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『がんばらない戦略』川下和彦さん・たむらようこさん|努力を努力と感じているうちは、まだ続かない

生産性・時間術・習慣 ✍ 川下和彦さん・たむらようこさん
約10分で読めます

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『がんばらない戦略』
目次

新年の抱負を掲げた人の92%が、たった1週間で挫折する

これはアメリカのメディアが行った調査の結果です。私はこの数字を見て、続かないのは意志が弱いからだとずっと思っていました。でも本書を読んで、その前提そのものが間違っていたと気づきました。

問題は気合いの量ではなく、走り方なんです。努力を努力と感じている状態のまま走り続けようとするから、ガス欠になる。だったら、努力と感じない仕組みを先に作ればいい。

『がんばらない戦略』は、放送作家でもある川下和彦さんとたむらようこさんが書いた、ちょっと変わった自己啓発書です。「がんばること」が法律で禁止された不思議な国を旅する物語を通じて、意志の力に頼らずに結果を出す方法を学んでいきます。

ノウハウを箇条書きで詰め込む類書とは手触りが違います。主人公の少女が旅をしながら教えを授かっていく寓話形式なので、頭で理解するというより、物語に乗せられて腹落ちしていく。理屈っぽい習慣化本に疲れた人ほど、この語り口が効きます。

図解

こんな人におすすめ

真面目に「やればできる」と信じてきた人ほど、本書は刺さります。続かない理由を、あなたの性格ではなく仕組みの不在に置き換えてくれるからです。

この本の核心――意志の力は、ガソリンのように減っていく

本書がまず突きつけるのは、ひとつの事実です。

人間が「これをやろう」と本気で意思決定できる回数は、1日にたった10回分しかない。著者はこれを、ゲームのマジック・ポイントにたとえます。決断や我慢をするたびに消費され、使い果たすと行動できなくなる。

「人間ってね、本当に何かを決める集中力って、一日に10回分しかないんだよ」

だから「もっとがんばれ」「やる気を出せ」という根性論は、貴重な意志の力をすり減らすだけです。ここに本書の鋭さがあります。続かない原因を「あなたの弱さ」ではなく「仕組みの不在」に置き換えてくれる

意志の力は無限に湧くものではなく、使えば減る有限の資源。そう捉え直すだけで、責める相手が自分から仕組みへと移ります。続かない自分を責める自己嫌悪のループから、まず読者を解放してくれるわけです。

ちなみに、人間が意識してやっている行動はたった1割で、残り9割は無意識だそうです。つまり、いかに「がんばっている」という意識を消して、無意識の自動操縦に切り替えるか。これが本書を貫くテーマです。

同じ努力で、なぜ結果が真逆になるのか

物語の舞台は二つの国です。主人公の少女ミサキは「ガンバール国」に住んでいます。

ガンバール国では、がんばること自体が美徳とされています。住民は常に忙しく、スマホを覗き込み、疲弊している。朝、鳥の声で目覚めたと思っても、その正体は携帯電話のアラーム音です。それだけ努力しているのに、なぜか成果は出ません。

一方、ミサキが旅で訪れる「ガンバラン王国」では、無駄にがんばらないことがルールです。住民は楽しそうで、足取りも軽くスキップするほど。なのにスポーツではメダルが続出し、所得も高く、幸福度ランキングは1位。

同じ人間が、努力の方向を変えただけでここまで違う。この対比が、本書のメッセージを物語として体感させてくれます。がんばること自体が悪いのではなく、意志の力を浪費する「がんばり方」が結果を奪っているわけです。

この設定には時代の文脈も乗っています。本書は著者の前著『ざんねんな努力』が原型で、コロナ禍を経て働き方や生き方を見直す機運が高まったことを背景に、改題・再編集されました。「これまでのがんばり方を一度捨てる」という主張が、ちょうど世の中の気分と重なっている一冊なのです。

がんばらない十ヵ条――物語で学ぶ習慣化の全技術

本書は、ミサキが旅の途中で出会う9段階の教えと、最後の国王の教えで構成されています。ここからが本論なので、ひとつずつ追っていきます。

1. 決断を「ルール化」して意志を温存する

着る服や食べるものを毎日固定し、些細な判断を自動化する。スティーブ・ジョブズが黒のタートルとジーンズを、マーク・ザッカーバーグがグレーのTシャツに黒のパーカーを貫いたのは、貴重な意志の力を本当に大事な決断に集中させるためでした。

