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『担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座』伊藤大輔|計画は積み上げず、ゴールから逆算する

リーダーシップ・組織 ✍ 伊藤大輔
約7分で読めます

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目次

「来月から、例の件、担当よろしく」。そう言われて、何から手をつければいいのか分からず固まった経験は、多くの人にあるはずだ。

伊藤大輔『担当になったら知っておきたい「プロジェクトマネジメント」実践講座』は、まず「プロジェクト」という言葉の範囲を思いきり広げてみせる。

大規模なシステム開発だけがプロジェクトなのではない。就職活動も、引越しも、旅行も、結婚式も、「一度きりの活動」はすべてプロジェクトだ、と。つまり私たちはとっくに何度もプロジェクトをこなしている。

ただ、その進め方に再現可能な「型」があると知らなかっただけなのだ、というわけである。

本書はその型を、国際規格ISO21500に沿って最低限に絞って解説する。著者はこれまで2,000名以上のプロジェクトマネジャーを育ててきた人物で、抽象論よりも「担当になった人が明日から使える手順」に寄せているのが持ち味だ。以下、編集部が読みどころだと感じた骨格を追っていく。

プロジェクトとは「不確実な未来をやりくりする」こと

本書の定義はそっけないほどシンプルだ。プロジェクトマネジメントとは、不確実性がある中で、目標達成の成功率を高めるために「やりくり」すること。

ここで著者があえて「管理」と言わず「やりくり」と呼ぶのがミソだと思う。目標は常に未来にあり、そこには必ず不確実性がつきまとう。決めた通りに進む保証など最初からないのだから、必要なのは計画を守り抜く根性ではなく、ズレを前提にその場で調整し続ける柔軟さだ、という立て付けである。

その「やりくり」を、本書は「目標設定」「計画」「実行・修正」の3プロセスに分ける。この3つが全体の背骨になる。姿勢の面で繰り返されるのが、狩人と農夫の対比だ。

毎年同じ作物を安定して育てる農夫が定常業務の担当者だとすれば、まだ見ぬ獲物を独自の手で仕留めるのがプロジェクトマネジャー。「制約があるからできない」ではなく「制約の中でどうやったら達成できるか」にこだわる思考こそがプロジェクトを前に進める。

この姿勢の違いから、本書はかなり刺激的な指摘をする。定常業務で優秀だったラインマネージャを、そのままプロジェクトの責任者に据えると失敗しやすい、というのだ。

毎日同じ作業を安定的に回す仕事と、一度も経験のない目標に挑む仕事とでは、必要な手法が根本から異なる。慣れたやり方に自信がある人ほど、それを丸ごと持ち込んでつまずく。

もう一つ意外なのは、マネジャー自身に専門知識は必須ではないという主張だ。成果物を作る技術は専門家に任せればいい。マネジャーに要るのは、専門家を巻き込んで意見を引き出すファシリテーションの力であり、土台になるのは「知識・技術」「経験」、そして人がついてきたくなる「人間性」の3つだとされる。

ここは能力の高さより人望を上位に置く配分で、実務家らしいバランス感覚だと感じた。

目的と目標を混ぜず、ゴールから逆算する

計画がぶれる原因の多くは、目的と目標の混同にある。本書はここを丁寧に切り分ける。目的は「なぜやるのか」という実現したい状態、目標は「何を達成するか」を数値や成果物で目に見える形にした目印だ。

有名なドラッカーの「3人の石工」で言えば、同じ石を積む作業でも「教会を建てている」と答える職人こそ、目的を理解して責任感を持って動く。目的が曖昧なら「なぜ?」を繰り返して掘る。

たとえば「週2回ジムに行く」に「なぜ?」を重ねると「将来もやりたいことを楽しむため」という本当の目的に届き、ここまで下りておくと途中で辛くなっても折れにくい、という話だ。

そのうえで本書が最も強く押すのが逆算思考である。多くの人は「今の予算や状況」から出発して計画を積み上げる。これを制約思考と呼び、「お金がないからできない」で止まって成果が小さくまとまる。

対して、まず「達成すべき未来の状態」を先に置き、そこから現在へと逆算する。成果物は今この瞬間には存在しないのだから、未来から現在を見る視点が要る、という理屈だ。

計画は現在から積み上げるものではなく、ゴールから現在へ引き戻すものだ、という発想の転換が本書の中心にある。

この逆算に説得力を足すのが、電池の「並列つなぎ」のたとえだ。「AができたらB、BができたらC」と直列に組むと、Bで想定外のトラブルが起きた瞬間に全体が止まる。

だが「ゴールにはA・B・Cが必要」と並列で捉えておけば、Bが難しくなっても同じ価値を持つ別の手Eを代わりに投入できる。ここから、止まらずに軌道修正する「修正力」が生まれる。

ゴールさえ動かさなければ道は複数ある、という構えは、計画好きが陥りがちな手段への固執をほどいてくれる比喩だと思う。

計画を「公式化」し、触れる形まで分解する

思いつきで走り出すと、途中で「そんな話は聞いていない」ともめる。それを防ぐのがプロジェクト憲章だ。これはプロジェクトを組織の正式な活動として承認する宣言書で、担当者に与える権限(ヒト・モノ・カネ・情報・時間の5分野)、ビジネスニーズ、目標を明記し、決裁者や主要な関係者と合意・署名したうえで始める。

