えは、本書のページのなかにあります。


合わせて読みたい

『継続する技術』戸田大介さん 本書の「チャンキング」「If-thenプランニング」を、もっと小さく刻んで実装したい人へ。200万人のデータから導いた三日坊主の治し方が、足場づくりの解像度を上げてくれます。

『やらなきゃ確率ゼロ%』大野晃さん 「意志力を捨てたら人生が動き出した」というテーマがそのまま響き合う一冊。根性で戦わず仕組みで動かす、という本書の発想を別角度から確かめられます。

『「幸せをお金で買う」5つの授業』エリザベス・ダンさん×マイケル・ノートン氏 本書のウェルビーイングの章で引かれる「他人にお金を使うと幸福度が上がる」研究の本家。目標選びの基準を、お金の使い方から掘り下げたい人におすすめです。


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