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『迷路の外には何がある?』スペンサー・ジョンソン氏|「事実」だと思っていたものは、ただの古い思い込みだった

キャリア・働き方 ✍ スペンサー・ジョンソン氏
約8分で読めます

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『迷路の外には何がある?』
目次

「変わらなきゃいけない」と頭ではわかっている。なのに、足が動かない。

この感覚は、おそらく誰もが一度は味わったものでしょう。前作『チーズはどこへ消えた?』は、まさにこの「変化に動け」というメッセージを、たった一冊の薄い寓話で世界中に伝えきった本でした。

けれど、世界的なベストセラーになったあと、著者のもとには二種類の声が寄せられたといいます。ひとつは「言うはやすく行うは難し。具体的にはどうすればいいのか」。

もうひとつは「変われずに迷路に取り残された小人ヘムは、あのあと、どうなったのか」。

本書『迷路の外には何がある?』は、この二つの問いに正面から答えるために書かれた続編です。前作で「動けなかった側」だったヘムを、今度は主役に据え直す。そして「なぜ私たちは、変わるべきだとわかっていても変われないのか」という、前作より一段深い場所へと降りていきます。

著者は前作と同じスペンサー・ジョンソン氏。ご自身が描いた「変われなかった主人公」に、もう一度光を当て直したわけです。そしてその答えは、拍子抜けするほどシンプルでした。

私たちが「これは動かしようのない事実だ」と思い込んでいるものの正体は、たいてい、ただの「古い信念」にすぎない、というものです。

図解

核心は「あなたと、あなたの信念は別物だ」

本書を一文で要約するなら、自分を縛っている思い込みに気づき、それを新しく選び直すための物語、ということになります。

出発点は、ひとつの定義です。本書は信念を「自分が真実だと信じている考え」と置きます。つまり、私たちが「これは事実だ」「こうするしかない」と固く思っていることの多くは、客観的な事実そのものではなく、自分が過去のどこかで採用した一個の解釈にすぎない、という見立てです。

事実と信念は、似て非なるものだということです。

ここから本書の最大の発見が立ち上がります。あなたと、あなたの信念はイコールではない

これは、読み流せないほど鋭い指摘です。なぜ人は考えを変えるのが怖いのか。それは、考えを変えることを「自分が自分でなくなること」のように感じてしまうからです。

作中のヘムも、まさにそう叫びます。自分の考えを変えたくない、それを変えたら自分は自分でなくなってしまう、と。けれど本書は、信念を着脱できる道具のようなものとして描きます。

服を着替えても中身の自分が消えないのと同じで、考えを着替えても、あなたという存在は無傷のまま残る。だから恐れずに選び直していい、というわけです。

編集部として強調したいのは、この一点を腹に落とせるかどうかで、本書の残りすべての説得力が変わるということです。

古い信念が、あなたを牢屋に入れる

物語はヘムの飢えから始まります。

チーズが消えたあとも、ヘムはチーズ・ステーションCに留まり続けました。「ここにいれば、いつかチーズは戻ってくる」と信じていたからです。しかしチーズは戻らず、彼は空腹と怒りと孤独に追い詰められていきます。

ここで本書がさりげなく差し込む象徴が、ヘムの荷物です。彼は重いハンマーとノミを袋に詰め、ずっと持ち歩いていました。かつて仲間のホーと二人で、その道具を使って壁に穴を開け、成功した記憶があったからです。

つまりヘムは「過去にうまくいったやり方」を、状況がすっかり変わった今になっても握りしめていた。これは、過去の成功体験ほど人を縛るものはない、という普遍的な真実を寓話に落とし込んだ場面だと読めます。

そして本書の核心的な気づきが訪れます。ヘムを閉じ込めていたのは、迷路でも、会社でも、業界でもなかった。彼自身がこう悟ります。

ぼくが抜け出さなくてはならない迷路、それは自分自身の思考なんだと思う

私たちは行き詰まると、つい環境のせいにします。上司が、会社が、時代が悪い、と。けれど本当の壁は、たいてい自分の頭の中にあります。「この仕事はこのやり方しかない」「この年齢から新しいことは無理だ」。

