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『食べても太らず、免疫力がつく食事法』石黒成治|痩せないのは意志ではなく、ホルモンと腸のせいだった

健康・メンタル ✍ 石黒成治
約6分で読めます

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『食べても太らず、免疫力がつく食事法』
目次

「食べる量は減らしているのに、体重計の数字が動かない」。

そんな停滞に心当たりがあるなら、責めるべきは自分の意志ではないのかもしれません。消化器外科医である石黒成治さんは、太るという現象を「食べ過ぎた罰」ではなく、体内でくすぶる炎症が表面化した異常のサインだと捉え直します。

本書のメッセージを一言で言えば、鍵を握るのはカロリーでも運動でもなく、腸とホルモンだということ。その大胆な発想転換を、医学データと著者自身の減量体験の両輪で裏づけていく一冊です。

図解

「痩せる」ではなく「健康になる」から始まる

著者の主張の順序は、私たちの常識とは逆さまです。痩せようと努力するから健康になるのではなく、健康になった結果として体が勝手に適正体重へ向かう。目指すべきゴールが入れ替わっている、というわけです。

説得力を支えるのは、著者の立ち位置です。年間200例もの大腸がん手術を手がけ、人の腸を毎日のように見続けてきた外科医が、肥満と免疫の不調を「腸の慢性炎症」と「ホルモン異常」という一本の線で束ねる。専門の現場から立ち上がった仮説だからこそ、机上の栄養論とは重みが違います。

しかも著者自身が、不規則な勤務を20年以上続けた末に10キロ太り、疲労困憊に陥った当事者でした。栄養ドリンクもサプリも効かず、糖質を控えて良質な脂質をとる食事に切り替えたところ、2週間で体調が一変し、4カ月で14キロ減ったといいます。

理論を語る人が自分の体で先に実験していた、という事実は読者の警戒心をやわらげます。本書が痩せることと免疫を同じ仕組みで論じるのは、コロナ禍で「肥満は感染に弱い」という報告に危機感を抱いたことが出発点でした。

肥満は「氷山の一角」、本体は慢性炎症

本書全体を貫く比喩が氷山です。高血圧や糖尿病、がんといった診断名のつく病気は、水面から突き出た一角にすぎない。その下に沈む巨大な本体こそが慢性炎症だ、という見立てです。

編集部が重要だと感じたのは、内臓脂肪の捉え方です。脂肪はエネルギーを溜めるだけの倉庫ではなく、炎症性の物質を出し続ける内分泌器官として働く。つまり脂肪が増えるほど、体は静かに火種をばらまいていることになります。

内臓脂肪がついている時点で、すでに体には何らかの異常が生じている。

この炎症の恐ろしさは、痛みも自覚もないまま進む点にあります。アルツハイマー病は診断の34年前から始まっているという指摘も紹介され、著者は「若くて肥満なら認知症が始まっていても不思議はない」と警告します。

痩せていても油断はできません。BMIが基準内でも、肝臓に脂肪がつけばインスリン抵抗性の危険信号だからです。

カロリー制限も運動も、痩せの主役ではない

ここで本書はダイエットの二大常識を、医学データで丁寧に崩していきます。

まずカロリー制限。摂取を減らすと体は飢餓に備えて基礎代謝を落とすため、減らした分だけ燃費も悪くなる。6カ月続けると基礎代謝は4〜9パーセント下がり、約4万9千人の女性を7年追った研究では最初の1年で2キロ強落ちたきり、結局は元に戻りました。

極端な制限はむしろ危険で、1日800キロカロリーの実験では1週間で心臓に溜まる脂肪が44パーセントも増えたといいます。

運動についても著者は冷静です。70キロの人が20分ジョギングしても消費は100キロカロリー程度で、しかも運動後は食欲が増す「代償行動」が起きやすい。

良かれと思った運動が、ご褒美の一皿に打ち消される。だからこそ、労力を運動ではなく食事の設計に集中させよ、というのが本書の実践的な核心です。

太らせていた正体は「インスリン」というホルモン

カロリーでないなら何が脂肪を溜めるのか。答えはホルモン、とりわけインスリンです。血糖値を下げる働きで知られますが、別名は「脂肪蓄積ホルモン」。糖質を頻繁にとるほど分泌が繰り返され、やがて細胞が刺激に鈍くなるインスリン抵抗性に陥り、行き場を失った糖が脂肪へ回っていきます。

編集部が膝を打ったのは、「問題は量より頻度だ」という指摘です。朝食、10時のおやつ、昼後の甘いもの。こまめな糖質摂取がインスリンを出しっぱなしにし、痩せにくい体をつくる。

加えて満腹を伝えるレプチンも過剰分泌で効かなくなり、食べても満たされない状態が生まれます。食欲が止まらないのは意志の弱さではなく、ホルモンが壊れているせいだったのです。

