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『チームが機能するとはどういうことか』エイミー・C・エドモンドソン氏|「いいチームを作る」より「チームし続ける」

リーダーシップ・組織 ✍ エイミー・C・エドモンドソン氏
約8分で読めます

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『チームが機能するとはどういうことか』
目次

「いいチームを作りたい」。

そう思って、メンバーを厳選し、役割を決め、信頼関係を時間をかけて育てる。それが正しいチームの作り方だと、私はずっと思っていました。

でも本書を読んで、その前提が揺らぎました。著者のエイミー・C・エドモンドソン氏は、チームは「名詞」ではなく「動詞」だ、と言います。

固定されたメンバーがじっくり信頼を築く時間は、もう現代の仕事には十分にない。プロジェクトは招集されてはすぐ解散する。だから大事なのは、安定した「チーム」を完成させることではなく、その場その場で素早く協働する「チーミング」という活動そのものなのだ――。

本書『チームが機能するとはどういうことか』は、この発想の転換を起点に、変化の激しい時代に組織が学び続けるための仕組みを解き明かしていきます。

心理的安全性という言葉の生みの親による、組織学習の決定版です。

図解

「チーム」をやめて「チーミング」する、という出発点

私たちが「チーム」と聞いて思い浮かべるのは、スポーツチームやオーケストラでしょう。境界がはっきりした固定メンバーで、時間をかけて互いの役割を覚え、信頼を築いていく集まり。

でも著者は、それが今の職場の現実に合わなくなっていると指摘します。チームは招集されてはすぐ解散し、固定された構造を持たないまま、その都度一丸となって動くことが求められる。

だから状態としての「チーム」ではなく、活動としての「チーミング」――新しいアイデアを生み、答えを探し、問題を解決するために人々が柔軟に団結する動的なプロセス――で捉え直す必要がある、というわけです。

この転換の背景にあるのが、「実行するための組織づくり」から「学習するための組織づくり」へのシフトです。前者はフォードやテイラーの科学的管理法に代表される産業化時代のモデルで、決まった手順を効率よく予測可能に大量にこなす。

リーダーは答えを与え、監視し、失敗は排除すべきミスとして扱う。後者は、結果を出す方法がまだ不確実な状況で求められるもので、リーダーは答えではなく方向性を示し、メンバーのアイデアを歓迎し、失敗から学ぶことを促す。

チーミングを機能させるには、後者へのシフトが要る。これが本書の中心主張です。

その対比を象徴するのがゼネラルモーターズです。GMは10年で20社以上を買収し、部品の共通化でスケールメリットを生み、1950年にはアメリカの自動車市場の6割を握りました。

1931年から76年間、世界最大の自動車メーカーとして君臨します。ところが環境が変わっても「実行力」に固執し続けた結果、2008年にトップの座をトヨタに譲り、翌2009年には破産申請に至った。

効率を極めた組織が、学べなかったがために倒れたのです。私はこの章を読んで、「うまくいっている組織ほど、成功の型に縛られて学べなくなる」という逆説に背筋が寒くなりました。これは大企業だけの話ではありません。

過去のやり方で結果を出してきた個人やチームほど、同じ罠に足を取られます。

チーミングを動かす4つの行動と「省察」

チーミングは精神論ではありません。本書はそれを動かす具体的な4つの行動を挙げます。立場を気にせず疑問やアイデアを口にする「率直に意見を言う」、互いの専門を尊重して知識を持ち寄る「協働する」、完璧を待たずまずやってみる「試みる」、そして結果を批判的に振り返って次に活かす「省察する」。

この4つを繰り返すことが組織学習を生みます。省察について、著者はこう定義しています。

省察とは、行動の成果を批判的に検討して、結果を評価したり新たなアイデアを見出したりする習慣のことだ。

ここで効いてくるのが「学習しながら実行する」という発想です。省察は特別な研修や、プロジェクト終了後の長い反省会でやるものではない。日々の業務の中に小さな振り返りを織り込む。

行動と省察のサイクルを小さく速く回すことが、組織を学習体質に変えていく。地味ですが、ここが本書の実装部分の肝だと感じました。立派な仕組みを作らなくても、明日の会議に「今うまくいっていないことは何か」を10分足す。

