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『仕事が速い人は、「これ」しかやらない』石川和男|速さは才能ではなく「力の入れどころ」

生産性・時間術・習慣 ✍ 石川和男
約7分で読めます

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『仕事が速い人は、「これ」しかやらない』
目次

朝いちばん、頭が冴えているうちに一番重い仕事から片づける。多くの人がこれを「正しい段取り」だと信じています。ところが本書は、その習慣を「やってはいけない」とあっさり否定します。

『仕事が速い人は、「これ」しかやらない』の著者・石川和男さんは、かつて深夜十一時まで残業するのが当たり前の人でした。それが今では、建設会社の役員、税理士、大学講師、時間管理コンサルタント、セミナー講師という五つの顔を掛け持ちしながら定時で帰っています。

この変化を支えたのが、仕事の速い人と遅い人の差をたった一点に絞り込む発想でした。石川さんによれば、その差は「注力すべき仕事を見極めて最速で片づける力」と「それ以外はうまく人に任せる力」に尽きる。

速さの正体は頑張りの量ではなく、どこに力を入れどこを捨てるかという「力の入れどころ」にある——ここが本書のすべての土台です。

毎日残業しているのに仕事が減らない人ほど、頑張りが足りないのではなく、頑張る場所がずれているだけかもしれません。

速さの正体は「頑張りの量」ではなく「力の入れどころ」

この本の読み味を決めているのは、世間で「正しい」とされる仕事術を次々にひっくり返していく小気味よさです。優先順位の高い仕事から着手する、朝イチに重要な仕事を置く、付箋で見える化する、頑張った部下はほめる——著者に言わせれば、どれも逆効果。

挑発的ですが、簿記の知識ゼロ・深夜残業の常連から五足のわらじの定時退社まで自分を作り替えた当事者の言葉なので、机上論の軽さがありません。だからこそ話が、机の片付け方やノートの使い方といった、明日すぐ真似できる粒度まで落ちてきます。

ただし読み手として一点、留保を置いておきたいところです。本書の戦術は、紙の書類や電話、対面の声かけがある日本の伝統的オフィスを強く前提にしています。

フルリモートや非同期チームには、そのまま持ち込めない話も少なくない。だからこれは「全部を真似する本」ではなく、自分の職場に合う駒を選び取るためのカタログとして読むのが賢いと感じます。

本書の構成も、まず個人が動き出す原則から始まり、個人のタスク処理、他者とのやり取り、チーム全体、そして人生を支える習慣へと、視野を少しずつ広げていきます。

「まず動く」を作る三つの仕掛け——期限・5秒ルール・分割

速さを生む最大のコツは拍子抜けするほど単純で、「とにかく期限を決める」。背景にあるのが、歴史学者パーキンソンの「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という法則です。

人は時間があるだけダラダラ使ってしまう。ならば締め切り直前の異常な集中力を、自分から先に呼び込めばいい。どんなに忙しくても保育園のお迎えには必ず間に合う親のように、自分で絶対の締め切りを作る。

余裕のあるタスクほど、あえて短い期限を切る。この一手間だけで速度は変わります。

動き出せない体には「5秒ルール」。メル・ロビンズによれば、脳はやるべきと感じてから五秒を超えて考えると、やらない理由を探し始める。だから「3、2、1、GO」で考える隙を潰し、最初の一歩を出す。

いったん動けば、作業を始めるほど脳が乗ってくる「作業興奮」が味方につく。そして厄介で大きな仕事には「アイスピック仕事術」。氷の塊もピックで砕けばただのかけらになるように、「決算」も「昨年の決算書をコピーする」まで割れば、心理的ハードルの低い作業に変わります。

着手できないのは意志が弱いからではなく、扱おうとしているタスクの塊が大きすぎるだけ——この言い換えは、先延ばし癖に効く発想の転換だと思います。

付け加えるなら、著者は準備のしすぎも戒めます。完璧に調べてから動くより、仮説を立てて動きながら直すほうが結局は速い。同じ発想は、企画書やプレゼンのようにゼロから生む仕事にも及びます。

一人で唸らず本や異業種の人から「他人の脳みそ」を借りる、「何でもいい」より条件や枠があるほうがむしろ筆が進む、そして最初から名文を狙わず誤字も気にせず一気に書き切ってから直す。

書き出せないのは、いきなり完成品を求めているからだ、という指摘は多くの仕事に応用が利きます。

最速の時短は、効率化より先に「やらないこと」を決めること

本書のいちばん逆説的で本質的な主張がここです。テクニックで速くする前に、そもそもやらない仕事を決める。それが究極の時短だと。判断の物差しは「時給」。

自分の給与を時給に換算し、その作業を自分でやるのが得か損かを見る。十時間かけて自分で抱えるより人に頼んだほうがいいなら、迷わず手放す。

支えになるのが「他人の時間は買える」という発想です。一日を二十四時間より増やすことはできないが、任せれば他人の時間を自分のために使える。ある調査では、事務系の上司は部下でもできる仕事の四割超を自分で抱え込んでいたといいます。

