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あなたの話が「伝わらない」のは声のせい 墨谷那津子

『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』墨谷那津子|ハキハキ話すほど、伝わらなくなる

コミュニケーション・文章術 墨谷那津子
約7分で読めます

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この本の全体像
『あなたの話が「伝わらない」のは声のせい』の図解

本の結論

相手に与える印象は、話の中身より声のほうが大きく左右します。

明日やること

明日の最初の挨拶の前に2秒息を吸い、その息を1音目にのせて文末までまっすぐ言い切る

効く悩み

  • 資料もロジックも磨き上げたのに、会議室で声が届かず何度も聞き返される
  • オンライン会議が増えてから、なぜか一発で話が伝わらなくなった
  • 声が暗い小さいと言われ続け、生まれつきの声質や性格のせいだと諦めている

読むべき人

  • 中身は完璧なのに、本番になると声が頼りなく響いてしまう人
  • 声そのものを変えようとテクニックを足すより、力みを抜く方向を試したい人

読まなくていい人

  • 話の構成や語彙の選び方までこの1冊で学びたい人(本書が扱うのは声という土台までで、その上に何を載せるかは別の本に委ねている)
  • 感覚やイメージに頼るものではなく、検証可能な技術だけを求める人(本書にはイメージトレーニング的な記述も一部混じる)
目次

法廷で「えっ?」と何度も聞き返される弁護士がいました。法律の知識も論理の組み立ても十分なのに、話が届かず自信を失っていきます。彼を変えたのは、話の構成を鍛える訓練ではなく、滑舌と声量を鍛え直すボイストレーニングでした。その後、独立した事務所には依頼が絶えなくなったといいます。

書き手は元NHKアナウンサーの墨谷那津子さんです。この本が取り上げるのは話の組み立てではなく、それを運ぶ乗り物にあたる声そのものです。読み終えると、多くの人が努力の方向をそもそも間違えていたことに気づかされます。

話し方の本は世の中に数多くありますが、その大半は論理の組み立てや言葉選びに焦点を当てています。声そのものを正面から扱う本はむしろ少数派で、しかもアナウンサーという発声の専門家が、現場での実感をもとに書いた本となるとさらに限られます。この希少さこそが本書の価値だといえます。

図解

声は、話の内容よりずっと大きな塊である

相手に与える印象は、話の中身より声のほうが大きく左右します。出発点になるのは、対人コミュニケーションの研究で知られる法則です。相手が受け取る印象のうち、話している言葉そのものが占める割合はごくわずかで、声のトーンや速さ、大きさといった聴覚の情報と、表情や視線などの視覚情報がその大半を占めるといいます。

墨谷さんはこれを氷山にたとえます。話の中身は水面の上に出ている一部にすぎず、声はその下に沈む巨大な塊だという見立てです。

信頼感や説得力を支えているのは、水面下にある声のほうだと考えると、中身を磨いても意見が通らない理由が腑に落ちます。運ぶ側の性能が低ければ、どれだけ質のよい荷物でも届かない、という構図です。

「よそゆきの高い声」が、実は損をしている

丁寧さのつもりで作る高い声は、かえって信頼を損ねています。日本では、電話口で作る明るく高めの声が丁寧さの証だとされがちです。墨谷さん自身、幼いころに方言をからかわれた経験から、学生時代はずっと不自然に高いトーンを作っていたといいます。転機は大学時代のボイストレーニングで、作られた声から本来の地声へと変わり、そこからアナウンサーの道が開けました。

国際的な公的な場では評価がむしろ逆転するという指摘は驚きでした。高すぎる声は幼く知的でない印象を与えかねず、低く落ち着いた声のほうが信頼されやすい傾向があるといいます。良かれと思って作った声が、そのまま損失になっている可能性があります。

かといって、リラックスした地声をそのまま出すだけでは、迫力に欠けたり素っ気なく聞こえたりしてしまいます。そこで本書が示すのが「地声の格上げ」という考え方です。

声質そのものを作り替えるのではなく、いつもの声にしっかりした呼吸の裏づけを足して、力強く響かせます。声を邪魔している余計な力みを取り除くという、足し算ではなく引き算の発想が本書を貫いています。

力みのない声が、いちばん遠くまで届く

力みのない自然体の声が、いちばん遠くまで届きます。「伝わる声」の正体を、本書はナレーター養成学校の校長の言葉を借りて説明します。

「『伝わる声』は『風鈴の音』のようなもの。手で押さえつけたら、音はまったく響かなくなります。」

のどや肩に力が入った状態は、この風鈴を手で押さえているのと同じだといいます。話し手の緊張や強張りは、聞き手にとって余計な雑音になります。反対に自然体の声であれば、相手は話の中身そのものに集中できます。

声を場面ごとに巧みに使い分けることが器用さの証だと思われがちですが、本書はこれも否定します。声色を切り替えるたびにのどと体がこわばり、その硬さがそのまま相手に伝わってしまうからだといいます。

一流と呼ばれる人ほど、日常の声と大事な場面の声との間に差がないという観察も紹介されます。

生放送の直前まであえて雑談で緊張をほぐしていたという著者自身のエピソードも、この一貫性の実践例として挙げられます。

ひと息で言い切ると、聞き手の負担が減る

言葉を区切らず、ひと息で言い切るほうが、聞き手の負担は減ります。話し方教室でよく言われる「一言一句はっきり話しなさい」という指導を、本書は真っ向から否定します。言葉を細かく区切りすぎると、聞き手は頭の中でばらばらの単語をつなぎ直す作業を強いられ、かえって理解が遅れるという理屈です。

