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『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』生田哲|あなたの性格は、腸の細菌が決めている

健康・メンタル
約7分で読めます
『心と体を健康にする腸内細菌と脳の真実』

臆病なマウスを無菌にして、勇敢なマウスの腸内細菌を移植する。すると、臆病だったマウスは勇敢に変身しました。

性格は脳や遺伝で決まる。多くの人はそう思っています。ところがこの実験は、腸に住む細菌の種類を入れ替えるだけで、行動そのものが変わってしまうことを示しました。

著者は薬学博士の生田哲さん。本書は、脳と腸が腸内細菌を介して会話しているという「脳-腸-腸内細菌相関」をテーマに、腸内環境の乱れが発達障害やアレルギー、心の不調にまで関わっていることを最新研究で解き明かした一冊です。

こんな人におすすめ

この本の核心――心の病も、万病も、出発点は「腸」にある

本書の主張は一行で言えます。「心と体の健康のカギは、腸とその住人である腸内細菌が握っている」。

衝撃的なのは、人間がどこまで微生物に支えられているかという事実です。人の腸内には1000種類、約100兆個の細菌が住み、その遺伝子数は約200万個。人間自身の遺伝子は2万3000個ですから、腸内細菌の遺伝子は人の100倍もあります。

「遺伝子は病気の発生に10%の役割しか果たしていない。残りの90%は環境因子によって引き起こされるのだ。」

これは希望でもあります。病気は変えられない遺伝の宿命ではなく、食事という環境因子で大きく左右できるということだからです。

古代ギリシャの医師ヒポクラテスは「すべての病気は腸に始まる」と言いました。本書は、2500年後の最先端科学がこの言葉の正しさをようやく証明しつつある、という物語として読めます。

腸が壊れる第一段階「ディスバイオシス」

すべての出発点は、腸内細菌のバランスが崩れた状態「ディスバイオシス」です。

腸内細菌はおおよそ善玉菌が2割、悪玉菌が1割、どちらにも転ぶ日和見菌が7割を占めます。このバランスが崩れると、悪玉菌やカンジダ菌が増え、腸内環境が悪化します。

崩す犯人は主に2つ。抗生物質と、現代の悪い食事です。抗生物質は病原菌だけでなく善玉菌も無差別に殺します。加工食品や砂糖、精製デンプンは食物繊維を含まないため、腸内細菌を飢えさせます。

「加工食品は殺菌され、さらに日持ちをよくするための保存料が添加されている。何日たっても腐らない。こんな食品を食べ続けたらどうなるか。腸内に住む細菌は飢え、傷つけられ殺菌される。」

エサを失った細菌は、生き延びるために腸の表面を覆う粘液を食べ始めます。こうして腸のバリアが薄くなり、次の段階に進みます。

万病の源「リーキーガット(腸もれ)」

ディスバイオシスが進むと起きるのが、本書が万病の源と呼ぶ「リーキーガット」です。

小腸の粘膜細胞は、互いを密着させる「タイトジャンクション」という結合でつながっています。これが緩むと腸壁に隙間が開き、本来は通れないはずの未消化のタンパク質や細菌の毒素が血液中に漏れ出します。

漏れ出た異物を免疫系が攻撃するため、全身で炎症が起こります。

これが食物アレルギー、ぜんそく、アトピー、自己免疫疾患(I型糖尿病や関節リウマチ)、さらにはうつやASDまで、幅広い不調の引き金になると本書は説きます。

これを科学的に裏づけたのが、ゾヌリンというタンパク質の発見です。2000年にアレッシオ・ファザーノ氏が見つけました。小麦のグルテンに反応して放出され、タイトジャンクションを直接緩めます。

これがセリアック病、つまり小麦のグルテンで小腸が攻撃される自己免疫疾患の、発症メカニズムでした。

ファザーノ氏のチームは、アメリカで133人に1人がセリアック病という頻度も突き止めています。日本人の6割がリーキーガットの状態にあると推測される、という指摘も本書にはあります。

食物アレルギーが起こる理屈もここで腑に落ちます。タンパク質はアミノ酸まで分解されてから吸収されれば、アレルギーは起きません。

ところが分解が不十分なまま「ペプチド」の状態で腸の穴から漏れると、免疫がそれを異物とみなして攻撃します。これがアレルギーの正体です。

脳と腸は腸内細菌を介して会話している

ここから本書の中心テーマ、脳と腸の関係に入ります。

ストレスでお腹が痛くなる。これは脳から腸への信号です。昔から知られた「脳-腸相関」ですが、近年わかったのは、信号が腸から脳へも逆向きに流れていることでした。

仲立ちをしているのが腸内細菌です。腸内細菌が作る短鎖脂肪酸や神経伝達物質が血流に乗って脳に届き、感情や行動、脳の発達を左右する。これが「脳-腸-腸内細菌相関」です。

この分野には、笑われながら道を切り拓いた研究者たちがいます。1985年から研究を続けたマーク・ライテ氏は、病原菌をマウスに入れると不安になることを示しましたが、「脳が単細胞生物に影響される」という発想自体を科学界が嫌い、クレイジー扱いされました。

突破口を開いたのが九州大学の須藤信行さんです。2004年、無菌マウスはストレスに過敏に反応し、脳の成長因子BDNFが著しく低下していることを発見しました。さらにビフィズス菌を移植すると、過敏なストレス反応が正常に戻りました。

「腸内細菌は脳を正常に発達させるということである。」

腸内細菌は、他者と関係を築く「社会的な脳(ソーシャルブレインズ)」の発達にも欠かせません。冒頭の臆病なマウスが勇敢に変わった実験も、性格や勇気までもが腸内細菌に左右されることを示しています。

