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『プラットフォーム革命』アレックス・モザド氏|企業は「生産センター」として崩壊した

戦略・経営・事業 ✍ アレックス・モザド氏
約7分で読めます

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『プラットフォーム革命』
目次

携帯電話市場で最も売れていた端末は、性能でもデザインでもBlackBerryやノキアだった時期がある。それなのに、両社は数年でシェアの大半を失った。

原因は製品の出来ではない。開発者とアプリの群れを結びつける仕組みを、AppleとGoogleに先に押さえられたことにある。

『プラットフォーム革命』は、この手の逆転がなぜ起きるのかを経済学まで遡って説明し、そのうえで自分たちがどう作ればいいかを手順に落とした本だ。著者のアレックス・モザド氏とニコラス・L・ジョンソン氏は、プラットフォーム構築を専門にするコンサルティング会社の創業メンバーで、理論だけでなく実務の現場からこの構造を見てきている。

S&P500構成銘柄の平均寿命は、半世紀前は50年を超えていたのに、今では15年を切っているという。本書が扱っているのは、この短命化がなぜ起きているのかという問いだ。

自社の会議で「うちも何かプラットフォームをやろう」という話が出たことがあるなら、その前提を一度本書で疑ってみる価値がある。

図解

こんな人におすすめ

自社製品と競合製品のスペック比較表を、今年も律儀に更新している人にまず薦めたい。本書を読むと、その比較が成り立つ前提そのものが怪しくなる。

マッチング系のサービスを企画したものの、「使う人がいないから誰も使わない」の壁で足が止まっている人にも効く。本書はこの壁の崩し方を7通り並べている。

そして、自分が育ててきたコミュニティやアプリの空気が、利用者数の伸びとは裏腹に少しずつ悪くなってきたと感じている人にも刺さる一冊だ。その違和感には、本書の後半できちんと名前が与えられる。

「作る」から「つなぐ」へ、勝ち方が入れ替わった

本書がまず区別するのは、線形ビジネスとプラットフォームという2つの型だ。

線形ビジネスは、仕入れて作って売るという一方向の流れで価値を運ぶ。トヨタやウォルマートがこの型で、20世紀の産業をほぼ独占してきた。

プラットフォームはこれと逆で、自社では何も生産しない。社外の作り手と使い手を引き合わせ、その間の価値のやり取りを滑らかにすることだけで稼ぐ。

この違いが命運を分けた例として、本書はドットコム期の2社を挙げている。ペット用品を自社在庫で売っていたPets.comは早々に倒れ、売り手と買い手をつなぐだけだったeBayは生き残った。同じインターネットで同じ時期に始めたのに、結果が正反対になった。

BlackBerryの失敗も、同じ構図で説明がつく。キーボードの打ちやすさやセキュリティという「製品としての強み」に頼り続け、開発者とユーザーをつなぐ側の競争を後回しにした。

その間にGoogleはソースコードを公開し、端末メーカーと通信会社を巻き込んでAndroidという場をつくっていた。

性能や信頼性をひたすら磨けば勝てるという発想は、線形ビジネス時代の成功体験を引きずっているだけかもしれない。プラットフォームの土俵では、磨くべき対象そのものが変わっている。

勝負の舞台は、モノの性能から、外の作り手と使い手をどれだけうまくつなげるかに移っている。この一文が、本書全体を貫く前提になる。

見えざる手を、アルゴリズムが肩代わりしている

なぜこの転換が今になって起きたのか。本書はここで、経済学者フリードリヒ・ハイエクの議論を持ち出す。

ハイエクは計画経済に懐疑的だった。使うべき知識は最初から一箇所にまとまっておらず、無数の人間の頭の中にばらばらに散っている。だから中央の誰かがそれを全部集めて最適な配分を決めることはできない、というのが彼の主張だった。

ところが今のマッチングアルゴリズムは、それに近いことを民間企業の手でやってのけている。配車アプリは今この瞬間の車と乗客の位置を集めて組み合わせ、検索エンジンは世界中に散らばった情報を集めて欲しい答えを返す。

中央計画経済が実現できなかった精密な需給調整を、ルールとコードの力で成立させているわけだ。

この転換を後押ししたのが、取引コストの低下だ。相手を探すコスト、条件をすり合わせるコスト、約束を守らせるコスト。この3つの摩擦をデジタルの仕組みが削り落としたことで、プラットフォームが入り込む余地が生まれた。

自分の業務でも、「わざわざ電話しないと話が進まない」「情報が散らばっていて探すだけで時間を食う」という場面があれば、それは取引コストが高止まりしている証拠として観測できる。本書を読むと、日々の苛立ちがそのままビジネスチャンスの兆候に見えてくる。

取引コストの発見は、机上の分析だけからは出てこない。現場で「なぜこんなに手間がかかるのか」に苛立った経験がある人ほど、次のプラットフォームの種を見つけやすい立場にいる。

在庫を持たないから、伸びに天井がない

ここから財務の話に入る。プラットフォームの成長が速いのは、供給を増やす限界費用がほぼゼロだからだ。

ホテルチェーンが客室を1000室増やすには、土地を買ってビルを建てる必要がある。民泊仲介サービスが1000室増やすのに必要なのは、ホストに登録してもらうことだけだ。在庫を増やすたびに発生するコストの桁が違う。

