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ブクドリ | BOOK DRIP

出生率が上がっても、人口減少は止まらない

約4分で読めます 学習・インプット
目次

少子化対策がうまくいけば、人口減少は止まる。そう思っている人は多いはずです。

私もそう思っていました。でも、ジャーナリストの河合雅司さんが『未来の年表』で示すのは、それが成り立たないという事実です。

理由はシンプルです。出生率が改善しても、子どもを産む年代の女性の絶対数がすでに減っている。だから、1人あたりが産む数が増えても、生まれる総数は増えにくい。

少子化が、さらなる少子化を呼ぶ。河合さんはこの状態を「静かなる有事」と呼んでいます。

「率」と「数」は、別の話をしている

まず、混同されがちな2つの指標を分けます。

出生率は、1人の女性が生涯に産む子どもの平均数です。出生数は、実際に生まれた子どもの合計です。

このかけ算の相手、つまり産む年代の女性の人数が減っていくと、率が上がっても数は増えません。

たとえば、100人の女性が1人ずつ産めば100人。50人の女性が1.5人ずつ産んでも75人です。率は5割上がったのに、数は減っている。

そして、女性の人数は20年以上前に確定しています。今から出生率を上げても、その効果が出るのは20年後以降です。

ここが人口動態の特徴で、変数がほぼ確定しているぶん、予測としては外れにくい部類に入ります。景気や為替と違って、来年いきなり方向が変わることがありません。

だからこそ、河合さんは「不可逆の現実」として受け入れることから始めるべきだと書いています。

起きるのは「不足」ではなく、順番の入れ替え

『未来の年表』が読ませるのは、危機を年ごとに並べた構成です。

たとえば、輸血用血液の不足。河合さんは2027年ごろから深刻になると見ています。血液の約8割は、がんなどの病気の治療に使われる。献血できる若い世代が減れば、必要量が満たせなくなります。

「病院に行けば助かる」という前提が、静かに崩れる。これは医療費の問題ではなく、供給する人の数の問題です。

住宅もそうです。2033年には、全国の住宅の3戸に1戸が空き家になるという推計が紹介されています。空き家が増えると、景観だけでなく治安や地価に影響が出ます。

そして2042年。団塊ジュニア世代が高齢者となり、高齢者人口が約4000万人でピークを迎える。低年金の独居高齢者が増え、社会保障が最も苦しくなる時期です。

これらの数字は、前提の置き方で変わります。推計は推計であって、確定した未来ではありません。

ただ、方向は変わりにくい。何かが足りなくなるという話ではなく、社会のどの機能から順に苦しくなるか、という順番の話として読むほうが実態に近いと思います。

「戦略的に縮む」という選択肢

では、どうするか。

河合さんの提案は、成長路線への復帰ではありません。「戦略的に縮む」ことです。

高齢者の定義を75歳に引き上げる。24時間営業のような常時稼働の社会から降りる。居住エリアを集約する。どれも痛みを伴いますが、人手が減る前提で社会を作り直すという方向です。

縮むという言葉は後ろ向きに聞こえます。ただ、別の角度からこれを描いた本もあります。

藻谷浩介さんの『里山資本主義』です。藻谷さんは、お金の循環に全面依存する経済の横に、水と食料と燃料を地域で自給するサブシステムを置き直すことを提案しています。

過疎地には、近代化の過程で使われないまま残された資源がある。藻谷さんはこれを「簿外資産」と呼びます。金銭に換算されていないので、統計上は存在しないことになっている価値です。

そこに最新の技術と工夫を掛け合わせれば、地域内で経済が回り始める。

2冊は、立場も年代も違います。ただ、どちらも「人が増える前提の設計をやめる」という一点で重なっています。

明日からできること

これは国の話に見えますが、個人の判断にも直結します。

誤解:人口の話は、政治や行政が考えることだ → 人口動態は、事業計画にも住む場所にもキャリアにも効いてきます。しかも最も外れにくい予測です。使わない手はありません。

正しいアプローチ:自分の仕事の顧客年齢構成を、一度だけ調べる → 主要顧客の平均年齢が55歳なら、10年後にその層は65歳です。買うものも、買う量も変わります。この一枚を作るだけで、中期の判断が変わります。

もうひとつ、住む場所の判断にも使えます。

自治体のサイトには人口推計が載っています。20年後の人口が今の何割かを見る。そのうえで、学校や病院やバス路線がどうなるかを考える。

家を買うか借りるかの判断が、ここで変わることがあります。

なお、推計は前提が変われば動きます。移住政策や技術の変化で緩和される部分もあります。数字を運命として読むのではなく、方向として読むのが実務的です。

おわりに

人口の話は、遠い未来の暗い話として扱われがちです。

でも実際には、来年の採用計画や、次に借りる部屋や、10年後の顧客の顔の話でした。

止められない変化のうち、いちばん早くから見えているのがこれです。


この記事で参考にした本

『未来の年表 人口減少日本でこれから起きること』河合雅司 → 人口減少を年ごとのカレンダーで可視化した一冊。出生率と出生数の違い、「戦略的に縮む」という提案。

『里山資本主義』藻谷浩介 → マネー資本主義の横に自給のサブシステムを置く発想。簿外資産という見えない価値の捉え方。


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『未来の年表』河合雅司|あなたが老いるころ、一番ヤバいのは東京だった このコラムの土台にした本の紹介記事です。年ごとの危機をもっと詳しく知りたい人へ。

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