母親から子へという縦のつながりも見逃せません。赤ちゃんは自然分娩で母親の腟内細菌を受け取り、それが腸内細菌のベースになります。母親が妊娠中に強いストレスを受けると腟内の乳酸菌が減り、その変化した細菌を受け取った子の脳発達が妨げられ、不安やうつになりやすくなります。

なぜ発達障害が腸とつながるのか

本書がもっとも踏み込むのが、ASD(自閉スペクトラム症)と腸の関係です。

まず背景にあるのは、急増という事実です。アメリカのASD発症率は1970年の1万人に1人から、2018年には36人に1人へ。日本でも通級指導を受ける児童は1993年の約1万2000人から2019年には約13万人へと膨らんでいます。

そしてASDの子どもの約9割が腸に障害を抱え、85%に便秘が見られます。彼らの便には、悪玉菌のクロストリジウム属菌が健常者の10倍も多く存在します。

メカニズムの仮説はこうです。クロストリジウム属菌が作る神経毒「4EPS」が血流に乗って脳に達する。ASDのマウスモデルの血液からは、通常の46倍もの4EPSが検出されました。

エレン・ボルトさんという母親が、抗生物質後にASDを発症した息子にバンコマイシンを試したところ、症状が劇的に改善しました。この逸話も、腸と脳を結ぶ研究の契機になっています。

治療の可能性として本書が紹介するのが「MTT(腸内微生物移植)」です。健康な人の腸内細菌を患者の腸に移植する方法で、アリゾナ州立大学の治験では、ASDの子ども18人のうち16人で腸の症状が80%改善しました。

ASDの行動評価で、治験前は「重度」が83%だったのが、2年後には「重度」17%へ。効果は2年たっても持続し、腸内のビフィズス菌は5倍、プレボテラ菌は84倍に増えていました。

ただし著者は限界も率直に書きます。これはまだ小規模なオープン試験の段階で、大規模な二重盲検法による証明はこれからです。期待をあおりすぎない、この誠実さは信頼できます。

腸を守る食事――何を減らし、何を足すか

最後に本書は、腸を守る具体的な食生活を示します。難しい話の後で、やることはシンプルです。

減らすべきは、抗生物質と加工食品、砂糖、精製デンプン。白米や白いパンは腸内細菌を飢えさせます。

足すべきものは3つの方向に整理できます。

ひとつ目は水溶性食物繊維。野菜や海藻、玄米、大豆、ごぼう、玉ねぎ、りんごなどに含まれ、善玉菌のエサとなって腸内を弱酸性に保ちます。難溶性食物繊維は有害物質を絡め取って便として排出します。

ふたつ目は、ブロッコリーやキャベツなどのアブラナ科の野菜。腸のバリア機能を高めるAHR受容体を活性化させます。

みっつ目は、味噌や納豆などの日本の発酵食品。善玉菌を直接補給し、腸内を弱酸性に保ちます。

善玉菌が食物繊維を分解して作る短鎖脂肪酸が、腸の細胞のエネルギー源になり、穴を塞ぎ、炎症を抑える。だから食物繊維と発酵食品なのです。カリフォルニア大学の実験では、食物繊維の多い食事をたった2週間続けるだけで、腸内細菌の構成が約8%改善しました。

明日から何を変えるか

本書の知識を、今日の行動に落とします。

1. 白い炭水化物を茶色い炭水化物に置き換える 白米を玄米に、白いパンを全粒粉パンやオートミールに変える。腸内細菌を飢えさせる精製デンプンを、繊維の残った穀物に切り替えるだけです。

2. 海藻の味噌汁を毎日の食卓に1品加える ワカメや昆布の味噌汁は、水溶性食物繊維と発酵食品を同時にとれます。本書が勧める「日本の伝統食」を、最も手軽に実行できる形です。

3. 安易に抗生物質や鎮痛薬に手を伸ばさない ちょっとした風邪や痛みで服薬する前に、本当に必要か医師に相談する。やむを得ず飲むときは、乳酸菌などのプロバイオティクスを一緒にとって腸へのダメージを抑えます。

おわりに

本書を読んで一番変わるのは、食事を見るときの視点かもしれません。

著者は、私たちはお腹の中に細菌というペットを飼っている、と言います。これを食べたいか、ではなく、お腹のペットが喜ぶエサか。そう問い直すだけで、選ぶものが変わります。

「あなたは、あなたが食べるものだけでできているのではなく、子供のころに口にした食べものからもできている!」

今日の一食が、目に見えない100兆個の住人を養っています。まずは2週間、彼らの喜ぶ食物繊維たっぷりの食事を続けてみる。心と体の変化は、そこから始まります。


合わせて読みたい

『歩く マジで人生が変わる習慣』池田光史 腸を整える食事と並んで、脳と身体を取り戻すもう一つの土台が「歩く」こと。腸内環境という内側からのアプローチに、運動という外側からのアプローチを重ねると効果が立体的になります。

『運動は薬だった。スタンフォード研究が証明した「体を動かすことで人生が変わる」科学的理由』 本書が「腸が脳を変える」と説くのに対し、こちらは「運動が脳を変える」科学。心の不調にメンタルだけでなく身体からアプローチするという発想で響き合います。

子どもの発達障害が激増している本当の理由は「腸」にあった? 本書の中心テーマであるASDと腸内環境の関係を、別の角度から掘り下げた記事。なぜ発達障害が腸とつながるのか、もう一歩理解を深めたい人にぴったりです。


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