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『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』青砥瑞人|やり方は、誰かにもらうものではなかった

健康・メンタル ✍ 青砥瑞人
約8分で読めます

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『BRAIN DRIVEN パフォーマンスが高まる脳の状態とは』
目次

「あの人が成功した方法」をそっくり真似したのに、自分にはまるで効かなかった。そんな経験は、意志の弱さでも努力不足でもありません。

脳は一人ひとり、DNAも過去の体験も配線もまるで違う。だから万人に効くハウツーなど、そもそも原理的に存在しない。応用神経科学者・青砥瑞人さんの『BRAIN DRIVEN』は、この不都合な事実から出発します。

そして本書は、期待に反してハウツーをほとんど教えてくれません。代わりに、脳の中で何が起きているか(WHAT)と、なぜそうなるか(WHY)だけを徹底して解き明かす。

やり方(HOW)は、それを理解した読者が自分で創るものだ、という潔い立場です。扱うのは「モチベーション」「ストレス」「クリエイティビティ」という、働く人が最もつまずく3つの場所。

それを精神論ではなく、神経細胞と化学物質のレベルから見ていきます。

図解

なぜ、あえて「答え」を渡さないのか

ふつうのビジネス書は「こうすればうまくいく」と断言してくれます。本書は、その親切をあえて手放します。

「いわゆる『ハウツー』を与えられても、ヒントにはなるが答えにはならない。神経科学の観点から言えば、ハウツーは与えられるものではなく、自分自身で創るものであるからだ。」(本書より)

著者にとって神経科学は、論文の中に閉じた事実ではなく、人間理解や日常に役立てる「応用」の道具です。その視点に立てば、他人に効いた方法が自分に効く保証はどこにもない。だから本書は仕組み(WHAT/WHY)だけを手渡し、実践は読者に委ねます。

一見すると不親切で、手順をすぐ欲しい人には物足りないでしょう。ですがこれは、「自分の脳の取扱説明書を、自分の手で書けるようになる」ための設計です。魚を与えるのではなく、釣り方の背後にある水の流れを教える。そう考えると、この突き放しの意味が見えてきます。

すべての土台になる「メタ認知」

本書を一本の柱で貫くのが、メタ認知です。自分の感情や思考を、当事者から一歩離れて客観的・俯瞰的に眺める状態を指します。

このとき働くのが、おでこの裏あたりにあるrlPFC(ロストラテラル前頭前皮質)という高次の部位。自分を上空から見下ろすように観察するときに活性化します。

見逃せないのは、脳の神経細胞のつなぎ目(シナプス)が持つ「Use it or Lose it(使えば結びつき、使わなければ失う)」という性質です。

メタ認知もこの原則に従い、意識して使うほど太く育ちます。逆に「自分のことは自分が一番わかっている」という思い込みは、この観察をサボらせ、成長を止める。

このあと登場するモチベーションの認知も、ストレス時のラベリングも、違和感への気づきも、すべてはこのメタ認知の応用です。ここが弱いと、どのテーマも自分用に調整できません。すべての入口がここにある、と押さえておくと本書は一気に読みやすくなります。

お金では、やる気は続かない

やる気を出したいとき、私たちはつい報酬を用意します。しかし本書は、それだけでは動かないと言い切ります。

著者はモチベーションを3層に分解します。第一が「モチベータ」。お金や名言、音楽といった、きっかけになる外部刺激です。第二が「モチベーション・メディエータ」。

そのきっかけを受けて脳内で実際に起きる神経反応や化学物質の放出。そして第三の「モチベーション」は、その体内の状態を自分で「あ、やる気が出ている」と認知した段階を指します。

つまりお金は、あくまで最初のきっかけにすぎない。やる気の実体は脳内の反応であり、それを自分で気づいて初めてモチベーションとして機能するのです。

厄介なのは慣れです。同じ金額の報酬を繰り返すと、ドーパミンは出にくくなる。ドーパミンは期待やワクワクで放出され、集中力や記憶定着を高める物質ですが、予測と結果の差(予測誤差)が大きいほど強く出るという性質を持ちます。

だから「同じご褒美」は脳をどんどん退屈させる。マウスのドーパミンを枯渇させた実験では、困難なタスクを諦めて割に合わない餌を選ぶようになったといい、やる気との直結ぶりがうかがえます。

この限界を超える鍵が、結果ではなくプロセスそのものに価値や喜びを見出す脳です。やること自体に意味を感じられれば、成否に左右されず挑戦を続けられる。外的報酬の賞味期限の短さを知るほど、この内発的な回路の重みが効いてきます。

空腹のドーパミンを、仕事に流用する

本書の独自概念に「ボトムアップの転用」があります。食欲のような無意識の欲求で湧いたドーパミンを、仕事や学習という意識的な活動の原動力に振り向ける、という発想です。

体操の内村航平選手は1日1食にし、空腹時のドーパミンを競技への集中に活かしていたと紹介されます。「空腹だと集中できない」という通念とは逆で、軽い空腹のほうが前頭前皮質が冴えることがある。

イチロー選手の打席前のルーティンや五郎丸歩選手のキック前のポーズも、心を動かす言葉や音楽を体の動作に結びつけて反復した「やる気のスイッチ」だったと読み解かれます。

ただし前提があります。恐怖や強い不安に支配された心理的危険状態では、生命維持が最優先され、思考を司る前頭前皮質が止まる。詐欺の被害者が「自分は騙されない」と思いながら振り込んでしまうのは、過度なストレスで脳のエラー検知が落ちるからです。

