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『だから僕は大人になれない』ぺいんと|人見知りが、仲間と「終わらない青春」を生きる

キャリア・働き方 ✍ ぺいんと
約10分で読めます

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『だから僕は大人になれない』
目次

初めてYouTubeに上げた動画の再生回数は、5回だったそうです。

しかもその5回は、全部自分で再生した数。自己採点は100点満点中10点。これが、登録者150万人を超えるゲーム実況グループ「日常組」のメンバー、ぺいんとさんの出発点です。

『だから僕は大人になれない』は、その彼が自分の弱さを一切隠さずに綴った自伝的エッセイです。タイトルだけ見ると、責任から逃げるだらしない大人の言い訳のように響きます。

けれど読み終えると印象は反転します。ここでの「大人になれない」は、子どものように好きなことへ熱中し続ける、という意志のこもった宣言なのです。

注目したいのは、この言葉を発しているのが、店員と話すのが怖くて外食ではレジ前で財布を仲間に預けてしまうほどの極度の人見知りだという点です。1ヶ月以上家から出ないこともある。

そんな人物が、なぜ仲間と「終わらない青春」を生きられたのか。この本は、その問いへの実践的な答えになっています。

図解

弱さを開示することが、なぜ強さに転じるのか

成功したYouTuberの本といえば、ふつうは華やかな勝ちパターンを語るものです。本書はその逆を行きます。

著者はまず、自分の欠落を全部さらけ出すところから始めます。極度の人見知り、引きこもり体質、外見へのコンプレックス。中学の修学旅行では、写真に写った自分の顔にシールを貼られた記憶まで書いています。読んでいて痛々しくなるほどの自己開示です。

ここで本書が立てる問いは明快です。コンプレックスや欠落を抱えた個人が、いかにして自分の居場所を見つけ、仲間と「純粋な楽しさ」を追い続けられるか

著者の答えもまた、拍子抜けするほどシンプルでした。他人の基準ではなく、自分たちが心から楽しめることを、妥協なく形にする。これが全章を貫く背骨になっています。

筆者(編集部)が興味深いと感じたのは、弱さの開示が単なる感動材料で終わっていないことです。後述する承認欲求やチーム運営の話は、すべて「弱い自分を前提に、どう設計するか」という発想から組み立てられている。

だから自己啓発書にありがちな精神論で終わらず、再現可能な仕組みの話になっていきます。

「認められたい」を、隠さなくていい

本書を通して最も独創的なのが、承認欲求への向き合い方です。

現代では「承認欲求が強い」という言葉は、たいてい悪口として使われます。認められたいという気持ちを、どこか恥ずかしいものとして扱う空気が、社会全体にある。多くの人が、その欲求を表に出さないよう自分にブレーキをかけています。

ところが著者は、これを正面から肯定します。承認欲求が完全に満たされることはきっとない、けれどそれは悪いことではない。むしろ、もっと高みを目指していく原動力がそこにある、と言い切るのです。

さらに踏み込んで、承認欲求を否定して削ぎ落とそうとすると、大切な何かも一緒に抜け落ちてしまう、とまで述べています。

この実感の原点が、あの再生5回の動画です。全部自分で再生した、自己採点10点の出発点。そこから少しずつ動画を見てくれる人が増えていく過程で、著者はこう書いています。

「お金をもらえるということよりも、自分たちの活動を認めてもらえたことが嬉しくて、僕たちはより一層動画に力を入れていった」

お金より、認められたことが嬉しかった。人を動かす原動力は、金銭以上に「認められること」にあるという実感です。

ここには現代的な意味もあると思います。承認欲求は近年、SNS依存や承認の奪い合いといった文脈でネガティブに語られがちです。けれど著者の捉え方は、承認を「他人から奪うもの」ではなく「良いものを作る燃料」に変えている。

同じ欲求でも、向ける先を変えれば毒にも薬にもなる、という視点の転換です。認められたい気持ちを無理に消そうとして消耗している人ほど、この章で肩の力が抜けるはずです。

「察してくれ」をやめた日に、チームが続くようになった

人見知りの著者が居場所を得た転機は、高校1年でした。『マインクラフト』のマルチプレイサーバーで仲間と出会い、4人が後の日常組になります。

ただ、順風満帆ではありませんでした。人気グループに見える日常組も、実は一度、解散の危機を迎えています。そして本書で最も実用的な教訓は、この危機の中から生まれました。

「『なんで分からないんだ』とか『察してくれ』じゃなくて、きちんと想っていることを共有する大切さを学べた」

会話をしなければ意思の疎通はできない。言葉にすればごく当たり前です。けれど実際には、「言わなくても伝わるだろう」と飲み込んで、すれ違っていく人がとても多い。家庭でも職場でも、心当たりのある人は少なくないはずです。著者はその当たり前を、解散危機という痛みを通して体得しました。

