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『好きなことしか本気になれない。』南章行さん|正解を探すのをやめ、選んだ道を正解にする

キャリア・働き方 ✍ 南章行さん
約9分で読めます

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『好きなことしか本気になれない。』
目次

転職サイトを開いて、何時間も求人を見比べる。条件を表にして、メリットとデメリットを書き出す。なのに、結局決められない。

その「決められなさ」は、あなたの優柔不断のせいではありません。もっと根が深いところに原因があります。

ココナラを創業した南章行さんの『好きなことしか本気になれない。』は、その原因をこう言い切ります。あなたが探している「たったひとつの正解」は、この世界のどこにも存在しない、と。

南さんは住友銀行、企業買収ファンド、オックスフォードMBA、NPO設立、そして起業という道を歩いてきました。経歴だけ並べればエリートの王道に見えますが、本書で語られるのは挫折の連続です。ファンドでは「できない奴」として追い詰められ、鬱になりかけたことまで率直に明かしています。

だからこそ、本書の言葉には机上の理論ではない手触りがあります。この記事では、80歳まで働く時代に何を武器にすればいいのか、本書の論理を順番にたどっていきます。

図解

こんな人に響きます

並べてみると、共通点が見えてきます。どれも、目の前の選択肢を「正解かどうか」という物差しで測ろうとして、その場で固まっている状態です。

本書がやろうとしているのは、選択肢の中から正解を選ぶ手助けではありません。「正解かどうかで測る」という測り方そのものを、手放させることです。

この本が一番言いたいこと

南さんの主張は、ひとつの方程式に集約されます。

人生100年時代を生き抜く「個人の力」は、「スキル」「自分の価値観」「セルフリーダーシップ」の3つの掛け算でできている。掛け算なので、どれかがゼロだと全体もゼロになる。それが本書の前提です。

背景にあるのは、雇用環境の地殻変動です。会社が定年まで面倒を見てくれる時代は終わりました。だから、組織の階段を昇る「キャリアアップ」を人生の目標に据えるのではなく、自分が主人公になる「自分のストーリー」を生きる。その土台になるのが、さきほどの3要素だというわけです。

そして本書全体を貫く軸が、正解を探すのではなく、選んだ道を自分で正解にしていくという姿勢です。決断する瞬間に「これが正しいか」と悩むのではなく、決めた後にどう動くかで結果は正解にも不正解にもなる。順番が逆なのだ、と南さんは繰り返します。

ここを腹落ちさせるかどうかで、本書の読後感はまるで変わってきます。

80歳まで働く前提で、過去の経験は武器にならない

第1章は、未来予測の話から始まります。

南さんは「未来予測なんて誰にもできない」と正直に認めます。ただ、ひとつだけ確実に変化する外部要因がある。人口動態です。少子高齢化は最近の問題に見えて、実は1970年代半ばから始まっていた確実な未来でした。2020年には、1人の高齢者を1.9人の現役世代で支える計算になります。

ここから導かれるのが「80歳まで働く」という前提です。年金だけで悠々自適という前提は、もう成り立たない。

そうなると、ひとつの常識が崩れます。「これさえあれば一生安泰」という唯一無二のスキルや資格を持つ、という発想です。変化の速度が上がりすぎて、一本のスキルに残りの人生を依存するのは、安泰どころかリスクでしかない。

代わりに南さんが勧めるのは、10人の中で1番になれる程度のスキルを3つ掛け合わせること。10×10×10で、計算上は1000人に1人のレア人材になれます。

もうひとつ、私が読んでハッとしたのは「これまでの経験を活かす」をやめろ、という指摘です。

22歳から80歳まで60年働くとして、社会人12年の経験はたった5分の1にすぎません。その5分の1のために残り5分の4を縛るのは、どう考えても順序が逆です。

過去を「無駄じゃなかった」と正当化したくて未来を決めると、選択肢が一気に狭まってしまう。過去は過去として、いったん切り離す。これが長寿化時代の逆転の発想です。

論理は感情に勝てない。だから直感で決めていい

第2章は意思決定がテーマです。ここが本書で一番意外で、一番おもしろい部分でした。

私たちは「大事な決断ほど冷静に、論理的に」と教わってきました。ところが南さんは真逆を言います。すべての論理は、最後には感情に勝てない、と。

誤解しないでほしいのですが、論理が不要だという話ではありません。選択肢を3つか4つに絞り込む段階では、計算もシミュレーションも有効です。けれど最後の最後、どれを選ぶかという一点では、どれだけ計算しても未来の正解は出てこない。

