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『物語思考』けんすう|「やりたいこと探し」をやめると、人は動き出す

キャリア・働き方 ✍ けんすう
約9分で読めます

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『物語思考』
目次

「やりたいことを見つけなさい」。この言葉を、私たちは何度浴びせられてきたでしょうか。

自己分析シートを埋め、過去の体験を掘り返し、それでも答えは出てこない。やがて、見つからないのは自分の情熱が足りないせいだと結論づけてしまう。そういう袋小路に入った経験のある人は、決して少なくないはずです。

けんすう(古川健介)さんの『物語思考』は、その問いの立て方そのものを疑います。やりたいことなんて、無理に探し当てる必要はない。代わりに「なりたい状態」を先に決めて、それを演じるキャラクターを作る。すると人は、自然と動き出す。そういう逆転の発想で組み立てられた一冊です。

図解

「動けない人」を名指しする本

世の自己啓発書の多くは、対象をぼかします。「成長したいすべての人へ」と謳えば、間口は広がるからです。

しかし本書は、はっきりと読者を絞り込みます。狙いを定めているのは、行動したほうがいいと頭ではわかっているのに、なぜか動けない人。停滞を抱え、自分を責めがちな人です。

この名指しの鋭さは、著者自身が精神論の限界を知り尽くしていることの裏返しでしょう。「やればできる」「気持ちの問題だ」では人は動かない。だからこそ本書は、気合ではなく手順を渡そうとします。

核心は「探さない、作る」

本書がまず突きつけるのは、自己分析への懐疑です。

過去をいくら深掘りしても、未来のやりたいことは出てこない。だったら順序を逆にして、未来の「なりたい状態」を先に決め、そこから逆算しよう。著者はこれを「Do(何をしたいか)よりBe(どうありたいか)」という言葉で表現します。

「起業する」「本を書く」といったDoは、そもそも見つけにくいし、見つからないと苦しい。けれど「かっこいい大人でいたい」「自由に生きたい」というBeなら、誰でもうっすらと思い描けます。出発点を変えるだけで、行き詰まりが解けるという発想です。

そして本書の最大の強みは、ここから先がすべて具体的な手順だという点にあります。「夢中になれるものを探せ」とは言わない。レシピのように段取りを示す。

「マニュアルどおりにやれば、誰でもうまくいく可能性が高い」

この身も蓋もなさが、本書の個性です。『世界一やさしい「やりたいこと」の見つけ方』が過去と内面を体系的に掘るのに対し、本書は過去をほとんど見ない。

『嫌われる勇気』のように価値観の根を変えるのでもなく、ただ行動の段取りを手渡す。情熱や才能の有無を問わない設計だからこそ、動けない人にも入口が用意されている、と私は読みました。

まず「成功」と「幸せ」を切り分ける

本論に入る前に、本書は重要な前提を置きます。成功と幸せは別物だ、という整理です。

成功とは、困難な目的を成し遂げること。ゴールに到達した瞬間に、それは終わる。一方で幸せは、いま現在のプロセスが充実している状態を指します。

「何が起ころうとも『今が充実している』と感じられる状態こそが、目指すべきものだと思っています。」

困難を乗り越えて成功すれば幸せになれる――私たちはそう信じがちです。けれど本書は、ゴールに着いても幸せとは限らないと言い切る。むしろ日々の過程そのものが充実していることこそが幸せだ、と。

だから自分の人生を一本の物語として捉え、その過程を主人公として味わおう。これが「物語思考」というタイトルの由来です。目的地ではなく道中を楽しむ構えを先に据えるからこそ、後述する数々の手順が「結果が出なくても損はしない」前向きな実験に変わる。

ここは見落とされがちですが、本書の土台だと感じます。

ステップ1 頭の枷を外し、なりたい状態を100個書く

人が大きな目標を描けないのは、無意識に自分でブレーキを踏んでいるからです。本書はこれを「頭の枷(かせ)」と呼びます。

「年収1000万円は無理だから、まあ600万円くらいで」と勝手に値引きしてしまう、あの心の動きです。ちなみに本書によれば、年収1000万円以上は日本人の4〜5%、年収1億円の人も日本に2万人いるとされます。

