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『やり抜く人の9つの習慣』ハイディ・グラント・ハルバーソン|「願えば叶う」は失敗の鉄則だった

生産性・時間術・習慣 ✍ ハイディ・グラント・ハルバーソン
約7分で読めます

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『やり抜く人の9つの習慣』
目次

年が明けるたびに目標を立てる。今年こそ痩せる、今年こそ英語を、今年こそ毎朝走る。本気で誓ったはずなのに、気づけば三日で元の生活に戻っている。

そして私たちは決まって同じ結論にたどり着きます。「結局、自分は意志が弱いのだ」と。

『やり抜く人の9つの習慣 コロンビア大学の成功の科学』は、その自己嫌悪に正面から異を唱える本です。著者のハイディ・グラント・ハルバーソンは社会心理学者で、本書の主張はすべて、数千にのぼる心理学の実験データに支えられています。

彼女が突きつけるのは、成功する人は特別な才能を持っているのではなく、特定の思考と行動のパターンによって自分を成功へと導いている、というものです。つまりやり抜く力は性格ではなく、後から習得できる技術である。本書はその技術を9つの習慣として整理しています。

図解

「才能の差」という言い訳をまず壊す

本書の出発点は、ひとつの根深い思い込みを崩すことにあります。目標を達成できる人は、生まれつき意志が強く、能力に恵まれている。多くの人がそう信じ、達成できない自分との差を「才能の有無」で説明してしまいます。

著者の見立ては逆です。成功者を観察し続けてきた心理学者として、彼らを分けているのは能力ではなくやり方だと断言します。正しい目標設定、正しい戦略、正しい行動。差はそこにあるのだと。

この前提が効いてくるのは、それが言い訳の余地を奪うからです。才能の問題なら諦めもつきますが、やり方の問題なら学んで変えるしかない。本書が根性論を一切語らず、すべてを再現可能なルールに落とし込んでいるのは、この立場の必然です。

世にあふれる自己啓発書と決定的に違うのは、ここだと感じました。

9つの習慣は大きく3段階に並びます。まず目標を正しく立てる。次に向かう途中の心の構えを整える。最後に、行動を支える「意志力」という資源をどう扱うかを管理する。順に見ていきます。

目標は「数字」と「障害」で固める

最初の習慣は、目標を具体的にすることです。

「痩せたい」ではなく「5キロ痩せる」。「母との関係を良くしたい」ではなく「母と週に2回はゆっくり話す」。この差が結果を分けると本書は言います。曖昧な目標は、どこまでやれば達成かが決まっていないぶん、いくらでも妥協を許してしまうからです。

ここで紹介されるのがメンタル・コントラストという手法です。やり方は二段階。まず目標を達成した喜びや理想の状況を鮮明に思い描く。次に、そこに至るまでに立ちはだかる現実的な障害を思い描く。この明暗を頭の中で対比させます。

成功の絵だけを描くと、ただの空想で終わって行動につながらない。逆に障害ばかり見れば気が滅入って動けない。両方を並べて初めて、今の自分に何が足りず、何をすべきかが具体的に浮かび上がる。これがこの手法の狙いです。

受験生から管理職、婚活中の男女、看護師まで、さまざまな立場の人で効果が確認されているのも納得がいきます。理想と現実のギャップを直視させる、いわば「やる気の点火装置」だからです。

実行率を2〜3倍にする「もしXなら、Yをする」

2つ目の習慣が、本書で最も実用的な道具です。if-thenプランニングと呼ばれます。

形は驚くほど単純で、「もし(if)Xだったら、(then)Yをする」と前もって決めておくだけ。たとえば「月・水・金の朝8時になったら、ジムへ行く」。何を、いつ、どこでやるかを事前に脳に登録しておく方法です。

なぜ効くのか。何をすべきかが具体的な合図と結びついていると、脳はその合図を見逃さず、ほとんど自動的に行動に移せるからです。そのつど「やるぞ」と意志を奮い立たせる必要がなくなる。意志力という消耗品を温存できるわけです。

効果はデータがはっきり示しています。運動の習慣化を狙った実験では、if-thenを使ったグループの成功率が91%に達したのに対し、ただ目標を立てただけのグループは31%でした。

医療現場でも同様で、がん検診の受診率が、if-thenの活用によって5割台から9割台、ものによっては100%まで跳ね上がっています。

「いつかやる」を「この合図が来たらやる」に変えるだけで、実行率が2倍から3倍になる。これは試さない手はない、と読んでいて素直に思いました。

進捗は「残り」を見よ、楽観は「困難込み」で持て

3つ目は、目標までの距離をどう意識するかです。

ここが面白い。進捗を確認する際、私たちはつい「これまでどれだけ進んだか」を見て自分を励まそうとします。ところが本書は、それが逆効果になりうると指摘します。

シカゴ大学の研究で、試験を控えた学生を二分し、一方には「あと52%残っている」、もう一方には「すでに48%覚えた」と伝えました。やる気が高まったのは「あと52%」と告げられた側でした。

「これまで思考」は早すぎる達成感を生み、少し進んだだけで気を緩ませる。だから本書は、残りに目を向ける「これから思考」を勧めます。ゴールまでの距離が見えているほうが、最後まで推進力が落ちないのです。

4つ目の習慣は、本書最大の逆説とつながります。現実的楽観主義者になれ、というものです。

成功を信じることは大切。しかし「成功は簡単に手に入る」と思い込むのは危険だと本書は線を引きます。引き寄せの法則のような「望めば叶う」という発想について、著者の言葉は痛烈です。