だったら「これがいいな」「好きだな」という、自分の価値観からくる直感に従ったほうがいい。なぜなら、納得して選んだ道のほうが、人は力強く行動できて、結果的に遠くまで行けるからです。

では、その判断のもとになる「価値観」は、どうやって見つけるのか。

南さんは「自分探しは若さの浪費だ」と一刀両断します。カフェで自己分析シートを埋めても、頭の中をいくら掘っても、本当の自分は出てこない。価値観が顔を出すのは、目の前の仕事を本気でやったときだけです。

本気でやると「これは面白い」「これはふざけるな」という感情が湧く。その怒りや喜びの揺れこそが、自分の好き嫌い、つまり価値観の正体を教えてくれる。

ここで私はようやく腑に落ちました。価値観は探して見つけるものではなく、行動の副産物として後から立ち上がってくるものなんです。

一番になれなくても「得意です」と言ってしまう

同じ第2章に、凡人が天才に勝つための実践知が出てきます。

南さんはファンドに転職したとき、渡辺雅之さん(のちにDeNA、Quipperを創業)と一緒に働きました。その圧倒的なビジネススキルを目の当たりにして、「自分はこの人たちには絶対に勝てない」と悟ったといいます。

そこで持ち出したのが、経済学者リカードの「比較優位理論」です。絶対的なナンバーワンになれなくても、自分の中で相対的に得意なものに資源を集中すればいい。南さんは「ファイナンスを自分のスキルにする」と腹を決めました。

おもしろいのはここからです。得意かどうかわからない段階で、「決めて、宣言する」。

「私はファイナンスが得意です」と周囲に言ってしまう。すると、ファイナンスがらみの質問が自分のところに集まってきます。さらに自分から勉強会を主催して、教える側に回る。

教えるためには必死で学ぶしかないから、結果として本当に得意になっていく。強みは生まれつき備わっているものではなく、「これをスキルにする」と意思決定した瞬間から作られはじめる

完璧に得意になってから宣言しようとすれば、おそらく一生宣言できません。「比較的得意」で十分。その見切り発車こそが、強みの起点になります。

セルフリーダーシップは才能ではなく、繰り返すプロセス

第3章のテーマは、自分自身をどう導くか。本書のキーワード「セルフリーダーシップ」が正面から扱われます。

この言葉は、部下を率いる組織のリーダーシップとは別物です。南さんの定義はシンプルで、自分で目標を決め、実行して達成し、自分で評価する。この一連のプロセスそのものを指します。

ここで救われる人は多いはずです。セルフリーダーシップは生まれ持った才能や資質ではなく、何度も意思決定を繰り返すうちに身につく「プロセス」だからです。

誰も進む道を教えてくれない正解のない世界では、自分で目標を立てるしか前に進む方法がない。だから、特別な人だけでなく全員に必要になります。

南さんの父親の言葉も印象に残ります。「自分のことは自分で決めなさい」と命令されると、それは脅迫的な義務に感じられる。でも「自分で決めていいんだよ」と言われれば、それは権利になる。

同じ自己決定でも、義務として背負うか自由として手にするかで、まるで重さが違う。決断を捉え直すこの視点は、選べずに苦しんでいる人ほど効くはずです。

学び方についても具体的な提案があります。MBAを「意思決定の1000本ノックを受ける訓練の場」と位置づけ、知識(Knowing)や実践(Doing)だけでなく、自分の信念(Being)を育てることが大事だと説きます。

座学のインプットには限界がある。だから学んだら必ずアウトプットする。デイヴィッド・コルブの経験学習モデルを応用して、ブログで発信し続けた経験も語られます。

心が満たされる「好きなこと」でしか、長くは稼げない

第4章で、ようやくタイトルが回収されます。

80歳まで働くとして、昇進や昇給、他人からの評価だけを燃料にするのは無理があります。心に背く仕事を歯を食いしばって続けることは、見えにくいけれど確実に積み上がる「ストレスというコスト」です。