意外なのは、血糖値を最も上げるのが砂糖ではないという事実。グリセミック指数では砂糖が60に対し白パンは95、白米は76と、主食のほうが急上昇させます。著者は、糖をエネルギーにするシュガーバーニングから、体脂肪を燃やすファットバーニングへ体質を切り替えることを勧めます。

免疫の7割は腸にある。「漏れる腸」が全身に火をつける

物語の舞台は腸へ移ります。免疫システムの約7割は腸に集中し、大腸には100兆個以上、2〜3キロ分の細菌がすむ。この菌のバランスが健康を左右します。

腸内環境が荒れると粘膜細胞の隙間がゆるみ、本来通さない毒素が血中へ漏れ出す。これがリーキーガット(漏れる腸)で、漏れた毒素が全身に慢性炎症を広げます。

腸の不調が腸にとどまらないのが怖いところです。しかも腸内細菌が作るLPSという物質は脳の食欲コントロールまで乱す。甘いものを我慢できないのは、荒れた腸が脳へ送る信号かもしれません。

腸内細菌が代謝を握る証拠も鮮烈です。太った人の便を移植されたマウスは太り、痩せた人の便を移植されたメタボ男性はインスリン感受性が改善した。「あなたは食べたものでできている」という格言は不正確で、正しくは「食べたものを腸内細菌がどう処理したか」で体は決まる、と著者は言い換えます。

腸を休ませ整える「ファスティング」と「3R」

荒れた腸を休ませ、インスリンを戻す具体策が間欠的ファスティングです。食べる時間を8時間以内に収め、残り16時間は糖質を含まない水分だけで過ごす。空腹時間が長いほど脂肪は燃えやすくなります。

もう一つの効用が腸の掃除です。胃腸が空になると、MMC(空腹期強収縮群)という掃除運動が始まり、食べカスや増えすぎた菌を押し流します。ただしこれは空腹時にしか起きない。

絶えず何か食べていれば掃除の時間は永遠に来ないのです。お腹が鳴る音は、腸が清掃を始めた合図でした。著者は朝食も、朝は自然に血糖が上がる以上メカニズム上は不要だと言い切ります。

腸そのものの立て直しは3Rの順序で示されます。まずReset(掃除)で悪玉菌やカンジダを一掃し、次にRebuild(再建)で活性炭やL-グルタミンによって腸壁を修復、最後にReinoculate(再注入)で食物繊維と発酵食品を入れて善玉菌を定着させる。

納豆やヨーグルトをいきなり足すのではなく、掃除して、直して、それから入れる。この順番こそが肝だと著者は強調します。

入れるべき「良質な脂質」と、眠りがつくる免疫

減らすだけでなく、何を入れるかも本書は具体的です。細胞膜は脂質でできているため、悪い油は細胞そのものを炎症させる。サラダ油やマーガリンを避け、オリーブオイルやココナッツオイル、魚の油、ナッツへ替える。

免疫食材ではニンニク、ショウガ、キノコのβグルカンなどが挙がり、栄養素ではビタミンC・D・亜鉛が要。とくにビタミンDは、COVID-19で血中濃度が高い群の重症化率が低かったデータが紹介され、日光を浴びれば無料で作れる点が魅力です。

最後のピースが睡眠です。眠っている間に体は最強の免疫物質メラトニンを大量に作り、脳のゴミを洗い流すグリンファティックシステムも2倍速で働く。

睡眠5時間未満で肺炎リスクが70パーセント上がるデータもあり、眠らないことは免疫を直接削る行為だと分かります。運動もやりすぎは逆効果で、1時間以上の激運動は免疫を下げる。

短時間のHIITで十分だという指摘は、頑張り屋ほど耳が痛いはずです。

読み終えて残る「静かな安心」

本書を閉じたとき残るのは、「痩せようと力まなくていい」という安堵です。カロリーを数え、運動で自分を追い込む努力は、そもそも的を外していたのかもしれません。腸を休ませ、良い油を入れ、よく眠る。健康になれば体は勝手に整う、という順番を著者は自らの体で確かめました。

始め方も拍子抜けするほど小さくていい。夕食から翌朝まで12時間あけ、台所の油を一本入れ替え、腕立て1回から動く。「習慣は意識して身につけるもの」と著者は書きます。今夜、夕食を少しだけ早く切り上げる。手始めは、それだけで十分です。


合わせて読みたい

カロリーを減らしても、痩せない。 本書の第1章「カロリー制限では痩せない」という主張を、より身近な切り口でまとめた一本です。なぜ意志ではなくホルモンが問題なのか、入口として最適です。

「ファスティング」が、体と脳を変える科学 本書の核となる間欠的ファスティングを、体と脳の変化という観点から掘り下げています。MMCやインスリンの話を実感に変えたい人におすすめです。

『Go Wild 野生の体を取り戻せ!』ジョン・J・レイティ 低炭水化物食や進化医学の視点から、現代人の体の不調を読み解く一冊。本書の「腸とホルモン」の話と響き合い、健康観を立体的にしてくれます。


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