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『「食事」を正せば、病気、不調知らずのからだになれる』秋山龍三|日本人の腸は、約9メートルある

健康・メンタル ✍ 秋山龍三
約7分で読めます

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『「食事」を正せば、病気、不調知らずのからだになれる』
目次

明治時代、東京から日光までの14時間を、1日に50キロ走り続けた人力車の車夫たちがいた。彼らの体力に目をつけたドイツ人医師のベルツは、もっと長い距離を走らせようと肉食をすすめる。

ところが車夫たちは肉を食べ始めてわずか3日で疲れ果て、走れなくなってしまった。元の玄米おにぎりと梅干し、漬け物の食事に戻すと、また走り出したという。

『「食事」を正せば、病気、不調知らずのからだになれる』は、この逸話を出発点に置く一冊だ。著者の秋山龍三さんは、伊豆半島の山中にある自給自足の集落「ふるさと村」で30年以上、食事を通じた不調の回復に向き合ってきた実践者で、本書執筆時は85歳。

共著者でイラストレーターの草野かおるさんが、都市生活者向けの実践編を担当している。

良い食べ物からは良い血液がつくられ、悪い食べ物からは悪い血液がつくられる。本書が管理の対象に置くのは体重でもカロリーでもなく、この血液の質そのものだ。血液は工場でつくれるものではなく、原料は今日食べたものしかない。この一点を軸に、食材の選び方から噛み方、食事の間隔まで話が組み立てられていく。

先に断っておきたいのは、本書の裏づけの多くが査読を経た医学研究ではなく、著者自身の臨床経験や体験談に基づく点だ。紹介される数値や治癒の事例は、あくまで本書の主張として読み、鵜呑みにはしないほうがいい。

図解

こんな人におすすめ

サプリメントやプロテインをいろいろ試したのに、冷えや便秘が何年も変わらない人には、足すのではなく引く発想が新鮮に映るはずだ。

血圧を気にして塩を減らしているのに、手足の冷たさやだるさが取れない人にも、本書は塩の量ではなく質という別の切り口を用意している。

外食や会食が週の半分を占めていて、食事管理はもう無理だと諦めかけている人には、10日に一度は好きなものを食べていいという著者の割り切りが、続けるハードルを下げてくれる。

逆に、短期間で何キロ落とすかを知りたくて読むと、期待とずれる。本書が見ているのは体重ではなく血液の状態であり、ダイエット本として読むと物足りない。

「腸の長さ」から見える、体質という前提

日本人の腸は約9メートルあり、欧米人の5〜6メートルより長いという。数千年にわたって穀物と野菜を主食にしてきた体は、時間をかけて消化するようにできている、というのが著者の見立てだ。

ここに動物性の脂質やたんぱく質が入ると、繊維が少ないぶん腸内に長くとどまりやすく、腐敗が進みやすい。生じた毒素が毛細血管から再吸収されて血液が濁る状態を、本書は「酸毒化」と呼び、大腸がんやアレルギー、慢性の頭痛、冷え性の背景に置く。

この因果の説明自体は本書独自のもので、現代医学の標準的な用語ではないことは付け加えておきたい。だから著者は肉食そのものを禁止しない。日常の主菜ではなく、たまのご馳走に格下げすればいいという立場だ。

本書が血液の状態を測る目安に使うのがpHだ。健康な人の血液は弱アルカリ性で、7.35から7.45の範囲に保たれているという。カロリーの数値ではなくこの範囲を管理対象に置く発想が、本書全体を貫いている。

説得材料として著者が持ち出すのが、自分自身の体だ。子どもの頃に腹を壊してひまし油を飲んだのが生涯最初で最後の服薬で、以来80年間、病院とも薬とも縁がないという。

70代で受けた人間ドックでは、内臓年齢が実年齢より50歳近く若いと出た。もう一人、著者の祖母も引き合いに出される。江戸生まれで肉も魚も卵も口にせず、玄米と味噌汁と梅干しだけで92歳まで病気知らずに生きた人だという。

現代の栄養学が食品を成分表で語るのに対し、著者がこの祖母の生涯を持ち出すのは、数値の足し算では説明のつかない何かがあると言いたいからだろう。

背景には1970年代のマクガバン・レポートがある。アメリカが巨費を投じて世界の食を調べ、理想の食事は江戸期以前の日本の伝統食だったと結論づけた報告書だ。本書は、日本人自身がそこから離れていったという皮肉を、繰り返し指摘する。

噛むほど守られる、有限の消化力

本書がもう一つの軸に置くのが体内酵素だ。消化から吸収、代謝、排泄まですべてで働く触媒で、その種類は5000ともいわれる。

著者はこう言い切る。

「食べること」とは、「死に近づくこと」

酵素は生まれたときに使える総量が決まっていて、消化に負担の大きい食事を重ねるたびに、その持ち分は静かに減っていく。著者はこれを、生涯で使える回数券にたとえる。だとすれば、消化に使う分をどう節約するかが実践上の課題になる。

一つの手段が咀嚼だ。唾液に含まれる消化酵素が下ごしらえを引き受けてくれるため、噛むほど胃腸の負担が軽くなるという理屈である。本書の基準は一口あたり最低30回、できれば70回で、玄米を噛まずに飲み込むと未消化のまま排出されてしまうという。

もう一つの手段が、天ぷらや焼き魚に添える大根おろしだ。酵素は熱に弱く、60度で働きが半分になり、80度を超えるとほぼ失われるとされる。大根に含まれる酵素に消化を肩代わりさせる、昔ながらの知恵というわけだ。

