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『「空腹」こそ最強のクスリ』青木厚|食べない時間が、体を内側から作り替える

健康・メンタル ✍ 青木厚
約7分で読めます

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『「空腹」こそ最強のクスリ』
目次

3食きちんと食べているのに、なぜか体が重い。昼食のあとに猛烈な眠気が来て、午後の仕事が一向に進まない。夕方には理由のないだるさが残り、朝起きても疲れが抜けていない。

その不調を、私たちはつい「栄養不足」や「年齢のせい」で片づけてしまいがちです。けれど、もし原因が真逆だったらどうでしょう。足りないのではなく、むしろ食べすぎている。その過剰こそが体を内側からすり減らしているのだとしたら。

『「空腹」こそ最強のクスリ』は、内分泌代謝と糖尿病を専門とする医師・青木厚さんの一冊です。説得力の源は、著者自身が当事者だったことにあります。

40歳で舌がんを患い、再発を防ぐために自ら実践したのがこの食事法でした。結果として最大78cmあったウエストは70cmに、がんの再発の気配もなく、疲れにくい体を取り戻したといいます。

本書の主張は、拍子抜けするほどシンプルです。睡眠を含めて16時間、ものを食べない時間を作る。たったそれだけで、細胞が内側から生まれ変わるスイッチが入る、というものです。

図解

「1日3食が健康の基本」を、まず疑う

私たちは「規則正しく1日3食」を当たり前の前提として生きてきました。本書はその出発点から疑います。

著者によれば、1日3食が理想だという考えに、確固たる医学的裏付けはありません。それどころか3食という回数そのものが、食べすぎを構造的に招いてしまう。運動量が激減した現代人が、エネルギーを使わないまま1日3回もカロリーを入れ続けている――これが不調の温床だ、というわけです。

数字にすると話が一気に生々しくなります。成人が1日に必要とするのはおよそ1800〜2200キロカロリー。ところがハンバーガーのセット1食だけで1000キロカロリーを軽く超えます。つまり3食しっかり食べると、本来必要な量の1.5〜2倍を摂取してしまう計算になる。

そもそもなぜ日本人は3食になったのか。本書は諸説の一つとして、江戸の明暦の大火(1657年)の復興で職人に昼食を出した話や、1935年に佐伯矩博士が「2500キロカロリーを2食でとるのは難しい」と3分割を提唱した経緯を挙げています。

要するに3食は、健康のために生まれたというより、歴史の都合で広まった習慣に近い。NHKの2016年の調査では平日に3食とる人が81%にのぼりました。

「当たり前」だと思っていたものが、実は誰かの都合で作られた常識にすぎない――この気づきだけでも、本書を開く価値があります。

食後の眠気は、サボりではなく「過労のサイン」

個人的に本書で最も腑に落ちたのが、食後の眠気の正体でした。

食べたあとにだるくなる、眠くなる。これを私たちは「お腹いっぱいだから当然」と片づけています。本書はここに警告を鳴らします。それは満足の証ではなく、体が悲鳴を上げているサインかもしれない、と。

理由は二つあります。一つは内臓の疲労です。食べ物が胃にとどまる時間は平均2〜3時間、脂肪分が多ければ4〜5時間。小腸は5〜8時間、大腸は15〜20時間かけて働き続けます。

1日3食だと、前の食事をまだ処理している最中に次の食べ物が流れ込んでくる。内臓は休む間もなく稼働し続け、慢性的に疲弊していくのです。

もう一つが血糖値の乱高下です。糖質を摂りすぎると血糖値が急上昇し、それを下げようとインスリンが大量に分泌され、今度は急降下する。このジェットコースターのような上下動が、食後の眠気やだるさ、わけもないイライラを生みます。

著者の言葉が鋭い。

体にとってはむしろ、食べものがのどを通過してからが、「食事」の本番です

飲み込んだ瞬間に食事は終わりではなく、そこから内臓のフル稼働が始まる。この一文を意識するだけで、夜遅くに重い食事を流し込む手が、少しためらうようになります。

16時間で「オートファジー」が動き出す

では内臓をどう休ませるのか。本書の答えが、まとまった空腹の時間を作ることです。

体の中では時間の経過とともに変化が連続して起きます。最後に食べてから10時間ほどで、肝臓に蓄えられた糖が尽き、脂肪が分解されてエネルギーに使われ始める。そして16時間を超えたあたりで、「オートファジー」と呼ばれる仕組みが起動します。

オートファジーとは、細胞内の古いタンパク質や壊れたミトコンドリアを集めて分解し、新しい部品に作り替える、いわば細胞内のリサイクル機構です。体が一時的な飢餓状態に置かれると、生き延びるためにこの自食作用が活性化する。

古い部品が新品に入れ替わることで、老化の進行が抑えられ、がんや糖尿病のリスクまで下がるといいます。

この発見で、東京工業大学の大隅良典栄誉教授は2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。本書の理論的な支柱がここにあります。トータルで12〜24時間の空腹を作ると、血液中の糖質も20%ほど低下するそうです。

