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『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』ジョン・J・レイティ|あなたの体は20万年前のまま、アップデートされていない

健康・メンタル ✍ ジョン・J・レイティ
約6分で読めます

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『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』
目次

スマホは毎年のようにアップデートされます。OSが刷新され、性能が上がり、不具合が直る。では、あなたの体は最後にいつ「更新」されたでしょうか。

答えは、約20万年前です。私たちの体と脳は、ホモ・サピエンスとして誕生して以来、ほとんど設計が変わっていません。サバンナで獲物を追っていた祖先と、まったく同じハードウェアのまま、私たちはオフィスとスマホの世界を生きている。

ハーバード大学医学大学院で精神医学を教えるジョン・J・レイティが書いた『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』は、この「設計と環境のズレ」こそが現代人を蝕む不調の正体だと喝破する一冊です。

図解

飼い犬になった人間 ── すべての文明病は「ミスマッチ」から

本書の主張を一文にまとめると、こうなります。現代人は、野生のオオカミが飼い犬になったのと同じ状態に陥っている。

心臓疾患、肥満、うつ病、がん、自己免疫疾患。レイティはこれらの「文明病」を、遺伝子の欠陥だとは考えません。何百万年もかけて磨かれてきた体の設計図を、現代の環境がことごとく裏切っている。その結果として体に生じた「損傷」こそが病だ、というのが彼の診断です。

ここで言うミスマッチは比喩ではありません。定住、精製炭水化物、運動不足、人工光、社会的孤立。旧石器時代を前提に最適化された体に、これらをまとめて押しつければ、システムエラーが起きるのは当然だ、というロジックです。

オオカミは過酷な自然の中で強靭な恒常性(ホメオスタシス)を保ち、高い認知能力と身体能力を発揮する。一方、人の手で守られた飼い犬は依存的で、野生ではありえない病気を抱える。

レイティに言わせれば、文明という檻に入った私たちは、まさにこの飼い犬の側にいる。

だから処方箋は「文明を捨てろ」ではありません。著者が掲げるのは再野生化(リワイルディング)。食事・運動・睡眠・つながりを、進化が想定したルールに沿って組み直す。それだけで体の自己修復力が目覚める、という現実的な戦略です。

農業は「進歩」ではなく「退化」だった

意外な主役は農業です。私たちは農耕を人類の偉大な前進だと習います。ところが体の側から見ると、話は逆だった。

レイティが引くのは、人類学者ジョージ・アーメラゴスらによるイリノイ州ディクソン・マウンズ遺跡の研究です。同じ土地で暮らした狩猟採集民と、その後の農耕民の骨を比べたところ、農耕民のほうが背が低く、栄養不良の痕跡が多く、虫歯や骨の異常も目立った。

安定した食料供給と引き換えに、人類は健康を差し出していたわけです。

犯人は「デンプンへの一極集中」。米、小麦、トウモロコシ、ジャガイモ。わずか数種の作物が人類の摂取カロリーの大半を占めるようになった。これは進化史にない極端な偏りです。

精製された炭水化物は瞬時にブドウ糖へ変わり、インスリン抵抗性と慢性的な炎症を呼び込む。現代の代謝性疾患の根に、この一万年前の食の転換がある、というのが著者の見立てです。

サーモンと持久狩猟 ── 人間は「最弱で最強」の動物

ではどう食べるべきか。レイティの答えは明快で「野生の比率に戻せ」。人類はもともと狩る側の動物ですが、筋肉だけをつまむ現代の肉食は不自然だと指摘します。先住民が肝臓・骨髄・脳・脂肪までを余さず食べたのは、微量栄養素を取りこぼさないためでした。

面白いのはサーモンの逸話です。屈強なハンターだったネアンデルタール人に対し、ホモ・サピエンスには回遊魚という秘密兵器があった。海と川を往復するサケは、陸の食物では得にくい広域の栄養を体に凝縮している。

命がけの狩りをせずとも、川辺に座るだけで上質な栄養が手に入った。この余剰が、燃費の悪い巨大な脳を維持する原資になったというのです。

運動の章はさらにスリリングです。人間はチーターより遅く、馬にも勝てない。ところがマラソン距離になれば、地上のほぼ全動物を打ち負かせる。鍵は発汗です。

走れば体温は上がりますが、人間は汗で冷やせる。毛皮の動物はそれができない。だから人類は、獲物が熱中症で倒れるまで延々と追い続ける「持久狩猟」という戦略を手に入れた

弾力あるアキレス腱、アーチ状の足、上半身と下半身をひねって連動させる構造など、走るためだけに26もの解剖学的な適応が体に刻まれている、と著者は数え上げます。

加えて、生物学者デヴィッド・キャリアの研究も紹介されます。多くの動物には最も燃費の良い「スイートスポット」となる速度がありますが、人間の走行効率は速度を変えてもほぼ一定。

