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ブクドリ | BOOK DRIP

うちの部署は頑張っている。会社は沈んでいる。

約4分で読めます 戦略・経営・事業
目次

営業は「開発が遅い」と言う。 開発は「営業が無茶を言う」と言う。

どっちも、間違っていない。


これ、うちの会社の話だ、と思った人は多いだろう。

部署ごとの目標は達成している。社員は真面目に働いている。なのに、会社全体の業績は下がり続けている。

「うちの部署は頑張っている。でも、会社は沈んでいる」

この現象、実は80年前に研究され尽くしている。

日本軍が負けた「本当の理由」

『失敗の本質』という名著がある。

第二次世界大戦で日本軍がなぜ負けたのか、組織論の観点から分析した本だ。

物量の差?精神主義?それだけじゃない。

陸軍と海軍が、バラバラに戦っていた。

これが、負けた最大の理由の一つだ。


陸軍はソ連を仮想敵国とし、満州での地上戦に備えていた。

海軍はアメリカを仮想敵国とし、太平洋での艦隊決戦に備えていた。

両者は独立した統帥機関を持ち、それぞれの戦略で動いていた。

問題は、これを「統合」する仕組みがほとんどなかったこと。

大本営という組織はあった。でも、実態は陸海軍の利益調整の場でしかなかった。全体を見て判断を下す、統合参謀本部のような機能がなかった。

結果、どうなったか。

ガダルカナル島で、陸軍と海軍は「バラバラの状態で戦った」。情報は共有されず、補給は分断され、作戦は連携しなかった。

各部隊は自分たちの任務を全力でこなしていた。でも、全体として見ると、負けていた。


「部門最適」と「全体最適」

これ、現代の企業でも同じことが起きている。

営業部門は売上を追う。開発部門は納期を守る。管理部門はコストを削る。

それぞれが、自分のKPIを達成しようと必死だ。

問題は、「自分たちの目標達成」と「会社全体の成功」がズレていること。

営業が無理な納期で受注する。開発が品質を落として間に合わせる。管理がコストを削りすぎてサポートが崩壊する。

どの部門も「自分の仕事はちゃんとやった」と言える。でも、会社は顧客を失っている。

これを「部門最適」と「全体最適」の乖離と呼ぶ。


なぜ「統合」は難しいのか

『失敗の本質』の著者たちは、日本軍の問題を「分化」と「統合」で説明している。

組織が大きくなると、部門ごとに専門性が生まれる。これが「分化」。

分化自体は悪いことじゃない。専門性があるから、複雑な課題に対応できる。

問題は、分化した部門を「統合」する仕組みが弱いこと。

米軍には統合参謀本部があった。大統領という最終決定者がいた。陸海空の垣根を超えて、全体として動ける仕組みがあった。

日本軍にはそれがなかった。


現代の企業でも同じだ。

部署間の壁を超えて判断できるリーダーがいるか。全体を見て優先順位をつける仕組みがあるか。

多くの会社で、答えはNoだ。

部長会議は各部署の報告の場になっている。「うちの部署は頑張っています」を発表し合う場。全体として何を優先すべきかを議論する場じゃない。

経営陣は各部門のKPIを見ている。でも、部門間の連携がどうなっているかは見えない。数字には現れないから。


「評価」がサイロを生む

もう一つ、厄介な問題がある。

部門ごとに評価される限り、部門最適に走るのは当然だ。

営業部長は、営業成績で評価される。開発部長は、開発スピードで評価される。

「会社全体のことを考えろ」と言われても、自分の評価に直結しないことに力を割ける人は少ない。

『失敗の本質』では、日本軍の評価システムについても分析している。

動機やプロセスが重視され、結果が軽視される傾向があった。「頑張った」「努力した」が評価され、「全体として勝ったか」は二の次だった。

これでは、部門の壁は崩れない。


では、どうすればいいか

答えは一つじゃない。でも、ヒントはある。

1. 「誰かの部署」に属さない課題を可視化する

顧客からのクレームは、営業の問題か?開発の問題か?サポートの問題か?

たいてい、全部だ。でも、誰の責任でもないから、放置される。

こういう「部門横断的な課題」を明確にし、専任で対応する人やチームを作る。これだけで、だいぶ変わる。

2. 部門間の会議を「報告の場」から「議論の場」に変える

各部署が「うちは頑張っています」を報告する場ではなく、「全体として何を優先すべきか」を議論する場に変える。

そのためには、経営陣が「部門の成果」だけでなく「部門間の連携」を見る必要がある。

3. 評価に「全体貢献」の視点を入れる

難しいが、効果は大きい。

「他部門を助けた」「全体の課題を解決した」ことを評価に入れる。部門最適に走るインセンティブを、少しでも薄める。


「うちの部署」から「うちの会社」へ

80年前、日本軍は「分化」したまま「統合」できずに負けた。

現代の企業も、同じ罠にはまっている。

各部署が頑張れば頑張るほど、壁は高くなる。自分のKPIを守ろうとするほど、全体が見えなくなる。

必要なのは、「うちの部署」ではなく「うちの会社」で考えること。

言うのは簡単だ。でも、仕組みがなければ、誰もやらない。


明日、部長会議があるなら、一つだけ聞いてみてほしい。

「この1ヶ月で、部門間の連携がうまくいかなかったことは何ですか?」

たぶん、沈黙が返ってくる。

その沈黙こそが、会社が沈んでいく理由だ。


この記事で参考にした本

『失敗の本質』戸部良一ほか → 日本軍の組織的な失敗要因を分析。「分化」と「統合」、シングルループ学習の限界

『戦略の要諦』リチャード・P・ルメルト → 戦略は「困難な課題への具体的な解決策」であるという視点


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