うちの部署は頑張っている。会社は沈んでいる。
目次
営業は「開発が遅い」と言う。 開発は「営業が無茶を言う」と言う。
どっちも、間違っていない。
これ、うちの会社の話だ、と思った人は多いだろう。
部署ごとの目標は達成している。社員は真面目に働いている。なのに、会社全体の業績は下がり続けている。
「うちの部署は頑張っている。でも、会社は沈んでいる」
この現象、実は80年前に研究され尽くしている。
日本軍が負けた「本当の理由」
『失敗の本質』という名著がある。
第二次世界大戦で日本軍がなぜ負けたのか、組織論の観点から分析した本だ。
物量の差?精神主義?それだけじゃない。
陸軍と海軍が、バラバラに戦っていた。
これが、負けた最大の理由の一つだ。
陸軍はソ連を仮想敵国とし、満州での地上戦に備えていた。
海軍はアメリカを仮想敵国とし、太平洋での艦隊決戦に備えていた。
両者は独立した統帥機関を持ち、それぞれの戦略で動いていた。
問題は、これを「統合」する仕組みがほとんどなかったこと。
大本営という組織はあった。でも、実態は陸海軍の利益調整の場でしかなかった。全体を見て判断を下す、統合参謀本部のような機能がなかった。
結果、どうなったか。
ガダルカナル島で、陸軍と海軍は「バラバラの状態で戦った」。情報は共有されず、補給は分断され、作戦は連携しなかった。
各部隊は自分たちの任務を全力でこなしていた。でも、全体として見ると、負けていた。
「部門最適」と「全体最適」
これ、現代の企業でも同じことが起きている。
営業部門は売上を追う。開発部門は納期を守る。管理部門はコストを削る。
それぞれが、自分のKPIを達成しようと必死だ。
問題は、「自分たちの目標達成」と「会社全体の成功」がズレていること。
営業が無理な納期で受注する。開発が品質を落として間に合わせる。管理がコストを削りすぎてサポートが崩壊する。
どの部門も「自分の仕事はちゃんとやった」と言える。でも、会社は顧客を失っている。
これを「部門最適」と「全体最適」の乖離と呼ぶ。
なぜ「統合」は難しいのか
『失敗の本質』の著者たちは、日本軍の問題を「分化」と「統合」で説明している。
組織が大きくなると、部門ごとに専門性が生まれる。これが「分化」。
分化自体は悪いことじゃない。専門性があるから、複雑な課題に対応できる。
問題は、分化した部門を「統合」する仕組みが弱いこと。
米軍には統合参謀本部があった。大統領という最終決定者がいた。陸海空の垣根を超えて、全体として動ける仕組みがあった。
日本軍にはそれがなかった。
現代の企業でも同じだ。
部署間の壁を超えて判断できるリーダーがいるか。全体を見て優先順位をつける仕組みがあるか。
多くの会社で、答えはNoだ。
部長会議は各部署の報告の場になっている。「うちの部署は頑張っています」を発表し合う場。全体として何を優先すべきかを議論する場じゃない。
経営陣は各部門のKPIを見ている。でも、部門間の連携がどうなっているかは見えない。数字には現れないから。
「評価」がサイロを生む
もう一つ、厄介な問題がある。
部門ごとに評価される限り、部門最適に走るのは当然だ。
営業部長は、営業成績で評価される。開発部長は、開発スピードで評価される。
「会社全体のことを考えろ」と言われても、自分の評価に直結しないことに力を割ける人は少ない。
『失敗の本質』では、日本軍の評価システムについても分析している。
動機やプロセスが重視され、結果が軽視される傾向があった。「頑張った」「努力した」が評価され、「全体として勝ったか」は二の次だった。
これでは、部門の壁は崩れない。
では、どうすればいいか
答えは一つじゃない。でも、ヒントはある。
1. 「誰かの部署」に属さない課題を可視化する
顧客からのクレームは、営業の問題か?開発の問題か?サポートの問題か?
たいてい、全部だ。でも、誰の責任でもないから、放置される。
こういう「部門横断的な課題」を明確にし、専任で対応する人やチームを作る。これだけで、だいぶ変わる。
2. 部門間の会議を「報告の場」から「議論の場」に変える
各部署が「うちは頑張っています」を報告する場ではなく、「全体として何を優先すべきか」を議論する場に変える。
そのためには、経営陣が「部門の成果」だけでなく「部門間の連携」を見る必要がある。
3. 評価に「全体貢献」の視点を入れる
難しいが、効果は大きい。
「他部門を助けた」「全体の課題を解決した」ことを評価に入れる。部門最適に走るインセンティブを、少しでも薄める。
「うちの部署」から「うちの会社」へ
80年前、日本軍は「分化」したまま「統合」できずに負けた。
現代の企業も、同じ罠にはまっている。
各部署が頑張れば頑張るほど、壁は高くなる。自分のKPIを守ろうとするほど、全体が見えなくなる。
必要なのは、「うちの部署」ではなく「うちの会社」で考えること。
言うのは簡単だ。でも、仕組みがなければ、誰もやらない。
明日、部長会議があるなら、一つだけ聞いてみてほしい。
「この1ヶ月で、部門間の連携がうまくいかなかったことは何ですか?」
たぶん、沈黙が返ってくる。
その沈黙こそが、会社が沈んでいく理由だ。
この記事で参考にした本
『失敗の本質』戸部良一ほか → 日本軍の組織的な失敗要因を分析。「分化」と「統合」、シングルループ学習の限界
『戦略の要諦』リチャード・P・ルメルト → 戦略は「困難な課題への具体的な解決策」であるという視点
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