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ブクドリ | BOOK DRIP

小さな会社が大手に勝てる、たった一つの条件

約5分で読めます 戦略・経営・事業
目次

小さな会社が大手に勝つ条件は、「良い商品」でも「気合」でもありません。

たった一つ。「戦う場所を、大手より狭くすること」です。

逆説的に聞こえるかもしれません。でも、これは100年前の軍事理論から、経営学の巨人ポーターまで、驚くほど一致して指し示す答えです。

私たちはつい、「良いものを作れば、いつか大手に追いつける」と考えます。ところが現実は逆に進みます。同じ土俵で総力戦を挑んだ弱者は、ほぼ必ず負けます。

今日は、その理由と「勝てる場所の作り方」を一緒に見ていきます。

なぜ「総力戦」を挑むと負けるのか

ランチェスターの法則、という考え方があります。

もとは第一次大戦の戦闘を分析した数式です。これをビジネスに応用したのが、いわゆるランチェスター戦略。

ポイントは、戦い方に二つの型があること。

一つは「第一法則」。狭い場所での一対一の接近戦です。ここでの戦闘力は、武器の性能×兵力数で決まります。

もう一つが「第二法則」。広い場所での集団戦。ここでは戦闘力が、武器性能×兵力数の「2乗」になります。

つまり広い戦場で数の勝負をするほど、兵力の差が2乗で効いてくる。

資源が10分の1の会社が、全国で全商品を並べて大手と戦えば、差は開く一方です。

だから弱者は、第二法則の戦場に出てはいけない。数の差が2乗で牙をむく場所を、そもそも避けます。

この法則が教えるのは、局所優勢主義という考え方です。

全体では負けていても、狭い一点に力を集めれば、その場所だけは敵を上回れる。歴史でいえば、数分の一の兵で今川義元を破った織田信長の桶狭間が、まさにこれでした。

勝敗を決めるのは、会社全体の大きさではありません。「その戦場での、敵と味方の力関係」です。ここが、弱者にとっての唯一の抜け道になります。

弱者が勝つための三つの原理

では、どこで戦うのか。三冊の本が、別々の角度から同じ答えにたどり着きます。

一つ目。「弱者」か「強者」かは、規模でなく場所で決まる

ランチェスター戦略では、強者を「その市場のシェア1位」、弱者を「それ以外すべて」と定義します。会社の大小ではありません。

だから大企業でも、ある地域では弱者になる。逆に小さな会社でも、狭い市場に絞れば、そこでは1位の強者になれます。

たとえばキリンビール高知支店。1990年代、アサヒ「スーパードライ」に押され、全社では負け続けていました。それでも高知という一県に資源を集中し、まず「高知でいちばん」を取りにいった。

高知でのシェアは1997年に37%まで落ちたあと、2001年に44%へ反転し、2006年には60%近くに達します。そして最下位支店の戦い方が全社に広がり、キリンは2009年に9年ぶりの首位を奪回しました。

示唆はシンプルです。「全国で3位」より、「一県で1位」を先に取る。狭い場所での1位が、次の足場になります。

二つ目。勝つために、まず捨てる

一点集中とは、裏返せば「大半を捨てる」ことです。

高知支店は、家庭用市場を捨てました。ビール市場の75%は家庭用ですが、そこは値引き勝負になりやすい。残り25%の飲食店市場は、足を運んで信頼を築けば大手にも割って入れる。

そこで「料飲店は全部とれ、しかし金は使うな」という、極端なほど単純な方針を掲げます。営業を一点に集めた結果、激戦の店まで取れるようになった。

絞ったからこそ、大手が嫌がる接近戦ができました。ある若手は、月に200軒の飲食店を回ると自分で宣言する。最初は追い返されても通い続けた。4カ月目から、店の反応が変わり始めます。全国のCMでは届かない距離まで、足で詰めたわけです。

たとえばランチェスター本に出てくるパン屋も同じです。売上の3分の2を占めていた宅配ピザ事業をやめ、焼きたてパンに特化した。捨てた結果、パン事業の売上は5倍になりました。

