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『HEAD STRONG シリコンバレー式頭がよくなる全技術』デイヴ・アスプリー氏|集中できないのは意志じゃなく「脳のエネルギー漏れ」だった

健康・メンタル ✍ デイヴ・アスプリー氏
約8分で読めます

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『HEAD STRONG シリコンバレー式頭がよくなる全技術』
目次

午後3時、頭に霧がかかったみたいになる。さっきまで考えていたことが、言葉にならない。会議の発言が空回りし、気づけば机の引き出しのチョコレートに手が伸びている。

それを「自分の集中力が足りないから」「気合いが足りないから」と片づけてきた人へ、本書はいきなり冷や水をかけてきます。

意志力がないと自分を責めるのをやめよう――これは道徳的な問題じゃない!

著者のデイヴ・アスプリー氏は、かつて巨大企業の技術戦略部門を率い、MBAも取って、外から見れば成功者でした。なのに本人は、ひどい肥満と慢性疲労、抜けない集中力の欠如に苦しんでいた。そして100万ドル以上を自分の体に投じて、原因を一つずつ潰していきます。

たどり着いた結論は、問題は能力でも性格でもなく、脳から「エネルギーが漏れていた」ことだった。エンジンが壊れた車は、どんなにアクセルを踏み込んでも速くは走らない。本書はその漏れを止め、脳というハードウェアそのものをアップグレードしようとする一冊です。精神論ではなく、配線と燃料の話として脳を扱う。そこが他の自己啓発書と決定的に違うところです。

図解

こんな人におすすめ

理論より「明日の朝、何を変えればいいか」を知りたい人にこそ向いています。逆に、栄養学の細部を一切省いた要点だけが欲しい人には、本書の情報量は少し過剰に感じられるかもしれません。

脳の不調は「弱さ」ではなく「故障」である

本書の主張は、一本の線でつながっています。

脳は重さこそ体重の2%ほどしかないのに、全身のエネルギーの20%を一手に食う、ひどく燃費の悪い器官です。そのエネルギーを作っているのが、細胞の中にいる無数の小さな発電所、ミトコンドリアです。著者の見立てはこうです。

ミトコンドリアの数、効率、強度によって、いまの知力がどれほどあるかが決まる。

つまり集中力も記憶力も気分の安定も、結局はこの発電所がどれだけ効率よくエネルギー(ATP)を生み出せるかにかかっている。逆に言えば、疲労や物忘れ、イライラは「節電モードに入った脳」が出している警告灯だ、ということになります。

著者は、ミトコンドリアの働きが落ちたときに出るサインを5つに整理しています。短期も長期も記憶が落ちる忘れっぽさ。糖を求めてジャンクフードを猛烈に欲しがる食への渇望

気が散りやすくなる集中力の欠如。頭にもやがかかったようなエネルギー低下。感情のコントロールが効かなくなるいらいら。一見ばらばらの悩みですが、根っこは一つ、脳のエネルギー不足です。

だから一つずつ対症療法しても切りがない。元栓を締めにいく発想が要る、というわけです。

ここが本書最大の強みだと感じました。脳の不調を性格や努力の問題から切り離し、物理的な「ハードウェアの故障」として扱う。だから対策も、気合いではなく具体的な行動に落ちる。脳を弱めるものを取り除き、良質な燃料を入れ、ミトコンドリアを鍛える。やることはこの三つに集約され、再現性の手触りがあります。

なぜエネルギー切れが不調を生むのか――暴走する「ラブラドール脳」

では、なぜエネルギーが切れると、ここまで露骨に不調が出るのか。鍵は脳の構造にあります。

著者はポール・D・マクリーン博士の「三位一体脳モデル」を引きます。人間の脳はおおまかに三層になっている。生命維持を担う「爬虫類脳」、本能を担う「ラブラドール脳(哺乳類脳)」、複雑な判断を担う「人間脳(前頭前皮質)」です。

厄介なのがラブラドール脳です。これは生き残るための三つのF――Fear(恐れ)、Feed(摂食)、生殖に従って動く。本来は危機を察知するための機能ですが、現代ではメールの着信音やSNSの通知といった小さな刺激にもいちいち過剰反応し、そのたびにエネルギーを浪費します。

一方、最も賢い判断をする前頭前皮質は、脳の中でもミトコンドリアの密度が最も高く、最もエネルギーを食う。だから燃料が足りなくなると、まず人間脳が落ち、原始的なラブラドール脳が主導権を握る。

