学生時代、1年間ブログを書き続けた人がいます。執筆時間は月100時間。それで稼いだ最高月収は、293円でした。
時給に換算すると3円。普通なら、ここでやめます。
でもこの人は、やめませんでした。その後、20代前半で年商10億円を超える会社をつくります。何が分かれ目だったのか。
その人が迫佑樹さん。『人生攻略ロードマップ 「個」で自由を手に入れる「10」の独学戦略』の著者です。本書は、お金・時間・人間関係の不安を取り除いた状態を「人生を攻略した状態」と定義し、そこへ最速でたどり着く道筋を10ステップで描いた一冊。
精神論ではなく、利回り・経費・労働時間に具体的な数字が添えられているのが特徴です。読んでいて言い訳ができなくなる。そういう本です。

この本が刺さる人、刺さらない理由
まず正直に書きます。この本は、読む人をかなり選びます。
会社の外で自分の力で稼いでみたいけれど何から手をつければいいか分からない人。この本は、ゼロから月5万円稼ぐ話から事業の自動化まで、途切れずに地続きで案内してくれます。
「やりたいことが見つからない」とずっとモヤモヤしている学生・若手社会人にも効きます。ただし効き方が独特で、悩みそのものを別の角度から突いてくる。後で詳しく触れますが、ここが本書の一番の急所です。
副業はもう始めたのに、結局すべて自分で抱え込んで疲弊している人にも刺さります。本書の後半は、まさにその「自分が働き続ける罠」からの抜け方に充てられているからです。
逆に、ITリテラシーや実名でのSNS発信に強い抵抗があって調整する気もない人、貯金を美徳とする価値観そのものを手放せない人には、たぶん序盤で反発が来ます。それくらい、価値観に踏み込んでくる本だということです。
まず壊しにくる、5つの常識
本書が面白いのは、ノウハウ本の顔をしながら、最初にやるのが価値観の破壊だからです。著者は、私たちの頭に染みついた常識を5つ挙げ、順番に壊していきます。出し惜しみせず並べておきます。
ひとつ、お金は汗水垂らして稼ぐもの、ではない。金銭的に豊かになるとは「投資→回収を高速で回す」ことだと言い切ります。労働の対価という発想を、いったん脇に置けというわけです。
ふたつ、自己投資こそ最もコスパのいい投資である。不動産や株式の利回りが年5〜10%なのに対し、知識やスキルへの投資は年利数百%にもなり得る、と著者は見ます。
みっつ、セーフティネットを複数張りながら攻める。失敗しても食いっぱぐれない保険を複数持つことが、むしろ本当の安定を生むという考え方です。よっつ、勝ち方を知ったうえで、勝てる戦いだけを繰り返す。
そして5つ目が、本書を貫く背骨です——やりたいことより、まずやれることを増やせ。この5つを浴びた時点で、すでに読者の前提はだいぶ揺さぶられています。著者にとってノウハウは後段で、まずOSを書き換えにくる構成なのです。
自己投資の利回りは、株や不動産の比じゃない
その屋台骨が、自己投資を「最もコスパのいい投資」と捉える視点です。そして著者は、これを自ら地で行きます。
最初に投じたのは9万円。大学1年のとき、アルバイトで貯めたお金をプログラミングスクールに使います。ここからの回収のされ方が、本書の説得力の源です。
スキルを身につけた著者は、まず時給1500円のプログラミング系バイトを見つけ、年間約70万円を稼ぎます。9万円が70万円になった。これが回収の第一段階です。
さらにそのスキルで、チャットシステム開発の案件を単価145万円で受注する。稼働300時間ほどなので時給に直すと約5000円。最初のバイトの3倍以上になっています。
回収したお金を、また次のスキルや事業に投じる。この投資→回収のループを高速で回し続けた先に、年商10億円があった、という流れです。著者の表現を借りれば、これは「時間をお金で買う行為」。
独学なら1000時間かかる勉強を、9万円払って500時間に縮め、浮いた時間で稼ぐ。だから有料スクールを勧めるのです。