そう信じ込んだ瞬間、それが事実かどうかと無関係に、私たちは自分で自分を牢屋に入れてしまう。ヘムが夢の中で見た、自宅の窓にはまった鉄格子は、まさにその自作の牢屋の象徴でした。

リンゴを「食べ物じゃない」と捨てていないか

飢えて倒れそうになったヘムの前に、見知らぬ小人が現れます。名前はホープ。

ホープはチーズを食べません。代わりにリンゴを食べます。彼女はヘムにリンゴを差し出しますが、ヘムは「自分が食べるのはチーズだけだ」と拒みます。彼にとってリンゴは、まずいとか嫌いとかいう以前に、そもそも食べ物ですらなかったのです。

このリンゴが、本書のもうひとつの象徴です。リンゴは、これまで自分が知らなかった新しい価値、見落としていた可能性を表しています。チーズ、つまり過去の報酬や慣れ親しんだものに固執していると、目の前にあるリンゴが視界に入らない。

入ったとしても「あれは自分には関係ない」と即座に退けてしまう。

ヘムも最初はそうでした。けれど飢えに耐えかねて思い切って一口かじってみると、リンゴはおいしく、彼に生きる活力が戻ってきます。この体験から、ヘムは大事なことを学びます。食べられるのは、チーズだけではなかった、と。

編集部として、この場面はビジネスパーソンにこそ刺さると感じます。いつも同じ取引先、同じ手法、同じスキルセットでしか戦おうとしない。新しいツールも、畑違いの業界も、慣れない働き方も、試す前から「あれは自分の領域ではない」と決めつけて捨てている。

それはまさに、目の前のリンゴを食べ物だと認識できないヘムそのものです。可能性は、しばしば「自分のジャンル外」という顔をして現れます。

信念は、テストして選び直せる

ここから本書は、寓話でありながら実践書としての顔を見せ始めます。

ホープとの対話を通じて、ヘムは迷路の壁に自分の気づきをメモとして刻みながら、思考を整理していきます。そのカギになるのが、頭に浮かんだ考えを鵜呑みにせず、一度立ち止まって検証する習慣です。

本書が示す問いはこうです。その信念は、自分を向上させるか、それとも足を引っ張るか。このたった一つの問いが、無数に湧いてくる思い込みを選別するふるいになります。

ここで効いてくるのが、先ほどの「あなたと信念は別物だ」という前提です。自分が考えたことを、すべて信じる義務はない。ネガティブな予測も、「こうするしかない」という決めつけも、いったん「それは本当か」と疑っていい。

事実だと思っていたものが、実は自分の物の見方にすぎなかった、ということは珍しくない。信念は事実ではなく仮説なのだから、検証にかけてよい、というわけです。

そして役に立たない古い信念だと判明したら、ためらわず捨てる。本書は身軽になることの大切さを、こう表現します。

役に立たないことは捨て去ろう。古い荷物を持って新しい探索に乗り出すことはできない。

ヘムにとっての古い荷物は、あの重いハンマーとノミでした。「壁に穴を開ければチーズが見つかる」という、もう通用しないやり方そのものです。それを手放さない限り、新しい探索には出られない。

私たちにとっての古い荷物が何かは、人それぞれでしょう。過去の肩書きへの誇り、捨てられないプライド、「これだけは譲れない」という思い込み。重いほど、たいてい手放しがたいものです。

暗がりが、すべて暗いわけじゃない

信念を選び直したヘムに、最後の関門が訪れます。「迷路の外に出る」という、最も大きな一歩です。

ヘムは長いあいだ、今いる迷路こそが世界のすべてで、「迷路の外など存在しない」と信じていました。けれど彼は、ここでも新しい信念を選びます。迷路の外には素晴らしいものがある。たとえあるかどうか確証がなくても、あると信じて踏み出さなければならないときもある、と。

