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『自分を変える習慣力 Business Life』三浦将さん|続かないのは「意志が弱い」からではなかった

生産性・時間術・習慣 ✍ 三浦将さん
約7分で読めます

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『自分を変える習慣力 Business Life』
目次

今年こそジムに通う。早起きする。読書を習慣にする。そう決めたのに、3日でやめてしまった——そんな経験は、たぶん誰にでもある。そのたびに「自分は意志が弱い」と落ち込むのが、これまでの定番だった。

メンタルコーチの三浦将さんは、その落ち込みそのものが的外れだと言う。習慣が続かないのは怠慢のせいではない。犯人はもっと手強い、あなたの「潜在意識」だ、と。

本書『自分を変える習慣力』は、その潜在意識を敵に回して消耗するのではなく、味方につけて「頑張らずに」習慣を定着させる技術をまとめた一冊だ。

刺さるのは、会費まで払ったジムに数か月行っていない人、セミナーで得た「やる気」が1週間で蒸発する人、そして部下や自分のミスをつい「なぜ?」と責めてしまう人。

変わりたいのに変われない自分を、性格や根性のせいにしてきた人には、最初の一撃が効く。後半はマネジメントや対人関係の章まで射程が伸びるので、現場では優秀だったのにチームを率いるとつまずく人にも届く。

図解

「意志が弱い」のではなく、潜在意識に負けていた

本書の核心は一文に畳める。著者いわく「意志の力で頑張るのをやめて、潜在意識を味方につける」。潜在意識とは自分では気づけない心の奥の働きで、その力は自覚できる顕在意識の2万倍以上とも言われる。どれだけ固く決意しても、潜在意識が現状維持を望めば勝ち目はない、という力関係だ。

なぜ現状維持を望むのか。潜在意識は「安心安全第一」で動き、変化を危険とみなしてブレーキを踏むからだ。新しいことを始めると心の奥が「いつもの自分」を守ろうとするのは、欠陥ではなく命を守る仕組みであって、三日坊主は性格の弱さではない。この一点を最初に言い切ってくれるだけで、読み手の罪悪感はかなり軽くなる。

ここが本書を読む価値の半分だと言ってもいい。

著者は潜在意識をコンピューターにたとえる。五感からの「入力」に対し、書き込まれた「プログラム」が作動して決まった反応を「出力」する。だから行動を変えたいなら、力づくで抵抗をねじ伏せるのではなく、プログラムそのものを書き換えるしかない。

その道筋として示されるのが習慣化の4段階だ。何も知らない「知らない」、知識はあるが動かない「知っている」、意志の力を使えばできる「できる」、そして考えなくても勝手に体が動く「やっている」。

最後を著者は「自動操作モード」と呼ぶ。要注意は3つ目の「できる」で、ここは意志の力を使い続けている状態だから、消耗すればあっけなく崩れる。歯磨きのように力のいらない「やっている」まで運べれば、もう崩れない。

目指すのは頑張れる自分ではなく、頑張らなくても続く仕組みなのだと腑に落ちる。

変える習慣は1つでいい——芋づる式に生活が整う「スイッチ」

本書でいちばん希望が持てるのは、変えるべき習慣は1つでいいという指摘だ。オーストラリアの研究者が被験者に運動の習慣だけを課したところ、変化は運動量にとどまらなかった。

喫煙や飲酒が減り、ジャンクフードに手が伸びなくなり、衝動買いの回数まで下がっていった。頼んだのは運動だけなのに、自制心そのものが底上げされ、生活全体が勝手に整っていったのだ。

著者はこれを「スイッチとなる習慣」と呼ぶ。ドミノの最初の1枚を倒せば、後ろの牌が連鎖で倒れていくイメージだ。早起きという1つが、読書・勉強・運動・節約へと波及していく例も挙がる。

だから一度にあれもこれも変えようとしなくていい。むしろそれこそが失敗のもとで、考えるべきは最初の1枚を何にするか、その一点に尽きる。

では、その1枚をどう選ぶか。本書はもう一段手前を問う。そもそも「本当にしたいこと」は何か、だ。目的が腹に落ちていないと芯からの継続力は生まれないので、「なぜそれを習慣にしたいのか?」を3回繰り返して掘る。

英語を学びたい→なぜ→海外で働きたい→なぜ→家族と豊かに暮らしたい、というふうに本当の動機まで下りていく。そのうえで達成した瞬間の光景や感情を五感でありありと思い描く「イメージング」で、潜在意識にスイッチを入れる。

目標は1つに絞り、「急がない」のような否定形ではなく「感謝して30分かけて味わう」といった、できたかどうか確認できる肯定形の言葉にするのがコツだという。

あえて「物足りない」で止める、という逆説

ここが本書のいちばん逆説的で、面白い部分だ。普通、習慣を作ろうとすれば「もっと頑張ろう」と思うが、著者は真逆に「頑張りすぎるな」「最初は成果を求めるな」と言う。

根拠は意志の力の性質にある。心理学者ロイ・バウマイスターの実験で、人の意志の力は使うほど減っていく消耗品だと分かっている。我慢や決断を重ねるほどエネルギーは尽き、いわゆる「決定疲れ」に陥る。

だから複数の習慣を同時に始めると意志が枯れてどれも続かない。まず1つに絞り、自動操作モードまで定着させてから次へ——遠回りに見えて、これが結局は最速の道になる。

やり方は、潜在意識を驚かせない「スモールステップ」だ。ランニングを始めるなら、いきなり10km走らない。500mだけ走って「もうちょっと走りたい」という気持ちを残して終える。