一見ハンパに見えるこの性質こそ、どんな速度・地形にも適応できる万能性の証拠です。走る・跳ぶ・投げる・運ぶ・登る、その全部をそこそこにこなすジェネラリスト。

これが人類の生存戦略でした。

脳の本業は「考えること」ではなく「動きを制御すること」

本書で最も視界が変わるのが、脳の章です。私たちは脳を思考の器官だと思い込んでいます。

レイティの見方は違います。進化の文脈では、脳の主たる役割は複雑な身体運動の制御にある。不整地を走り、獲物の動きを読み、全身を多次元で操る。

その膨大な計算需要に応えるために脳は肥大し、思考や言語といった高度な認知は、その制御回路の「副産物」として後から花開いた、というのです。

この逆転が効いてきます。動かない生活とは、脳の本業を止めることに等しい。運動不足が認知機能の低下を招くのは、例外ではなく必然になる。自閉症児に走る・跳ぶ・踊るといった運動療法が効くのも、運動が脳全体を同期させ直すからだと説明されます。

とりわけトレイルランのように先を予測し続ける動きは、神経回路を組み替える最良の「脳トレ」になる。

同じ統合の論理は免疫にも及びます。人間は獣・糞・泥にまみれた環境で微生物と共進化し、免疫は外敵と戦うよう訓練されてきました。ところが過度な清潔と抗生物質がその共進化を断ち、腸内細菌は痩せ細る。

仕事を失った免疫は暴走し、自分の組織を攻撃し始める ── これが喘息や多発性硬化症の正体だ、というのが「衛生仮説」です。マラリアを撲滅したサルデーニャ島で多発性硬化症が急増した例が、その象徴として挙げられます。

孤独は「生存の脅威」 ── 絆と自然はオプションではない

野生化は食と運動だけの話ではありません。人類の巨大な脳には重い代償が伴いました。大きすぎて産道を通れないため、人の赤ちゃんは極端に未熟な状態で生まれ、自立まで十数年を要する。この無力な子を育てるには、一人につき複数の大人の手が要った。

つまり共感・利他・絆は「あれば良いもの」ではなく、種を存続させるための生物学的な必須要件だった、とレイティは言います。他者の行動を見るだけで自分が動いたかのように発火するミラーニューロン、物語を分かち合うストーリーテリングの文化。

これらはすべて、子を育て群れを保つために進化が仕込んだ仕組みです。裏を返せば、孤独は神経系にとって生存の脅威そのもの。SNSのフォロワー数では、対面の絆が分泌するオキシトシンの代わりにはなりません。

自然への愛着(バイオフィリア)も同じ系譜にあります。自然の中にいるだけで回復が進むのは気分の問題ではなく神経科学的な事実で、自然下の運動は身体効果とストレス低減が掛け合わさる「二乗のエクササイズ」になる ── これがトレイルランを勧める根拠です。

編集部の視点:一本の線で説明しきる強さと、その読み方

本書の最大の魅力は、心臓病も肥満もうつも自己免疫も、すべてを「進化的ミスマッチ」という一本のフレームで説明しきる射程の広さです。バラバラだった不調が一筋の線でつながり、「なぜ運動が脳に効くのか」「なぜ清潔さが免疫を狂わせるのか」「なぜ孤独が体を蝕むのか」に同じ論理で答えが返ってくる。

読後に世界の解像度が一段上がる、その爽快感は格別です。共著者リチャード・マニングが本書の実践で22kgを減らしウルトラマラソンランナーになった事実も、説得力を後押しします。

一方で、この一貫性は諸刃でもあります。進化を持ち出せば多くの現象に物語をつけられるぶん、個々の主張のエビデンス強度はまちまちです。だからこそ著者の提案は、医療の代替ではなく日常の調整として受け取るのが賢明でしょう。

実践は段階的に。まずは今日の夕食の白米を半分に減らし、代わりに魚か野菜を一品足す。運動なら通勤路で舗装されていない道を選ぶ、絆ならリアルな対面の機会を一つ増やす。

完璧な原始生活ではなく、現代の暮らしに野生のスイッチを少しずつ戻していく。あなたの体は不完全な失敗作ではなく、20万年が磨いた最高傑作だ ── 本書はその使い方を思い出させてくれます。


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『歩く マジで人生が変わる習慣』池田光史 Go Wildが説く「複雑な動き」の中でも最もシンプルな「歩く」に特化した一冊。脳と身体を取り戻す具体的な歩行法を学べます。

『HEAD STRONG』デイヴ・アスプリー Go Wildの「脳の設計図を尊重する」という思想を、ミトコンドリアレベルまで掘り下げた脳の最適化メソッド。食事と環境で脳を2週間でアップグレードする具体策が詰まっています。


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