「うちのチーム、メンバーがいまいちなんですよね」
会議のあと、こんな言葉がふと口をつく。挑戦できないのも、仕事を任せきれないのも、成果が伸びないのも、結局は今いる顔ぶれのせい。そう思えた瞬間、心はほんの少し軽くなります。悪いのは自分ではなくメンバーなのだから。
だが、組織開発ファシリテーターの長尾彰さんは、その「自分はチームに恵まれていない」という思い込みこそが、チームが変わらない最大の原因だと言い切ります。『宇宙兄弟 今いる仲間でうまくいく チームの話』は、人気漫画のキャラクターを補助線にしながら、外から優秀な人を連れてこなくても、目の前のメンバーで最高のチームをつくり直す道筋を描いた一冊です。
この記事では、本書の背骨である「良い仕事がチームを育てる」という逆転の発想、4つのリーダースタイルと共同リード、チームの4つの発達段階、そして「解散」と「しないこと」という2つの意外な処方箋まで、全体像をたどれるようにまとめます。

こんな人におすすめ
- 会議中に「このメンバーじゃ無理だ」と心の中でつぶやいたことがある人。人を入れ替える前に、まだ打てる手が残っています。
- 新しくリーダーを任され、「自分が全部引っ張らないと」と一人で抱え込んでいる人。本書はその荷物を、堂々と半分おろしていいと言ってくれます。
- チーム内で対立が起きて「うちは雰囲気が悪い」と落ち込んでいる人。その揉め事が、実は前進の証拠かもしれないと知ると、見える景色が変わります。
「良いチームが良い仕事を生む」を、ひっくり返す
多くの人は、チームづくりをこう考えています。まず良いチームをつくる、そうすれば良い仕事ができる、と。だから飲み会を開き、研修を組み、関係の質を先に上げようとします。
本書はこの順番をきっぱり逆にします。良い仕事(働き方)が、結果として良いチームを生み出している。つまり因果は逆で、チームの良さは仕事のあとからついてくる、というのが著者の見立てです。
仲良くすること自体を目的にした瞬間、チームは育たなくなる。この転換は地味ですが、日々の打ち手の優先順位を丸ごと入れ替えるだけの破壊力があります。
そしてもう一つ、本書は冒頭で読者の期待を静かに裏切ります。「チームづくりが成功する原則などない」という原則が、原則の一番目に置かれているのです。
すべてのチームは、メンバーも環境も歴史も違う唯一無二の存在です。だから他社の華々しい成功事例をそのまま持ち込んでも、まず通用しません。大事なのは、自分たちにとっての理想のチームを、自分たちで考え、話し合って決めること。
著者が読者に手渡すのは、埋めれば正解になる答案ではなく、自分の足で歩くための地図なのだと感じます。
仕事の仕組みがチームを育てる「16の条件」
良い仕事がチームを育てるなら、その「良い仕事」とは何を指すのか。本書はここを4つの視点、16の条件として言語化します。抽象論で終わらせず、設計可能な要素に分解するところが実務家らしい。
協働は、1人では絶対に達成できず、全員で協力せざるを得ない状況をあえてつくること。共有すべき情報を明確にし、対話を通じて意見を共創します。「協力しよう」と呼びかけるのではなく、協力しないと詰む構造を先に用意する、という発想です。
状況設定は、時間や予算といった制限をはっきりさせること。制限は敵のようでいて、実は「ではどうする」という工夫と協働を引き出す装置です。あわせて、なぜやるのかというWHYを示し、振り返りと観察の機会を組み込みます。
目標とゴールは、目指す地点を明確にしたうえで、そこへ至る目標と指標をメンバー自身に決めさせること。上から数字を落とすのではなく、再チャレンジの余地を残し、現実と理想のギャップを本人に把握させます。
フローは、時間を忘れて没頭する状態を生む難易度の設計です。能力と課題のレベルが釣り合ったとき、人は最も力を出す。簡単すぎれば退屈し、難しすぎれば折れる。その中間を狙って仕事を配る調整が求められます。
ここで著者が挙げる失敗談が示唆に富みます。創業三代のあるメーカーで、副社長と若手だけのチームが次々と新事業を立ち上げた。ところが若手が盛り上がるほど社歴の長い役員との間に溝が深まり、対立で現場が混乱し、主力事業の売上まで落ちてしまった。
