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『最高の体調』鈴木祐さん|あなたの不調は「進化のミスマッチ」だった

健康・メンタル
約7分で読めます
『最高の体調』

しっかり寝ているのに、疲れがとれない。集中力が続かない。

その不調は、あなたの意志が弱いからでも、能力が低いからでもありません。

本書『最高の体調』は、鬱、肥満、慢性疲労、集中力低下といった一見バラバラの悩みを「文明病」という一本の線でつなぎ、進化医学の視点から根本原因を解き明かす一冊です。著者の鈴木祐さんは、10万本以上の論文を読破したサイエンスライターとして知られています。

自分を責めるのをやめ、本来のパフォーマンスを取り戻す。その地図を描いた本です。

こんな人におすすめ

病院に行っても原因がわからない、なんとなくの不調。それを「気のせい」で片付けてきた人に、まず読んでほしい本です。

この本の核心――不調はすべて一本の線でつながっている

本書の出発点は、こんな宣言です。

「鬱病、肥満、散漫な集中力、慢性疲労、モチベーションの低下、不眠、弱い意志力など、一見バラバラのように見える問題も、根っこまで下りてみれば実は同じもの。すべては一本の線でつながっています。」

その線の正体が「文明病」です。人類は約600万年を狩猟採集生活で過ごし、脳と体は古代の環境に最適化されました。ところが、わずか1万年前の農耕開始や近代の急変に、進化が追いついていません。

この「遺伝と環境のズレ」をミスマッチと呼びます。わかりやすいのが肥満です。古代は食料が貴重だったため、脳はカロリーの高い食べ物を求めるように進化しました。でも食料が溢れる現代では、その本能が過食を招きます。

「もともとヒトはハイカロリーな食事を好むように設計された生物なのですから、少なくとも意志の力だけで『肥満』に立ち向かうのは時間のムダ」

著者が示す解決の道筋は、シンプルな2ステップです。第一に、自分の不調がどこのミスマッチかを特定する。第二に、その環境を遺伝に沿うよう修正する。これだけです。

ミスマッチを見つける「多すぎ・少なすぎ・新しすぎ」

では、どこにミスマッチが潜んでいるのか。ハーバード大学のダニエル・リーバーマン氏が提唱した、3つの枠組みが思考のツールになります。

1. 多すぎる 古代には少なかったのに、現代では豊富すぎるもの。摂取カロリー、精製穀物、塩分、人口密度など。

2. 少なすぎる 古代には豊富だったのに、現代では足りないもの。睡眠、運動、食物繊維、自然との触れ合いなど。

3. 新しすぎる 古代には存在せず、近代に現れたもの。トランス脂肪酸、デジタル機器、加工食品、孤独など。

この3つでチェックすると、自分の生活のどこが古代とズレているかが見えてきます。そして本書は、ミスマッチが生む2つの大きな問題を「炎症」と「不安」に絞り込みます。前半が体の話、後半が心の話です。

見えない「炎症」が体を蝕む

病院でも原因がわからない疲れの正体。それが体内でジワジワ燃え続ける「慢性炎症」です。

炎症は本来、怪我や感染から体を守る防御反応です。ところが内臓脂肪、睡眠不足、孤独、加工食品などによって、自覚のないまま全身がくすぶり続けます。

「この研究により、体内の炎症レベルを見れば老化のスピードが予測できることがわかった。」

実際、85歳から110歳のスーパー高齢者を調べると、共通点は体内の炎症レベルが異様に低いことでした。健康に年を取るカギは、炎症対策にあります。

この炎症の大きな入り口が腸です。腸の細胞に穴が開く「リーキーガット」が起きると、未消化の食物や毒素が血管に漏れ出し、全身に炎症が広がります。それが脳に達すると、疲労感や鬱につながります。

対策は、腸内細菌と仲良くすること。狩猟採集民は1日42.5gもの食物繊維をとっていましたが、日本人は13〜17gほどしかとれていません。ゴボウや海藻、キノコで食物繊維を増やし、納豆やキムチなどの発酵食品を1日40〜50g食べる。これが「腸の再野生化」です。食物繊維の摂取量が多い人は、早期死亡率が23%、炎症性の病気リスクが43%下がるというデータもあります。

最強の回復薬は「自然」と「人間関係」

炎症を抑えるもう一つの柱が、環境です。ここで意外なのは、自然の効果が「偽物」でも得られる点です。

山や森に行けなくても、PCやスマホの壁紙を自然の画像にしたり、自然音を聞いたりするだけで副交感神経が活性化し、リラックス効果が得られます。デスクに観葉植物を置くと、幸福感が47%アップし、作業効率が38%向上したという報告もあります。週に1回30分、公園で過ごすだけで、鬱病の発症リスクが37%下がります。

そして本書が炎症対策として強く推すのが、人間関係です。

孤独感は、タバコや肥満と同じぐらい全身に炎症を起こし、早期死亡率を26%高めます。

逆に、孤独だった人に友人ができると、最大15年も寿命が延びる。これはエクササイズの約3倍、禁煙以上の効果です。ハーバード大学が724人を約80年追跡した研究も、健康で幸福な人生に最も大事なのは「良い人間関係」だと結論づけています。