挑戦を引き出す前に、まず安心が要る。この順序は覚えておく価値があります。

ストレスは、集中力のスイッチでもある

ストレスは避けるべき悪。この常識も、本書ははっきり覆します。

自分がやりたいこと、やろうとしていることから受ける「適切なストレス」は、コルチゾールやノルアドレナリン、ドーパミンを分泌させ、注意力・記憶の定着・論理的思考をむしろ高める。

締め切り前に普段以上の集中が湧くのは、この状態です。ノルアドレナリンは、危機感で脳を戦闘態勢にし情報への注意を鋭くする物質。要は、慢性的で過度なストレスと、成長の糧になる適切なストレスを見分けることが肝心なのです。

折れない心=レジリエンスも、生まれつきの性格ではなく後天的に育つ、と本書は言います。鍵はパターン学習。成功を味わっている瞬間に、そこへ至るまでの失敗や苦しさを同時に振り返ると、脳に「辛さの先に喜びがある」という回路が刻まれる。

ビル・ゲイツの「成功を祝うのもいいが、もっと大切なのは失敗から学ぶことだ」という言葉も、この文脈で腑に落ちます。苦難を乗り越えた直後は通常以上のドーパミンが出て、快感が増幅されるといいます。

一方で、ストレスが消えない元凶は出来事そのものではなく、それを脳内で何度も反芻することにあります。堂々巡りするたびネガティブな回路のシナプスは強固になり、嫌な感情が増幅していく。

だからこそ、深呼吸や睡眠、自然の中で副交感神経を優位にする「OFF」の時間が要る。それでも残る記憶は、信頼できる人に話したり「尊い教訓だった」と意味づけし直すことで書き換え(Rewiring)できる。

失敗を栄養に変えられる柔軟な人ほど、続けられ、後から伸びていきます。

ぼーっとする時間が、いちばん頭を働かせている

創造性は天才だけの才能だ、という思い込みも本書は外します。クリエイティビティに関する神経科学の論文は2010年以降に急増し、後天的に鍛えられる能力だとわかってきました。

創造的発想は脳の一か所ではなく、3つのネットワークの連携から生まれます。ぼーっと内側に注意が向いたときに無意識で情報を結ぶデフォルトモード・ネットワーク(DMN)、違和感や感情の変化を捉えてモードを切り替えるハブのサリエンス・ネットワーク(SN)、集中して論理を組むセントラル・エグゼクティブ・ネットワーク(CEN)。

徹底的に考え抜いたあとにDMNを起動させると、閃きが訪れやすくなります。

だから情報に浸って考え尽くしたら、あえて散歩や入浴、皿洗いのような単純作業や睡眠で脳に「空白」を作る。その空白で無意識が情報を熟成させる。ON(集中)とOFF(ぼんやり)の往復こそが、発想の土壌なのです。

違和感は、脳からのお知らせ

本書が最も力を込めるのが、違和感やモヤモヤの扱いです。

「なんとなくおかしい」という感覚は、脳のACC(前帯状皮質)が、過去の膨大な経験のデータベースと目の前の事象を照合し「何かが違う」と発したシグナル。

それは言葉になる前の、あなた自身の体験の蓄積であり、感性そのものです。このシグナルを「向いていない」と切り捨てず、正体を言語化しようともがき、葛藤を抱えたまま探求すると、深い学びや創造につながる。

学びの途中のモヤモヤは、脳が新しい配線を工事している証拠でもあります。

前例のない挑戦を支えるのは「根拠のない自信」です。どうなるか分からないことにも前を向かせる希望の機能を担うのも、メタ認知と同じrlPFC。しかも判断基準は、他人にとっての新しさではなく、自分にとって新しく価値があるかどうか。

他人の否定でアイデアの芽を摘まないための、大切な視点です。

そして人間の創造性の源泉は、脳の「揺らぎ」にある、と著者は見ます。AIはデータを正確に処理して最適解を出す。対して人間は、感情や記憶や身体感覚を統合し、時に記憶違いや勘違いをしながら新しい意味やメタファーを掴む。この曖昧さこそ、AIには真似のできない人間の武器だというのです。

明日から試せる、最小の3つ

本書はHOWを委ねますが、原著の提案から今日できるものを3つに絞ると、こうなります。

第一に、心地よさを感じたら3秒だけ立ち止まって味わう。ポジティブな感情はすぐ消えるので、美味しいコーヒーや晴れた空に気づいたらスマホを置き、数秒その快さに浸る。

脳をポジティブ寄りにチューニングする訓練です。前提として、脳は生存のためネガティブ検知(ネガティビティバイアス)に偏っている。だから意識して良いところを探す「いいとこセンサー」を働かせる必要があります。

第二に、空腹や高揚を感じた瞬間、その集中力を目の前のタスクへ向け直す。湧いた勢いを食欲ではなく資料作成や勉強に転用する、ボトムアップの応用です。

第三に、モヤモヤしたら「何が引っかかったのか」を一行書き出す。違和感を言葉にしようとするだけで、課題発見や新しい発想の入口になります。ついでに言えば、悩む部下や子どもにすぐ答えを与えないことも大切。過保護は、自ら考え決める脳の機会を奪ってしまうからです。

おわりに

この本を一言でいえば、自分だけのパフォーマンス向上法を自分で書くための「脳の取扱説明書」です。

やる気が出ないとき、ストレスに潰れそうなとき、アイデアが浮かばないとき。誰かのハウツーを探す前に、自分の脳でいま何が起きているかを、一歩引いて眺めてみる。その小さな観察から、あなたにしか書けない一冊が始まります。


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「言語化できない」のは、語彙ではなく思考構造の問題 本書は違和感の言語化を成長の入り口と捉えます。なぜ言葉にできないのかを別角度から考えると、モヤモヤとの付き合い方が変わります。


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