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『死ぬこと以外かすり傷』箕輪厚介|サラリーマンは、最強の職業である

キャリア・働き方 ✍ 箕輪厚介
約9分で読めます

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『死ぬこと以外かすり傷』
目次

「段取り通りに進んだ仕事」を、あなたは誇りに思っていませんか。

『死ぬこと以外かすり傷』は、その誇りを真っ向から否定するところから始まります。著者は幻冬舎の編集者で、NewsPicks Bookの編集長を務めた箕輪厚介さん。

創刊からわずか1年で累計100万部、年間ランキング10位以内に4冊という、出版不況下ではありえない数字を叩き出した人物です。

その箕輪さんが、開口一番こう言い放ちます。「予定調和は悪だ」と。段取り通りの仕事は、しょせん過去の焼き直しにすぎない。人の心を動かす新しいものは、カオスの中からしか生まれない、と。

念のため断っておくと、これは論理で読者を説得する本ではありません。著者の熱量で煽り、理屈ごと吹き飛ばして「バカになって飛べ」と背中を押してくる本です。2018年、副業解禁とオンラインサロン台頭の空気の中で書かれたこの一冊を、章立てに沿って読み解いていきます。

図解

こんな人に効く一冊と、この本の結論

ひとつでも当てはまったら、この本はあなたの背中を蹴飛ばしてくれます。会議で「これ、おかしいのでは」と感じても、波風を立てたくなくて飲み込んだ経験がある人。

毎月の給料に安心しきっているのに、心のどこかで「このままでいいのか」とくすぶっている人。やりたいことより「やるべきこと」を優先し続け、気づけば何年も同じ場所に立っている人。

とりわけ刺さるのは、大企業や旧い体質の組織で閉塞感を抱えるサラリーマンです。ここが本書の面白いところで、著者は「会社を辞めろ」とは一言も言いません。

むしろ正反対に、「会社を使い倒せ」と言うからです。安定を捨てる話ではなく、安定の中で暴れる話。そこに既存の自己啓発書との温度差があります。

そんな本書の結論を一言に圧縮すれば、「予定調和を壊して、自分の偏愛に熱狂しろ」。これだけです。

著者の前提認識はシンプルです。AIやテクノロジーが進化し、ルールが片端から時代遅れになっていく現代では、過去のデータを正確に分析する力すら価値を失う。事務的で機械的な仕事は、淡々とロボットに置き換わっていく。だとすれば、人間に残された最後の武器は何か。

著者の答えが「狂うこと」です。予定調和も利害損得も破壊して、自分の偏愛のためにどこまで狂えるか。それこそが代替不能な武器になる、と。ここで強いのは、3歳児のようにまっさらで身軽な人間だと著者は言い切ります。

本書は全6章。「予定調和を破壊せよ」「自分の手で金を稼げ」「名前を売れ」「手を動かせ」「癒着せよ」「熱狂せよ」と続きます。考え方の破壊から始まり、稼ぎ方、ブランディング、行動術、人間関係を経て、最後は「熱狂」という生き方へと収束していく構成です。順に中身を見ていきましょう。

予定調和を壊せ。トラブルは伝説に化ける

第1章のテーマは「予定調和の破壊」です。

予定調和とは、物事が事前の段取りや合理的な予測の範囲内にきれいに収まること。著者はこれを断固「悪」と断じます。段取り通りの仕事からは過去の焼き直ししか出てこない。人の心を揺さぶるストーリーは、カオスに飛び込むことからしか生まれないからです。

象徴的なキーワードが「3歳児レース」。大人になるにつれ、人は学校や会社に飼い慣らされ、常識やルールに縛られて「ありのままの自分」を手放していく。けれど変化の激しい時代に最強なのは、本能をむき出しにして好奇心のままに動ける人間だ、というわけです。

これを裏づけるのが、著者自身の武勇伝です。双葉社時代、与沢翼さんに「3000万円でイケてる雑誌を作る」と直談判して製作費をもぎ取り、世界的写真家のレスリー・キーさんに表紙撮影をオファーして『ネオヒルズ・ジャパン』を創刊。

ところが発売日に、表紙の与沢さんが書類送検されるという最悪のトラブルが起きます。

普通なら大事故です。ところが雑誌は3万部を完売し、むしろ伝説になった。トラブルすらエンターテインメントに昇華させる——著者にとって予定調和の破壊とは、こういう生々しい現場感を指しています。