ストレスへの応急処置も覚えておくと便利です。緊張を感じたとき、心臓の鼓動は「緊張」でも「興奮」でも同じ。だから「楽しくなってきたぞ!」と言い換えるだけで、脳のストレス反応をポジティブに変換できます。これを「リアプレイザル」と呼びます。

「ぼんやりした不安」はなぜ生まれるのか

ここから後半、心の話です。本書は不安を、消すべきものとは見なしません。

「不安の機能は『アラーム』です。」

不安は本来、猛獣などの危機を察知して生き延びるための警報でした。問題は、現代の不安が「対象のはっきりしない、ぼんやりしたもの」になっている点です。

その原因を、本書は農耕の開始に求めます。農耕によって人類は「来年の収穫」という遠い未来を考えるようになりました。ところが、短期の危機に対応するはずのアラームは遠い未来を扱えず、常に鳴りっぱなしになってしまったのです。

解決のカギが「自己連続性」です。未来の自分と現在の自分の心理的な距離が、どれだけ近いか。

「自己連続性が高まれば『ぼんやりとした不安』は生まれません。つまり、『未来を今に近づける』のが、現代人の時間感覚を正す数少ない対抗手段なのです。」

そのために重要なのが「価値観」です。本書は、目標と価値観をはっきり区別します。目標は達成したら終わるゴール。価値観は、終わりのない現在進行形のプロセスです。

「本当の価値観とは、あなたが人生でどのように行動したいのかを問い続けるプロセスです。」

「クリエイティブな仕事につく」は目標ですが、「クリエイティブな人間でいる」は価値観です。価値観が定まると、遠かった未来が「いま、ここ」の行動に収束し、不安が消えていきます。実際、価値観を持って生きている人は、14年後の死亡率が15%低いという調査もあります。

「死」と「遊び」――不安を超える2つの視点

本書の後半は、さらに深いところへ進みます。

私たちが根源的に抱える「死の恐怖」も、ぼんやりした不安の源です。これに対し本書が挙げるのが「畏敬」の力です。

「畏敬の念には、炎症物質を適切なレベルに保つ作用がある。」

大自然や壮大なアートに触れて畏敬を感じると、自己を客観視でき、不安や炎症が下がります。畏敬は感動にとどまらず、身体にも効きます。

もう一つの答えが「遊び」です。狩猟採集民にとって、生活そのものが遊びでした。彼らの生き方には「ルール」と「即時のフィードバック」があります。

一方、現代の仕事はルールが複雑で、フィードバックが遅い。だからやる気が削がれます。そこで本書は、日常を「遊び化」する具体策を示します。

1. ルールを設定する 「今日やり遂げることを3つだけ書き出す」という3のルールや、「もしXが起きたら、Yをやる」というイフゼンプランニング。脳は一度に「4±1」種類しか処理できないので、3つに絞るのが効きます。

2. フィードバックを可視化する 終わった作業をカレンダーや手帳に記録し、達成を脳に伝える。無意味な数字のスコアでさえ、増えるだけでモチベーションが上がります。

タスクを細かく区切ることには、もう一つの効果があります。

「ルール化とは、自分をマインドフルネスに導く道のひとつでもあるのです。」

時間や作業を区切ると、未来と現在の心理的距離が縮まり、「いまここ」の感覚が生まれる。ここで本書はマインドフルネスを、神秘的なものではなく日常の意識のあり方として位置づけます。皿洗いに集中する、よく噛んで食べる、軽く走る。そんな普通の行為が、不安を減らす訓練になります。

明日から何を変えるか

本書のメソッドは100以上ありますが、まず手をつける3つに絞ります。

1. デスクに観葉植物を置き、週1回は公園で過ごす 本物の自然に行けない日は、壁紙を自然の画像に変えるだけでもかまいません。副交感神経が働き、炎症が下がります。

2. 発酵食品と食物繊維を毎日とる 納豆やキムチなどの発酵食品を1日40〜50g、ゴボウや海藻で食物繊維を増やす。荒れた腸を「再野生化」します。

3. 朝、今日やり遂げる3つを紙に書く 脳が処理できる範囲に絞り、目の届く場所に置く。終わったら印をつけ、達成を脳に伝えます。

おわりに

本書の終盤、著者は意外にも、こんな限界を認めます。人間の脳と体は、決して私たちを幸福にするためにデザインされていない、と。

だからこそ、ブッダの言葉が引かれます。

「『万物の苦しみを取り除き、安楽を与えること』を意味します。要するに、自分はもちろん他人のために生きよ、とブッダは説いた」

自分の体調が整ったら、次は周りの人へ。不調を自分のせいにするのをやめる。それが、最高の体調への最初の一歩です。

今日の帰り道、いつもの公園を30分だけ歩いてみる。それくらいから、始められます。


合わせて読みたい

『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』ジョン・J・レイティ氏 本書と同じ進化医学のパラダイムに立つ一冊。本書が説く運動や自然の重要性を、より深い理論と豊富な事例で知りたい人に最適です。

『なんとなく不調なあなたへ』 病気ではないのに続く「謎の不調」を入り口にしたコラム。本書の「文明病」「慢性炎症」という考え方に、もっと身近な言葉で触れたい人におすすめです。

『カロリーを減らしても、痩せない。』 肥満を意志の弱さではなく仕組みの問題として捉える点が、本書の「ハイカロリー志向は古代の設計」という主張と重なります。ダイエットで自分を責めがちな人に。


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