苦痛で終えると潜在意識は「嫌なこと」とブレーキを覚え、快の感情で終えれば「またやりたい」と背中を押してくれるからだ。そこで著者は、行動と快楽をセットにする工夫を勧める。

走るあいだだけ好きな曲を聴く、直後だけ好きなチョコを食べる。パブロフの犬のように、新しい行動へ「気持ちいい」というラベルを貼り直していくわけだ。

意志でねじ伏せるのではなく、感情の側から攻める発想が一貫している。

期間の目安も具体的だ。まず3週間は「成果」ではなく「定着」だけを狙い、体重が減ったかどうかはこの段階で見ない。3週間で当たり前の感覚になり、3か月続けば、ほぼ意志のいらない自動操作モードに入る。

途中で覚える「違和感」も、新しいことに挑めている証であり変化の前兆として歓迎していい、と著者は言う。この「あえて物足りないところで止める」感覚は、文字で読むより、実際にやってみたときの腹落ちのほうがずっと大きいはずだ。

習慣は、脳の配線そのものを作り替える

本書にはもう一段深い視点がある。習慣は行動だけでなく、脳の構造まで変えるという話だ。有酸素運動をすると、脳のインフラをつくる栄養素BDNF(脳由来神経栄養因子)が増え、海馬から新しいニューロンが育つ。

さらに慣れた「快適領域」を超えて難しいことに挑む習慣を持つと、ニューロンが新たに強い結合をつくり、知能やポテンシャルまで上がるという。適度に背伸びする習慣そのものが、それをこなすための脳をあとから用意してくれる。

順番が逆なのだと知ると、少し勇気が出る。

面白いのは、熟練するほど脳はむしろ「省エネ」になるという逆説だ。サッカー選手のネイマールは高度なプレー中、アマチュアより脳の使う範囲が狭いという。

無駄な処理をせず、最小の消費で最高の動きを出す。ラグビーの五郎丸歩選手のキック前のあのルーティンも、潜在意識のなかに最高の身体の動きを再現するプログラムを作り、毎回それを呼び出すための仕掛けだと説明される。

習慣化とは、脳に「最高の型」を焼き付けることなのだ。「脳力は生まれつき」という思い込みを、本書は静かに崩していく。習慣論を精神論で終わらせたくない人にこそ効く章だと思う。

「なぜ?」を「どうしたら?」に変える——仕事・対人・感情の習慣

本書の射程は、自分の習慣を超えて仕事と人間関係にも伸びる。中心にあるのは、ここでも「意志の力を消耗させない」という発想だ。仕事ではまず「意思決定の断捨離」。

着る服や朝食をパターン化して日々の小さな決断を減らし、重要な判断は意志が満タンの午前中に回す。糖質の取りすぎを避け、昼食後に15〜20分の仮眠を挟むと午後の効率が上がる、といった身体側の管理も習慣として並ぶ。

胸を張り、両手を広げ、視線を上げる「ハイパワーポーズ」を2分続けるとテストステロンが上がりコルチゾールが下がる、という研究も引かれる。

もっとも、グルテンフリーや糖質制限といった身体の習慣について、著者自身は「個人差が大きく万人向けとは言えない」と慎重で、数週間試して自分に合うか確かめる構えを添えている。健康法を断定しないこの姿勢は好感が持てるし、読む側も鵜呑みにしない距離感で受け取りたいところだ。

後半の核心は人間関係にある。土台はアドラー心理学の「目的論」だ。部下のミスに「なんでこんなことしたの?」と聞くのは、過去を責める「原因論」で、相手は自己防衛に入って心を閉じる。

そこを「どうしたら次は防げる?」と未来へ向けると、相手は自分で解決策を考え始める。たった一言を変えるだけで、関係が防衛から協力へ動く。あわせて勧められるのが、話をさえぎらず聴く「傾聴」と、評価ではなく事実を返す「承認」だ。

承認とは、褒めて相手を操ることではない。「この資料、工夫してるね」と観察した事実をそのまま返すだけで、相手の自己重要感が満たされ、信頼が積み上がっていく。

対人関係を「テクニック」ではなく「習慣」として捉え直すこの視点は、想像以上に応用が利く。

自分の感情を扱う習慣も、最後に置かれる。下敷きは「ABC理論」——感情(C)は出来事(A)から直接生まれるのではなく、あいだにある「思い込み(B)」を通って生まれる、という考え方だ。

だから同じ出来事でも、とらえ方しだいで感情は変わる。ネガティブに飲まれそうなときは「このとらえ方は生産的か、未来を良くするか」と自問して視点を選び直す。

悩みの当事者として入り込むのではなく、椅子から数歩離れて自分をビデオで眺めるように「傍観する」と、事実と思い込みが切り離せて、冷静な解決策が見えてくる。

この本を通していちばん救われるのは、「意志が弱いわけじゃない」という一点だろう。続かなかったのは、潜在意識という強敵と素手で殴り合っていたからで、勝てるはずがなかった。

だったら戦うのをやめて、味方につければいい。明日から10kmを目指す必要はない。500mだけ走って「もうちょっと」で気持ちよく終える——その小さな1枚を倒すところから、本書は静かに背中を押してくれる。

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『継続する技術』戸田大介 「物足りないところでやめる」という本書の主張を、200万人のデータで裏づけた一冊。三日坊主を科学で治したい人はこちらへ。

『やらなきゃ確率ゼロ%』大野晃 意志力を捨てた先に人生が動き出すという視点が、潜在意識を味方にする本書とまっすぐ響き合います。

『複利で伸びる1つの習慣』ジェームズ・クリアー 「スイッチとなる1つの習慣」の波及効果を、毎日1%の改善という別角度から深掘りしたい人に。


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