情報でも同じことが起きた。紙の百科事典は専門家を雇い、印刷し、配送するコストを毎回払っていた。ウィキペディアは1ページ足すコストがほぼゼロで、しかも書き手と読み手が増えるほど中身が充実していく。

線形ビジネスは規模を追うほど管理コストが膨らみ、いずれ頭打ちになる。プラットフォームにはその天井がなく、理論上は市場そのものの大きさまで伸びられる。

本書によれば、S&P500入りしているプラットフォーム企業の売上倍率は平均8.9倍で、線形型の2.4倍を大きく上回るという。従業員数の差も極端で、配車アプリや民泊仲介、ビジネスSNSは8000人以下で世界規模の事業を回す一方、大手小売チェーンは200万人を超える人員を抱える。

この数字を自社に当てはめてみると、居心地の悪さを覚える経営者も少なくないはずだ。売上を伸ばすたびに人員と設備投資が比例して膨らんでいく構造そのものが、プラットフォーム企業とは違う土俵で戦っていることの証拠になる。

ただし本書は、技術の優秀さそのものが強さの源泉になるとは考えていない。優れた機能はすぐ模倣され、コモディティ化する。本当の堀になるのは、使う人が増えるほど一人あたりの価値が上がるネットワーク効果だけだ。

これが積み上がると、後発がどれだけ機能を磨いても追いつけなくなる。スマートフォンのOS市場でiOSとAndroidが9割以上を占め、他社がほぼ消えたのはこのためだ。

作り方は、機能を足すことではなく取引を絞ること

後半は設計の話に移る。出発点になるのがコア取引、つまり作り手と使い手のあいだで繰り返される最小の価値のやり取りだ。

本書はこれを4つの動きに分解する。作り手が価値の材料を生み出す「創造」、使い手と作り手を引き合わせる「結びつける」、使い手がその価値を受け取る「消費」、そして金銭や評価という形で対価が返る「対価を支払う」。

設計で一番多い失敗は、この4つに収まらない機能まで盛り込むことだと本書は指摘する。マッチングアプリで広まった「気になる相手を左右のスワイプで選ぶ」という単純な操作は、この4つの動きにぴったり一致していたから定着した。

初期のFacebookも、友達になってプロフィールを見るだけの機能に絞っていた。機能を足すのではなく削ることで、コア取引を際立たせる。

機能を削る決断は、追加する決断より社内の合意を取りにくい。誰かの企画や思い入れが乗った機能ほど、外す理由を説明する側が矢面に立たされるからだ。コア取引という基準をあらかじめ決めておけば、削る判断は個人の好みの問題ではなく設計原則の問題になる。

設計ができても、次に立ちはだかるのが鶏と卵の問題だ。作り手がいなければ使い手は来ないし、使い手がいなければ作り手も来ない。本書はこれを崩す方法を7つ挙げているが、なかでも面白いのがシングルユーザー・ユーティリティという考え方だ。

他の利用者が一人もいなくても、それ単体で役に立つ機能を先に用意しておく。写真共有アプリとして知られる前のInstagramは、フィルターだけで使える写真加工アプリだった。

まず一人で使う理由をつくり、投稿がたまってからSNSへ育てていった。

使う人がいなくても価値がある機能を1つ持てるかどうかが、鶏と卵の壁を越えられるかの分かれ目になる。

増えるほど壊れやすくなる、というもう一つの顔

本書で最も緊張感のある章が、成長した後の話だ。ネットワークは大きくなるほど、放っておくと質が落ちていく。

本書はこの現象を逆ネットワーク効果と呼ぶ。悪質な利用者やノイズが増え、良質な利用者が離れていく現象だ。登録不要・完全匿名で一時期爆発的に流行したChatrouletteは、ルールも監視もないまま不適切な利用者の比率を高め、一般利用者の離脱を招いて数年で失速した。

MySpaceも統治を怠った結果、スパムと怪しい広告が蔓延し、荒れた空間になった。対照的に、実名制と大学メールアドレスによる参加制限を保ち続けたFacebookは、この崩壊を免れている。

本書はこの運営者の立場を「市長」と呼ぶ。命令で人を動かす指揮官ではなく、雇ってもいない大勢の行動が良い方向に向かうよう、インセンティブの設計で導く役目だという意味だ。

プラットフォームの設計は工程の設計ではなく、人の振る舞いを継続的に方向づける設計に近い。この位置づけが、本書の設計論を単なる機能開発から切り離している。

なお本書は、自分の守備範囲もはっきり示している。プラットフォーム労働者の法的な扱いや、独占が進んだ後の価格支配、規制当局との攻防といった論点には深入りしない。あくまで「どう作り、どう育てるか」に焦点を絞った本であり、その線引きを踏まえて読むほうが得るものが多い。

企画中、あるいは運営中のサービスがあるなら、その中身を「創造」「結びつける」「消費」「対価」の4行だけで書き出してみるといい。この4行に収まらない機能は、立ち上げ段階ではいったん外す。それだけで、次に何を削るべきかが見えてくる。


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