冷静に考えられず、衝動的になり、目先の糖を欲しがる。これが午後の崩れ方の正体です。

象徴的なのは、著者自身が脳スキャンで「前頭前皮質がほとんどエネルギーを生み出していない」と診断されたところから、この長い旅が始まっている点です。10年後の再検査では、脳が高度に機能するように変わっていた。脳は作り変えられる、という本書の楽観は、ここに根拠を置いています。

そのうえで本書のプログラムは、シンプルな順番で組まれています。まず①脳を弱めるもの(毒素・悪い食事・劣悪な照明)をやめる。次に②良質な燃料を加える。

さらに③今あるミトコンドリアの効率を高める。最後に④寒冷刺激や運動でミトコンドリアそのものを増やし鍛える。引き算から始めるのが肝心で、穴の空いたバケツに水を足しても無駄だ、というわけです。

脳の最適な燃料は「糖」ではなく「良質な脂肪」

具体策の中心は、まず食事です。

本書がひっくり返す最大の常識が「脳の燃料=糖」という思い込みです。実は脳は、脂肪が分解されてできる「ケトン体」を燃料にしたほうが効率よく働く、というのが著者の主張です。

ケトン体を代謝しているとき、グルコースを代謝しているときよりも心臓は28%多くエネルギーを得ている。(リチャード・ヴィーチ博士の研究より)

脳と心臓はほぼ同じ密度でミトコンドリアを持つので、脳でも同じことが起きる。糖質を脂肪に切り替えるだけで、脳が得るエネルギーが増えるという理屈です。

なぜ脂肪なのか。神経細胞同士の通信を高速化する絶縁体「ミエリン」は脂肪でできているし、脳は重さの2%しかないのに全身のコレステロールの25%を抱え込んでいる。

コレステロールや飽和脂肪を敵視する常識とは、まるで逆の景色が見えてきます。

おすすめされるのは、グラスフェッド(牧草飼育)のバターや肉に含まれる飽和脂肪、天然のサケに豊富なオメガ3(DHA・EPA)など。さらに、色の濃い野菜やコーヒー、ダークチョコレートに含まれる抗酸化物質「ポリフェノール」を脂肪と一緒に摂ると吸収率が上がる、という実践的なコツも添えられています。

理屈だけで終わらせず、買い物カゴのレベルまで落としてくるのが本書らしいところです。

ただし足し算の前に、引き算がある。著者が「これは抜け」と名指しするのは、慢性炎症を呼ぶ食品です。乳タンパク質(カゼイン)、グルテン、トランス脂肪酸、キャノーラ油やコーン油などの植物油。

西洋食を摂る人はオメガ3よりオメガ6を20倍も多く食べていて、このバランスの崩れが脳のもや(ブレイン・フォグ)や気分の落ち込みを招くといいます。

人工甘味料やMSGも神経を無意味に興奮させるとして退けられます。

そして本書独自の警戒対象が「カビ毒(マイコトキシン)」です。穀物やコーヒー、ナッツ、赤ワインなどに自然発生し、ミトコンドリアを直接阻害する毒素。

著者が引く2016年の研究では、8000以上の穀物サンプルの96%が10種類以上のカビ毒に汚染されていた。「赤ワインは脳に良い」という通念も、ポリフェノールの利よりカビ毒・糖・アルコールの害が上回るとして、ばっさり否定されます。

この徹底ぶりは魅力でもあり、限界でもあります。すべてを実践しようとすれば高品質な食材やサプリへの投資が前提になり、ハードルは決して低くない。

そこは割り引いて読む必要があります。

「光」は栄養であり、薬であり、毒にもなる

食事と並ぶもう一つの目玉が「光」の話です。

著者は、白色LEDや蛍光灯、スマホやPCの画面から出る人工光を「ジャンクライト」と呼びます。ジャンクフードと同じ発想です。これらの光は自然の太陽光に必要な周波数が欠けていて、ブルーライトだけが過剰なんです。

