本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『一点集中術』デボラ・ザック|1日中働いたのに、何も終わってない理由

生産性・時間術・習慣
『一点集中術』

1日中、忙しかった。

メールを返して、会議に出て、資料を作って、また会議。

気づいたら18時。

で、何が終わったか。

…何も終わってない。

デボラ・ザックさんの『一点集中術』を読んで、その理由がわかりました。

マルチタスクをしていたからです。


マルチタスクは「幻想」だった

衝撃的な事実があります。

人間の脳は、複数のことを「同時に」処理できない。

マサチューセッツ工科大学の研究者は、こう言っています。

「人にはマルチタスクをこなすことなどできない。“できる”という人がいるとしたら、それはたんなる勘違いだ」

私たちがマルチタスクだと思っているもの、あれは「タスク・スイッチング」です。

メールを書いている→電話が鳴る→電話に出る→メールに戻る→Slackが光る→Slackを見る→メールに戻る…

一つのことに集中しているのではなく、注意を高速で切り替えているだけ

この切り替えには0.1秒もかかりませんが、積み重なると膨大なロスになります。

しかも、脳はこの切り替えのたびに疲弊する。

「1日中忙しかったのに、何も終わってない」の正体は、これでした。


「忙しいふり」をしていませんか?

耳が痛い話があります。

ビジネス向けアプリ「スラック」のレポートによると、日本は「忙しそうに見せるための無駄な仕事」に時間を費やす国の上位にランクインしているそうです。

常に忙しくしていることが、一種のステータスになっている。

多忙でない場合は「忙しいふり」をして体裁を取り繕う。

本書はこれを「奇妙な文化的風潮」と呼んでいます。

人々は自らを疲弊させることで「自分は重要な人間だ」という認識を得ようとする。

でも、それは生産性とは何の関係もありません。

「どれだけ多くのタスクをこなせるか」ではなく、「何を完了させたか」が重要。

この当たり前のことを、私たちは見失っていました。


会議中のスマホ、見られてます

もう一つ、刺さった話があります。

会議中にメッセージを返信する行為は、上級管理職からは「未熟で迷惑な存在」と見なされる。

本人は「効率よくやってる」つもりかもしれません。

でも、相手から見ると「この人は今ここに集中していない」「失礼な人だ」「信頼できない」というメッセージを送っています。

逆に、こんなエピソードがありました。

元米国務長官ヘンリー・キッシンジャーは、地位の低い若いボランティアに対しても、全身全霊で注意を向けたそうです。

その若者は数十年後でさえ、こう回想しています。

「キッシンジャーは、私を宇宙で唯一の人間であるかのように感じさせてくれた」

たった数分の会話でも、100%の注意を向けられた相手は、それを一生忘れない

これが「集中する」ということの力です。


「ノー」と言える人が信頼される

著者は、こう主張しています。

全ての要求に「イエス」と答えることは、自分の仕事を放棄し、結果的に誰の期待にも応えられない状況を招く。

これも逆説的な話です。

すべてを引き受ける人は、一見すると協調的で頼りになるように見えます。

でも実際は、どのタスクも中途半端になり、信頼を損なう。

一方、「今は別の優先事項に集中しています。〇時以降であれば対応可能ですが、いかがでしょうか?」と言える人は、「この人に任せれば確実にやり遂げてくれる」という信頼を獲得します。

「ノー」と言うことは、現在のタスクへのコミットメントの証明。

安請け合いしないことが、信頼性を示す行為になる。

この発想の転換は、目から鱗でした。


スマホは「悪魔のテクノロジー」

著者は、スマートフォンを「悪魔のテクノロジー」と呼んでいます。

多機能であるがゆえに、最大の注意散漫の原因になる。

目覚まし時計として使おうとして、ついSNSを開いてしまう。

タイマーとして使おうとして、通知に気を取られる。

解決策として提案されているのは、機能を分離すること

目覚ましは物理的な目覚まし時計に。タイマーはキッチンタイマーに。

スマートフォンの多機能性に頼るのをやめる。

正直、「今さらアナログ?」と思いました。

でも、試してみると確かに集中力が戻ってくる。

不要な誘惑との接触を、物理的に断つ。これが効くんです。


「空白タイム」を予定に入れる

実践的なテクニックで、特に使えると思ったのがこれ。

1日に2回、15分程度の「何もしない時間」をスケジュールに組み込む。

予定を詰め込みがちな人ほど、これが効きます。

この15分があることで、予期せぬ割り込みに対応できる。

遅れを取り戻せる。

次の仕事への頭の切り替えができる。

「空白」があるから、他の時間に集中できる。

スケジュールがギチギチだと、一つの遅れが全部に波及して、結局どれも中途半端になる。

余白があるから、本番に集中できる。


こんな人に読んでほしい

この本が教えてくれるのは、「もっと頑張れ」ではありません。

「一度に一つのことだけやれ」

シングルタスク。一点集中。

それだけで、生産性も、人間関係も、心の平穏も、取り戻せる。

マルチタスクは幻想です。

一点に集中することで、結果的により多くのことをこなせるようになる。

この逆説を、ぜひ体験してみてください。


合わせて読みたい

『なぜ、あなたの仕事は終わらないのか』中島聡 「空白タイム」の考え方をさらに発展させたい人に。ロケットスタート時間術で先延ばしを防ぐ方法が学べます。

『行動科学が教える 目標達成のルール』 「習慣化」に苦戦している人に。意志力に頼らない行動変容の科学を学べます。

『勝ち続ける意志力』梅原大吾 「フロー」や「ゾーン」の状態をもっと知りたい人に。継続することの本質を深く理解できます。


この記事をシェア:

前の記事
『人は聞き方が9割』永松茂久|会話の主導権は「聞く側」が握っている
次の記事
『調べる技術 書く技術』佐藤優|高校教科書が「知性のOS」になる理由