16週間、283人の食習慣を追いかけたある試験で、いちばん体重を落としたのは朝食を抜いた集団だった。食物繊維の少ないシリアルを食べた人はほぼ体重が動かず、オートミールを選んだ人に至っては微増している。
朝を抜いた人だけが平均1kg超のペースで体重を落とし、しかも昼や夜に取り戻すような大食いをした形跡はなかった。
こうした実験の数々を積み上げ、世の中で健康にいいと思われてきたことを一つずつ検証し直しているのが、メンタリストDaiGoさんの一冊『最高のパフォーマンスを実現する超健康法』だ。
もっとも、本書が最後に見ているのは体重計の数字ではない。肥満が進むと脂肪細胞から炎症を促す物質が出続け、その炎症が脳にまで及んで灰白質を縮ませ、記憶力や自己管理能力を落としていくという。
体調管理は、来週の判断力を左右する先行投資として扱われている。ここが、本書がダイエット本の棚ではなくビジネス書の棚に置かれるべき理由だろう。

こんな人におすすめ
昼過ぎの会議になると決まって集中が切れる人には、まず読んでほしい。眠気の原因を体質ではなく、ランチの中身と食べる順番として説明してくれる章がある。
カロリー計算アプリを入れてはみたものの、記録が続かず数日でやめた経験がある人にも向いている。本書が数えさせるのは摂取カロリーではなく、食べる時間帯と記録の回数だけだ。
ジムに通い始めたのに体重が一向に減らない人は、少し身につまされる数字を突きつけられる。運動量そのものより、運動後の「頑張ったから」という気の緩みのほうが効いている、という指摘である。
空腹の時間を確保するだけで、体は変わり始める
本書がまず提案するのは、いわゆるプチ断食にあたる「リーンゲインズ」という方法だ。やり方は単純で、男性は16時間、女性は14時間、何も食べない時間帯をつくる。残りの8時間(女性は10時間)に食事を収めればよく、正午から夜8時までを食事枠にすると決めてしまえば運用は難しくない。
効いているのは、胃腸を長く休ませていることだと本書は説明する。一日中何かが胃の中にある状態は消化器を酷使し、体内に慢性的な炎症を招きやすい。
空腹の時間を確保したグループでは中性脂肪や悪玉コレステロール、血糖値が下がり、血管の状態も改善したという報告がある。スペインのオリンピックトレーニングセンターで行われた6週間の実験では、標準体型の男性が体脂肪を15%ほど落としながら、筋肉の減少はごくわずかにとどまった。
朝食を抜くことに抵抗がある人のために、本書は生理学の側面からも根拠を添えている。起床直後は交感神経が優位で、消化や吸収にはあまり向いていない。
消化器官が本領を発揮するのは、副交感神経に切り替わる夕方以降だという。ただし本書は朝食を全否定してはいない。朝に何かを口にすることには、体内時計をリセットして一日のリズムを整える役割があるとも書かれている。
始めた最初の1週間は、頭がぼんやりしたりだるさが出たりしやすい。ここで「自分には合わない」と判断してやめる人が多いようだが、本書によれば1〜2週間を過ぎるころには食欲が落ち着き、以前より頭が冴える実感が出てくるという。
とはいえ持病がある人や体質には個人差があり、体調に異変を感じたら無理をせず専門家に相談すべきだろう。
午後の眠気は、食べる順番とタイミングで設計できる
昼食後の強い眠気について、本書は同じカロリーのメニューでも食べる順番次第で結果が変わるとしている。パンなど糖質を先に口にしたグループは食後すぐに血糖値とインスリンが跳ね上がり、その反動で急降下する。
この乱高下こそが強い眠気の正体だという。一方、野菜や肉を先に食べたグループは血糖値の変動が緩やかで、食後しばらくのあいだ集中力が保たれたとされる。
脂肪分の多い昼食も見過ごせない要因だという。スーパーの調味料で仕上げるこってりしたカレーや、脂っこい中華麺のようなメニューは、覚醒を保つ脳内物質のバランスを乱し、午後の眠気をかえって重くする働きがあるとされる。
それでも眠気に襲われたときのために、本書は「コーヒーナップ」という対処法を紹介している。手順は、体重1kgあたり6mgのカフェインをとり、それが脳に届くまでのおよそ20分だけ仮眠し、目覚めたらスクワットを30〜50回行うというものだ。
仮眠によるリフレッシュ、カフェインの覚醒作用、下半身運動による血流増加がほぼ同時に効いてくる。
ストレスをかける時間帯についても、本書は実験を挙げている。同じ強いストレスでも、午前に受けた集団は食欲を抑えるホルモンが増え、午後に受けた集団は食欲を増進させるホルモンが暴走したという。
午後にストレスが集中しやすい職場ほど、夜の食べ過ぎを通じて体重が増えやすくなる、という見立てだ。
脚を鍛えることと、長く走ることはまったく別の話