オバマ元大統領はグレーか青のスーツしか着なかったといいます。

「本当に決めなきゃならないことのために、決めなくていいことを僕は、自動化しておくんだ」

ここで本書は面白い注釈を加えます。お洒落が好きな人は、無理に制服化しなくていい。10枚のカードを「何に使うか」がその人の人生だから、服選びに使いたいなら、それも立派な選択です。

問題は、価値の低い判断にカードを細かく破って分散させ、1日の終わりに充実感のない疲れだけが残ること。何を自動化するかは、自分の優先順位の表明でもあるわけです。

2. つまらない作業を「ゲーム化」する

義務だと思うと苦痛になり、長続きしません。そこで発想を転換し、行動をゲームに変える。営業で断られるのが辛いなら「1000回断られたらお寿司」とカウントゲームにする。貯金なら、節約できた金額をアプリで得点に見立て、ハイスコアを目指す。

「人生すべてゲームだと思ったらね、苦しいことなんて、ひとつもなくなるんだよ」

断られた回数を「失敗」ではなく「経験値」として数える。この視点の置き換えだけで、辛い作業が攻略対象に変わります。苦痛を消すのではなく、苦痛の意味づけを変えるのがコツです。

3. 行動を「シンプル化」する

スポーツクラブに通うには、着替える、荷物を準備する、移動する、と多くの段取りがあります。この段取りの多さが挫折を生む。段取りをこなすだけで意志の力を消耗し、数日で疲れ果ててしまうからです。

「なにかを続けたければね、段取りを減らすことが大事なんだよ。シンプル化!」

だから極限までハードルを下げる。「その場で腹筋を10回だけ」のような、ばかばかしいほど小さな行動から始めるのが近道です。苦痛がゼロのレベルまで下げれば、意志の力を使わずに連続記録を作れます。

4. 「必ず尽きるガソリンで走るな」

やる気というガソリンはいずれ尽きます。代わりに、時間という風に乗るヨットのように、無意識の力を使う。

「必ず尽きるガソリンで走るな」

気合いに頼らず仕組みで進む。本書の核心を端的に表した教えです。風を味方にすれば、自分が踏ん張らなくても船は進む。続けたい行動を、自分の意志ではなく環境や時間の流れに乗せてしまえ、というメッセージです。

5. 「ご褒美」で最初の一押しをつくる

カーリングのストーンは、最初に一押しすれば、あとは慣性の法則でツルツル進みます。日本のカーリング選手が試合中にお菓子をモグモグ食べるのも、エネルギーを補い、無意識の行動を続けるための工夫です。

「慣性の法則に乗るための工夫、それがケーキ! ご褒美ってわけ」

新しい行動が自動化するまでには、ほんの少しの助走がいる。その助走の燃料として、ご褒美を用意するわけです。継続を意志で支えるのではなく、最初のひと転がりだけを快楽で後押しするという発想です。

6. 「宣言」と「予約」で自分を縛る

目標を周囲に公言すると、自分に嘘をつく居心地の悪さを避けようとして動いてしまう。これがコミットメント効果です。10人に「明日5時に起きる」と宣言すれば、励ましてくれた人を裏切りたくないという気持ちが働きます。

「多くの人に宣言することで“自分が自分に嘘をつく居心地悪さ”を避けるために、宣言通りに自分が動いてしまうんだ」

もうひとつが「予約」です。行動を先にスケジュールへ書き込むと、人間が決めたことをやり抜こうとする一貫性の法則が働く。友人とジムへ行く約束を入れておけば、相手の時間を無駄にできないという思いから、自然と足が向きます。

本書は、ゴール(期限)だけでなく、いつ始めるかというスタートを決めることが大事だと言います。

7. 朝を使い、生活を「ルーチン化」する

早起きしたいなら、まず早く寝る。スタートを決めなければゴールにはたどり着けません。本書は、起きる時間を習慣化できない人は何も習慣化できない、とまで言い切ります。睡眠は無理に削ってはいけないアイテムなんです。

意志の力が前夜の睡眠で全回復していて、他人にも邪魔されにくい「朝」を活用する。一定のリズムで同じ行動を繰り返すことで、脳に行動が刷り込まれ、無意識で動けるようになります。一日の最初のブロックを習慣化に充てると、意志の残量がいちばん多い時間帯を使えるわけです。

8. 曜日で固定する

毎日のリズムに組み込めない行動は、「火曜日は掃除」のように曜日ごとに割り振る。1週間の単位でルーチン化してしまえば、迷わず体が動くようになります。

「曜日で決めてしまえばな、人はたいがいのことは、やってしまうんよ」

何曜日にやるかを決めるだけで、毎回「やるかどうか」を判断する手間が消えます。判断を減らすことが、そのまま継続につながる。1の「ルール化」を一週間スケールに広げた応用編だと考えるとわかりやすいです。