無理だと思い込んでいた数字も、現実には存在している。枷の多くは事実ではなく思い込みだ、というわけです。

枷を外す方法はシンプルで、「10年後になりたい状態」を制限なしに100個書き出す。お金も能力も度外視して書く。未来像が鮮明になるほど、それが今の行動を引っ張ってくれます。

とはいえ、100個も出ない人がほとんどでしょう。そこで本書が示す抜け道が秀逸です。先に「こうはなりたくない」を書く。食べたいものより食べたくないもののほうが思い浮かべやすいのと同じで、嫌なことは案外スラスラ出てくる。

それを反転させればいい。やりたいことが見つからない人ほど、避けたいことは明確だ――この観察は、多くの人の実感に刺さるはずです。

なぜ未来からの逆算が効くのか。本書はダルビッシュ有さんのエピソードを引きます。二軍に落ちそうだったとき、彼は「40歳でクビになり、神様に頼んで20歳に戻された」と想像して奮起したそうです。

未来を先に置くことで、今やるべきことが逆照射される。逆算とはそういう装置だと理解すると腑に落ちます。

ステップ2 「キャラ」を作って自分を客観視する

なりたい状態が描けたら、次はそれを体現する「キャラ」を設定します。

ここで本書は、もう一つの常識をひっくり返します。多くの人は、努力して結果が出てから自分は変われると思っている。でも順番は逆だ、と。

「先に決めるべきは自分のキャラクター(=アイデンティティ)なんです。」

先に「自分はこういうキャラだ」と決めて、そのキャラがやりそうな行動をとる。すると結果がついてきて、自己認識も後から追いつく。象徴的に紹介されるのが矢沢永吉さんです。スタッフのミスやホテルの部屋について、彼は「俺はいいけど、YAZAWAはなんて言うかな」と考えるといいます。

生身の自分と、ファンが期待する「YAZAWA」というキャラを切り離す。キャラを客観的にプロデュースして演じきる。この「他人事化」によって、迷いや不安が消えて動きやすくなる

本当の自分と違っていてかまわない。むしろ極端でわかりやすいキャラのほうが演じやすい、というのが面白いところです。「自分らしさ」に縛られて動けない人にとって、これは解放の理屈になり得ます。

ステップ3 行動が、キャラを作る

キャラは設定して終わりではありません。本書のいちばん刺さる主張がここに置かれています。内面が行動を生むのではなく、行動が内面を作る、という逆転です。

私たちは他人を、その行動から判断します。実は自分自身についても同じで、自分の行動を見て「自分はこういう人間だ」と後から認識している。だとすれば、行動を変えれば、自分というキャラは書き換えられる。

「『自分の物語の登場人物を変える』だけで、自分を変えることができるのです。」

極端な例として挙げられるのが「バ美肉おじさん」です。美少女のキャラとして活動するうち、リアルで女性扱いされないことに傷つくようになり、精神の女性化が進んだといいます。演じている役が、中身を引きずっていく。フィクションのはずの設定が、本人を侵食していくわけです。

実践としては、設定したキャラが「上司に怒られたとき」にどう振る舞うかをシミュレーションし、その通りに動いてみる。心の準備が整うのを待つのではなく、台本を先に書いて演じる。

発想としては演技論に近く、心理学でいう自己知覚理論とも響き合います。気分を変えてから動くのではなく、動くことで気分のほうを後追いさせる、という順番の組み替えです。

ステップ4 環境と立場が、人を決める

意志の力で自分を変えるのは難しい。だったら環境を変えればいい。本書は人の性格や能力を、所属するコミュニティと与えられた立場の産物として捉えます。

人の能力は、所属するコミュニティの平均に引き寄せられる。本書によれば、スタンフォード大学の学生は卒業後に全員が起業すると答えるそうです。起業が当たり前の環境では、むしろ就職するほうがエネルギーを要する。

立場もまた人を変える。ある真面目な警察官は、独裁政権下では反対派を厳しく逮捕し、平和な国では優しく道案内をした。同じ人間でも、環境と立場しだいで行動はまるで変わるのです。

問題は、理想のコミュニティにどう入り込むか。正面から頼んでも、実績のない人は相手にされません。そこで本書が持ち出すのが「サードドア」という考え方です。

行列に並ぶ正面突破(ファーストドア)でも、コネや特権で入る裏口(セカンドドア)でもない、第三の抜け道。具体的には、相手が今いちばんヒットさせたいプロジェクトの、一番の顧客・ファンになること。