それだけで景色は変わります。

すべての仕事にチーミングが必要なわけではない

本書の良いところは、流行りの概念をやみくもに礼賛しないことです。著者は「プロセス知識スペクトル」という尺度を持ち出し、仕事を不確実性の度合いで3つに分けます。

ファストフード店や組み立て工場のように手順が確立した「ルーチンの業務」、病院の救命救急のように確立されたプロセスと予期せぬ事態が混在する「複雑な業務」、新製品開発のように答えがまだ存在しない「イノベーションの業務」。

タイプが違えば、ふさわしい管理も失敗の扱いも変わる、というわけです。

なぜこの区別が大事か。仕事のタイプに合わない管理をすると組織は壊れるからです。本書が挙げるのが大手電気通信会社「テルコ」(仮名)の例です。電話サービスというルーチン業務で成功していたテルコは、まったく新しいDSLサービスを、同じ「マニュアルと管理徹底」のやり方で導入しようとしました。

結果は惨憺たるものでした。ふだん80点台後半だった顧客満足度指数が一気に10点台へ転落し、契約の75パーセントを失い、遅れた工事は1万2000件にふくれあがった。

工場のやり方を研究所に持ち込むようなミスマッチが、ここまでの破綻を生むのです。

裏を返せば、いま自分が向き合っている仕事はスペクトルのどこにあるのかを言葉にするだけで、選ぶべき進め方が見えてくる。すべてに「心理的安全性」「試行錯誤」を振りかけるのが正解ではない。この冷静さは、流行に踊らされがちなマネジメント議論に効く解毒剤だと感じました。

心理的安全性は「ぬるい職場」の話ではない

本書の中核概念が、心理的安全性です。質問したり、助けを求めたり、ミスを認めたりすると、無知・無能・ネガティブ・邪魔者だと思われるのではないか――この「対人リスク」への不安が、人を沈黙させる。

著者がジム・デタート教授と行った共同研究では、グローバル企業の幹部やマネジャー数百人のほぼ全員が、仕事上の大きな問題になりそうなことでもはっきり意見を言わず沈黙していた、といいます。

その沈黙が招いた最悪の結末が、スペースシャトル・コロンビア号です。打ち上げ時、エンジニアのロドニー・ローシャは断熱材衝突の危険に気づき調査を求めましたが、ミッション・マネジャーは階層と厳格なルールを盾にその懸念を退け、ローシャもそれ以上は強く言えなかった。

シャトルは空中分解し、乗組員全員が命を落としました。沈黙のコストは、ときに人命に及ぶのです。

ここで誤解されやすいのが、心理的安全性を「仲良しクラブ」や「ぬるい職場」と取り違えること。著者ははっきり否定します。

心理的安全性は、自由気ままな雰囲気を後押しするのではなく、対人リスクを冒す──高い基準を追求したり挑戦しがいのある目標を達成したりするのに欠かせない──人々を支援する雰囲気を生み出す。

高い目標と心理的安全性は両立する。むしろ両方そろって初めて、人は思い切って挑戦できる。象徴的なのが、心臓手術チームの研究です。著者は、人間関係が良好でうまくリードされたチームのほうがミスの「報告数」が多い、という事実を偶然発見しました。実際にミスが多いのではなく、安心して報告できているのです。報告できるから素早く学べ、それが大事故を防ぐ。報告がゼロのチームほど、実は危ない。

では、リーダーは何をすればいいのか。直接話せる親しみやすい人になる、自分の知識の限界を認める、自分もよく間違うと積極的に示す、参加を促す、失敗は学習の機会だと強調する。

フォードのアラン・ムラリーCEOの逸話が分かりやすい。就任直後の会議で幹部全員が業務を「緑(順調)」と報告したのに対し、ムラリーは会社の損失を指摘して問い詰めた。

