本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP
戻る

『日本一稼ぐ弁護士の仕事術』福永活也|才能がなくても「スピードと時間量」で勝てる

キャリア・働き方 ✍ 福永活也
約7分で読めます

※ 本記事はアフィリエイトリンク(Amazonアソシエイト)を含みます。

『日本一稼ぐ弁護士の仕事術』
目次

「忙しい」「疲れた」「無理」。この三つが口癖になっている人にとって、本書は少し痛いところを突いてくる一冊だ。著者の福永活也さんは、のっけからこう提案する。今日から三年間、一度も「忙しい」と口にしない生活をしてみてほしい、と。

福永さんは24歳までレンタルビデオ店で働くフリーターで、月収は10万円に届かなかった。そこから司法試験に挑み、独立後わずか数年で「日本一稼ぐ弁護士」と呼ばれるまでになる。

ただ、本書がありがちな成功譚と違うのは、「特別な才能を持った人の話」ではない点だ。むしろ逆で、才能もコネもない人間が、誰にでもできることを誰よりも本気で続けたらどうなったか——その観察記録に近い。

だからこそ、書かれている手法は再現しやすい。同時に、あとで触れるように「そのまま真似ると危ない」部分も抱えている。ここでは要点を編集部なりに噛み砕きつつ、どこを持ち帰るべきかを一緒に考えていきたい。

「日本一」の中身と、持たざる者というスタート地点

まず数字を確認しておく。「日本一稼ぐ」とは、国税庁の統計で弁護士の課税所得が最高レンジ(5〜10億円)に入ったことを指し、福永さんは独立後にこのレンジへ2年連続で到達した。ピーク時の月収は2億円超、納税額は累計10億円以上。ここだけ見れば完全に別世界の人だ。

ところがスタート地点はまるで逆だった。1900グラムに満たない未熟児として生まれ、高校で難病のIgA腎症を発症。父親から長く精神的な虐待を受けていたと本人が明かしている。

成績は高校も大学も平均以下。弁護士を志したきっかけさえ、ドラマ『カバチタレ!』を見て法律に興味を持った、という軽いものだ。そこから出願者7842人中56位で一発合格するのだから地力はあったのだろうが、少なくとも生まれつきのエリートではない。

この背景を押さえておくと、本書の主張が持つ独特の説得力が理解しやすくなる。上から見下ろすエリートの助言ではなく、野良から這い上がった人間の実感として語られているからだ。裏を返せば、その激烈な体験に強く依存した主張でもある。ここは後半で改めて留保をつけたい。

才能ではなく「スピードと時間量」で勝つ

本書の核心を一言にすると、特別なスキルや才能がなくても、スピードと投下する時間量だけは意識次第で誰でもトップクラスになれる、という主張に尽きる。

弁護士1年目、福永さんはスキルで先輩に敵わない分、すべてのメールに24時間いつでも1時間以内で返す、と決めた。深夜だろうと即レスする。すると、クライアントは「この人は24時間動いてくれている」という安心感を抱く。

実際の知識量ではベテランに劣っても、レスの速さがベテラン級の信頼を生んだわけだ。速さそのものが専門性の錯覚を作り出す——本書はこれを、スピードこそ最強の専門性になる、と表現する。

この現象は、信頼という感覚の非対称性で説明できる。専門知識の差は依頼者の側からは見えにくいが、レスポンスの速さや対応量は誰の目にもはっきり映る。

だとすれば、見えにくい実力の高さで競うより、見える速度で差をつけたほうが評価に直結しやすい。まだ武器を持たない若手が最短で信頼を積み上げるためのテコの原理として、この一点は今日からでも真似る価値がある。

時間量についても徹底している。1〜2年目の労働時間は月300時間を超え、朝10時から深夜1〜2時まで働き続けた。誰もが避けたがる単純作業や小さな案件も、数をこなすこと自体に価値を見た。

ここは編集部としてはっきり注意を促したい。この働き方は、体力と気力がずば抜けて高い人を前提にしている。睡眠を削ってタスクを空にするやり方をそのまま模倣すれば、多くの人は心身を壊す。

本書の凄みと危うさは、実は同じ場所から生まれている。真似るなら「即レスで信頼を作る」という原理だけを抜き出し、時間量のほうは自分の器に合わせて調整するのが現実的だろう。

「忙しい」を封じ、不安を冷たく分解する思考法

新しい挑戦を最も妨げるものは何か。福永さんの答えは「忙しい」という言葉そのものだ。私たちは予定が詰まっているから忙しいと感じていると思っているが、著者に言わせれば、その言葉に中身はない。新しい誘いや挑戦を断るための、一番手軽な言い訳にすぎない、と。

だから三年間その言葉を封印する。すると、誘いや依頼にまず「やります」と答える癖がつく。時間の工面は後から考えればいい。ここで出てくるのが「時間の箱とゴムボール」の比喩だ。

時間は決まった大きさの箱、タスクはゴムボールだと考える。箱は満杯に見えても、新しいボールを無理に押し込むと既存のボールが縮み、密度が上がって意外に全部収まる。

むしろ自分の限界の幅が広がっていく、という話である。

不安の扱い方はさらに独特で、かなり冷たい。挑戦への不安の大半は、経済的困窮のような現実のリスクではなく、失敗して自信や自尊心を失いたくないという心理的な恐怖だ、と福永さんは切り分ける。