チームを元気にするだけでは足りない、仕事の仕組みごと設計しなければならない。著者がそう痛感したエピソードとして、妙に生々しく胸に残ります。
リーダーは1人でなくていい。凸と凹を「2人」で組む
リーダーシップは、役職者だけが背負うものではありません。本書は、仕事の進め方(プロセス志向か成果志向か)と、リードのスタンス(押すか引っ張るか)という2軸で、リーダーを4つのスタイルに分類します。
ファシリテーター型(プロセス志向×押す)は、支援と促進が得意。漫画の主人公・南波六太がこのタイプです。マエストロ型(成果志向×押す)は職人肌で、自分の背中を見せて成果で語る。弟の南波日々人がこれにあたります。ティーチャー型(プロセス志向×引っ張る)は教えて諭すのが得意。コンサルタント型(成果志向×引っ張る)は経験と専門知識でチームを牽引します。
大事なのは、どれが上位だという話ではない点です。どのタイプにも強み(凸)と苦手(凹)があり、チームの局面によって出番が入れ替わる。全部を兼ね備えた完璧なリーダーなど存在しない、という前提に立っています。
だからこそ、本書のいちばん実践しやすい提案が生きてきます。チームづくりは、自分と正反対のタイプの「2人」から始めよう、というものです。1人で全員をまとめようとするから無理が出る。
パズルの凸と凹を合わせるように、違うタイプの2人が補い合ってリードする。著者はこれを共同リード(Co-Lead)と呼びます。
「お互いに違うことを前提に、それぞれの違いを活かす」。これが本書の考えるチームワークの核です。好きなことは極め、嫌いなことは避け、得意は引き受け、苦手は委ねる。
違いを消し去るのではなく、適材適所に配置する。凸凹は埋めるべき欠陥ではなく、組み合わせるべき素材なのだ、という視点の切り替えがここにあります。
チームには飛び越えられない「4つの発達段階」がある
チームは結成した翌日から機能するわけではありません。本書は社会心理学者タックマンのモデルをベースに、チームの成長を4段階で説明します。そしてどんなチームも、この段階を飛ばして先には進めないと釘を刺します。
第1段階 フォーミング(形成期)。互いをよく知らず、何をすべきかも曖昧で、メンバーは不安を抱えています。自発的に動けないのは、怠慢ではなく自然な状態です。ここでやるべきは、コミュニケーションの「量」を増やすこと。量が増えれば心理的安全性が芽生え、発言しやすくなり、さらに量が増える。この好循環を回すのが最初の仕事です。リーダーは「目的を映像で伝える」「目標を数値で伝える」「指標と原則をつくる」の3つをセットで示し、不安を溶かしていきます。
第2段階 ストーミング(試行錯誤期)。本音がぶつかり、混乱と対立が起きます。多くの人はここで「チームづくりに失敗した」と勘違いします。ところが本書の見立ては真逆で、対立が起きるのは、本音を言える安心・安全な場が育ってきた証拠だというのです。表面上おだやかなチームは、単に誰も本音を出していないだけかもしれない、と。
この時期は、コミュニケーションを「量」から「質」へ切り替えます。相手の話を深く聞く「対話」の時間を持つ。本書は対話を「私も正しく、あなたも正しい」という前提で相手の話を聞き、自分の考えを見直す営みと定義します。
関係をつくる「会話」や、案を決める「議論」とは別物だという線引きが鋭い。あわせて、主観ではなく事実を伝える「フィードバック」と、否定形を肯定形に言い換える習慣を身につけます。
第3段階 ノーミング(規範期)。チームに自治が生まれます。リーダーが逐一指示しなくても、メンバーが自分の強みを活かした役割を分担し、自分たちだけのルールや目標を共有して、自律的に意思決定できるようになる。
第4段階 トランスフォーミング(達成期)。あうんの呼吸で動ける、いわば「無敵」の状態です。
著者の体感では、世の中の組織の約7割がフォーミングで足踏みし、ストーミングへ進めるのは2割、ノーミングとトランスフォーミングに届くのは1割ほど。つまり大半のチームは、最初の2つの壁の手前で立ち止まっている。だからこそ、この2つの壁をどう越えるかが、現実の勝負どころになります。
