1802年に株式へ投じた1ドルは、配当を再投資し続けると2021年末に名目で5420万ドルを超えました。
この一文だけで、長く持ち続けることの威力が伝わってくると思います。とはいえ、株式は「危ないもの」というイメージも根強い。暴落のニュースが流れるたび、心臓が縮む人は多いはずです。
ジェレミー・シーゲル氏の『株式投資 第6版』は、その不安に220年分のデータで答えた一冊です。結論を先に言うと、株式は短期では確かに荒れるけれど、20年という単位で見れば債券よりも安全な資産になる。しかも、もうけのカギは「何を買うか」より「どう持ち続けるか」にある。そういう話です。
こんな人におすすめ
- 暴落のニュースを見るたびに不安になり、つい売りたくなってしまう人
- インデックス投資を始めたものの、なぜそれが正解なのか腹落ちしていない人
- 「成長しそうな会社の株を買えば勝てる」と思っている人
- 直感や専門家の予測ではなく、データに裏打ちされた投資の軸が欲しい人
この本の核心――株式は「最も安全な長期投資」である
本書の主張は一行で言えます。「安定した長期的利益を求めるすべての人にとって、株式が最高の投資であり続ける」。
その根拠が、1802年から2021年までの220年という、ほかに類を見ない長さのデータです。インフレ(物価の上昇)を差し引いた本当の増え方、つまり実質トータルリターンを資産ごとに比べると、差は歴然としています。
- 株式:年率6.9%
- 長期国債:年率3.6%
- 短期国債:年率2.5%
- 金:年率0.6%
- 米ドル(現金):年率マイナス1.4%
「広く分散された株式ポートフォリオの実質リターンは年率6.9%であった。」
現金で持っているだけだと、インフレに負けて購買力が毎年目減りしていく。金ですらインフレをわずかに上回る程度。長く持てば持つほど、株式の独り勝ちが鮮明になります。
なぜ株式はインフレに強いのか。株式は工場や設備、知的財産といった実物資産に対する持ち分だからです。物価が上がれば、企業が生み出す利益や配当もそれにつれて伸びる。だから長期的には、インフレを吸収しながら価値を保ちます。一方で債券や現金は、額面が固定されているぶんインフレでじわじわ目減りしていきます。
長く持つほど、株は債券より「安全」になる
ここが本書で一番のひっくり返しポイントです。
ふつう「株式はハイリスク、債券はローリスク」と考えますよね。1年や2年の短期で見れば、確かにその通りで、株価の変動幅は債券より大きい。
ところが保有期間が延びると話が逆転します。本書によれば、株式のリスク(変動幅)は保有期間が長くなるにつれ、債券のおよそ2倍の速さで小さくなっていく。「平均回帰」と呼ばれる働きが効くからです。
「最も安全な長期投資は株式の分散ポートフォリオであることは明らかである。」
実際、1802年以降、保有期間が17年を超えた場合、株式の実質リターンがマイナスになったことは一度もありません。逆に長期国債は、インフレ調整後に大きく目減りした時期がありました。つまり購買力を守るという視点では、20年以上持つなら株式のほうがむしろ安全な資産になります。
著者はこう続けます。投資を始めるタイミングが相場の天井だったとしても、長期で持てばその影響は吸収される、と。「今は株価が高すぎるのでは」とためらっている人の背中を、データが押してくれます。
伸びる会社の株が、もうからない理由――成長の罠
次のひっくり返しは「成長の罠」です。
多くの人は、これから急成長しそうな会社や、経済成長の著しい国の株を買えば勝てると考えます。本書はこれをはっきり否定します。
象徴的なのが、IBMとスタンダード石油(現エクソンモービル)の比較です。1950年から2000年まで、売上も利益もIBMが圧倒的に勝っていました。最先端のIT企業ですから当然です。
ところが配当を再投資した場合の長期リターンでは、地味な石油会社のスタンダード石油がIBMを大差で上回りました。理由はシンプルで、IBMは人気がありすぎて株価が割高、スタンダード石油は割安で配当利回りが高かった。割安な株を配当で買い増し続けたほうが、最終的に多くの株数を手にできたわけです。
「すばらしい会社といえども、あまりにも高すぎる値段で買うと、すばらしい投資ではない。」