ここでホープが残した言葉が効いてきます。暗がりがすべて暗いとは限らない、袋小路がみな袋小路とは限らない。ヘムは、これまで「あそこは行き止まりだ」と決めつけて避け続けてきた暗がりに、あえて足を踏み入れます。

すると暗がりの奥に小さな隙間が見つかり、そこを抜けた先には、迷路の外の美しい草地が広がっていました。

ここに本書の行動論の本質があります。確証が揃ってから動くのではなく、まず「ある」と信じて踏み出す。そして、避けてきた暗がりの先にこそ出口があるかもしれない、と考え方を反転させる。

本書には「もし、できると確信したら、あなたは何をするか」という問いも出てきます。できない理由をいったん全部脇に置き、可能性の側からだけ行動を逆算してみる。

その問いに具体的な答えが浮かぶなら、その行動こそが迷路の外への第一歩になります。

寓話は、あなたの仕事と人生に重なる

物語のあとには、ビジネスセミナーの参加者たちが、ヘムの物語を自分の現実に当てはめて語り合う「ディスカッション」のパートが続きます。ここが、本書を子供向けの寓話から大人の実用書へと引き上げています。

ある参加者は、新聞業界の衰退を「印刷物の広告で稼ぎ続けられる」という古い信念のせいだと分析します。別の参加者は、両親の離婚に対する長年の怒りが、実は「両親は変わらないべきだ」という自分自身の信念から生まれていたと気づきます。

組織が変化に乗り遅れるのも、市場の変化に気づかないからではなく、「自社は安全だ」「この状況はずっと続く」という思い込みに縛られているからだ、と本書は指摘します。

つまり、ヘムの物語はおとぎ話ではありません。仕事の停滞も、組織の硬直も、人間関係の苦しさも、根っこをたどればたいてい「古い信念」に行き着く。だからこそ、信念に気づき、テストし、選び直す力は、抽象論ではなく、目の前の現実を動かす実用的な技術になります。

おわりに

本書を読み終えて、いちばん胸に残るのは、著者スペンサー・ジョンソン氏自身の物語です。

彼はこの本を書いているさなかに、膵臓がんで余命を宣告されました。普通なら、死の恐怖にすべてを飲み込まれてもおかしくない状況です。けれど彼は、恐れに基づく信念ではなく、感謝と愛に基づく信念を選び取りました。

自らの腫瘍に向けて「あなたを愛しています」「あなたに感謝しています」と手紙を書き、家族や友人と過ごす時間を慈しんで、最後まで生きたといいます。

「あなたと、あなたの信念はイコールではない」。この教えを、著者は人生の最終章で、誰よりも誠実に実践してみせました。本書に並の自己啓発書にはない重みが宿るのは、この事実があるからです。

最後に、本書の読者として自分に問うてみてほしいのです。あなたが今「これは事実だ」と思って握りしめている考えは、本当に事実でしょうか。それとも、いつか戻ってくると信じて待ち続けている、古いチーズへの執着でしょうか。

手始めに、行き詰まっているテーマで「こうするしかない」と思っている前提を一つだけ紙に書き出し、それが本当に事実かどうかを疑ってみる。そして、これまで避けてきた暗がりを、ひとつだけ覗いてみる。

迷路の外は、たぶん、その小さな一歩の先にあります。


合わせて読みたい

『チーズはどこへ消えた?』スペンサー・ジョンソン 本書の前作。「変化を恐れず動け」という出発点を押さえてから本書を読むと、「なぜ動けないのか」への答えが立体的に見えてきます。チーズを探しに出たホーと、留まったヘム、二人のその後を続けて味わってください。

『Master of Change 変わりつづける人』ブラッド・スタルバーグ 変化を一度きりの脱出ではなく、生涯続く生存戦略として捉える一冊。「迷路の外」に出たあとも変わり続けるための、しなやかな考え方が学べます。

『insight(インサイト)』ターシャ・ユーリック 自分の信念に気づくには、まず自分を正しく知る必要があります。95%の人が「自分を知っている」と誤解しているという指摘は、ヘムの思い込みと地続きです。


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