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『いつも信頼される人がやっている「たったひと言」の質問力』坂本聰さん|「わかったつもり」が信頼を奪っていた

コミュニケーション・文章術
約4分で読めます

上司から仕事を頼まれて、「わかりました」と返事をした。なのに提出したら、何度もやり直しになった。

そんな経験があるなら、原因はあなたの能力ではないかもしれません。「わかったつもり」のまま動いてしまった、それだけのことです。

著者の坂本聰さんは、有限会社考学舎の代表として、20年以上・1万人を超える人に「絵訳(えやく)」というメソッドを教えてきました。本書が言うのは、信頼されるのは知識や話術がある人ではなく、自分の「わからない」を見つけて素直に聞ける人だということ。その「わからない」を見つける道具が、絵訳です。

「わかった」という言葉を疑うところから

この本の出発点が面白いのは、まず「わかった」という返事そのものを疑ってかかる点です。

私たちが「わかった」と言うとき、実は「理解した」とは限りません。「説明はとりあえず聞いた」「怒っている相手をなだめて受け止めた」という意味で、つい口にしてしまう。著者はこのズレを丁寧に解体していきます。

そして問題は、その中途半端な理解のまま行動してしまうこと。相手の言葉の一部、キーワードだけを拾って、残りを自分の経験則で勝手に補ってしまう。最初は小さなズレでも、後から発覚すると修正は効かず、時間も信用も一緒に失われる。著者自身がサラリーマン時代に、上司の指示を自分の想像で資料にして大きく外した経験を率直に書いていて、ここが妙にリアルでした。

だから著者は、中途半端なイメージのまま「わかった」と答えるのをやめよう、と繰り返します。堂々と「わからない」と言っていい。それが結果的に、お互いの損失を防ぐ。耳の痛い話ですが、納得感がありました。

言葉を「絵」にする──絵訳という発想

ではどうやって、自分の「わからない」に気づくのか。ここで登場するのが本書の核、「絵訳」です。

絵訳とは、見聞きした言葉を頭の中で具体的な絵やイメージに変換する技術。ひと言でいえば「聞いている内容を、頭の中で映像にしてみる」ことです。著者はこう言い切ります。

絵としてイメージできる=理解できている 絵として想像できない=理解できていない

ここに、私はうなりました。「わかる/わからない」というのは普段とても主観的で、人によって基準がバラバラです。それを「頭の中で映像になるかどうか」という、誰でも自分で判定できるルールに置き換えてしまった。これが絵訳の発明だと思います。

たとえば「犬のような4本足の動物」と言われて、それを映像にしようとすると、人によって思い浮かべる犬がまるで違うことに気づく。言葉のままなら素通りしていた曖昧さが、絵にした瞬間にくっきり浮かび上がる。映像化できない部分は頭の中で「黒塗り」になり、その黒塗りこそが、質問すべき場所になる。聞く前から「何を聞けばいいかわからない」という、あの一番つらい状態への、具体的な処方箋になっているわけです。

なお本書には、理解度を段階で測るチェック指標や、絵訳を「理解→言語化」の2フェーズで回す手順も用意されています。指示を受けたら自分の言葉で完了イメージを返してすり合わせる、という再言語化のくだりは実務にすぐ効きます。ただ、各段階の中身や具体的なステップ数まで紹介してしまうと種明かしになるので、ここは本書で確かめてほしいところです。

「借り物の言葉」を放置しない

個人的に一番刺さったのは、抽象的な言葉への態度でした。

「売上アップ」「会社のビジョン」「平和」。こういう言葉は、放っておくと誰も具体的にイメージできないまま、会話だけが先に進んでいきます。著者はこれを「借り物の言葉」と呼び、そのままでは使いものにならないと言う。たとえば「幸せな学び」なら、「生徒が前を向き、期待を持って学んでいる姿」というところまで絵にして初めて機能する。

会議でそれらしい言葉が飛び交って、全員うなずいているのに後から食い違う。あの既視感の正体を言い当てられた気がしました。話し手も聞き手も、双方が同じ映像を持てているか。そこを確かめる習慣は、職場でも家庭でもそのまま効くはずです。

どんな人に効くか

本書が向いているのは、指示の受け違いや手戻りが多くて、自分の理解力に薄く不安を抱えている人です。あるいは、質問しなきゃと思いつつ何を聞けばいいか自分でもわからず、結局黙ってしまうタイプ。絵訳は「黒塗りを探す」という一点に質問の照準を絞ってくれるので、こういう人ほど効きます。

子育てや自己理解に応用する話、新聞記事を素材に「大人の絵日記」で鍛えるトレーニングなど、後半は適用範囲がぐっと広がっていきます。映像や図解がある素材より、文字だけの記事のほうが頭を使う、という指摘などは、わかった気にさせてくれるコンテンツが溢れる今こそ刺さる視点でした。この続きは、ぜひ本書で。

逆に、相手の本音を引き出す巧みな話術や、交渉のフレーズ集がほしい人には向きません。本書は最初から、テクニックを否定する立場で書かれています。求めているものが真逆になるので注意してください。

おわりに

読み終えて残るのは、質問のテクニックではありませんでした。

「自分は、相手のことをわかっていない」という前提に立つ姿勢。聞いた言葉を絵にして、わからない部分から目を逸らさない態度。そして、堂々と「わからない」と言える勇気です。

明日、誰かの話を聞くとき。「わかりました」と言いそうになったら、一度その内容を頭の中で絵にしてみてほしい。黒塗りが見つかったら、それがあなたを信頼される人に変える、たったひと言の入り口かもしれません。

合わせて読みたい

『「いい質問」が人を動かす』谷原誠 本書が「わからないを埋める質問」を信頼の起点に置くのに対し、こちらは質問が相手の思考や行動をどう動かすかを扱います。「なぜできないの」が部下を壊すという指摘は、本書の「尋問になってはいけない」という姿勢と重なります。

『LISTEN』ケイト・マーフィ 本書の「聞いているつもり=わかったつもり」を、傾聴の科学から掘り下げた一冊です。私たちがいかに人の話を聞けていないかを知ると、絵訳で「わからない」に引っかかることの価値がより腹落ちします。

『具体と抽象』細谷功 本書が理解の最終段階に置く「抽象的な内容をイメージ化し言語化する(レベル7)」を、思考法として体系化した本です。著者自身が次に読む一冊として薦めており、絵訳で掴んだ感覚を一段高い解像度に引き上げてくれます。


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