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『驚くほどシンプルで一生使える投資の極意』加藤航介さん|あなたはもう「1億円の資産家」だ

投資・資産形成 ✍ 加藤航介さん
約9分で読めます

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『驚くほどシンプルで一生使える投資の極意』
目次

投資の本を開くと、たいてい最初に出てくるのは「複利の力」や「インデックスファンドの選び方」です。要するに、何をどう買えばお金が増えるか。商品とテクニックの話から入るのが王道です。

でも本書は違います。最初に向き合わせるのは、商品でもチャートでもなく、あなた自身でした。

著者の加藤航介さんは、外資系資産運用会社でグローバル資産形成研究所の所長を務めた人です。世界中の市場と投資家を見てきたプロが、新入社員にこっそり教える形でこう切り出します。投資とは、お金を増やすテクニックではない、と。

投資は、個人が成長したり、会社や社会全体が豊かになっていくための活動すべてなんだ。 ──加藤航介『驚くほどシンプルで一生使える投資の極意』

この一言が、本書のすべての出発点です。投資を「社会参加」として捉え直したとき、何を買うべきかは驚くほどシンプルに決まっていく。その筋道を、初心者の新入社員「姫野」と経験豊富なメンター「ケイ」の対話でほどいていくのが本書の構成です。

難解な数式や専門用語をほとんど使わず、比喩と対話だけで投資の本質まで運んでくれるので、預金しかしてこなかった人でも置いていかれません。投資の入門書というより、投資という行為のOS(基本ソフト)を入れ直す本だと考えると、その狙いがよく見えてきます。

図解

この本のいちばんの発明――「人的資産」から考える

多くの投資本は「いくら投資に回せるか」から始めます。本書はそこから始めません。まず計算させるのは、自分自身の価値です。著者はこれを「人的資産」と呼びます。

人的資産とは、これから稼ぐお金の総額を、いまの価値に換算したもの。預金残高がゼロに近い新入社員でも、健康で働く意思があるだけで、人はすでに数千万円から数億円規模の資産を抱えている。

本書はその金額をあえて「あなたはもう1億円の資産家だ」と言い切ります。給与明細の小ささに縮こまっていた読者を、いきなり資産家の側に引き上げてしまう。

この最初の揺さぶりが効きます。

なぜこの順番が効くのか。お金の不安の正体は、たいてい「自分には何もない」という欠乏感だからです。預金が少ないと、人は萎縮して投資から遠ざかるか、逆に一発逆転を狙って無理なリスクを取りに行く。

どちらも、足元にある最大の資産を見落としているから起きる。先に「あなたはもう1億円分の稼ぐ力を持っている」と認めてしまえば、500万円の余裕資金をどう動かすかという話は、巨大な資産のごく一部の配置換えにすぎなくなります。

心理的な力みが抜ける。これが本書のうまさです。

投資を「いくら入れるか」ではなく「自分という資産がどこに偏っているか」から始める。この順番の逆転こそ、本書最大の発明です。足元の自分から論を起こすので、続く議論がすべて一本の線でつながっていきます。後で出てくる「世界株式を買え」という結論も、ここを起点にすれば押しつけではなく必然として読める。

ただ、ここは留保も要ります。著者は生涯年収を電卓でざっくり出すことを勧めますが、転職も副業も当たり前で、AIが仕事の中身を塗り替えていく時代に、将来収入を正確に見積もるのは難しい。

会社が一生面倒を見てくれる前提も、もう揺らいでいます。だから人的資産は精密な数字としてではなく、あくまで「桁を掴むための目安」と割り切るのが、この道具との正しい付き合い方だと思います。

それでも、桁を掴むだけで景色が変わるのは確かです。

あなたは気づかないうちに、全財産を「日本」に賭けている

人的資産には性質があります。それが「どこに依存しているか」です。

日本で働き、日本の会社から日本円で給料をもらう人は、その巨大な人的資産がまるごと「日本」という一国に依存しています。日本経済が伸びれば給料も雇用も安定し、日本が沈めば真っ先に影響を受ける。

そこへ手元の預金まで円預金や日本株にしてしまうと、人生のポートフォリオは金融資産も人的資産も完全に日本一色になる。本人は「預金は安全」と思っているのに、実際には全財産を一国に賭けている。