丁寧なつもりの区切りが、実は相手に余計な仕事を押しつけていることになります。

代わりに示されるのが「すべり台の法則」です。手順は3つです。

抑揚は意図してつけるものではなく、呼吸の物理法則に乗るだけで自然にできあがるという説明が興味深いです。

応用技もいくつかあります。

滑舌についても常識がひっくり返ります。口を大きく開けることより効果的なのは、口の奥の空間を開けることだといいます。音が詰まる原因は入口の狭さではなく通り道のふさがりにあるため、入口だけを広げても状況は変わりません。

舌を限界まで出したまま苦手な言葉を発音し、そのあと普通に戻すと発音が驚くほど明瞭になる、という体感型のトレーニングが紹介されます。

声のガソリンは、たっぷり吸った息

声量が乏しいのは生まれ持った声質のせいではなく、燃料となる息が足りないだけです。土台にあるのは、声のエネルギー源は呼吸だという、拍子抜けするほどシンプルな事実です。この言い切りは、声にずっと引け目を感じてきた読者にとって救いになるはずです。

呼吸を体得するトレーニングも複数用意されます。

とりわけ最後のトレーニングが興味深いのは、声量を意識で調整する練習ではなく、目で捉えた距離に応じて呼吸量が自動で調整される人間の機能を利用している点にあります。

大声を出そうと気張るのではなく、届けたい相手を目で捉えるだけで、必要な息は勝手に吸い込まれるといいます。

早口の癖を直す場面にも、同じ発想が使われます。話す速度を計測する訓練の代わりに、相手が確実に受け取れるよう届けようと考えるだけで、体の仕組みが働いて自然と速度は落ちます。

技術を自分のために磨くのではなく、受け取る側を主語にして声を設計し直すという転換が、本書を通じて繰り返し語られます。

日常の悩みへの処方箋もあります。パソコン作業に没頭するあまり呼吸が浅くなる状態への対策や、本番前にのどの調子が悪いときは何よりもしゃべらないことを徹底するという割り切りです。

焦って声を出す練習を続けるのはかえって逆効果で、黙読とイメージトレーニングに徹し、連絡は筆談やメールで済ませるのが得策だといいます。

在宅勤務が増えて画面越しの会話が中心になったことも、声への負担を増やしている要因の1つとして挙げられます。カメラの前で長時間座ったまま話し続けると、呼吸が浅くなっているのに気づきにくいのです。

オンライン会議の合間にわざと立ち上がって伸びをするだけでも、呼吸の深さはかなり戻ってくるといいます。

緊張しやすい人への助言も具体的です。本番前に手のひらや足の裏をぎゅっと握りしめてから一気に力を抜くと、余計な力みだけが抜けて声帯の動きは妨げられない状態になるといいます。

全身に力を入れず声帯だけを狙って緊張をほぐすのは難しいので、いったん体全体を力ませてから解放する遠回りのほうが結果的に近道になる、という逆説がここでも登場します。

著者自身、アナウンサー時代に緊張で声が震えた失敗を何度も経験し、そのたびに原因を技術面から分析し直してきたといいます。生まれつきの気の強さや度胸ではなく、呼吸と発声という再現可能な手順の積み重ねで安定した声を作れると考えると、本番への向き合い方も変わってきます。

明日の最初の挨拶の前に2秒だけ息を吸い、その息を1音目にのせて文末までまっすぐ言い切ってみます。会議前には、洗面所や個室で自分の名前と社名を舌を出したまま3回言い、そのあと普通に1回言ってみます。

次の報告は、途中で区切らずにひと息で言い切ることを意識し、息が足りなくなるなら呼吸の練習に戻るサインだと捉えます。

声にまつわる苦手意識は、多くの場合、生まれ持った質そのものへの評価だと信じ込まれてきました。だが原因が技術の側にあるなら、練習という手段で変えられます。話の中身をどれだけ磨いても、それを運ぶ器が整っていなければ届きません。まずは器のほうから手をつけてみる価値があります。

合わせて読みたい

声という土台の上に何を載せるかを、さらに深掘りできる3冊を挙げておきます。

『人は話し方が9割』永松茂久 声という物理に振り切った本書に対し、こちらは相手を思いやる心構えに軸足を置く一冊。声が出ない、滑舌が悪いという身体の課題と、聴く姿勢という心の課題は別物だと整理できます。→記事を読む

『1分で話せ』伊藤羊一 著者自身が読者に薦めている一冊でもあります。伝わる声という器を整えたあと、そこに何を盛り込んで論理立てて組み立てるかを補ってくれる内容です。→記事を読む

『話し方の戦略』千葉佳織 話し方は生まれ持った才能ではなく、訓練によって変えられるという立場が本書と重なる一冊。声の出し方を変えれば結果も変わるという主張を、また違う角度から確かめられます。→記事を読む

明日の1アクション

明日の最初の挨拶の前に2秒息を吸い、その息を1音目にのせて文末までまっすぐ言い切る


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