すると一人が「黄色(問題あり)」の報告書を出した。ムラリーはそれに拍手して歓迎した。この一拍が、率直な報告が当たり前になる文化の転機になったといいます。

失敗には種類がある――「上手に失敗して、早く成功する」

心理的安全性とセットで本書が説くのが、失敗の再定義です。著者は失敗を一律に「悪」とする考えを退け、3つに分けます。ルーチン業務での不注意やルール違反である「防ぐことのできる失敗」(これは減らすべき)、複数の要因が絡み合う「複雑な失敗」(スイスチーズの穴が偶然重なって貫通する状態にたとえられ、多角的な分析が要る)、そして仮説に基づき意図的に試みた結果の期待外れである「知的な失敗」。

最後のものは新しい知識をもたらす「良い失敗」です。

著者は「早く成功するために、頻繁に失敗しよう」というデザイン会社IDEOのスローガンを引きます。新しく開発される薬の9割は実験段階で失敗する。

だからこそ、意図的に試して早く失敗し早く学ぶ組織のほうが強い。私がうなったのは製薬会社イーライリリーのエピソードです。避妊薬として失敗した薬が骨粗鬆症に効くと分かり、年10億ドルを売り上げる「エビスタ」になった。

同社は「失敗パーティー」まで導入し、質の高い実験でありながら期待外れに終わったものに栄誉を与えているといいます。失敗を祝う、という発想がここまで具体的に語られると説得力が違います。

ただし著者は、失敗から学ぶのは簡単ではないとも釘を刺します。シドニー・フィンケルシュタイン教授が50社の大失敗を調べたところ、地位が上がるほど失敗を認められなくなり、責任を他人のせいにしやすくなった。

この人間の性に私は深く頷きました。一つの理想を示すのが、1000万ドルのミスを犯した責任者を呼び出したIBMのトム・ワトソン・ジュニア会長です。

クビにする代わりに彼はこう言いました。「きみに学んでもらうのに、1000万ドルかけたんだぞ」。失敗を投資と見るこの態度こそ、学習する組織の核心です。

境界を越える――そして文化はあとからついてくる

最後の論点が、専門・部署・企業・文化の違う人が協働する「境界を越えるチーミング」です。そこには物理的な距離、地位(階層)、知識(専門性)という3つの境界が立ちはだかる。

著者は「『水』を誰が発見したのか私たちは知らないが、魚でなかったことはたしかだ」という言葉を引き、専門にどっぷり浸かると自分の偏りに気づけなくなると言います。

境界を越える第一歩は、相手の「当たり前」が自分とは違うと知ることなのです。

その象徴が、2010年のチリ・サン・ホセ鉱山の救出劇です。地下600メートルに閉じ込められた33人。避難所を探し当てられる確率は80分の1。

政府、NASA、複数企業の専門家が結集し、絶えず実験と軌道修正を繰り返す速いテンポの学習サイクルを回して、全員を無事に救出しました。あらかじめ決まったチームは存在せず、状況に応じて専門家が一時的に結集して壁を越えた。

まさにチーミングです。実務的に効くのが、図面や試作品など専門の違う人の知識をつなぐ「バウンダリー・オブジェクト」だという指摘も、現場ですぐ使える知恵でした。

本書を貫くのは、文化を先に作れば人が変わる、という順番の否定です。著者は逆だと言う。新しい働き方を実践した副産物として、新しい文化があとから形になって現れる――。

立派な文化づくりを待つ必要はありません。まず一回、率直に意見を言ってみる。まず一回、失敗を責めずに分析してみる。その小さな実践の積み重ねが、いつのまにか組織の文化になっている。

あなたのチームの次の会議で、最初に「黄色」を出すのは、誰でしょうか。


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『だから僕たちは、組織を変えていける』斉藤徹さん 業績が悪いほどまず人間関係から手をつける、という主張が本書の心理的安全性と直結します。チーミングの土台になる「安心して話せる場」を、現場でどう作るかの実践に踏み込みたい人に。

『みんな違う。それでも、チームで仕事を進めるために大切なこと。』岩井俊憲さん 裁かない・正さない・引っ張らないリーダー論。本書の「リーダーは答えを与えず方向性を示す」という考えと重なり、多様なメンバーで協働するチーミングの姿勢を別の角度から学べます。


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