著者はこの状態を「意図せぬ日本への超集中投資」と呼びます。預金は安全どころか、最大の集中投資になりうる――この逆説が、本書の肝です。

だから処方箋はシンプルです。人的資産が「日本・安定」に偏っているなら、金融資産のほうで「海外・成長」を補えばいい

たとえば日本の公務員のように人的資産が国内に固定されている人ほど、手元の余裕資金は日本以外、つまり世界株式に回すのがバランス的に正しい、というわけです。

逆に言えば、すでに海外で稼ぐ仕事をしている人や、外貨収入のある人なら、最適な配分は違ってくる。万人共通の正解があるのではなく、自分の人的資産の偏りを打ち消す方向に金融資産を置く。

これが本書の一貫した論理です。

具体的な手順もはっきりしています。人的資産と金融資産を一枚の地図に並べ、縦軸に「安定か成長か」、横軸に「国内か海外か」を取って、自分の資産が四象限のどこに偏っているかを書き出す。

多くの日本の会社員は、地図の左下――「国内・安定」の一角に固まっているはずです。この地図さえ描ければ、次に買うべき金融商品は、空いている象限を埋めるものとして論理的に決まります。

何を買うか迷う必要がなくなるのは、商品から考えず自分から考えたからこそ得られる果実です。

個人的にいちばん唸ったのは、「アメリカ人の投資の常識を、日本人がそのまま真似てはいけない」という指摘でした。アメリカ企業は世界中で稼いでいるので、アメリカ人は自国株を買うだけで実質的に世界へ分散投資できてしまう。

S&P500を買えば、それだけで世界中の市場から利益を吸い上げる多国籍企業の束を持つことになる。ところが同じ「自国株を買う」を日本人がやると、日本への過度な集中になる。

立っている場所が違えば、まったく同じ行動が真逆の意味を持つ。アメリカ発のセオリーや、海外のインフルエンサーが語る「自国株インデックスで十分」という言説を鵜呑みにしがちな身として、これは効きました。

前提条件ごと輸入してはいけない、という戒めです。

株を持つとは、社会の「見張り役」になること

本書には腑に落ちる比喩がいくつもあります。たとえば、国債と株の違いを著者は「お金を預ける相手の違い」だと言い切ります。国債は政治家や官僚がつくる豊かさに期待してお金を預ける行為、株は経営者の夢や手腕に期待して預ける行為。

商品スペックの違いではなく、誰の役割に賭けるか、ただそれだけの違いだと整理されると、難しく見えた金融商品が急に人間の顔を持って見えてきます。

さらに著者は、株を持つことを単なる値上がり待ちではなく「モニタリング」だと位置づけます。株主とは、経営者が権力を濫用せず、ちゃんと社会を豊かにしているかを見張る役であり、同時にその挑戦を応援する役でもある。

配当や値上がりは結果であって、本来の役割は「お金を投じて応援し、ちゃんとやっているか見張る」こと。投資を「応援」と「見張り」の両面で描くこの視点は、本書ならではの手触りです。

株主総会の議決権が、社会への参加権として腑に落ちるようになる。

その担い手であるファンドの善し悪しについても、著者は明快な基準を示します。長期で企業の成長を見る「ロングターム」、経済全体の予測からではなく一社一社の中身から選ぶ「ボトムアップ」、運用者自身の利益が投資家と同じ方向を向く「インセンティブ」。

この三つが揃っているかが目安だと。とくに三つ目は見落とされがちで、運用者が自分のお金も同じファンドに入れているか、報酬が短期成績で釣り上がる仕組みになっていないかは、投資家として確認する価値があります。

利益相反の有無を見るという、ふだん個人投資家が持ちにくい視点を与えてくれる。

ここでパッシブとアクティブの整理も入ります。指数に連動して低コストだが、機械的に指数を買うので社会を見張るモニタリング機能は弱いパッシブ。企業を厳選するので社会を良くする機能を持つが、玉石混交で当たり外れのあるアクティブ。