捨てるのは怖い。でも資源が限られる側にとって、分散は静かな敗北です。「儲けたかったら戦線を縮小せよ」。この本の言葉が刺さります。

三つ目。「最高」でなく「独自」を狙う

ここでポーターが合流します。

『マイケル・ポーターの競争戦略』の主張は明快です。競争の目的は、ライバルに勝つことでなく利益を上げること。なのに多くの会社が「業界で最高」を目指し、同質化して価格競争に沈みます。

大手と同じ方向に全力で走れば、待っているのは消耗戦。勝ち残るのは、他社と「違う」道を選んだ会社です。

たとえばポーターが挙げるサウスウエスト航空。機内食も座席指定もやめ、あえて一部の客を切り捨てて、低コストと速さに全部を寄せた。

ポーターはこれを「トレードオフ」と呼びます。戦略の本質は、何をやらないかを選ぶこと。

面白いのは、この「やらない」が防壁になる点です。あえて捨てた部分があるから、大手は簡単に真似できない。真似すれば、自分の既存の強みと矛盾してしまうからです。

規模が小さくても勝てます。ポーターはBMWを例に出す。GMよりずっと小さいのに、収益性は業界平均の1.5倍。市場全体の1割ほどのシェアでも、十分に儲かる会社になれます。

差別化と集中。ランチェスターの「弱者の戦略」と、驚くほど同じことを言っています。100年前の軍事理論と現代の経営学が、別の言葉で同じ一点を指している。だから、たぶん本当です。

「広げたい」誘惑に、どう抗うか

理屈はわかっても、現場では逆の力が働きます。売上が伸びると、つい商品もエリアも増やしたくなる。

誤解: 大手と同じ品揃えで全国を狙えば、いつか追いつける → 資源が少ない側が同じ戦い方をすれば、2乗の差が開くだけ 正しいアプローチ: エリアか商品を一つに絞り、そこで1位を取る → 狭い戦場でなら、集中した資源が大手の分散を上回る

行動に落とすと、こうなります。

一つ、自分が「1位を取れる最小の市場」を決める。地域でも、客層でも、用途でもいい。まず勝てる土俵を、自分の手で作ります。

二つ、そこに関係ない仕事を、思いきってやめる。「やらないこと」を紙に書き出す。捨てる決断こそ、集中の中身です。

三つ、絞った場所で、大手が面倒がる接近戦を徹底する。足で通い、顔を覚えてもらう。数の勝負でなく、関係の勝負に持ち込みます。

三つとも、やることは地味です。派手な新商品も、大型の広告もいりません。むしろ逆で、間口を狭め、通う回数を増やすだけ。

それでも効くのは、狭い戦場でだけ、あなたの集中が大手の分散に勝てるからです。逆にいえば、戦場を広げた瞬間に、この優位は消えます。だから、勝ちはじめても広げない。この我慢が、いちばん難しくて、いちばん効きます。

おわりに

小さな会社の勝ち筋は、大手を追いかけることの反対側にあります。

戦場を狭くし、そこに全部を注いで、まず一つの「いちばん」を取る。強さとは、広さではなく、一点の濃さです。

参考にした本

  • 福永雅文『新版 ランチェスター戦略 「弱者逆転」の法則 小さくても儲かる会社になる「勝ち方」』(日本実業出版社)
  • ジョアン・マグレッタ『〔エッセンシャル版〕マイケル・ポーターの競争戦略』(早川書房)
  • 田村潤『キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え!』(講談社+α新書)

合わせて読みたい

  • 楠木建『ストーリーとしての競争戦略』 差別化は単発の施策でなく、つながったストーリーにするほど真似されにくくなる。本記事の「違いで勝つ」を一段深めたい人に。

  • リチャード・ルメルト『良い戦略、悪い戦略』 良い戦略の芯は、力を一点に集めること。弱者の「一点集中」がなぜ効くのかを、理論の側から確かめられます。

  • セス・ゴーディン『THIS IS MARKETING』 狙うべきは「成長しそうな最小の市場」。局地戦でニッチのNo.1を取る発想と、まっすぐ重なります。