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『小さなチーム、大きな仕事』ジェイソン・フリード|ビジネスに必要なものは、思ったより少ない

キャリア・働き方 ✍ ジェイソン・フリード
約7分で読めます

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『小さなチーム、大きな仕事』
目次

夜遅くまで残業し、終わらない会議に追われ、それでも「時間が足りない」と感じている。もしそうなら、まず疑うべきは自分の努力量ではないのかもしれません。

『小さなチーム、大きな仕事』(原題 REWORK)は、37シグナルズ(現ベースキャンプ社)を率いるジェイソン・フリードとデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンが、世に流通する「ビジネスの常識」を片端から解体していく一冊です。

長期計画、規模拡大、外部資金、徹夜の美学。そうした前提を、自社の実体験というたった一つの反証で崩していきます。読み口は痛快ですが、その裏には「頑張りの向きがずれている」という、少し痛いところを突く指摘が通っています。

必要なものは、思っているより桁違いに少ない

本書の核心を一文にすれば、ビジネスに本当に必要なものは、あなたが想像するよりはるかに少ない、ということに尽きます。

象徴的なのが、著者たちの会社そのものです。出版時点で社員は16人。それで数百万ドルの年間利益をあげ、自社ブログには毎日10万人以上が訪れていた。

莫大な資金も巨大な組織も壮大な計画も使わずに、です。だから彼らの処方箋は一貫して「足すな、減らせ」に向かいます。計画するより始めろ、大きくするより身の丈を守れ、機能を増やすより芯だけ残せ。

会議は有害、履歴書はばかばかしい、仕事依存症はバカげている、とここまで言い切る本はなかなかありません。

ただし一つ留保を置くなら、16人で数百万ドルという数字は、在庫も店舗も持たないソフトウェア企業だからこそ成り立つ側面があります。本書の主張を自分の業種にそのまま移植できるかは、読み手が引き算して確かめる必要がある。そう構えて読むほうが、この本の切れ味を正しく使えます。

常識を疑う——計画・規模・失敗神話・徹夜を壊す

著者はまず、頭の中の前提を一つずつ引きはがします。

槍玉に挙がるのが長期計画です。何十ページの事業計画書を作っても、市場も経済もコントロールできない以上、それは計画ではなく予想にすぎない。立派な計画書はたいてい見直されないままキャビネットの化石になる。

だったら「今週すること」に集中し、小さな決断を重ねて臨機応変に進むほうがいい、という立場です。規模についても同様で、「小さいことは通過点ではない。

小さいことは、目的地でもあるのだ」と言い切ります。大きくなれば経費がかさみ、身軽さが失われる。無理に拡大しない選択があっていい、と。

とりわけ挑発的なのが、多くの人が信じる「失敗から学べ」の否定です。ハーヴァード・ビジネススクールの調査では、一度成功した起業家が次も成功する確率は34%。

一方、一度失敗した起業家のそれは23%で、初挑戦の人とほぼ変わらなかった。失敗が教えてくれるのは「してはいけないこと」だけで、次に何をすべきかは成功のほうが教えてくれる、というのが彼らの読みです。

ここは反論もありうる主張ですが、失敗を過度に神聖視する風潮への冷や水としては効きます。

そして全編で嫌われるのが仕事依存症です。徹夜や長時間労働を名誉と考える空気を、著者は一刀両断します。睡眠を削れば創造性は枯れ、頑固で短気になり、間違った方針に執着する。本当のヒーローは危機を演出する人ではなく、効率的なやり方を見つけてさっさと帰宅する人だ、と。

「減らして作る」——芯という一点に賭ける

常識を壊したら、次は作る番です。ここでも合言葉は「減らす」でした。

著者はまず制約を歓迎します。資金も時間も人も足りないのは嘆くべき不運ではなく、無駄を削ぎ本質をあぶり出す武器だ、と。だから「中途半端な完成品より、機能を半分に絞っても中身の良い製品のほうがいい」。

その中身を決める基準が「芯」という概念です。芯とは、これを手放したらもう商売が成り立たない本質の部分。ホットドッグ屋台にとってのホットドッグのようなものです。

迷ったら「これをやめても、まだ売るものは残るか」と問い、残らないものだけを最初に完成させる。

問題にぶつかったときの答えも足し算ではありません。うまくいかないと人は問題にさらに人と時間と金を注ぎ込むが、正しい方向はその逆、減らすことだ、と。

最小の力で最大の効果を出す平凡な答えを、著者は「柔道のような解決策」と呼びます。この感覚を彼らは美術館にたとえました。「美術館をすばらしいものにするのは、壁に何が掛かっていないかなのだ」——何を飾らないかを選ぶ目こそが価値を作る、というわけです。失敗中のレストランを立て直す料理人が、30品以上のメニューを10品ほどに削って磨き上げたのと同じ発想です。

