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『インド式「グルノート」の秘密』佐野直樹|走り続けるほど、人生は壊れていく

キャリア・働き方 ✍ 佐野直樹
約7分で読めます

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『インド式「グルノート」の秘密』
目次

仕事も投資も全力でやってきた。それなのに、ふと気づけばスタッフは全員辞め、妻とは離婚し、手元には借金だけが残っていた。

これは自己啓発を語る人が引く「わかりやすい失敗談」ではありません。著者・佐野直樹さん自身に本当に起きたことです。

累計1億5000万円を自己投資し、理美容室のフランチャイズを広げた経営者が、そこまで積み上げてきたものを丸ごと失った。どん底で行き着いたインドの奥地で、世界的企業のCEOを指導する「グル」(サンスクリット語で指導者・導師を意味します)から告げられたのが、この一言でした。

「あなたは、ベンツに乗ったブッダになりなさい」

本書は、そのグルの教えを、誰でも1日5分でできる「ノート術」に落とし込んだ一冊です。カルマや引き寄せといった言葉が並ぶのでスピリチュアル本に見えますが、中身は「走り続けて壊れかけた人が、どうやって自分を立て直すか」というきわめて実務的な話でした。

走るのをやめろとは言いません。走る前に、一度止まれ、という本です。

図解

「ベンツに乗ったブッダ」が意味するもの

本書のすべては、このフレーズに凝縮されています。

ブッダとは、苦しみのない状態で生きる人のこと。愛・感謝・喜び・慈悲を携えて生きる人を指します。ベンツは、経済的な成功の象徴です。

重要なのは、グルがこの二つを対立させていない点でしょう。多くの自己啓発は「お金より心」か「心より結果」のどちらかに寄りがちですが、本書が説くのは、内面の悟りと、多くの人を助けた対価としての富を両立させる生き方です。

富は奪って得るものではなく、人を喜ばせ、誰かの苦しみを解消した結果として自分のところにやってくる――というのが本書の富の定義です。だから欲を持つこと自体は悪ではない。悪い状態から焦って欲を追うのが問題なのだ、と。グルが指導するCEOには年に100億円を稼ぐ人もいるそうで、お金を否定するための本ではまったくありません。ここが、清貧を勧めるタイプの精神論とはっきり分かれるところです。

そして本書は、外側の成功と内側の成功を切り分けます。地位やお金という外側だけを満たしても人は幸せにならない。内側が「成幸」して初めて、外側の問題が小さく見えてくる。

著者がすべてを失った原因も、突き詰めれば未来への「恐れ」――まだ起きてもいない出来事を頭の中で先取りして怯えていたこと――だった、と明かされます。

走り続けるほど、人生は壊れていく

グルは、人間の状態はたった2種類しかないと言い切ります。

ひとつは「苦しんでいる状態」。怒り、恐れ、悲しみ、傲慢、比較、恨み、後悔、不安。もうひとつは「美しい状態」。愛、感謝、喜び、慈悲、幸福、敬意、安心。

人は一瞬ごとに必ずどちらかにいて、どちらで過ごす時間が長いかで人生の幸不幸が決まる。すべての苦しみは自己中心的な考え方から生まれる、というのがグルの診断です。

ここで狩人と弓矢の寓話が出てきます。禅の師が狩人に矢を何度も放たせると、やがて狩人が音を上げます。「この調子で放ち続けたら弓が壊れます」。師は言いました。休みなく放てば弓は壊れる。同じことが、休まず走り続ける私たち全員に起きる、と。

つまり休む時間などない人ほど、休んではいけないのではなく、休まなければならない。順序が逆なのです。立ち止まり、沈黙し、熟考するときだけに「新生」――新しい生まれ変わり――が起こる、とグルは説きます。

古代インドの医師が絶え間ない消化に休息を与えるため陰暦で11日間の断食を処方していた、という挿話も添えられます。

とはいえ長い休暇は要りません。朝のコーヒー、外をぼんやり眺める時間、ゆっくりの入浴。日常のわずかな時間でいいから意識的に止まる。1日5分、止まって内側を観察すれば苦しみから解放される、というのが主張の核です。

感情への向き合い方も独特でした。普通はネガティブな感情を抑え込もうとしますが、グルは逆で、苦しみは立ち止まってその本質を見るだけで消えていく、と言います。

逃げるのではなく静かに観察する。著者は自分の怒りを観察して、その正体が「認められたい」という承認欲求だったと気づいたそうです。家族や部下が思い通りに動かず苛立つとき、その裏に自分の欲があると見抜ければ、他人を操ろうとする手を緩められます。

ノートを4つに割ると、頭が静かになる

その「立ち止まる5分」に使う道具が、グルノートです。

なぜノートなのか。瞑想が内側を観察する行為なら、書くことも同じく内側を視覚化する行為だからです。頭の中の嫌な考えを紙に出すと、それを客観的に眺められる。書くこと自体が瞑想になる、という理屈で、だからスマホではなく手書きが勧められます。

やり方はシンプルです。見開きを十字に4分割し、次の順で埋めます。

右上=チッタ(心の動き)。今の不満や苦しみを、誤字も気にせずありのまま書き殴る。「体がだるい」「失敗が怖い」「上司にムカつく」。ポジティブに変換せず、まず正直に吐き出すのがコツです。