豚になるな、オオカミになれ。会社という最強インフラ

第2章「自分の手で金を稼げ」は、本書でいちばん逆張りが効いた章です。

著者の比喩は容赦ありません。「会社から餌を与えられる豚になるな。自分の手で、足で、頭で、名前で獲物を狩りに行くオオカミになれ」。毎月給料という餌をもらうだけでは、一生飼われた豚で終わる。市場に身をさらして初めて、人は狩りの仕方を覚える、と。

ここで意外なのが、著者は独立をまったく勧めない点です。むしろ逆。サラリーマンは、会社のカネと人とインフラを使ってノーリスクでギャンブルできる「最強の職業」だと言い切ります。

自分の資産を一円も賭けずに、ビッグプロジェクトでフルスイングできる。これを使わない手はない、という発想の転換です。

それを支える技術が「ダークサイドスキル」。組織を動かすための処世術で、「利益」で会社に貢献しつつ「感情」に配慮して泥臭い人間関係を築き、会社とズブズブの共犯関係になること。きれいごとを排した、組織内で自由を勝ち取るためのリアルな政治力です。

そして著者が会社で稼いでいるのは「金」だけではありません。「僕は幻冬舎というフィールドで『金』ではなく箕輪厚介という『ブランド』を稼いでいるのだ」。

会社を、個人をブランディングするための装置として使い倒す。この視点こそ第2章の核です。実際、著者の副業収益は会社の月給の20倍以上、コンサルは1時間50万円に達したといいます。

会社の中にいながら、外で個人の名前が稼ぐ。その実例として説得力があります。

名前を売れ。実力より評判、売上より伝説

第3章は「名前を売れ」。著者の標語は「実力よりも評判」「売上げよりも伝説」です。

論拠はこうです。上位1%の本物の天才を除けば、人はみな代替可能な存在にすぎない。だからこそ、ハッタリをかましてでも自ら伝説を作り、名前とブランドを売らなければ突き抜けられない。「極端に言えばそんなパンクな生き方をする人に大衆は魅せられる」と著者は語ります。

その具体的な仕掛けが「ヒーローインタビューを想像せよ」。単に業務をこなすのではなく、その仕事が成功した後にSNSやブログで語れる「伝説」を、着手前から逆算して設計しておく。発生したトラブルすらエンタメ化して発信する。最初から物語を作りにいく姿勢です。

さらに「教祖力」という概念も出てきます。実現したい世界観を掲げて体現し、批判や返り血を浴びながらも、共感する人を集めて巻き込んでいく力。モノが溢れた時代には、機能ではなく「思想」に人が群がる——だから旗を立てられる人間がこれからの時代を作る、という見立てです。

落合陽一さんの『日本再興戦略』を編集した際、著者は無難な宣伝文句を捨て、過激なツイートをそのまま帯に刷ってベストセラーにしました。常識的な宣伝では届かないものを、伝説づくりで届けた一例です。

手を動かせ。スピードは熱を、量は質を生む

第4章「手を動かせ」で、著者は「圧倒的に手を動かせ。戦術や戦略はそれから語れ」と号令をかけます。

キーワードは「スピードは熱を生み、量は質を生む」。時間をかけて完璧を目指すより、圧倒的なスピードと量をこなすことでしか届かない質の領域がある、という主張です。

極限まで時間を区切れば集中力が最大化され、本質的な仕事だけが残る。無理な負荷をかけると防衛本能が働き、昨日できなかったことが今日できるようになる、と。

裏づけは書籍制作の「スピード相場」。通常は本に6か月、装丁に1週間かけるところを、著者は本を3か月、デザインを2日ほどで仕上げる。この異常なペースで毎月1冊を出し続けた結果が、NewsPicks Bookの100万部だったわけです。

ここで唸らされるのが「多動力の本質は不動力」という再定義。『多動力』を自ら編集した著者は、多動力とは手当たり次第に手を出すことではないと釘を刺します。

その正体は「自分にしかできないこと以外は周りにふりまく力」。まず一つのジャンルで日本一になる一点突破があるからこそ、横展開ができる、と。

行動指針として並ぶのが「自然消滅上等」。やると言った仕事は最後までやり遂げるのが美徳とされますが、著者は逆を言います。「熱狂の種など、まずはやってみないと見つからない。

