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ブクドリ | BOOK DRIP

売上10倍は、リスク10倍だった

約4分で読めます 戦略・経営・事業
目次

売上を伸ばすことが、企業の目的だと思われています。予算も、評価も、たいてい売上で組まれます。

北の達人コーポレーションの木下勝寿さんは、『売上最小化、利益最大化の法則』でこの前提を真っ向から否定します。

最終利益が同じであれば、売上は少ないほうが圧倒的に経営が安定する。木下さんの言い方はもっと直接的です。売上10倍は、リスク10倍である。

利益率29%を出している上場企業の社長が言うので、単なる逆張りではありません。

売上が増えると、リスクと手間が同じだけ増える

なぜ売上が増えるとリスクが増えるのか。

たとえば、売上を10倍にする。仕入れも10倍、在庫も10倍、配送も10倍、問い合わせも10倍になります。人も増やす必要がある。

トラブルの発生件数も、だいたい規模に比例します。クレーム、欠品、返品、システム障害。件数が増えれば、対応する組織も必要になります。

そして、これらは固定費として残ります。売上が落ちたときに、すぐには落とせない。

最終利益が同じなら、この重さを抱える理由がありません。同じ1億円の利益を、売上10億円で出すか、売上100億円で出すか。後者のほうが、動かしている量は10倍です。

木下さんは、利益は会社がどれだけ社会に役立っているかを示す指標だとも書いています。だから、利益を出して納税することが最大の社会貢献だ、と。

このあたりは価値観の話も混ざるので、そのまま受け取る必要はありません。ただ、売上と利益のどちらを目標に置くかで、日々の判断が変わるのは確かです。

「隠れ赤字」は、粗利では見えない

では、どうやって利益を管理するのか。

木下さんが提示するのが5段階利益管理です。売上から段階的にコストを引いていき、どの商品が本当に利益に貢献しているかを見る仕組みです。

なぜ段階が要るのか。粗利だけを見ていると、隠れ赤字が見えないからです。

たとえば、粗利率の高い商品。数字上は優秀に見えます。ところが広告費が重く、返品率も高く、問い合わせ対応に人手がかかっている。段階的に引いていくと、最終的にはマイナスになっていることがあります。

逆のパターンもあります。粗利率は低いけれど、広告なしで売れていて、リピートも多い。こちらのほうが最後まで残る利益は大きい。

商品単位で最後の段まで引いてみないと、判断を間違えます。

同じ発想を、資本の側から見たのがROIC経営です。この分野の書籍が指摘するのは、売上や利益の額だけを追う「フロー経営」の限界です。

いくら稼いだかではなく、いくら投じていくら返ってきたか。投じた資本に対するリターンが資本コストを上回っているかを見る。

見る単位は違いますが、どちらも「額ではなく率と残りを見る」という点で同じ方向を向いています。

売上ゼロで、何か月生き残れるか

もうひとつ、木下さんの道具で印象に残ったのが「無収入寿命」です。

売上がゼロになっても、社員を守りながら何か月生き残れるか。この期間を数字で持つ。

算定式も示されています。純手元資金を月額固定費で割る。純手元資金は、総資産から固定資産と棚卸資産と流動負債を引いたものです。

この数字を持っていると、投資判断の基準が変わります。

たとえば、大きな広告投資をするかどうか。「儲かりそうか」だけで決めると、判断が景気に振られます。「これを実行しても無収入寿命が何か月残るか」で見ると、取れるリスクの上限が決まります。

個人の家計と同じ構造です。生活費の何か月分の現金があるかを知っている人は、転職や独立の判断が速い。

ただ、この本には適用範囲の限界もあります。木下さんの手法は、ネット通販とデジタルマーケティングの領域に強く最適化されています。BtoBや実店舗では、コストの割り振り方を自社流に組み直す必要があります。

道具をそのまま持ち込むより、考え方の順序を借りるほうが実用的です。

明日からできること

誤解:売上が伸びていれば、事業は成長している → 売上の伸びは、リスクと固定費の伸びでもあります。最終利益が増えていないなら、重くなっただけの可能性があります。

正しいアプローチ:主要商品を1つ選び、最後の段まで費用を引いてみる → 粗利のあとに、広告費、送料、決済手数料、返品、問い合わせ対応の人件費を引く。順番に引くと、どこで利益が消えているかが1回で分かります。

もうひとつ、部門やチーム単位でも使えます。

自分の担当している施策について、「売上」ではなく「投じた時間とお金に対する残り」で見てみる。数字が取れないなら、時間だけでも構いません。

工数を3倍かけて売上が2倍になった施策は、拡大すべきではありません。売上のグラフだけを見ていると、これが成功に見えます。

おわりに

売上は、外から見える数字です。だから、目標にもされやすい。

でも会社に残るのは利益で、抱えるのはリスクのほうでした。同じ利益なら、軽いほうが強い。

伸ばす前に、どれだけ重くなるかを見る。順番はそちらが先です。


この記事で参考にした本

『売上最小化、利益最大化の法則』木下勝寿 → 売上至上主義の否定、5段階利益管理、無収入寿命。利益から逆算する経営の実務書。

『ROIC経営 稼ぐ力の創造と戦略的対話』 → 額を追うフロー経営から、投じた資本に対するリターンを見る経営へ。売上と利益の関係を資本の側から捉え直せる。


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