右下=ディバイン(内なる神)。そのチッタが解決した理想の状態を、映像が浮かぶほど具体的に。「プレゼンが大成功して拍手された」というふうに鮮明に描くほど効きます。

左上=ディクシャ(叶った時の感情)。理想が実現したら自分はどう感じるか。「心から安心した」「誇らしい」「ワクワクする」と、感情の言葉を書く。

左下=スワダルマ(魂の目的・行動)。左上の感情を味わいながら、今日できる小さな行動を書く。「リラックスした気持ちで資料を1ページ作る」。感情を先に味わってから動くのが肝です。

書く前には、吐く息を長くする深呼吸を3回、眉間に小さな炎をイメージし、口角を上げて微笑む――という小さな儀式が置かれています。理想の状態を先に感じてから行動を決める設計は、目標達成術としても筋が通っていると感じました。

休む日を、いちばん先に決める

長期の目標設定でも、本書は世間と逆を言います。

やりたい夢や計画を真っ先に書くのではなく、最初に書き込むのは「立ち止まる日」――休暇だ、と。自分の誕生日や家族の行事を、1年分のカレンダーに一番先に入れる。仕事の予定はその後です。

ここで効くのが、天井を支えるヤモリの寓話。天井を支えていると思い込んだヤモリは怖くて動けない。でも本当は、ヤモリが動いても天井は落ちない。著者も「自分がいないと会社が回らない」と思い込んでいましたが、ハワイへ長期休暇に出てみると、スタッフは自分で考えて動き、むしろ成長していたそうです。

自分が休んでも世界は崩れない――その制限を外した先に、余白が生まれます。

願いを1000倍で受け取る「善行」の仕組み

本書のいちばん意外なパートです。

カルマの源は思考・言葉・行為の3つで、これらはすべてその人の「状態」から生まれる。グルによれば、良い言葉や行為は10倍、良い思考は100倍、良い「状態」からの行いは1000倍の結果を生む。逆に悪い状態からの行いはマイナス1000倍で返る、と。

その1000倍を引き寄せるのがサットカルマ(善行)で、対象は「ソウルサークル」――家族や仲間など感情的に深くつながった人々です。見返りを求めず、彼らの苦しみを軽くする手助けをする。

著者は仕事のパートナーの幸せを心から願い、一番の繁盛店を彼に任せた。すると彼の同期の美容師が続々と面接に訪れ、人手不足の業界で会社が伸びたそうです。

願いは、執着を捨てて忘れた頃に予想外の形で叶う、とも言います。体力的に仕事がきつかった40代の女性が「自分らしく楽しくお客様と過ごせたら」とディバインに書いて執着を手放したら、数カ月後に人材育成メンバーに選ばれ、客数も単価も増えていった、というエピソードも。

なお本書は、豊かさをお金だけで測りません。「八つの鍵」として、知恵、使命、人間関係、子孫、資産、美・健康、チャレンジ、スピリチュアリティ(貢献)を挙げ、どれか一つに特化しても幸せにはならない、8つのバランスが持続可能な人生をつくる、と説きます。

加えてグルは「無関心も暴力の一種」と言います。他人の苦しみを見て見ぬふりをすることも、心を閉ざし愛から遠ざかる行為だ、と。だからソウルサークルへの善行が意味を持つわけです。

「知っている」と「使っている」は別物

最後に本書が突きつけるのは、行動です。

私たちは思い込みで自分に制限をかけている。それを外せば、自分は宇宙と同じで無限大だと気づく。でも、気づくだけでは足りない。グルの言葉はこうです。「知っている」と「使っている」「実践している」は、まったく違う結果を生む。

運命はいきなり現実になるのではなく、状態から意識が生まれ、思考・感情・気分・気質・性格・行動・習慣を経て運命になる。すべての起点は「状態」です。だから1日5分ノートに向かって状態を整える。その小さな実践が、回り回って運命を変えていく――というのが本書の結論でした。

まず試すなら三つ。ノートを十字に割り、チッタ→ディバイン→ディクシャ→スワダルマの順で5分書く。手帳に仕事より先に「何もしない日」を入れる。

モヤモヤしたら感情を全部紙に出して眺める。1億5000万円とどん底の末に著者がたどり着いたのが、たった5分ノートを開く習慣だった、という落差が、この本を妙に信じたくさせます。

今夜、ノートを十字に割ってみませんか。


合わせて読みたい

『書く瞑想』古川武士さん グルノートと同じく「書くこと=瞑想」という発想の本です。1日15分ペンを持つだけで頭の中のカオスが整理される手法を知りたい人に。チッタを書き出す部分の理解が一段深まります。

『反応しない練習』草薙龍瞬さん 苦しみは自己中心的な考え方から生まれる、というグルの診断と地続きの一冊。怒りや不安にムダに反応しない心の使い方を、仏教の知恵から実践的に学べます。

『ずっとやりたかったことを、やりなさい。』ジュリア・キャメロン 本書でも関連書として名前が挙がる「モーニングページ」の原典。毎朝3ページ書き出すワークは、チッタを吐き出す習慣をさらに強力にしてくれます。


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