効用は権限の裏づけだけではない。目標を詳細にイメージして書き出す作業そのものが、その後の計画の精度を上げる。頭の中の絵が大雑把なままだと計画も大雑把になり、「同じ絵を描いて」と頼んだのに全員違う絵になる、という事態を招くからだ。

関係者の整理も欠かせない。本書が実務的なのは、ステークホルダー登録簿を公開エリアと非公開エリアに分ける点だ。名前や役職、公式な関心事は公開してよい。

だが影響度や賛否、対応戦略といったデリケートな情報は、マネジャーだけが見られる形で厳重に扱う。しかも分析はひとりでやらず、直接関わらない信頼できる第三者と一緒に見ると見落としが減る、と添える。

賛否まで見える化しておくという発想は、正論だけでは動かない現場の生々しさを踏まえていて頼もしい。

そして計画の核が、目標を作業へ細かく分解するWBS(作業分解構成図)だ。分解のコツは、成果物を「Tangible=目に見えて触れられる形」にすること。

「営業活動をする」のままでは進捗を聞いても「いい感じです」という感覚しか返ってこない。「営業先リスト」「契約書」という有形のアウトプットに落とし、各要素に番号を振れば、「30203の申込は50%です」と進捗を数字で語れるようになる。

感覚報告を数値報告に変える、という一点に絞っても本書を読む価値はある。

お盆の上のボールと、リスクの二面性

計画中に常に意識するのが、スコープ(やる範囲)・時間・資源・コストという4つの経営資源のバランスだ。著者はこれを「お盆の上のボール」にたとえる。

四隅を持って運ぶお盆にボールを乗せた状態で、実行中に「この作業も追加して」とスコープの角を上げれば、他の角も同時に調整しないとお盆は傾き、ボールは落ちる。

だからスコープ記述書には「やること」だけでなく「やらないこと」も明記する。境界を曖昧にすると作業が際限なく膨らむからだ。

スケジュールでは、所要期間が最も長い経路であるクリティカルパスが生命線になる。ここが1日遅れれば全体が遅れる。面白いのがバッファ(余裕)の扱いだ。

各作業に個別に余裕を持たせると、人は余裕があると使い切ってしまう「学生症候群」や、与えられた時間をすべて使うまで仕事が膨らむ「パーキンソンの法則」に流され、かえって危ない。

対策は、個別のバッファを削って合算し、プロジェクトの最後にまとめて置くこと。途中で無駄に引き延ばされず、いざというときの備えも確保できる、という理屈だ。

人間の弱さを織り込んで設計を変える点に、この本の実務性がよく出ている。

リスクの定義も刷新される。リスクとはトラブルや事故のことではなく「不確実性」そのもの。悪い方へぶれる「脅威」だけでなく、良い方へぶれる「好機」も含む。

だから対応も両側に用意する。脅威には回避・軽減・転嫁・受容の4つ、好機には活用・強化・共有の3つ。想定より良い結果が見えたらそれを取りに行くのもリスク管理だ、という視点は新鮮だ。

加えて、対策を打つと生まれる「二次リスク」まで見ておくこと、気づいていない「未知のリスク」に備えて余裕を残すことも忘れない。リスク=悪という思い込みを外すだけで、視野がひとまわり広がる。

進捗は「未来」を聞き、計画は「差を測る」ためにある

実行フェーズで一番変わるのが進捗確認だ。多くの人は「どこまで終わったか」という過去の実績だけを報告し合う。本書はそこに「So What?(で、どうなるのか?)」を足せと言う。

「進捗50%で2日遅れ」で止めず、「このままなら完了は4日遅れる」と未来を予測する。予測が立てば、手遅れになる前に人や時間を動かせる。実績測定は、未来予測を出すための手段にすぎないというわけだ。

節目にはマイルストーンを置き、そこで「承認(GO)」「やり直し(REPEAT)」「中止(STOP)」を事前に決めた基準で判断する。「順調です」という感覚ではなく定量情報で語るのが原則になる。

チーム運営でも一つ視点をもらえる。心理学者タックマンのモデルでは、チームは成立期・動乱期・安定期・遂行期を経て成熟する。仕事のやり方や価値観がぶつかる「動乱期」で多くのマネジャーは心を痛めるが、本書はこれを成長の証拠と捉え直す。

動乱期を通らなければ成果を出す遂行期にも進めない、と。対処として、メンバー自身が「課題は発生した時点で全員に共有する」といった行動ルールを話し合って決める「ワーキングアグリーメント」を勧める。

ルールを与えられるのではなく自分たちで決める、という順番が一体感を生むのだろう。

最後に本書は、計画そのものの意味を問い直す。「どうせ計画通りには進まないのだから、細かく計画しても無駄」という声に、こう返す。計画があるからこそ実際との「差(ギャップ)」が見え、「なぜズレたのか」を分析できる。

計画は未来のシミュレーションであると同時に、差を測るための基準線なのだ、と。だから終わりには成功でも失敗でも事実と原因を「教訓」として残し、組織の知的財産にする。

そして見落とされがちなのが心の健康だ。マニュアルのない挑戦を続ける以上、稼働時間だけでなくメンバーの心の健康も組織を支える資本として扱う——多くのPM本が触れないこの一節に、2,000名を見てきた著者の眼差しがにじむ。

まずは今週片付けたい用事をひとつ選び、手帳に小さな計画を書くところから始めればいい。


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