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『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』オリバー・ベレス/グレッグ・カプラ|勝ち方ではなく「負け方」を教える本

投資・資産形成 ✍ オリバー・ベレス/グレッグ・カプラ
約9分で読めます

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『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』
目次

好決算が発表されたのに、株価が急落する。あの不思議な光景に、見覚えはありませんか。

業績は良かったはずなのに、なぜ下がるのか。理屈に合わない。そう思って首をかしげた経験がある人ほど、この本は深く刺さります。

オリバー・ベレスさんとグレッグ・カプラさんの『デイトレード マーケットで勝ち続けるための発想術』は、株のテクニックを教える本ではありません。

著者が掲げるのは、トレーディングの8割以上は心理的なものだ、という立場です。手法を知っていても、心が整っていなければ必ず負ける。この本が向き合うのは、チャートではなく、私たち自身の弱さなのです。

だからこそ、トレードをしない人が読んでも刺さる箇所が驚くほど多い。撤退の判断、引き際、損を認める勇気──市場という極端な世界で煮詰められた自己管理の原則は、そのまま仕事や人生の意思決定にも効いてきます。

図解

「勝ち方」ではなく「負け方」を教える本

普通、投資の本は勝つための方法を語ります。ところがこの本は逆を行きます。勝つことより、いかにうまく負けるかを生き残りの条件として据えるのです。

完全に負けをなくすことはできない。だとすれば、問題は勝つか負けるかではなく、どう負けるか。ここに本書の発想の根っこがあります。これは精神論ではなく、極めて実務的な話だと私は受け取りました。

勝率を100%にする方法など存在しない以上、生き残る人と退場する人を分けるのは、避けられない負けが来たときの振る舞いだからです。

著者を貫くもう一つの命題が、「正しいトレーディングとは、正しい思考の結果である」という一文です。著者は、初心者がやりがちな「事実やファンダメンタルズに基づく予測」を真っ向から否定します。

企業の業績や財務という基礎的な数字を頼りに株を買う、あの王道のやり方が、短期では通用しないと言い切るのです。

なぜか。理由はシンプルでした。株価を直接動かす力は、この世にただ一つしかない。それは、売りを上回る買いが存在することです。良い業績も良いニュースも、それ自体が株価を上げるわけではない。

需要が供給を上回ったときだけ、価格は上がる。だからこの本は、チャートパターンの解説に紙幅を割きません。むしろ著者は「複雑さを避けよ」とすら言う。

本書は手法書ではなく、精神修業の書なのだと、読み進めるほど腑に落ちてきます。

あなたは株を買っていない。人を買っている

第2章で著者が突きつけるのが、「株ではなく人を取引する」という視点です。

株価を動かしているのは事実ではありません。人々の認識、つまり恐怖と強欲です。チャートとは、そのマネーの足跡。著者はチャートを「レントゲン写真」にたとえます。

医者が患者の言葉ではなく内部の状態を写真で確かめるように、トレーダーも噂やニュースではなくチャートで真実を見るべきだ、と。この比喩が秀逸なのは、私たちが普段いかに「言葉」に振り回されているかを逆照射してくれる点です。

ニュースの見出し、SNSの空気、専門家のコメント──そのどれもが患者の主訴にすぎず、本当の状態は別の場所に書いてある。

冒頭の謎、好決算なのに株価が急落する現象も、これで説明がつきます。決算という事実が出る前に、多くの人が期待で買っている。事実が判明した瞬間、彼らは利益を確定するために売る。

だから事実は、もう利益にならない。著者はこれを痛烈に言い切ります。事実が明らかになったときには、すでに収益機会は消えている、と。プロは噂で買って、事実で売る。

良いニュースに飛びついた初心者に、プロが売りをぶつける。これが「ニュース・リバーサル」と呼ばれる罠です。

面白いのは、ニュースそのものより「ニュースに大衆がどう反応するか」を読むのが収益の源泉だという指摘です。決算発表が株価を動かすのではない。動かすのは、事前の利益予想とのズレだ、と著者は言います。だから好決算でも、それが織り込み済みなら、発表の瞬間に下がることがある。