何を作るかについては、自分自身の「かゆいところをかく」のが一番確実だとします。他人のニーズは暗闇の手探りだが、自分の困りごとなら正解も価値もはっきり見える。

掃除機に苛立って自作したダイソン、軽いシューズを求めてワッフル焼き器にラバーを流したナイキのバウアーマン。いずれも自分の問題から始めた人たちです。

「時間がない」も「金がない」も、完璧なタイミングを待つ言い訳にすぎない、と退けます。

会議とToDoが、生産性を静かに溶かす

日々の仕事に話が移ると、最初に名指しされるのが会議です。著者はこれを「最悪な邪魔者」で「有害」だと断じます。

理由は数字で見ると腑に落ちます。1時間の会議を10人でやれば消費されるのは10時間分の生産力で、前後の頭の切り替えを含めれば15時間近くが溶ける。

しかも話は抽象論に流れやすい。どうしても必要なら、タイマーをかけ、人数を絞り、議題を1つに限り、具体的な問題から入り、解決策と実行の責任者を決めて終える。

それくらい厳しく縛れ、と。長すぎるToDoリストも同じく敵です。終わりの見えない100項目のリストはストレスを生むだけ。タスクを数時間で終わる粒まで割り、「小さな勝利」を積むほうが前に進める。

集中のためには、電話もメールも会議も遮断した「ひとりきりモード」を長くとることを勧めます。細切れの時間ではよい仕事はできない、というのは現代のリモートワーク論とも響き合う指摘です。

言葉づかいにも釘を刺します。必要、しなければ、できない、簡単——こうした語は物事を白黒の二択に押し込め、無用な緊張を生む。とりわけ「なるたけ早く(ASAP)」を口ぐせにするのは危険で、すべてを緊急扱いにすれば本物の優先順位が崩壊する、と。

外の世界——競合の下を行き、教えて観客を育てる

外に目を向けても、著者は増やしません。競合を上回ろうと機能を足し続ける軍拡競争には乗らず、むしろ「競合相手以下のことしかしない」戦略を取れ、と言います。

相手が複雑なら、こちらは極限までシンプルにし、すべての人ではなくシンプルさを求める顧客だけに狙いを定める。クレジットカードも大口口座も断り、数種類の預金商品だけに絞ってアメリカ有数の急成長銀行になったINGダイレクトが好例です。

もっとも「相手より少なくやる」は、機能の絞り込みに正当性がある領域でしか通用しません。安さや品揃えが勝敗を決める市場でこれをやれば、ただ見劣りするだけになる。

何を削れば強みに転じ、何を削ると弱点になるのかを見極める眼力とセットで初めて機能する戦略だ、と読み替えておきたいところです。

真似されない最大の防御は、自分自身を製品の一部にすることだ、とも述べます。作り手の視点や語り口はコピーできない。ときに何に反対するかを明確にすることさえ、人の注意と情熱を引き寄せる武器になる。

プロモーションの発想も一貫しています。無名であることは失敗が誰にも見られない自由な実験期間であり、大手へのプレスリリースは記者にとってスパムでしかない。

それより効くのは、自社のノウハウを惜しみなく「教える」ことだ、と。秘密のレシピを公開してファンを増やす料理人のように、知識を出すほど観客が育つ。

農場を丸ごと公開して「考え方」を売り、250キロ先からも客を呼んだポリフェイス農場も、宣伝費ではなく正直さでファンを作った例として挙げられます。

雇う前に自分でやる——採用と危機の逆張り

組織づくりでも、安易に人を増やさないのが流儀です。まず自分たちでやり、品質が落ち始める限界が来てから雇う。実際に手を動かして初めて、どんな人材が要るかが見える、という順番です。

採用基準も逆張りで、誇張だらけの履歴書は信用せず、「5年の経験」と「半年の経験」に大差はなく、学歴もあてにならない(トップ500企業CEOの約9割はアイビーリーグ出身ではない)と切り捨てます。

代わりに重視するのは、人柄がにじむカバーレターと文章力、そして最も確実な「テストドライブ」です。有償の小さなプロジェクトを実際にやってもらい、仕事ぶりを見てから決める。

理にかなった方法ですが、応募者側に時間的・金銭的余裕を要求する点で万能ではなく、日本の新卒一括採用の慣行とも噛み合いにくい。ここは自社の採用体力と相談しながら取り入れる部分でしょう。

危機対応の姿勢は明快です。悪い知らせは自分から素早く誠実に出す。原油流出事故で即座に現場へ向かい自ら報道に立った企業が評価を好転させ、トップの現地入りに2週間かけた企業が信頼を失った——同じ事故でも初動の差が結果を分けた、という対比が語られます。

この本は、頑張り方を教える本ではありません。頑張らなくていい場所を教えてくれる本です。会議も計画書も増員も徹夜も、思っているほど必要ない。減らした先に、本当にやるべき仕事だけが残る。

著者の「アイディアなんて安いし、いくらでもある。核心は、一体どうやって成し遂げるのかにある」という一言を携えて、今週の空き時間で、あなたの芯の第一歩を1つだけ始めてみてください。


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