だから「心が満たされる好きなこと」を仕事にするしかない。本気で頑張れるからスキルも自然と上がり、長く稼ぎ続けられる確率が高くなる、という論理です。

抽象論で終わらせないために、ココナラのユーザーの実例が紹介されます。

大手電機メーカーで資料作成をしていた男性が、そのスキルを「プレゼン作成サービス」として出品しました。最初は1件500円。顧客に喜ばれるうちにスキルが磨かれ、単価は最終的に200倍になり、社内評価まで上がって、経営コンサルタントとして独立していきます。

元刑務官のユーザーが「刑務所のことをお話しします」を出品し、定年後も人の役に立てる実感を得ている話もあります。

「ありがとう」と言われることで心が満たされ、その充足がそのまま稼ぐ力に変わっていく。人の役に立てるスキルさえあれば、会社の看板がなくてもどこでもサバイブできる。タイトルの「好きなことしか本気になれない」は、わがままの肯定ではなく、長く働き続けるための合理的な生存戦略なのです。

ハブになる人に、情報と人脈が集まる

もうひとつ、南さんが武器として強く推すのが「ハブになる」ことです。

圧倒的な専門性がなくても、人と人をつなぐ役割を果たせば、その人の存在価値は確実に高まります。やり方はびっくりするほど地味です。飲み会の幹事、勉強会の主催、受付や案内係。ハードルは低いけれど、みんなが面倒くさがって避ける役割を、自ら手を挙げて引き受ける。

すると不思議なもので、その人のところに情報と人脈が自然と集まってきます。ひとつのコミュニティをまとめるだけでなく、別のコミュニティとつなぐ橋渡し役にもなれる。人をつなぐこの種のソフトスキルは、機械にもっとも代替されにくい領域です。

南さん自身も、銀行員時代に女性行員と上司をつなぐハブになり、バツイチ同士のカップルの住宅ローンを通すような人間臭いやり方で、支店の最高記録を2年連続で更新したといいます。本業の外でも、オックスフォードの同期とNPO「二枚目の名刺」を立ち上げ、本業のスキルで社会貢献する仕組みを作りました。

説得力を添えるのが、社会的つながりが多い人は認知症リスクが46%下がるという国立長寿医療研究センターの調査です。ハブになることは、キャリア戦略であると同時に、長く健やかに生きるための戦略でもあるわけです。

今日からできる3つのこと

本書の提案を、明日からの行動に落とすとこうなります。

1. 目の前の仕事を、本気でやる 70点でこなして流さず、全力で取り組む。そこで湧いた「面白い」「ふざけるな」という感情が、自分の価値観を教えてくれます。価値観は探さない。本気でやった後に、勝手に見えてくる。

2. 比較的得意なことを、一つ宣言する 明日、職場で「○○は比較的得意なので、困ったら聞いてください」と一言伝える。完璧になってからではなく、今の時点で言ってしまう。その宣言が質問を呼び込み、教える機会を生み、学習を一気に加速させます。

3. 次の集まりで、幹事を引き受ける 趣味でも社外の勉強会でもいい。「次は私が幹事をやります」と手を挙げる。誰もがやりたがらない雑務こそが、あなたをハブに変えていきます。

おわりに

正解を探して立ち止まっている間、水は淀んだままだ。南さんはそう言います。

「正解はなくても変えていく」と決めて、選んで、行動する。そして選んだ道を、自分の手で正解にしていく。決断は背負わされる義務ではなく、自分で行使する権利なのだ、と。

本書の最後にある一文を置いておきます。自分のストーリーは、今がどんなストーリーであろうと、生きている限り、好きなように綴れる。年齢も過去の失敗も、新しい章を書きはじめない理由にはなりません。

転職サイトをいったん閉じて、まずは目の前の仕事を本気でやってみる。あなたの価値観は、その先で必ず見えてきます。


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『RANGE』デビッド・エプスタイン 専門を一つに絞らず、複数の領域を掛け合わせる人ほど勝ち続けるという研究。南さんの「10人に1番のスキルを3つ」という主張と、根っこで響き合います。


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