この姿勢は、ひとつの具体的なルールに結晶します。日常組では、企画は「全員がOKを出さないと実行しない」。多数決ではない点が肝です。関わる全員が「やりたい」と思えるまで、アイデアをブラッシュアップし続ける。

なぜそこまでするのか。著者によれば、誰かに我慢をさせてゲーム実況をしても長く続かない、と分かっていたからです。

一部のメンバーの自己犠牲の上に成り立つチームは、持続しない。これは企業の組織運営にもそのまま当てはまる原則だと感じます。多数決は一見すると公平ですが、敗れた側に「我慢」を強いる仕組みでもある。

短期的には速く決まっても、長期的には不満が澱のように溜まっていく。日常組の全員合意型は、合意までに時間がかかる代わりに、決まった後の推進力が桁違いになる。

スピードと持続性のどちらを取るか、というトレードオフの問題として読むと示唆に富みます。

月1回の会議が、独創性を爆発させた

合意形成の仕組みと対をなすのが、創造性を生む仕組みです。その中心が、月に1回の「企画会議」でした。

著者いわく、一人で考えていたときの4倍は企画が持ち込まれるといいます。ポイントは、そのままならボツになりそうなアイデアも、みんなで「こうしたら動画にできるかも」と化けさせていくところです。

アイデアを個人で抱え込まず、チームで磨く。そして評価基準は徹底して一貫しています。「視聴者がどう思うか」ではなく「自分たち(日常組)が楽しめるか」。

著者は、他人の作った目標を追った先に自分が楽しめるものはない、と考えます。理由は、自分の思う楽しさと周りの人が思う楽しさは違うから。ここには独創性の核心があります。

市場や視聴者に最適化しにいくと、どこかで見たような企画に収束していく。一方で、自分たちの「楽しい」を起点にすると、他人には真似できない偏りが生まれる。

その偏りこそが個性になる、という逆説です。

もうひとつ、この章には編集への異常なこだわりが出てきます。著者は「100点だ」「及第点だ」と思える動画しか投稿しません。カットの割り方や字幕のフォントにまで気を配り、撮影の多くがボツになってもかまわない。初めて見た人に「面白くない」と思わせないためです。

アンチコメントへの対応も印象的でした。昔は論破しようと戦っていましたが、今はすべて削除しています。これは逃げではありません。自分に向けられたコメントは自分で消化できても、誰もがそんなふうに消化できるわけではない、と著者は考えます。

自分は耐えられても、仲間が思い詰めたら取り返しがつかない。だから戦うのをやめ、大切な人を守るために削除する。限られたエネルギーを、攻撃してくる相手ではなく、支えてくれる人のために使う、という選択です。

批判への向き合い方として、これは健全な割り切りだと思います。

「ダメ」と言われたから、のめり込めた

著者の哲学を語るうえで外せないのが、制限についての逆説です。

子どもの頃、著者は親から「ゲームをやりすぎないように」と制限されていました。普通なら不満が募りそうな場面です。ところが著者の結論は真逆でした。子どもの頃にダメと言われたこと、できなかったことは、大人になって環境が整うとやりたくなるものだ、というのです。

制限されたからこそ、どう突破するかを考える楽しさが生まれた。完全な自由を与えられるより、「ダメ」と言われたことを実現しようとする反骨心のほうが、大きなエネルギーになる。言われてみれば、何でも好きにしていいと言われた途端にやる気が失せる経験は、誰にでもあるのではないでしょうか。

この「あまのじゃく」精神は、幼少期から一貫していました。みんなが赤や黒のランドセルを選ぶ中で、青を選ぶ。ポケモンが流行る中で、本体が振動するマイナーなゲームでわざわざ遊ぶ。

理由がふるっています。自分だけがマイナーなゲームを楽しんでいると思うと、それだけで特別になれた気がして嬉しかった、と。人と違うことが、誇りの源だったわけです。

この発想は、仕事の現場にも応用が利きます。新規事業やクリエイティブな業務で、無限のリソースを与えるよりも、あえて制約を設けたほうが現場の創意工夫が促される。

予算も時間も人も潤沢にあると、かえって発想が締まらない。制約は不自由ではなく、発想を尖らせる枠として機能する、という読み替えができます。

ちなみに著者は、専門学校に進学したのに視聴者には「大学に行った」と嘘をついていたことも告白しています。理系の進学クラスにいたのに大学へ行かないのが恥ずかしかったから。

