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『「幸せをお金で買う」5つの授業』エリザベス・ダンさん|年収が増えても幸せにならなかった人へ

投資・資産形成
約4分で読めます
『「幸せをお金で買う」5つの授業』

給料が上がった。前より多く稼いでいる。なのに、なぜか前より幸せだとは感じない。

この感覚に心当たりがあるなら、原因はあなたの能力でも努力でもない。お金の「使い方」のほうにある。

『「幸せをお金で買う」5つの授業』は、心理学者のエリザベス・ダンさんとマイケル・ノートンさんが書いた本だ。膨大な学術論文を踏まえて、「お金をどう使えば幸せになれるか」を実験データで解き明かしていく。

冒頭で著者が突きつけるのは、収入と幸福の関係がある段階で頭打ちになる、という話だ。年収がある水準を超えると、それ以上稼いでも日々の幸福感はほとんど変わらなくなる。具体的なボーダーラインや「収入を2倍にしても満足度は何パーセントしか上がらないか」という数字は本書にゆずるが、ここで言いたいのはこうだ。「もっと稼げば幸せになる」は、どこかで効かなくなる。だったら、今あるお金の使い方を変えたほうが早い。

図解

なぜ直感的な使い方では幸せになれないのか

本書の出発点は、一文で言える。

いま持っているお金をどうやって貯めるかではなく、どうやって使うかを考えるようになると、幸福になるために無限に富を増やさなければならないという強迫観念から解放されていきます。

なぜ直感まかせのお金の使い方では幸せになれないのか。カギは「順応性」だと著者は言う。人間は新しい環境や所有物にすぐ慣れてしまう生き物だ。だから高価な買い物の喜びは、驚くほど早く色あせる。

象徴的なのが、ドイツで新しい家に引っ越した数千人を追跡した調査だ。新居そのものへの満足度はしばらく高いままなのに、生活全体への幸福感はほとんど動かなかった。人生最大の買い物であるマイホームでさえ、暮らし全体の幸福度を押し上げてはくれない。「慣れ」という敵がいかに手強いかを突きつけてくる。

この敵を出し抜くために、著者は5つの原則を示す。経験を買う、ご褒美にする、時間を買う、先に支払って後で消費する、他人に投資する。この記事ではそのうち2つだけ、私が特に効くと感じたものを取り上げたい。残りの3つは、本書でじっくり確かめてほしい。

「経験を買う」は、なぜそんなに強いのか

1つめの原則は、形あるモノよりも「経験」にお金を使うことだ。旅行、コンサート、特別な食事。こうした経験は、高級な持ち物よりも長く幸福をもたらす——というのが著者の主張である。

ここで私が膝を打ったのは、その「理由づけ」のうまさだ。経験が強いのは、第一に、人と人とのつながりを生むから。第二に、後悔が少ないから。本書には、過酷なレースの参加者が金銭的価値ゼロの記念品で強烈な連帯感を得た例や、「買わなかったことのほうを人は後悔する」という調査が並ぶ(具体的な比率や事例は本書で)。引かれているマーク・トウェインの言葉が効く。

20年後のあなたは、やったことよりも、やらなかったことによって失望しているだろう。

この原則の実用性は、買い物の「問いの立て方」を変えてくれる点にある。家電を選ぶとき、私たちはつい画質やスペックを比べる。だが本書に従えば、問うべきはそこではない。「これは自分の時間と思い出をどう変えるか」だ。スペック比較は、幸福にほとんど寄与しない機能にお金を払う行為だ、という指摘は耳が痛かった。モノを買うときでさえ、その先にある「経験」を見ろ、というわけである。

「ご褒美にする」――豊かさが、喜びを鈍らせる

もう1つ紹介したいのが、好きなものをあえて制限して「ご褒美」に変える、という原則だ。

人間の感情は、絶対値ではなく「過去との差」に反応する。だから、いつでも手に入る豊かさは、かえって喜びを鈍らせる。毎日飲むカフェラテは、習慣になった瞬間にありがたみを失う。それを金曜だけの一杯にする。たったそれだけで、その一杯から得られる喜びが格段に大きくなる——という話だ。

豊富さが感謝の敵であるなら、不足は私たちの最良の友なのかもしれません。

この原則が面白いのは、ビジネスにも裏返して使える点だ。中身を秘密にしたまま毎月届く定期便が、その「わからなさ」ゆえに会員を熱狂させた例が紹介されている。手に入りにくさや意外性が、すり減った喜ぶ力を再生させる。節約や我慢の話ではない。同じものから、より大きな喜びを引き出す技術なのだ。残る3原則——時間を買う、先払いして後で消費する、他人に投資する——も、それぞれに反直感的で、特に最後の原則は本書の核心にあたる。その「最も反直感的な答え」が何なのかは、ぜひ本編で受け取ってほしい。

この本は、こんな人に効く

読み終えて一番こたえたのは、自分が「お金がないから幸せじゃない」と思い込んでいた節があることだった。実際は、持っているお金を慣れと直感に任せて溶かしていただけだ。

だからこの本は、生活費に困っている人や、稼ぐ額を増やす投資術を求めている人には向かない。刺さるのは、「お金はそこそこあるのに、幸せになりきれない」と感じている人だ。給料が上がっても満足感が比例しない人、ボーナスで何かを買っても喜びがすぐ薄れる人。心当たりがあるなら、財布を開く前に一拍だけ置く——その習慣をくれる一冊になる。稼ぐ額を増やす前に、まず使い方を変える。そのほうが、ずっと早い。


合わせて読みたい

『アート・オブ・スペンディングマネー』モーガン・ハウセル氏 高級品を買っても満たされないのは、本当に欲しいものが「モノ」ではないから。本書の「経験を買う」「順応性」と真正面から響き合う、お金の使い方の名著です。

幸福度が上がるお金の使い方、下がるお金の使い方 本書の5原則をもっと日常の判断に落とし込みたい人へ。同じ金額でも、使い方ひとつで幸福度が逆転する理由を整理したコラムです。

自由な時間が増えても、幸せにはならない 「時間を買う」の原則を別角度から照らす一本。時間さえあれば幸せになれるという思い込みの落とし穴を、本書の議論と並べて読むと理解が深まります。


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