国レベルでも同じことが起きます。本書が指摘する事実はかなり衝撃的で、1人当たりGDPの成長率と株式の実質リターンは、平均すると負の相関にあります。成長が期待される国ほど投資家が群がって株価が割高になり、その後のリターンが下がってしまうからです。「成長する国に投資すれば勝てる」という直感は、歴史のデータでは裏切られます。
なぜ理論通りにできないのか――心理という最大の敵
理屈ではバイ&ホールドが正しいとわかっても、人間はなかなかそれを続けられません。第7部で扱われる行動ファイナンスが、その理由を解き明かします。
最大の敵は「損失回避」です。人は同じ額でも、得る喜びより失う痛みを大きく感じます。だから含み損の株を抱え込み、含み益の株を早く売ってしまう。本書によれば、投資家は含み損の株より含み益の株を売る確率が50%高いそうです。
さらに困るのが、毎日株価を見る習慣です。短い期間の変動ばかり見ていると損失の痛みを過剰に感じ、長期では有望な株を手放したくなる。ベナルチとセイラーの実験では、短期のリターンだけを見せられた人ほど、株式への投資割合を極端に小さくしました。
「投資家が最もとってはいけない行動は景況感を後追いすることである。」
頻繁に売買するトレーダーほどリターンが低い、というデータもあります。最も売買回数の多い層は、あまり売買しない層より年率7.1%もリターンが劣っていました。市場の暴落を当てたと自慢する人の多くは、その後に市場へ戻れず、結局バイ&ホールドの投資家に負けている。著者は、専門家ほど自分の予測に固執して悪いニュースを無視しがちだ、とも指摘します。
明日から何を変えるか
本書の処方箋は、拍子抜けするほどシンプルです。
1. 資産配分を決めて、文書にして、守る 投資を始める前に「株式80%・債券20%」のように自分のリスク許容度に合った配分を決め、文書化します。著者はこれを「事前の取り決め」と呼びます。暴落のニュースが流れても、このルールを感情で書き換えない。判断を事前に外部化しておくことが、心理の罠から身を守る最大の武器になります。
2. 低コストの分散インデックスで、世界に投資する 個別銘柄で市場に勝つのは至難の業です。本書のデータでは、長期で市場平均を上回った銘柄はわずか4%。だからこそ低コストのインデックスファンドをコアに据え、米国だけでなく少なくとも3分の1を米国以外の国際株に振り分けます。「この一社は絶対に上がる」という確信は、たいてい高くつきます。
3. 配当は再投資し、株価チェックの回数を減らす 受け取った配当は使わず買い増しに回す。冒頭の233万ドルは、この配当再投資が生んだ宝の山でした。そして毎日の株価チェックはやめる。半年に一度くらいで十分です。どうしても売買したくなったら、全体資産とは切り離した「失ってもいい少額の口座」だけで欲求を満たす。これが著者の現実的なアドバイスです。
おわりに
この本を読み終えて残るのは、安心感に近いものでした。
何を買うか必死に探さなくていい。暴落を予測しなくていい。世界中の株式に低コストで分散して、配当を再投資しながら、ただ持ち続ける。それを220年のデータが裏づけてくれる。
もちろん限界もあります。「長期では株式が勝つ」という主張は、個人の投資できる年数のなかで平均回帰が必ず収束しきるとは限らない、という指摘も監訳者からなされています。それでも、短期のノイズに振り回されて退場するより、淡々と持ち続けるほうがはるかに勝率が高い。歴史がそう語っています。
株式を見限るほうに賭けて、長期で利益を得た人はいない。この一言を覚えておくだけで、次の暴落への向き合い方が変わるはずです。
合わせて読みたい
220年のデータが証明する「株式投資の真実」 同じシーゲル氏による旧版を扱った記事です。本書の核心である「なぜ短期の損に怯えてしまうのか」を別の切り口で味わえるので、リスクの逆転をもう一段深く理解したい人にどうぞ。
『賢明なる投資家』ベンジャミン・グレアム 本書が成長の罠の対極に置く「バリュー投資」の源流です。割安な株を買う考え方や、市場の感情を表す「ミスター・マーケット」の概念を本家から学べます。
『JUST KEEP BUYING』ニック・マジューリ 「いつ買うか」で悩む時間こそ無駄だと説く一冊。本書の「タイミングを計らず持ち続ける」という結論を、買い続ける行動の側から補強してくれます。