そのうえで、傷つくと思うこと自体が自分への期待値が高すぎる「自意識過剰」だと言い切る。ビル・ゲイツの、世界はあなたの自尊心には興味がない、という言葉も引かれる。

自分が失敗しても世間は気に留めない、というわけだ。

さらに「歳を取るリスク」が突きつけられる。立ち止まることは一見ノーリスクだが、実際は時間が過ぎて可能性が減るという、最も確実なリスクを負っている。

そして挑戦前の不安は仮定の上に無限に膨らむが、いざ動き出せば対処可能な具体的課題に変わる。頭の中で無限に広がっていた敵は、行動した瞬間に現実の課題へと姿を変えるのだ。

だから判断基準を「できるか、できないか」から「するか、しないか」へ切り替える。成功できるかは自分で制御できないが、挑戦するかどうかは100%自分で決められるからだ。

とどめに、失敗という概念そのものを消す。挑戦すれば結果に関わらず経験は残り、経験が得られた時点で成功だと考える——この論法には多少の強引さもあるが、動けない人の背中を押す装置としてはよくできている。

締切ではなく「今」から始め、下書き感を消す実践術

考え方の次は、手を動かすレベルの技術だ。ここが本書の実践的な骨格になる。

一つ目は、本来の締切を意識しないこと。締切から逆算するのではなく、タスクが発生した「今」を起点に最速で終わらせる。早く仕上げれば見直しの時間がたっぷり残り、結果として質も上がる。

上司やクライアントへの報告は週末直前の「金曜の朝」までに済ませるのがルールで、相手に確認の余裕を与えつつ、もうできたのかという驚きも勝ち取れる。

二つ目は「ファーストドラフト感のある仕事をしない」こと。とりあえず作った、あとで先輩が直すだろう、という未完成な手抜き感を一切出さない。最初から100%を出さなければ本質的な改善点も見えず、成長にもつながらないからだ。

提出物は必ず一晩寝かせ、翌朝に紙へ印刷して自分でチェックしてから出す。地味だが、この一手間が成果物の質を大きく変える。

タスク管理はごくシンプルで、やるべきことが生じた瞬間にすべて携帯のアラームへ登録し、鳴ったら手元が空になるまで処理する。面白いのは自己暗示の使い方だ。

パソコンのパスワードをなりたい姿を示す言葉(「首席1番」のような)に設定し、打つたびに暗示をかける。日本電産の永守重信さんが銭湯で一番の下駄箱を使って自信を高めた逸話も引かれる。

効果のほどは人それぞれだろうが、コストゼロで試せる工夫として悪くない。

行動のハードルを下げる合言葉として本書が挙げるのが「ドリアンようかん」だ。食べたことのないものを、うまいともまずいとも判断はできない。だから、少しでも興味が湧いたものは、好き嫌いを決める前にまず一度は口に入れてみる。

食わず嫌いをやめて未経験の領域に触れる姿勢が、そのまま挑戦の入口の数を増やしていく——理屈は素朴だが、忙しさを言い訳に選択肢を狭めている人ほど効く発想だと思う。

稼ぎは通知表、仕事は人生の一部という価値観

最後に、本書を貫く価値観に触れておきたい。福永さんはお金儲け自体を第一の目的にはしていない。ただ収入を「ビジネスの通知表」だと捉える。違法でもモラル違反でもない稼ぎなら、額の大きさはそれだけ市場に評価された証拠だからだ。

二宮金次郎の、経済なき道徳は寝言である、という言葉も引かれる。

そのうえで仕事の対価を「報酬と経験」の二つで測る。ユニクロの柳井正さんも愛読する『プロフェッショナルマネジャー』からの引用で、給料が業務量に見合わなくても、将来の資産となる経験を得ていると考えれば、満足度は報酬だけに縛られなくなる。

仕事の価値を経済的価値・自己実現価値・社会的価値の三つで言語化しておく提案も同じ発想だ。単一の物差しで測らないからこそ、どんな仕事からも価値を引き出せるのである。

働き方の哲学は「ワーク・アズ・ライフ」に集約される。仕事と私生活を切り分けるのではなく、人生の一部として仕事を含める。だから本業と副業を区別せず、楽しく熱中できることをマルチタスクで同時に進める。

実際、福永さんは弁護士業のかたわらレストランやモデル事務所を経営し、世界七大陸最高峰と南極点にも到達している。人からの誘いは内容も予算も聞かずに即決し、苦手な上司にはむしろ自分から懐へ飛び込む。

根っこにあるのは、他人の評価ではなく自分の価値観で自分のために人生を楽しむ、という一貫した軸だ。

読み終えて残るのは、勇気づけと同時に、ほどよい厳しさである。福永さんは他人にできることは自分にもできると本気で信じ、成功者を特別視しない。そのフラットさが読む人の背中を押す。

ただし、月300時間労働までを持ち帰る必要はない。一つだけ選ぶなら、まずは「忙しい」を今日封印してみることだろう。断る理由が一つ消えるだけで、開く扉は確かに増える。

人生はボウリングのように点を積み上げる競技ではなく、いつからでも何度でも新しいフレームを始められる——著者のこの比喩は、案外深いところに残る。


この記事をシェア:

次に読む一冊

同じテーマを、もう一段深く考えるための一冊です。

キャリア・働き方『世界一流エンジニアの思考法』牛尾剛さん|試行錯誤は、実は「悪」だった『世界一流エンジニアの思考法』(牛尾剛さん)の要約。プログラムが動かない。だから、あれこれ手を動かして試してみる。