空腹で少しつらいと感じた瞬間こそ、細胞が若返っている合図だと思えば、空腹の手応えが変わってきます。

内臓脂肪という「毒」を、空腹で燃やす

空腹のもう一つの効果が、内臓脂肪の燃焼です。なぜそこまで内臓脂肪を問題視するのか。本書はその「毒性」で説明します。

肥大化した内臓脂肪からは、TNF-αやIL-6といった悪玉ホルモンが分泌されます。これらは血管の修復を妨げ、血圧や血糖値を押し上げ、がん細胞の増殖まで促すといいます。見た目に目立つ皮下脂肪より、内臓脂肪のほうがはるかにタチが悪いのです。

リスクは数字でも裏づけられています。国際がん研究機関の調査では、腹囲が11cm増えるごとに肥満関連のがんリスクが13%上昇したとのこと。日本では2人に1人ががんにかかり、体内では毎日3000〜5000個ものがん細胞が生まれている。

糖尿病が強く疑われる人は推計1000万人、予備軍も1000万人で、合わせると6人に1人にあたります。

救いは、内臓脂肪が皮下脂肪より先に落ちやすいことです。10時間の空腹で脂肪の分解が始まるので、空腹時間を作ることがそのまま毒性への直接的な対策になる。

本書には、脂肪肝を指摘された50代の男性会社員が平日14〜15時間・週末はさらに長い空腹を1年続け、体重7キロ減・中性脂肪338→207・脂肪肝改善・食後の眠気消失を達成した実例も紹介されています。

「16時間も無理」を、睡眠で越えさせる

「16時間も食べないなんて絶対に無理」。誰もがそう身構えます。本書の巧みさは、その壁を睡眠でまたがせる点にあります。

16時間の空腹には、寝ている時間を含めてよい。8時間眠る人なら、起きている時間のうち8時間を食べない時間に充てるだけで16時間に届きます。寝る前と起きた後に数時間ずつ食事を控える――それだけです。

具体策も柔軟です。夕食を早く食べられる人は「夕食18時→翌朝10時」、夕食が遅い人は「夕食22時→翌日14時で朝食を抜く」など、生活に合わせて選べます。

しかも空腹の時間以外は基本的に何を食べても自由。「1日◯品目」「これは禁止」といった面倒なルールもカロリー計算も一切ありません。糖質制限につきまとう「食べたいものを我慢するストレス」がないからこそ続けやすい、という設計思想です。

どうしても空腹がつらいときの逃げ道も用意されています。素焼き・無塩のナッツなら、いくら食べても構わない。低糖質で良質な脂肪を含み、少量で満腹感が得られるうえ、不飽和脂肪酸がオートファジーを活性化させる可能性も研究で見えてきた、と本書は言います。

ナッツが苦手なら生野菜サラダ、チーズ、ヨーグルトでも代用できます。我慢で耐えるのではなく、道具で乗り切る。この発想が継続の鍵です。

糖質制限ではなく、空腹を選ぶ理由

「だったら糖質制限でいいのでは」という疑問にも、本書ははっきり答えています。

たしかに糖質の摂りすぎは危険です。成人に必要な糖質は1日170g。茶碗1杯の白米で約50g、スティックシュガー17本分に相当します。3食ご飯を食べればそれだけで必要量に達し、過剰分が脂肪肝や2型糖尿病を招く。

ただし極端な糖質制限には別の落とし穴がある、と著者は釘を刺します。糖質を抜くと筋肉量が減って基礎代謝が下がったり、代わりに肉や油を摂りすぎて動脈硬化や心筋梗塞のリスクが上がったりする。無理に糖質を削るより、空腹の時間を増やすほうが安全で続けやすい。これが本書の立場です。

隠さない弱点と、守るべき例外

健康本にありがちなのは、効果ばかり並べてリスクを伏せることです。本書が信頼できるのは、デメリットを正面から書いている点です。

最大の弱点は、空腹で体重が減るとき、脂肪だけでなく筋肉も落ちてしまうこと。筋肉が減れば基礎代謝が下がり、かえって太りやすい体になる。だから本書は「必ず簡単な筋トレを並行すること」を義務づけます。

とはいえ過酷なものではなく、エスカレーターをやめて階段を使う、朝に軽くスクワットや腕立てをする程度。体重60キロの人が20分ゆっくり階段を上り下りする消費カロリーは、12分のジョギングに匹敵するそうです。

そして絶対に外せない例外があります。すでにがんや認知症を発症している人は、必ず医師の指示に従うこと。この食事法はあくまで予防のためのものです。

がん細胞は飢餓に強く、オートファジーを逆手に取って増殖するおそれがある。アルツハイマー型認知症でも、オートファジーが脳内のアミロイドβを増やし症状を悪化させる可能性が、2015年の東京医科歯科大学の研究で示唆されています。

健康法を盲信せず、持病があれば主治医に相談する。ここだけは譲れません。

今日から始める3ステップ

本書を行動に落とすなら、まずこの3つです。

第一に、自分の「16時間」を時刻で決める。「夕食18時→翌朝10時」のように、曖昧な目標ではなく具体的な時刻に落とすのがコツです。第二に、素焼きナッツを常備する。

カバンや職場に置き、つらくなったら我慢せず食べる。第三に、週末1日から試す。平日に会食が多い人ほど、休日前夜から翌日昼までの「週末リセット」から入るのが現実的です。

結局この本が言っているのは一つです。食べない時間を、味方にする。空腹を「我慢」ではなく「体が若返る時間」と捉え直したとき、食事との付き合い方そのものが変わります。まずは今夜、夕食を少し早め、明日の最初の一口を少し遅らせてみる。その数時間の差から、すべてが始まります。


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