その専門学校も、活動が忙しくなって2年で中退します。完璧な経歴ではありません。けれど、その不完全さごと開示するからこそ、言葉に重みが宿ります。

引きこもりという「自分の城」を整える

現在のライフスタイルの章は、生き方の話として読めます。

著者は「1ヶ月以上家から出ない」生活を、苦痛ではなく快適だと語ります。家から出なくても成立するゲーム実況は、人見知りの彼にとって天職でした。セルフレジを「偉大な発明」と呼ぶほどです。

ただ、自堕落に引きこもっているわけではありません。仲間と一緒にライザップに申し込み、1年かけて30kgのダイエットに成功しています。100kg近くあった体重を、自分の意思で動かしている。引きこもりという選択の中に、しっかりと自己管理が組み込まれている点が見逃せません。

象徴的なのが、異常とも言えるストック癖です。同じ目薬が常に20個、ジャスミン茶も6〜7箱。一見すると無駄遣いに見えますが、本人の説明は明快でした。やりたいと思ったときにそれができないとストレスが溜まる、だから予備を持つことは自分を守るケアでもある、と。

奇妙なこだわりも、心の平穏を保つための防衛策。自分が最もパフォーマンスを発揮できる環境を、自分の手で設計しているわけです。

世間の標準に合わせるのではなく、自分の特性に環境のほうを合わせにいく。人見知りを克服しようと無理をするのではなく、人見知りでも回る仕組みを作る。

この発想の順序が、本書全体を貫いています。

最後に収められた「妄想」の正体

本書の終盤には、著者の妄想力を形にした短編小説が5編収録されています。父親の正体を疑う話、赤い糸にまつわる話、寿司に擬態した宇宙人の話、ホストクラブを舞台にした話、海賊船に拾われる話。

たとえば赤い糸の小説では、赤い糸の出現率は全人口のわずか0.01%、結ばれた夫婦の幸福度は通常の5倍、という設定まで作り込まれています。設定の細かさに、妄想を本気で楽しんでいる人特有の熱量が滲みます。

なぜ自伝に小説を入れたのか。著者にとって妄想は、企画力の源泉そのものだからです。一見すると変わった行動や想像が、現在の動画の独創性につながっている。

この小説集があることで、本書は単なる自伝を超えて、クリエイター作品としての顔を持ちます。自分の頭の中を見せること自体が、もっとも雄弁な自己紹介になっている構成です。

この哲学が効きにくい場面もある

ここまで魅力を語ってきましたが、留保も正直に書いておきます。

本書は、個人の熱量に強く依存するYouTuberという特殊な職業の体験談です。「自分が納得するまで動画をボツにする」「全員がOKを出すまで進めない」といった姿勢を、納期やルールが厳格な組織にそのまま持ち込むのは無理があります。

締め切りのある現場で全員合意を待っていたら、プロジェクトは止まってしまう。

加えて、本書が書かれた2021年はコロナ禍で外出自粛が叫ばれた時期でした。著者の引きこもりライフスタイルが、社会的に肯定されやすい時代背景があったことも、頭の片隅に置いておくとよいと思います。

それでも、弱さの開示と具体的な会話劇が読者の信頼を引き出す力は、ジャンルを問わず通用します。手法をそのまま再現するのではなく、考え方の部分を借りる。

認められたい自分を否定しない、誰かを我慢させない、他人のゴールではなく自分が熱狂できるかで選ぶ。この3つの原則は、どんな場所でも効くはずです。

今日からできる3つのこと

本書の哲学を生活に持ち込むなら、この3つから始められます。

ひとつめ。やりたいことを始めるとき、SNSや同僚に「いつまでにこれをやります」と先に宣言する。著者は編集に行き詰まると、あえて動画の告知をして自分を追い込みます。前向きな承認欲求を、実行力に変える手です。

ふたつめ。チームや家族で何かを決めるとき、誰か一人を我慢させない。全員が「やりたい」と思えるまで話す場を持つ。「察してくれ」をやめて、思っていることを言葉にする。

みっつめ。企画や趣味を選ぶとき、評価軸に「自分が心から熱狂できるか」を一つ足す。他人受けだけで選ばない。自分の楽しさと他人の楽しさは違うのだから。

最後に、本書で一番印象に残る一文を引いておきます。著者は、大人になってから子どもみたいなことをするのがたまらなく楽しい、あの頃の青春と引き換えに今があるなら学生時代に経験しなくて良かったと心から思う、と書いています。

学生時代に青春らしい青春がなかった人でも、今の自分に合った形で青春を取り戻せる。認められたい気持ちを隠さなくていい。人と違っていい。仲間と心から楽しめる何かを、今からひとつ始めてみる。それだけで、終わらない青春は始まります。


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