白色LEDは自然界の5倍以上のブルーライトを出すとされ、視覚系はエネルギーの最大15%を使うため、目のミトコンドリアへの負担は無視できない。

さらにブルーライトはメラトニンを抑制し、日中に6時間半浴びると3時間もメラトニンの放出が止まる、というデータも挙がります。

対策はシンプルです。日中は太陽光を最低10分浴びて体内時計を整える。日中の光がセロトニンを作り、それが夜にメラトニンへ変わって眠りを支えるからです。

そして就寝の2時間前からは照明を薄暗くし、画面はブルーライトカットや赤・アンバー系に切り替える。言われてみれば当たり前なのに、ほとんどの人が逆をやっている。

夜に煌々と画面を浴び、昼は屋内にこもる。その順番をひっくり返すだけで、睡眠の質が変わるというのが本書の指摘です。

睡眠・運動・寒さ・瞑想は「量より質」で

残りの実践策に共通するのも「量より質」という一貫した発想です。

睡眠は、長さより掃除の効率。睡眠中、脳細胞は最大60%まで縮み、脳脊髄液が老廃物を洗い流す「グリンパティック系」が働きます。ミトコンドリアが効率よく働けば、短い睡眠でも念入りに掃除を済ませられる。就寝前に大さじ1杯の生はちみつを摂ると夜間の脳にエネルギーが安定供給され、中途覚醒を防げるという具体策まで添えられています。

運動も、長時間の有酸素運動より短く追い込む高強度インターバル(HIIT)が効率的だとされます。全力で走って完全に休む、を繰り返す。HIITは成長ホルモンを増やすのに持久系の10倍も有効で、ジョン・J・レイティ博士が「脳にとって奇跡の肥料」と呼ぶBDNF(脳由来神経栄養因子)が増え、新しい脳細胞が育つ。ただし効果が定着するのは休んでいる間なので、毎日やってはいけない、という釘も刺されます。

寒さは、毎日のシャワーの最後の30秒を最も冷たい温度にして顔と胸に浴びるだけ。短時間の適度なストレスがミトコンドリアを刺激する「寒冷熱発生」です。瞑想は、スピリチュアルな話ではなく脳の筋トレ。ボックス呼吸法のような呼吸を使い、1日10分でも闘争・逃走反応をオフにする。呼吸は意識的にも無意識にもできる唯一の機能で、ここを整えるのが最も手軽なパフォーマンス改善だといいます。

「もう歳だから」という言い訳も、本書は静かに否定します。神経発生の頻度はライフスタイル次第で少なくとも5倍は高められる。脳はいくつになっても作り変えられる、というのが結論です。

どこから始めるか――今日できる三手

本書のプログラムは2週間で組まれていますが、待つ必要はありません。今日その場で始められる行動が三つあります。

一つ目は、朝食を完全無欠コーヒーに置き換えること。良質なコーヒーにグラスフェッドバター大さじ1〜2とMCTオイル大さじ1〜2を混ぜて飲む。糖質を入れず脂肪を入れることで脳をケトーシス(脂肪燃焼モード)に導き、消化にエネルギーを使わない分、昼までクリアな頭で過ごせます。

二つ目は、就寝2時間前から光を落とすこと。これでメラトニンが守られ、睡眠中の脳の掃除がはかどる。三つ目は、シャワーの最後の30秒を冷水にすること。

ミトコンドリアを起こし、活力を引き出します。

本書を貫くのは、自分を責めるのをやめよう、というメッセージです。集中できないのも、甘いものを我慢できないのも、午後にイライラするのも、あなたの弱さではない。脳から燃料が漏れているだけで、その漏れは食事と光と睡眠で止められる。

口に入れるものすべてをコントロールするのはあなたなのだから、この知識は大きな力となる!

明日の朝、コーヒーに何を入れるか。夜、画面の明るさをどうするか。その小さな選択が、脳というOSを少しずつ書き換えていきます。まずは一つ、選んでみてください。


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『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』ジョン・J・レイティ 本書がBDNFを「脳の奇跡の肥料」と紹介したレイティ博士の本です。運動が脳の構造を変える仕組みを、もっと深く知りたくなったら次はこれを。

カロリーを減らしても、痩せない。 「糖質より良質な脂肪」というHEAD STRONGの食事観と地続きの一本。カロリー計算という常識を疑う視点が、本書の脂肪論をすっと腑に落としてくれます。

「睡眠の質」を決めるのは、量ではなく「最初の90分」だった 本書の「睡眠は量より質」という主張を、別の角度から補強する記事。光のコントロールと合わせて読むと、夜の過ごし方が具体的に変わります。


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