「『引き寄せの法則』は『失敗の鉄則』と断言してもいいくらいです」

理由は明快で、簡単だと思った瞬間、人は必要な準備を怠るからです。肥満治療の実験では、「誘惑に簡単に勝てる」と答えた人のほうが、「そう簡単にはいかない」と答えた人より結果が悪く、その差は体重で13キロにも及びました。

成功を信じつつ、そこに至る困難から目をそらさない。それが現実的楽観主義です。困難を見込む人ほど準備を尽くし、結果的に大きな成果をつかむ。願望と覚悟をセットで持て、という戒めだと受け取りました。

「証明」ではなく「成長」を、能力は「伸びる」と信じる

5つ目と6つ目の習慣は密接につながっているので一緒に見ます。目標の持ち方と、能力への信念の話です。

目標には、自分の有能さを周囲に示したい「証明ゴール」と、能力を伸ばし学ぶことを目指す「成長ゴール」があります。リーハイ大学での実験では、わざと解けない問題や妨害を仕込んだテストを受けさせると、証明ゴールの学生は一様に成績を落とし、成長ゴールの学生は動じずに力を発揮しました。

証明ゴールは失敗を恐れさせ、不安がパフォーマンスを削る。成長ゴールは失敗を「また一つ学んだ」と受け止めるから粘れる。困難な場面でこの差は決定的です。

その土台にあるのが能力観です。能力は生まれつき決まっているとする「固定的知能観」と、努力で伸ばせるとする「拡張的知能観」。後者を持つ人ほど、長期目標に粘り強く取り組むグリットを発揮します。失敗の原因を「努力や戦略の不足」に求めるので、改善の余地が常に残るからです。

加えて印象的な補足があります。活力を生むのは「機嫌の良さ」より「興味の有無」だという研究です。難しくても興味のある課題に取り組んだ人のほうが、努力量も成績も上がった。楽しさや好奇心は、疲労感を上回る燃料になるということでしょう。

意志力は「鍛える」が「頼らない」もの

最後の3つ、7〜9番目の習慣は、意志力という資源の扱い方です。

本書は意志力を筋肉にたとえます。使わなければ衰え、鍛えれば強くなる。食後のデザートを我慢する、猫背に気づいたら背筋を伸ばす。そんな地味な自制の積み重ねが意志力を育てると言います。

ジムに通い続けた人が、運動以外に喫煙や飲酒、ファストフードまで減らしていったという報告は、一つの自制が生活全体に波及することを示しています。

ところが筋肉である以上、使えば消耗する。だから本書はここで思いがけない方向へ舵を切ります。成功する人は意志力が人並み外れて強いのではない、という指摘です。

「意志力で誘惑に打ち勝とうとはしない」

彼らは意志力に限界があると知っているからこそ、そもそも誘惑に近づかない工夫をしている。スマホを我慢するのではなく別室に置く。お菓子を我慢するのではなく家に買わない。

我慢する場面を最初から作らないのです。禁煙の研究でも、自信があって誘惑に立ち向かった人より、自信がなく誘惑を避けた人のほうが続けられました。

過信は足をすくわれる。

そして9つ目。「やめること」ではなく「やること」に集中せよ、という習慣です。「シロクマを考えるな」と言われるほど考えてしまうのと同じで、「○○しない」という否定の目標は、その行動への衝動をかえって強めます。

だからif-thenも否定形では作らない。「間食しない」ではなく「甘いものが欲しくなったら、ドライフルーツを3つまで食べる」。「怒らない」ではなく「イラッとしたら3回深呼吸する」。やめる代わりの行動を決める。これが効きます。

今日からの一歩と、読み終えての感想

本書のアクションは、今日始められる形にするとこう整理できます。まず目標を数字にし、邪魔する障害を2つ紙に書く(メンタル・コントラスト)。次にif-thenを1つ作り、必ず起きる合図と結びつけて目立つ場所に貼る。

やめたい習慣は「代わりに○○する」と書き換える。そして複数の難目標を同時に追わず1つに絞り、誘惑は物理的に遠ざける。

読み終えて一番効いたのは、やはり「意志力で誘惑に打ち勝とうとはしない」という一文でした。続かないのは自分が弱いからだと、ずっと逆向きに考えていたからです。本書が見せてくれたのは、頑張りの量ではなく仕組みの差でした。

短く実用的な技術書なので、壮大な人生哲学を期待すると物足りないかもしれません。けれど「続かない自分」を仕組みで変えたい人には、これ以上ない手引きです。

今日できるのはたった1つ。続けたい何かについて、「もし○なら○をする」を紙に1行書く。意志に頼らず動き出す、最初の合図になります。


合わせて読みたい

『やらなきゃ確率ゼロ%』大野晃 本書の「意志力で誘惑に勝とうとしない」という核心と完全に響き合う一冊。意志力を手放して仕組みで動くという発想を、別の角度から確かめられます。

『スタンフォードの心理学講義』ケリー・マクゴニガル 本書が「意志力は筋肉のように鍛え消耗する」と説くその意志力を、脳科学の側から深掘りした本。誘惑との付き合い方をもう一段くわしく知りたい人に。

『継続する技術』戸田大介 if-thenや環境設計で「続く仕組み」を作るという本書の実践編。200万人のデータから三日坊主の治し方を具体化していて、9つの習慣の次に読むのに向いています。


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