「相手が今一番ヒットさせたいと思っているサービスを使って、一番の顧客になる」

著者自身、ほぼ日のイベントでハラマキをつけてアピールし、糸井重里さんとの関係を深めたといいます。そして入った後は「クイックウィン」を狙う。掃除や挨拶など、絶対に勝てる小さなことで確実に成果を出し、信頼を積んでから大きな挑戦に移る。

ここでも一貫して、精神論ではなく順序の設計で押し切っています。

加えて本書は、応援してくれる仲間は身近な人ほど見つからない、と釘を刺します。近しい人ほど現状維持を望み、あなたの変化を不安がって引き留める。だから仲間は、遠い人やSNSの先で探すほうがいい。耳の痛い指摘ですが、思い当たる節のある人は多いでしょう。

ステップ5 物語を転がす――5秒の一歩とリスク管理

最後は、止まらず進み続けるための技術です。

動けないのは、やる気がないからではない。やる気は、行動しないと出てこない。だから最初の一歩を「5秒で始められる」レベルまで小分けにします。本を読むなら、「スマホを手に持つ」「検索する」「本を買う」「ページを開く」と分解する。小さく踏み出してしまえば、後からやる気は湧いてくる。

堀江貴文さんは、なぜ毎週大量のメルマガを書けるのかと問われ、「座って、書き終わるまで立たなきゃいいじゃん」と答えたそうです。完璧さより、まず手をつけること。やる気の到来を待たない構えが共通しています。

もう一つの鍵が、判断と決断の区別です。判断は、情報を集めれば誰でも同じ結論にたどり着くもの。決断は、いくら情報を集めても意見が分かれることに、自分で優先順位をつけて決めること。

この二つを混同し、決断すべき場面で情報集めを続けると、永遠に動けなくなる。先延ばしの正体をうまく言い当てた整理だと思います。

そして本書の決め台詞がこれです。

「リスクは『避ける』ものじゃなく、『管理』するものです。」

挑戦する/しないの2択で固まるのではなく、起こりうるリスクを書き出し、回避方法と、起きてしまった場合の対策を先に用意しておく。致命傷さえ避ければ、あとは打席に立ち続けられる。失敗もまた、物語を面白くする見せ場になる、と本書は言います。

「失敗や敗北をするからこそ、魅力的だったりもする。物語として考えると、失敗はまったく無駄じゃないんです。」

裏づけも添えられています。学習初期に無駄なルートをたくさん通って失敗したネズミほど、早く迷路の正解にたどり着いたという実験。あるいはマシュマロ・チャレンジで、ひたすら試し続けた幼稚園児が、MBAの学生や弁護士よりも高い建造物を作った話。

失敗の量こそが近道になることもある、というわけです。最初に成功と幸せを切り分けておいたからこそ、失敗を恐れずに試せる――この前提と結論がきれいに呼応しているのが、本書の構成の巧みさだと感じます。

今日からやる3つのこと

本書の手順を、最初の一歩に落とすとこうなります。

1. 「なりたい状態」を書き出す 10年後になりたい状態を、お金や能力の制約を無視して書く。100個が理想ですが、まずは思いつくだけでいい。出てこなければ「こうはなりたくない」を書いて反転させる。

2. 最初のタスクを「5秒」まで小分けする やりたいことの最初の一歩を、「やる気が出たら」と待たずに、5秒で始められる単位まで分解する。挑戦が読書なら、まずは「スマホを手に持つ」まで。やる気は行動の後に来ます。

3. リスク管理表を作る 挑戦をためらっているなら、起こりうるリスクと、その回避策・事後の対策を紙に書き出す。最悪のケースに手当てができていれば、心理的なハードルは確実に下がります。

おわりに

読み終えて、少し肩の力が抜けました。やりたいことが見つからないのは、欠陥ではなかった。探す方向が、そもそも違っていただけだったのです。

なりたい状態を一つ決めて、そのキャラとして5秒の一歩を踏み出す。結果は後からついてくるし、たとえつかなくても、その過程自体が幸せだと本書は言う。成功を待たずに今を充実させる、という最初の約束に、ちゃんと帰ってくる構成です。

あなたの物語の主人公は、今日どんな小さな一歩を踏み出すでしょうか。


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