だから自然消滅上等で、片っ端から『やります!』と手を挙げていけ」。続かないものは途中で辞めていい。そうやって本当に夢中になれるものに出会え、というロジックです。

ただし著者は同時に厳しい釘も刺します。「好きなことをやる、というのは重要だ。そこから逃げるな。しかし、そのために数字から逃げるな。金を稼げ。

金を稼いでロマンを語れ」。好きを貫くには、結果を出して土壌を自分で整える覚悟がいる。会社の金で赤字を垂れ流して「作りたいものを作ればいい」というのは甘えだ、というわけです。

この一点で、本書は単なる勢い任せの煽り本と一線を画します。

癒着せよ、そして熱狂せよ。最後にたどり着く場所

第5章「癒着せよ」は人間関係の章です。完璧な人間を装ってガードを上げれば、相手も身構えて表面的な付き合いしか生まれない。だから「丸裸になる」。恥ずかしい部分も醜い性格も全部さらけ出すと、相手は「こいつは信頼できる」と感じ、本物の言葉を引き出せる、と。

その前提が「憑依レベルのブンセキ」。重要な相手と会う前に、その人の著作や発言を記憶するほど読み込み、相手が望むものを自分が憑依したかのように言語化できる状態を作る。

著者が編集者として「特定の一人に鮮烈に突き刺す」ことを重んじるのは、それが結果的に大衆へのヒットに化けるからです。さらに「風呂敷を広げる」——まず大きな夢を叫んで旗を立てれば、「この人の風呂敷を畳みたい」と優秀な人が集まってくる、という巻き込みの技術も語られます。

そして第6章「熱狂せよ」で、本書はすべてを一点に収束させます。著者が最も強く打ち出すのは、「努力は夢中に勝てない」。義務感で歯を食いしばる人間は、寝食を忘れて没入する人間に絶対に勝てない、と。

AIやロボットで労働時間が減れば、お金より「やりがい」の価値が上がる。儲からなくても没頭できる何かに熱狂することが、これからの豊かさだという主張です。

それを体現するのが、著者の作ったオンラインサロン「箕輪編集室」。月額5940円で開設1年に1300名が集まり、メンバーがお金を払ってプロジェクトに参加する逆転構造です。

「お金のため」ではなく「楽しさ・やりがいのため」に働く。だからこそ企業を凌ぐアウトプットが生まれ、NewsPicksやZOZOからの依頼も舞い込んだといいます。

本書はこう締めくくられます。「リスクなんてない。すべての成功も失敗も、人生を彩るイベントだ。未来は明るい。バカになって飛べ!」。タイトルの意味も、ここで腑に落ちます。

今日からできること

本書の熱量を行動に変えるための3つです。すべて著者自身が本書で勧めていることに絞りました。

1. 次に来た誘いに、考える前に「やります」と打つ。 著者は「やりたい」という願望ではなく、「やります」という行動宣言を即答しろと言います。願望は機会を逃し、宣言は自分を追い込む。続かなければ自然消滅させていい、と逃げ道まで用意されています。

2. 今の仕事で、自分の名前が残る企画を一つ提案する。 会社を辞める必要はありません。会社の資金とインフラを使い、自分のブランドが残る挑戦的な企画を出す。ノーリスクでフルスイングできるのが、サラリーマンの特権だからです。

3. 時間を忘れて没頭できるものを一つ書き出す。 「努力は夢中に勝てない」のなら、まず自分の夢中を知る必要があります。儲かるかどうかは脇に置き、やっていて時間を忘れるものを一つ言葉にする。それが熱狂の種になります。

最後に注意点を。著者のような「多動力」を持たない安定志向の人には、そのまま真似しづらい部分があります。とりわけ「自然消滅上等」は、立場によっては周囲との深刻な摩擦を招きかねません。

号令をそのまま実行するより、自分のペースに翻訳して受け取るほうが安全です。それでもこの本を読んで残るのは、ノウハウではなく「失敗しても、死なない」という一つの感覚です。

次に「やります」と言う場面が来たとき、考える前に手を挙げられるか。たぶん、そこから全部が始まります。


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