任せることはサボりではなく、限られた自分の時間を増やすための立派な能力だ——この再定義は、抱え込み型の管理職ほど刺さるはずです。

さらにドラッカーの「必要のない仕事をやめれば生産性が上がる」という言葉を引きながら、慣習で続くだけの資料や会議を、新入社員の目で疑ってみることを勧めます。

ジョブズやザッカーバーグが同じ服を何着も持ち、服を選ぶ時間さえ削ったのも同じ理屈でしょう。日本の労働生産性は主要七か国で長年最下位が続いており、伸びしろは新しい頑張りより無駄をやめるところにある、という現実認識は重く響きます。

もっとも「時給で測る」発想には、すぐには数字にならない仕事——人を育てる、信頼を積む、種をまくといった投資——まで損得で切り捨てかねない危うさもあります。

何を残し何を手放すかの線引きは、テクニックではなく、結局は自分がどこへ向かうのかという目的から引くしかありません。

付箋を捨て、「やることノート」と14分集中に切り替える

個人の道具立てにも逆張りがあります。まず著者はパソコン脇の付箋を明確に否定する。気が散る、景色に同化して焦りが消える、剥がすと記録が残らない、期限を書く余白がない。

見える化のつもりが、かえって効率を落としているというわけです。代わりが「やることノート」。仕事もプライベートも一冊に書き出し、済んだら赤丸、繰り越しは青丸をつける。

書くと実行したくなる予言の自己成就と、繰り越しを翌日へ書き写す小さな面倒が、先延ばしを止めてくれます。

紙のノートを勧めるくだりは、タスク管理アプリを使う人には古風に映るかもしれません。ただ、手で書く行為そのものが実行を後押しするという主張は、道具がデジタルでも応用が利きます。

要は「その日の全部を一望できること」と「書いて自分に約束すること」。この二つの機能さえ満たせば、媒体は問わないと読み替えればいい。集中には「15分間仕事術」。

ポモドーロの二十五分は日本のオフィスでは電話や声かけに割られがちなので、「十四分集中して一分目を閉じる」に縮める。そして、朝イチに重い仕事を置くのは間違いだと念を押します。

難所で朝からつまずくと一日のリズムが崩れるから、まずは手帳の確認や軽いメール返信で「仕事モード」に点火する。アクセルはゆっくり踏み込むのが正解だ、という順序の話です。

数字で伝え、探し物を減らし、チームを自走させる

他者とのやり取りでは「数字」が効きます。「もうすぐできます」ではなく「あと十分でできます」。この差だけで上司との認識のズレが消え、手戻りという最大の無駄が減る。

報告や指示に迷ったら、5W1Hを広げた「6W3H」で項目を埋める。部下の動機づけでは、環境より「見られている・気にかけられている」という感情が能率を押し上げたホーソン実験を引き、叱るときは人格ではなく「どうすれば間に合ったか」と行動を問え、と説きます。

責める代わりに次の一手を一緒に探す姿勢は、そのまま自分自身への向き合い方にも使えるはずです。

チーム視点で名指しされる犯人が「探し物」。ある調べでは年に百五十時間、一日あたり約三十六分がここに溶けているといいます。文房具・書類・パソコン内のファイルを減らし、残す物は場所を決めてラベルを貼る。

そのうえで単なる数値目標だけでなく「目標・目的・期限・数字」を共有し、朝夕のミーティングで検証と改善を回す「超高速PDCA」でチームを均していく。

会議も伝達・アイデア・決定・誇示に仕分けし、不毛なものは捨てる。ここでも一貫して「やらないことを決める」思想が通っています。

朝イチを「緊急ではないが重要な仕事」に投資する

最後は、この速さを持続させる習慣の話です。仕事は緊急度と重要度で四つに分けられ、人生を変えるのは「緊急ではないが重要な仕事」——資格の勉強、キャリア設計、自己投資です。

締め切りがない分いつも後回しになるこの領域を、著者は朝イチに置けと言います。朝は邪魔が入りにくく、集中力が満タンで、出社という絶対の期限もある。

早起きのコツは、起きる時刻ではなく、必要な睡眠から逆算した「布団に入る時間」を決めること。そして自分の予定を先にカレンダーへ入れ、「今日は定時で帰ります」と宣言して、自分との約束を他人の予定に奪わせない。

環境の力も見逃せません。コップに入れられたノミは、フタの高さまでしか跳べなくなる。けれど高く跳ぶ仲間を見ると、一度あきらめたノミも再び高く跳べるようになる。

自分の基準を上げたいなら、レベルの高い人のそばに身を置く。周囲の「当たり前」が、自分の水準を静かに引き上げてくれる、というわけです。読み終えて残るのは、速さは特別な才能ではなく、力の入れどころを見極める小さな技術と習慣の積み重ねだという実感です。

本書自身が繰り返すとおり、読んだだけでは何も変わりません。全部を真似する必要はなく、明日ひとつだけ——たとえば付箋をやめて一冊のノートに書き出す、報告を「あと十分」と数字にする——を試してみる。

その一回の実行が、残業のない夜へ近づく最初の一歩になります。


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