無敵になったチームほど、いったん「解散」させる
ここが本書のもっとも意外な主張です。最高の状態に達したチームは、ミッションを終えたら、いったん解散すべきだと言うのです。
理由はシンプルです。プロジェクトが変われば目的(WHY)が変わり、メンバーの動機も変わる。過去の成功体験に縛られた慣れ合いのまま次の仕事に持ち越すと、成果の質はむしろ落ちる。
だから同じ顔ぶれであっても、解散という儀式でいったんリセットし、また形成期からやり直す。チームはWHYごとに、その都度つくり直されていくもの、という捉え方です。
レースラフティング女子日本代表の話が象徴的です。世界一の喜びを味わったのはわずか5分ほど。すぐに「次に向けて何をするか」へ気持ちが切り替わり、チームは半日で解散へ動き始めたといいます。頂点は終点ではなく、次の形成期の入り口にすぎないのです。
そしてもう一つ、本書は「うまくいったときこそ振り返ろう」と勧めます。私たちは失敗したときだけ反省しがちですが、成功の要因を分析して言語化し、共有することこそが、組織に残る財産になる。勝ったときに立ち止まれるかどうかが、次の勝ちを左右します。
メンバーを能動的にする「しないこと」の原則
締めくくりに本書は、リーダーが日々の振る舞いへ落とし込むための具体策を示します。ポイントは、何かを「する」ことではなく「しない」ことに置かれています。
良かれと思ってやる行為が、かえってメンバーを受動的(パッシブ)にしてしまう。だから足し算ではなく、引き算のマネジメントが必要になる。本書は20の原則を挙げますが、その芯にあるものを拾うとこうです。
コントロールしようとしない。相手を操作しようとした途端、不信感と受け身の態度が生まれます。罰で脅し、褒美で釣らない。短期的には効いても、中長期ではメンバーの主体性を静かに奪います。
答えがわかっていることを質問しない。それは対話ではなく詰問に感じられるだけです。そして相手が答えを見つける機会を奪わない。リーダーがすぐ正解を渡せば、メンバーは考える機会も、失敗から学ぶ機会も失います。
著者の立場は一貫しています。リーダーに求められるのは管理する力ではなく、メンバーの自律を生み出すファシリテーションの力だ、と。チームに起きた問題は、そのチーム自身が当事者として解こうとしなければ、成長にはつながらない。
だから安易に答えを渡さず、じっと見守る。本書はファシリテーションを「マネジメントよりも厳しい営み」とまで言います。手を出さずに待つことがいかに忍耐を要するか、管理職経験のある人ほど身にしみるはずです。
明日からできる3つのこと
本書の提案のうち、今日から手をつけられるものを3つに絞ります。
1. 自分のスタイルを書き出し、正反対のタイプを1人探す。 4つのスタイルのどれが自分かを見極め、自分とは違う凸凹を持つメンバーを見つける。その人と2人でリードする体制を意識するだけで、抱え込みが減ります。
2. チームの現在地を口に出して共有する。 今の自分たちはフォーミングか、ストーミングか、ノーミングか。それを話題にするだけで、対立が「異常事態」ではなく「成長過程」に見え始めます。
3. 「してほしくないこと」を「してほしいこと」に言い換える。 「遅刻しないで」ではなく「時間どおりに来てね」。否定形を肯定形に変えるだけで、相手は気持ちよく動けます。
おわりに
この本を一言にすれば、「完璧なリーダーを諦め、凸凹を補い合う最高の仲間になるための指南書」です。
優秀な誰かが来るのを待つのをやめる。今いる仲間の違いを、欠点ではなく配置として見直す。それだけで、動かなかったチームが動き出すかもしれません。変えられるのは他人ではなく自分の関わり方だ、という一点に立ち返らせてくれます。
著者が漫画から引く言葉が、ずっと耳に残ります。「迷ったときは、どっちが正しいかなんて考えちゃダメ。どっちが楽しいかで決めなさい」。チームづくりも、案外そのシンプルな問いから始まるのかもしれません。
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