9. 「記録化」で積み重ねを可視化する

やったことをノートやアプリに記録すると、努力が砂場に砂を運んで作る山のように、少しずつ積み上がっていくのが見えます。1回ごとの効果は実感しにくく、本当に意味があるのかと自信を失いがち。記録は、その積み重ねを目に見える形にしてくれます。

「人間は積み重ねてきたことを崩したくないと思うようにできている」

カレンダーにシールを貼って連続記録が伸びていくと、それを途切れさせたくない心理が働く。この感情が、継続を後押しします。記録は努力の証明であると同時に、やめにくくする鎖でもあるのです。

10. 苦手をやめ、「得意」に集中する

最後の国王の教えが、本書でいちばん大切な部分です。苦手なことをいくらがんばっても、せいぜい人並みにしかなれない。それより、自分が苦労せずできる「得意」を見つけて注力する。

「だけどよ、苦手なことをいくらガンバっても、せいぜい人並みにしかなれないんだよね」

ここで本書は「得意」を、特別な才能としてではなく「人より少し苦労せずにできること」と定義します。まったくの人並みな人間はいない。誰にでも、その小さな得意がある。そして、互いの得意を交換し合う。

「自分の得意が相手の弱みを、相手の得意が自分の弱みを、支えてくれるってことが腹に落ちたら、一人一人の違いが国の力になるんだよ」

苦手克服に意志の力を浪費するより、得意で他人を助け、苦手は他人の得意に補ってもらう。著者はこれを「プレゼント交換」のように生きる、と表現します。がんばらなくても自然と「ありがとう」と言われる。それが、本書の言う豊かさです。

「トリガー」――行動を忘れないための合図

十ヵ条と並んで重要なのが「トリガー」という考え方です。「アラームが鳴ったら腹筋を開始する」「通勤電車に乗ったら英単語帳を開く」のように、特定の条件と行動をセットにする

繰り返すうちに、頭で考えなくても条件反射で体が動くようになります。

「自分をつき動かす、スイッチを見つけることこそ、人生なんだよ」

意志の力に頼るのではなく、自分を動かすスイッチを見つける。すでに毎日やっている行動(既存の習慣)に新しい行動を紐づけると、トリガーが自然に手に入ります。これが習慣化の入口になります。

苦手な勉強にも意味がある「因数分解的思考」

本書には、十ヵ条の合間に挟まれる小さな知恵もあります。そのひとつが、学校で習う因数分解の使い道です。

因数分解は、共通項を見つけてくくる作業。人にものを伝えるときも、共通する部分を見つけてひとくくりにして話すと、わかりやすくなります。本書では、池上彰さんがテレビで「因数分解は相手にわかりやすく説明するために必要だ」と語った例や、北野武さんが映画づくりで殺すシーンが単調にならないよう因数分解の考え方を使った例が紹介されます。

学校の勉強が無駄に思えても、社会で役立つスキルにつながっている。苦手なものを丸ごと否定するのではなく、その本質を見抜く視点を持つことの大切さが語られています。

「苦手をやめる」という十ヵ条の最後の教えと一見矛盾するようですが、捨てる前に本質を見抜けという補助線になっているのが面白いところです。

明日から何を変えるか

本書の教えは多いので、まずは3つに絞って始めるのがいいと思います。

1. 朝の判断をひとつ自動化する 着る服か朝食のどちらかを固定してみてください。たかが服選びと侮らず、10枚しかない意思決定カードを節約する第一歩です。

2. 新しい習慣は「ばかばかしいほど小さく」始める 腹筋なら1回、読書なら1ページ。苦痛がゼロのレベルまで下げる。物足りなくても、まずは連続記録を作ることを優先してください。

3. 自分の「得意」を5つ書き出す 人より少し苦労せずできることを書き出してみる。苦手の克服に費やしていた時間を、その得意に振り向けられないか考えてみてください。

おわりに

私がこの本でいちばん救われたのは、「努力を努力と思っているうちは、それは努力」という一文でした。

続かないのは意志が弱いからではなく、努力と感じる状態のまま走り続けようとしているから。だったら、努力と感じない仕組みを作ればいい。そう考えると、肩の力がすっと抜けます。

「『短期集中してがんばる』ことはできても、その勢いでがんばり続けることは不可能なのです」

短期集中でがんばることはできても、その勢いで走り続けるのは無理です。だからこそ、99%のムダな努力を捨てて、大切な1%に集中する。気合いではなく仕組みで、自分を前に進めていきましょう。


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