「『1000時間かけて独学する』より、『9万円を払って半分の500時間で勉強し、余った時間で稼ぐ』ほうが圧倒的に効率がよいです。」(迫佑樹『人生攻略ロードマップ』)
ここで私が膝を打ったのは、その裏返しの主張のほうです。著者は預金残高が多い状態を良しとしない。それは「投資→回収のサイクルが止まっている」状態だから。
真面目に貯めているつもりが、実はお金を遊ばせている——。貯金を当然の美徳としてきた人ほど、この一文で一瞬ヒヤッとするはずです。私は、ここに本書の思想がぜんぶ凝縮されていると思いました。
「知らないと損にすら気づけない」という、いちばん怖い話
本書で一番こわかったのは、稼ぐ話ではなく知識の話でした。
著者の友人が、研究レポートのデータを1時間以上かけて手入力し、グラフを作っていた。その横で著者は、同じ作業をプログラムで一瞬で終わらせていた。
問題は時間を浪費したことではない、と著者は言います。「もっといい方法がある」と知らなければ、別の手段を考えることすらできない。損をしていることに、永遠に気づけない。
「知識がないと『損をする』どころか、『損をしていること』にすら気づかないということも普通に起こり得ます。」(同書)
この指摘が効くのは、自己責任論に聞こえて実は希望の話だからです。文化庁の2018年度「国語に関する世論調査」では、1カ月に1冊も本を読まない人が47.3%、ほぼ半数にのぼります。
つまり、毎月たった1冊読むだけで、勉強量で日本人の上位52.7%に入れる。プログラミングの学習も途中で挫折する人が8割いるので、続けるだけで上位2割です。少しの努力で簡単に上位層に入れる。著者が「勝てる戦いだけを繰り返せ」と言うのは、この構造を突いているわけです。
では何を学べばいいのか。著者が勧める「ベーススキル」の条件は3つ。需要が供給を上回っていること、リモートや独立がしやすいこと、自分がやっていて楽しいと思えること。
具体的には、プログラミング・動画編集・デザイン・広告運用代行・SNS運用代行など。経済産業省の試算ではIT人材の不足は2030年に79万人規模へ拡大する見込みで、市場の裏付けもあります。
面白いのは、難しいのではなく「我慢できなかった人が勝手に挫折していく」スキルこそ狙い目だという視点。続けること自体が参入障壁になり、希少性が生まれる、という逆説です。
発信すると、営業の力関係がひっくり返る
スキルがある程度身についたら、著者は発信を勧めます。SNSやブログです。理由は3つあって、どれも力関係の逆転に関わります。
ひとつ、仕事を「探す」のではなく「集まってくる」状態をつくれる。複数の発注者が集まれば価格競争から抜け出し、相場より高い報酬の仕事を選べるようになります。
ふたつ、自分の経験や知識そのものを、教えるサービスとして売れる。みっつ、価値観に共感する「ファン」や「同志」が増え、次の事業の味方になってくれる。
発信に踏み出せない人への著者の答えがいい。自分の拙い情報でも、過去の自分と同じレベルの人にとっては一番参考になる、というものです。上級者の完璧な情報より、「少し上の先輩」の生々しい情報のほうが役に立つ。
実例も豊富です。大企業で事務をしていた女性が、エクセルや資料づくりのコツをTwitterで発信したら反響を呼び、「資料づくりのコンサルタント」として独立してしまった。
発信が営業を代わりにやってくれた格好です。信用の稼ぎ方も具体的で、最初は実績づくりのため相場の半額や無料で仕事を引き受け、著者はこれを「お金ではなく信用を稼ぐ広告費」だと位置づけます。
自分が働き続ける「セルフブラック」から抜ける
ここまでは稼ぐ話でした。本書の後半は、稼ぎながら自由になる話です。
スキルで稼げるようになると、多くの人が次の罠にハマります。全部を自分で抱え込み、働きすぎて自分にストレスをかける状態。著者はこれを「セルフブラック現象」と呼びます。雇われていないのに、自分で自分をブラック企業にしてしまう。