本書の運動に関する主張は明快だ。下半身の大きな筋肉を軽く動かすと、脳への血流が増えて記憶力や判断力が上がるとされ、勉強や読書の直前にスクワットを数十回行うことが勧められている。下半身は「第2の心臓」と呼ばれるほど、全身の血液循環に関わっているという理屈である。
対照的に本書がはっきり否定するのが、痩せる目的で長時間走り続けるトレーニングだ。45分を超える有酸素運動はストレスホルモンの分泌を促し、運動後にかえって強い食欲を招く。効率の面でも分が悪く、体脂肪を1kg落とすには数十時間単位の走行が必要になる計算だという。
フィットネスジムの会員を対象にした調査も出てくる。太ってしまった人と体重に変化がなかった人を合わせると、実に7割を超える会員が「痩せていない」のだという。
運動で消費した分を、無意識に食事で帳尻合わせしてしまう。本書が挙げる原因はこれで、運動した満足感そのものが、油断につながっているとも言える。
腹筋についての説明も踏み込んでいる。お腹が割れるかどうかを決めるのは腹筋そのものの量ではなく、その上に乗る皮下脂肪の薄さだという。部分痩せは体の仕組み上ほぼ不可能で、腹筋運動をいくら重ねても脂肪の薄さは変わらない。
もっとも大きな筋肉である太もも周りを鍛えて基礎代謝を底上げし、食事のタイミングで体脂肪率そのものを落とすほうが近道になる、というのが本書の立場だ。
体にいいと信じてきた食品の、いくつかは怪しい
脳の維持にはっきり効くとされているのが青魚だ。オメガ3脂肪酸に含まれる抗炎症の作用が、記憶を司る脳の領域を保護するという追跡調査が示されている。
ただし本書はここで注意も添えている。フィッシュオイルのサプリメントは、市販段階ですでに酸化が進んでいる製品が少なくないというのだ。酸化した油を摂ることは、むしろ老化を早める方向に働きかねない。
代わりに勧められているのが、真空密封のまま加熱調理されているサバの缶詰である。
全粒粉やノンオイルドレッシング、人工甘味料についても、本書は健康的というイメージを一度疑ってかかる。茶色いパンなら血糖値が上がりにくいという通説は、複数の研究で裏づけが弱いとされ、油を抜いた分の物足りなさを砂糖や果糖ブドウ糖液糖で補っている加工食品も少なくないという。
人工甘味料についても、腸内細菌の環境を乱して血糖のコントロールを難しくする可能性が指摘されている。
もう一つ本書が持ち出すのが、食品そのものが人間の食欲をハックするように設計されているという話だ。糖分と塩分、脂肪分の黄金比を探り当てた研究や、噛んだときの音が食欲を刺激するという実験結果が示され、ジャンクフードへの依存は意志の弱さではなく、そう仕向けられた結果だという見方が提示される。
この指摘をどこまで一般化できるかは慎重に読む必要があるが、少なくとも「自分の意志が弱いだけ」と自分を責める必要はなさそうだ。
続けられない自分を、仕組みで支える
本書の後半で力を入れているのが、続けるための心理設計である。小さな失敗をきっかけに「もうどうにでもなれ」と歯止めが利かなくなる現象を、本書は「どうにでもなれ効果」と呼ぶ。お菓子を一口食べただけで、その日の計画をまるごと放棄してしまうような状態だ。
原因として挙げられているのは、「〜をやめる」という禁止型の目標を立てていることだという。禁止された対象ほど頭から離れなくなる心理は、ダイエット以外の場面でも心当たりがある人は多いだろう。
実際、禁止目標を立てたグループの成功率は1割に満たなかったのに対し、「代わりに何を食べるか」という代替行動を用意したグループでは、6割以上が目標を達成し続けたという調査結果が示されている。
やめる目標を、やる目標に置き換える。本書が示す転換はそれだけなのに、結果が大きく変わっている。
もう一つ確実性が高いとされるのが、食べたものを記録するセルフモニタリングだ。太り気味の男女を対象にした半年間の追跡調査では、体重を大きく落とせたグループが記録に費やしていた時間は1日あたりわずか15分程度だったという。
大事なのは記録の丁寧さより回数で、まとめて長く記録するより、短い記録を1日に複数回に分けたほうが効果が出やすいとされる。カロリー計算をする必要はなく、食べる前にスマホで写真を1枚撮るだけでいい。
この本を読んでいちばん引っかかったのは、ジムに通う人の7割以上が痩せていないという数字だった。努力していないのではなく、努力した分だけ自分にご褒美を与えて帳消しにしている。これは食事や運動に限った話ではないと思いながら読み終えた。
本書に出てくる実験の多くは対象人数が数十人規模で、体質や持病による個人差も大きい。ここで紹介した方法をそのまま鵜呑みにせず、まずは一つだけ試して、自分の体調と相談しながら続けるかどうかを決めるのが現実的だろう。
試すハードルは低い。明日、いつもの朝食を抜いて、食事の時間を正午から夜8時までに収めてみる。午前の集中力に違いが出るかは、自分の体調で判断するしかない。