低コスト一辺倒で「パッシブこそ正義」とされがちな昨今、著者はこの二つを半々で持つことを勧めます。手軽さと、社会へ参加するという機能を、両取りする発想です。

ここは費用対効果を重視する立場からは議論の余地がありますが、投資を社会参加と捉える本書の哲学からは一貫した結論だと言えます。

チャートを見ないほうが、うまくいく

そして本書がもっとも強く言うのが「チャートを見るな」。日々の株価のギザギザは企業の本来の価値とほとんど関係がなく、政治家の発言や短期トレーダーの売買で動いているだけだ、と。

だから投資方針の確認は年に一度でいい。それ以上の頻度で見ても、得られるのは余計な不安と、売買したくなる衝動だけです。

これを読んで、私は証券アプリの開きすぎを反省しました。下がったと言っては落ち込み、上がったと言っては浮かれる時間は、ほぼ全部ムダだったわけです。

しかもそのたびに「いま売ろうか」「もっと買い増そうか」と心が揺れ、長期保有という最初の方針が崩れていく。チャートを見る行為そのものが、淡々と続けるべき投資の最大の敵になっている。

だから著者は、見直しを物理的に年1回へ減らせと説きます。情報を遮断することが、ここでは規律になる。

ついでに著者は「ハイリスク・ハイリターン」という言葉も壊します。リスクを取らねばリターンは得られない、というのは短期ギャンブルの世界の話。実体を伴う長期投資では、価格のブレを大きくしたからといって利回りが上がるわけではない、と言い切ります。

リターンの源泉は値動きの荒さではなく、企業が生み出す価値そのものだからです。無理にレバレッジをかけたり、値動きの激しい銘柄に賭けたりしても、期待利回りが比例して上がるわけではない。

この一点を腹落ちさせるだけで、過剰なリスクテイクから自由になれます。

ギャンブルとの違いと、本書の限界

では投資とギャンブルは何が違うのか。著者の定義は、ぞくっとするほど明快でした。ギャンブルは誰かの損失を勝者が奪うゼロサムで、全体の富は増えていない。投資は、世の中が成長して新しく生まれた豊かさの一部を、利回りとして分けてもらうプラスサムだ、と。

この違いを、著者は一つのサイクルで説明します。投資にお金が流れる。すると企業が事業を広げ、社会が成長する。豊かさが増える。その増えた豊かさの一部が、利回りとして投資家に還ってくる。

この長期の好循環こそが投資の正体で、短期トレードで誰かを出し抜こうとするのは、この循環から外れたただのギャンブルだ、と本書は線を引きます。ここまで読むと、冒頭の「投資は社会参加だ」という言葉が一気に腑に落ちる。

社会を豊かにする企業に、お金を投じ、応援し、見張る。その結果として増えた豊かさを分けてもらう。それが本書の言う「本当の投資」です。

正直に限界も書いておきます。本書は哲学(OS)を授ける本なので、証券会社の具体的な選び方や個別銘柄の分析、税制の細かな最適化といった戦術的なHow-toは多くありません。

そこを求める人には物足りないでしょう。また「世界株式を半分、アクティブを半分」といった配分も、あくまで思想に基づく目安で、コストを最重視する人には過剰に映るかもしれません。

それでも、土台の考え方を持たずに手法だけ集めても続きません。相場が荒れた瞬間に手放してしまうのは、たいてい「なぜ持っているか」を言葉にできていないからです。

まず本書でOSを入れる価値は、十分に大きいと思います。

明日から何を変えるか

読み終えて、すぐ動けることが三つあります。一つ目は、電卓で自分の人的資産を出すこと。予想年収に働く年数をかけるだけでいい。その桁の大きさと、それが「日本・安定」に偏っている事実を、まず直視します。

二つ目は、その偏りを打ち消すために、世界株式の投資信託を1本、つみたてNISAや確定拠出年金の枠で積立設定すること。三つ目は、証券アプリの価格通知を切り、見直しを年1回と決めること。

チャートを見る習慣を、仕組みで断つわけです。

本書を閉じたあと、投資という言葉の手触りが変わっていました。お金を増やすゲームではなく、社会という船に一緒に乗る行為。自分の人的資産がどこに偏っているかを知り、金融資産でそのバランスを整える。

やることは、驚くほどシンプルでした。チャートを閉じて、自分という資産から考え直す。新入社員に向けて書かれていますが、投資の目的を見失った経験者にこそ効くはずです。

この定義を一つ持っているだけで、相場が荒れた日も、たぶんあなたはブレなくなります。


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