抜け道が「外注化」と「自動化」です。私がこの章で一番腑に落ちたのが、この2つの区別でした。外注化は、誰がやっても結果が変わらない「事業の一部」(問い合わせ対応など)を人に任せること。自動化は、「事業そのもの」を事業責任者に任せ、自分が1秒も動かなくても回る仕組みをつくること。
象徴的なのが、年商3億円の学習塾の事例です。受験勉強のYouTube動画に5000万円の広告費を投じ、1000万回再生から300人の入塾者を獲得する仕組みをつくった。
本人の稼働は年間10時間ほど、それで利益は年1億円以上。ここまで数字で示されると、夢物語ではなく設計の話に見えてきます。
外注化で労働時間を減らし、自動化で労働をゼロに近づける。次に「事業の分散」で、領域がかぶらない事業を複数持ち、ひとつが倒れても総崩れしないようにする。
最後に余剰資金を年利5%ほどの「資産運用」へ回す。ただし著者は、資産運用はあくまで「守り」だと釘を刺します。お金を増やすフェーズでは、事業への投資のほうが圧倒的に効率がいいからです。
ノウハウより、私が推したい「順番の逆転」
数字と事例で厚く積まれた実践のなかでも、私が一番推したいのは、本書を貫くメッセージそのものです。
「やりたいことが見つからない」悩みの原因は、やる気でも才能でもなく、「やれること(選択肢)」の幅が狭いだけだ——というのが著者の診断です。
「『本当にやりたいこと』を⾒つけるためには、⾃分の『選択肢』を増やしていくしかないということです。」(同書)
やりたいことがない大学生でも「1億円を渡されたら?」と聞かれれば、世界一周したい、店を出したい、と次々に出てくる。人は現実的な範囲でしか、やりたいことを思い描けないからです。だから順番を逆にする。先にスキルと収入で選択肢を増やせば、やりたいことは後から自然に見つかる。
この発想を支えるのが「やりたくないことリスト」です。タワマンに住みたいといった非現実的な願望ではなく、「満員電車に乗りたくない」といったリアルな不満を書き出す。すると「今やらなければならないこと」が浮かび上がり、行動の燃料になります。
そして最終地点に置かれるのが「お金持ちループ」。スキルを持ち結果を出して発信する人のもとには、他業界の優秀な人脈・知識・経験・情報が複利で集まり続ける。
お金持ちがお金持ちであり続ける正体はこれだ、と著者は言い切ります。この発想は自己分析から入る本とは真逆で、両方知っておくと自分に合う順番が見えてきます。
読後に、まず何をするか
私がこの本をおすすめしたいのは、「いつか独立したい」と思いながら、その「いつか」が10年単位で先延ばしになっている人です。本書のいいところは、最初の一歩が驚くほど地味で具体的なこと。
まず、必要収入を「ギリギリ生活できる額」と「少し贅沢ができる額(たとえば月50万円)」の2段階で数字にする。ゴールが数字になると、逆算ができます。
次に「ゼロイチ」を経験する。フリマアプリでの不用品販売か、ポイントサイト(クレジットカード発行など3枚程度)で、5万〜10万円を稼ぐ。金額より「雇われなくても自分で稼げる」という自信が目的で、稼いだお金は次の自己投資の種銭にします。
そして種銭でベーススキルをひとつ選び、独学にこだわらず有料スクールで時間を買い、学びながらSNS発信を並行する。「3年前の自分にアドバイスするつもりで」発信すれば、何を書けばいいか迷いません。
一点だけ注意を。本書のベーススキルは一定のITリテラシーを前提とし、実名でのSNS発信を勧める場面もあります。そこに抵抗がある人は中盤で心理的ハードルを感じるはず。ただ著者自身、そこは状況に合わせて調整していい部分だと逃げ道を用意しています。
著者が繰り返すのは、収入は価値提供の成績表だ、ということ。誠実に価値を届けて稼ぐことは、世の中を潤す行為だと。その思想に一度ふれてみたい人に、本書は強くおすすめできます。まずは不用品をひとつ、フリマアプリに出してみる。その小さな成功体験が、ロードマップの入口です。
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