ここに大事な数字が添えられています。人間は1日に6万回も考えるのに、その95%は今日も昨日と同じことを考えている。大衆が同じ方向に流れるからこそ、その裏が取れる。

著者が「株ではなく人を取引する」と言うのは、この大衆心理を読むという意味でした。事実を追いかけるのをやめ、事実に対する人々の反応を読む。この発想の転換だけでも、本書を読む価値があります。

うまく負けられる人だけが、生き残る

第3章のテーマは損失です。そしてここに、本書で最も逆説的な一文が出てきます。少額の損失は、プロのトレーダーの証である

普通、損切りは「負け」だと思われています。でも著者は、あらかじめ決めた水準で小さく損を抑えることは、投下資金を守り取り戻すための「勝ち」だと言います。完全に負けをなくすことは不可能。だから問題は、勝つか負けるかではなく、どう負けるかなのです。

著者自身の失敗が、これを生々しく裏づけます。オリバー・ベレスさんのプロ初取引。店頭銘柄を4000株、15万ドル分も成り行きで買いました。最初は4000ドルの含み益。

ところが利食いできず、その後の急落でも損切りできない。含み損が1万6000ドルに膨らんで、ようやく決心がつく。著者はこの日を「卒業式」と呼びます。

手っ取り早く儲けるという考えを捨てた日だからです。相棒のグレッグ・カプラさんも似た苦さを味わっています。指数オプションで大きな含み損を抱え、翌日たまたま短時間で取り返したものの、彼はそれを「実力ではなく運だ」と気づいた。

そこから本気で学び始めた、というくだりは、私自身の「たまたま勝ったトレード」を思い出させて居心地が悪くなりました。運で勝った経験こそ、人を最も危うくするからです。

ここで著者が用意した武器が、トレーディング日誌です。著者はこれを「敗者の日記」と呼びます。負けた取引だけを記録し、損失を二種類に分ける。すべての取引で勝つことはできない以上避けられない「不可避の損失」と、ルールを破って出した「殺すか殺されるか」の損失。

後者を根絶することが、悪癖を消す道だと言います。この仕分けの発想は、トレードに限らず、仕事のミスを振り返るときにそっくり使えます。仕方のなかった失敗と、やってはいけないことをやった失敗を混ぜて反省すると、人は何も学べない。

それでも損切りできないとき、著者が勧めるのが「ポジションの半分を売る」戦略です。問題を半分にすれば、心理的な苦痛が和らぎ、客観性が戻ってくる。

全か無かではなく、半分という逃げ道を作る。完璧な決断ができない自分を前提に設計する、この現実主義が私はとても好きでした。なお著者の損失の78%は、株価が8ドルから15ドルの安い銘柄で生じていたといいます。

安い株ほど損をしやすい。これが次の話につながります。

「安く買う」をやめ、「高く買い上がる」

第7章で著者は、もう一つの常識を壊します。「安値で買って高値で売る」という鉄則の否定です。

短期トレーディングでは、下落中の安い銘柄を買うのは「逆行」だと著者は言います。すでに上昇する力を見せている高値の銘柄を買い上がるほうが、勝率が高い。

落ちているものを拾うのではなく、上がっているものに乗る。発想がまるごと逆なのです。最初は抵抗を感じる主張ですが、根拠を聞くと納得します。10ドルの株が2ドル動くには20%もの上昇が必要で、これはプロのファンド・マネジャーの6割が年間でも届かない利回りです。

一方、60ドルの株が2ドル動くのは1日でも起こり得る。同じ値幅でも、起こる確率がまるで違うわけです。

著者はこれを「確率の世界」だと繰り返します。短期トレーディングは8分の1から4分の1、よくて4分の1から2分の1の確率のゲーム。勝つトレーダーと負けるトレーダーの差は、わずかな確率の差にすぎない

だからこそ、勝てる確率がほんの少し高い側を、毎回淡々と選び続けることが効いてくる。

不確実性についての視点も鮮烈でした。すべての事実が明らかになるのを待っていては、機会を逃す。大多数が恐怖で踏み込まない不確実なところにこそ、最大のチャンスが潜んでいる。