体温も酵素の働きを左右するという。体温が1度下がると酵素の働きは半分に、免疫力は4分の1に落ちるとされ、低体温そのものが不調の土台になりうるというのが本書の理屈だ。

この数値がどこまで一般に成り立つかは本書内では検証されていないが、体を冷やさない生活を勧める根拠として繰り返し使われている。

食べない時間が、修復のスイッチになる

酵素を守るもう一つの方法として本書が挙げるのが「休食」、つまり計画的な空腹の時間だ。朝食は午前10時、夕食は午後6時前後とし、1日のうち15時間以上は胃腸に何も入れない。

なぜ空腹が効くとされるのか。飢えや寒さという危機に直面したときにしか働かないとされる「サーチュイン遺伝子」が、満腹の間は眠ったままだからだ、と著者は説明する。

ウィスコンシン大学のアカゲザルを使った実験では、好きなだけ食べたグループの生存率が約20%だったのに対し、カロリーを3割制限したグループは約70%に達したという。

休食の効果を決めるのは、空腹の強さではなく、何も食べない時間をどれだけ確保できたかという長さそのものだ。

この発想を裏づける挿話として、著者は自分が飼っていた犬の話も添えている。罠にかかって瀕死の重傷を負って帰ってきた犬が、9日間、餌にも水にも口をつけず丸まって過ごし、体力を回復にすべて注いでから立ち上がって食べ始めたという。

第3章には、「ふるさと村」に滞在して体調が変わったという体験談が並ぶ。摂食のリズムが崩れて体重が大きく増減していた20代女性が、数カ月の滞在と食事の立て直しで体重と生理周期を取り戻した例。

長年の投薬で肝臓や腎臓に負担がかかっていた重度のアトピーの人が、短期の断食と段階的な食事再開のなかで、一時的な発熱や肌の悪化(著者はこれを「好転反応」と呼ぶ)を経て症状が落ち着いた例。

乳がんと診断され、主治医の許可のもとで治療を一時中断し、食事の立て直しに専念したところ、しこりが消えたという例まで紹介されている。

これらはいずれも著者が見聞きした個別の症例であり、対照群を置いた臨床試験ではない。特にがんへの効果を示唆する記述は、読者の期待をあおりかねない部分でもある。本書のこの種の事例は、効果を保証する根拠としてではなく、著者の実践の記録として距離を置いて読むべきだろう。

ただし本書は、断食そのものを独学で行うことは明確に禁じている。ここで紹介した事例は、いずれも「ふるさと村」で専門知識のある指導者のもとに行われたものだ。

持病のある人が自己判断で食事や断食を大きく変えるのは避け、実行するなら主治医や専門家に相談したほうがいい、という留保は本書自身も繰り返し置いている。

「本物」を選ぶという発想

第2章の主役は栄養成分表ではなく製法だ。同じ名前の調味料でも、つくり方によって別物になるという見方を、著者は品目ごとに具体的に展開する。

塩は、工業的に塩化ナトリウムの純度を高めた精製塩ではなく、昔ながらの塩田で海水を天日にさらしてつくる天日塩を選ぶ。精製の過程でカリウムやマグネシウムが失われるため、一律の減塩よりも塩そのものの質を替えるほうが理にかなっている、というのが著者の主張だ。

味噌と醤油も対比は同じ構図で、化学調味料や添加物を使って数週間で仕上げる速醸品と、1年以上かけて木樽で自然に発酵させたものとでは別物として扱われる。

梅干しも、本物は保存性が高く、人工甘味料や着色料で味付けした調味梅とは日持ちの桁が違うという。

これらの各論を貫くのが二つの考え方だ。身土不二は、体と暮らす土地の環境は切り離せないという考え方で、日本で採れた旬のものが体に合うとされる。

一物全体食は、切り身だけでなく骨や皮、内臓まで含めて丸ごと食べたほうが栄養の質が高いという発想だ。この二つを土台にした献立が、玄米ご飯と味噌汁、梅干しと漬け物、野菜や海藻を組み合わせた一汁三菜になる。

なお、身土不二や一物全体食が実際に栄養学的な優位を持つかどうかは、本書内で科学的に検証されているわけではない。あくまで著者の食養実践に基づく整理として読むのが妥当だろう。

明日からの実践

行動に移すなら、優先順位は次の4つだ。

1. 調味料の表示を見て、一つずつ置き換える 醤油と味噌は原材料が大豆と小麦、または米と塩だけで、1年以上の天然醸造と書かれたものへ。塩は天日塩に、砂糖は黒砂糖や本みりんに。全部を一度に変えると費用も手間もかさむので、使用頻度の高いものから始めればいい。

2. 夕食を午後6時台に終え、朝10時まで胃腸を休ませる 食事と食事の間隔を7時間以上あける。間食を挟むと休ませた時間がリセットされてしまう点には注意したい。

3. 主食を玄米に替え、最初の一口だけ30回数えて噛む 毎回すべての一口を数えるのは続かない。最初の一口だけ意識すれば、その後の噛み方も自然と変わってくる。

4. 10日に一度、好きなものを食べる日を予定に入れる 著者はこれを罪悪感の伴う例外ではなく、健康貯金を前提にした予定だと位置づける。

秋山さんは本書をこう締めくくる。

「安価な食材を使った食事は、病気になる原因を貯金しているようなもの。お財布は痛まなくても、体は傷めてしまうのです。」

食費を消費ではなく先行投資として見る。その見方が変わるだけで、今夜のスーパーでの数十秒の判断が変わってくるかもしれない。


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