著者は「夜明け前が一番暗い」と言います。相場が最も悲観的なときこそ、反転が近い。カリスマアナリストが弱気に転じるときは、大口顧客がすでに売り抜けた後だったりする、という観察も辛辣です。

ここで「7つの大罪」も押さえておきましょう。損切りの無視、利益を勘定すること、時間軸の変更、より多くを知ろうとすることなど、初心者が陥る心理的な過ちを、著者は罪として明文化しました。

とくに時間軸の変更は厄介です。短期で買った株が下がると「これは長期投資だ」と言い訳して塩漬けにする。間違いを認めず損切りを避けるための、自己欺瞞そのものです。

そして「取引中に利益を勘定するな」という戒め。含み益を数えると、それを失う恐怖が増幅し、大きな利益を取り切る前に焦って売ってしまう。お金ではなく、正しく売買できているかという技術に集中せよ、と著者は説きます。

これは投資以外の場面、たとえば成果が出かけているプロジェクトを焦って畳んでしまう癖にも通じる教えだと感じました。

動かないことが、最強の一手になる

最後に、本書がひときわ異彩を放つ教えがあります。「何もしないこと」、つまり不作為の価値です。

常にポジションを持ちたがるのが、トレーダーの性です。でも著者は、状況が悪いときは休むのが最良の行動だと言います。下落局面では、現金が一番強いポジション。防衛的なストップ・ロスで現金化されるのは、次に底を打って反転したときのための備えなのです。

ここで強烈なデータが出てきます。長期投資家が過去14年間のリターンの30%を叩き出したのは、わずか20日間に集中していた。逆に、最悪の20日間に相場を休めていれば、利益は2倍以上になっていた。

動かないことが、これほど効く。市場に居続けることが正義だという思い込みを、この数字は静かに崩します。

不作為の難しさを示すのが、ある研修生のエピソードです。相場の機嫌が極めて悪い日に「何もしない」を我慢できず、寄り付きと同時に矢継ぎ早にトレードを繰り返し、大引けの損失は2950ドルを超えた。

動きたい衝動に勝てないことが、いかに高くつくか。著者は1960年代の反戦運動家ダニエル・ベリガンの言葉を引きます。

ただ何かをやるのではなく、そこにじっと立っていろ。

(同書より)動くことだけが行動ではない。動かないことも、立派な選択なのだという宣言です。ちなみに時間帯にも危険地帯があり、ウォール街のプロが昼食に出る昼下がりは方向性が失われ、往復ビンタを浴びやすいといいます。1日の損失の半分以上を減らしたいなら、その時間を避けよ、と。

そして本書を象徴する一言が、これです。ホームランは敗者のためにある。一発逆転を狙うのは敗者のすること。最も儲けるマーケット・メーカーたちは、小さな鞘をひたすら積み重ねている。小さく確実な勝ちこそ、プロの戦略なのです。

明日から試せる3つの行動

本書の知恵を、今日からの行動に落とします。著者が実際に勧めているものだけを選びました。

1つ目。ポジションを取る前に、2つの価格を紙に書く。いくらで損切りするか(ストップ・ロス)と、いくらで利益を確定するか(目標価格)を決めて書き出し、取引が始まったら感情を挟まず、その価格に達したら機械的に執行する。決断を「事前」に済ませておくのがコツです。

2つ目。損切りできないと思った瞬間、まず半分を売る。全部は切れないと感じたら、迷わずポジションの半分だけを決済する。問題を半分にして、冷静さと客観性を取り戻す。

3つ目。負けた取引だけを「敗者の日記」に書く。記録した損失を「避けられなかった損」と「ルールを破った損」に分類し、後者のパターンが消えるまで意識的に潰していく。

おわりに

この本を読み終えて残るのは、勝ち方ではなく負け方の哲学です。

少額の損失はプロの証。動かないことも一手。安く買うより高く買い上がる。どれも、私たちが当たり前だと思っていたことの、ちょうど裏側にあります。著者はこう言います。損失は必ずしも貧しさをもたらすものではない。時に敗北は勝利となる、と。

次に何かを判断するとき、勝とうとする前に、一度だけ問うてみてください。今の自分は、うまく負ける準備ができているだろうか、と。

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