「食べる量を減らしているのに、なぜか体重が落ちない」「無理して痩せた矢先に、前より太ってリバウンドした」。ダイエットのたびにこの壁にぶつかってきた人は少なくないはずだ。
そして多くの人が、その原因を自分の意志の弱さに求めてしまう。だが本書が突きつけるのは、犯人はあなたの根性ではなく、減らしていた食事の「中身」だという見立てである。
『眠れなくなるほど面白い 図解 たんぱく質の話』は、その中身の正体を「たんぱく質不足」と名指しする一冊だ。監修は骨格筋のたんぱく質代謝を研究する立命館大学の藤田聡教授。
主張は驚くほど短くまとまる。痩せてリバウンドしない体をつくるうえで大事なのは「何を食べないか」ではなく「何を食べるか」だ、と。食べないダイエットから食べるダイエットへ——本稿では、なぜそう言い切れるのかを追いながら、編集部としての留保も添えていく。
減らすほど太る「燃費の悪い体」ができる仕組み
出発点として、たんぱく質が体に占める大きさを押さえておきたい。体内のたんぱく質は体重の約30〜40%を占め、筋肉・血管・皮膚・髪・爪の材料になっている。水分を除いた筋肉の約8割はたんぱく質だ。つまり食事制限でたんぱく質を真っ先に削ると、落ちるのは脂肪より先に筋肉になる。
ここで効いてくるのが基礎代謝である。心臓を動かし体温を保つといった、寝ていても消費される最低限のエネルギーで、1日の総消費の6〜7割を占める。
そのうち約20%を筋肉が使っている。だから筋肉が減れば、じっとしていても消費されるカロリーが目減りする。食事制限で筋肉から落とすことは、自ら「燃費の悪い体」をつくる作業に等しい。この状態で元の食事量に戻せば、減った消費の分だけエネルギーが余り、以前より太る。
これがリバウンドの正体だ、と本書は説く。
追い打ちをかけるのが空腹そのものだ。長く食べずにいると血糖値が下がり、体は不足を補うために筋肉を分解してエネルギーに変える。糖新生と呼ばれる働きである。
著者が糖質制限に慎重なのもここで、ご飯やパンをただ抜くと、足りないエネルギーを埋めるために筋肉が削られてしまう。糖質を減らすなら、その分をたんぱく質でしっかり補うのが条件になる。
裏を返せば、巷にあふれる「とにかく減らす」系のダイエットの多くは、痩せる仕組みではなく太りやすい体をつくる仕組みだった可能性がある。ここで見落とされがちなのは、体重計の数字が落ちても、その中身が筋肉なら前進ではなく後退だという点だ。
ダイエットの成否を体重の増減だけで測ってきた人ほど、この一点の捉え直しは効く。落とすべきは体重ではなく脂肪であり、守るべきは筋肉である——本書の主張は、この単純な区別に集約される。
食べるほど燃える——たんぱく質だけが持つ特典
では逆に、たんぱく質を「食べる」と何が起きるのか。ここに他の栄養素にない特典がある。食べるだけで、消費されるエネルギーが多いのだ。
食後に体がポカポカするのは、摂った栄養を消化・吸収する過程で一部が熱として使われるからで、これを食事誘発性熱産生(DIT)と呼ぶ。面白いのは栄養素ごとの差だ。
摂ったエネルギーのうち熱で消える割合は、糖質が約6%、脂質が約4%なのに対し、たんぱく質は約30%にのぼる。同じカロリーでも、たんぱく質は5倍以上を勝手に捨ててくれる計算になる。
本書はこれを数字でも見せる。1日の総量が同じ2000kcalでも、高たんぱくな食事に組み替えるとDITによる消費が増え、1年で約35,040kcal、体脂肪にして約4.8kg分を余計に消費できるという。
太るのを恐れて肉や魚を避けるのは、この観点ではむしろ逆効果になりかねない。ただし編集部として一つ釘を刺しておきたい。
この試算はあくまで単純化されたモデルであって、太りにくいことと無制限に食べていいことは別物だ。著者自身もカロリーの摂りすぎには注意が必要だと断っている。
たんぱく質は脂肪に変わりにくい、という事実を「食べる後押し」として受け取るのが健全だろう。
「まとめ食い」は効かない——1食20gと朝食という勝負どころ
ここで多くの人が「なら夜にステーキをドカ食いすればいい」と考える。だがこれは効かない。たんぱく質は体に貯めておけないからだ。1食で筋肉の合成に使える量にはおよそ20gという上限があり、超えた分は尿として排出される。
まとめ食いの大半は、そのまま体を素通りしていく。
だから正解は、1食あたり20〜30gを朝・昼・夜へ均等に配ること。血中のアミノ酸濃度を1日を通して保つことが、筋肉を維持する条件になる。なかでも著者が繰り返し強調するのが朝食だ。
夕食から翌朝までは何も供給されず、その間、体は筋肉を分解する「分解モード」に傾いている。朝食で十分なたんぱく質を摂り、分解から合成へスイッチを切り替える必要がある、というわけだ。
ところが現実の朝食は心もとない。本書によれば若い世代の朝のたんぱく質摂取量は平均7〜8g程度にとどまるという。トーストとコーヒーだけでは、せっかくの合成スイッチが入らない。
ここは本書のなかでもっとも再現しやすく、費用対効果の高い提案だと思う。ゆで卵や納豆、ヨーグルトを朝に1品足すだけで、夜のあいだ進んだ分解を止め、合成へ切り替えられる。
「1食20gの上限」と「朝食での切り替え」という二つの原則を並べると、食事の設計思想が見えてくる。たんぱく質は貯金できないぶん、こまめに払い続ける「日払い」で管理するしかない。
夜のドカ食いという一発逆転が通用しないのは、そもそもこの栄養素が貯蔵に向かない性質を持っているからだ。
動物性と植物性を1対1で組む、質の設計図
量の次は質だ。たんぱく質の質を測る物差しがアミノ酸スコアである。たんぱく質は体内でアミノ酸に分解されて使われ、人体を構成する20種類のうち9種類は体内で作れず食事から摂るしかない必須アミノ酸だ。
アミノ酸スコアは、その必須アミノ酸が理想のバランスでどれだけ揃っているかを100点満点で示す。肉・魚・卵・大豆はいずれもスコア100の優等生である。
もっとも、スコアが同じでも中身は違う。動物性(肉・魚・卵)は必須アミノ酸が豊富で吸収率も95%以上と高いが、脂質も多くなりがちだ。植物性(大豆など)は吸収率が80〜85%とやや劣る一方、低脂質で脂肪燃焼を助ける。
そこで著者がすすめるのが、両者を1対1で組み合わせる食べ方だ。目玉焼きに納豆、豚しゃぶに豆腐——互いの弱点を補い合い、効率よく良質なたんぱく質が摂れる。
難しい栄養計算より、この「動物×植物のペア」という覚え方のほうが食卓で続く、という実装のうまさがある。
美容・貧血・加齢——たんぱく質不足が顔を出す意外な場所
たんぱく質の話は、ダイエットの外へも広がっていく。まず美容だ。肌のハリを生むコラーゲンもたんぱく質でできている。しかも体は、摂ったたんぱく質を内臓や血液など命に関わる場所へ優先して回し、肌や髪に届くのは最後になる。
高い化粧水に手を伸ばす前に、材料そのものが足りているかを疑う価値がある、という指摘は示唆に富む。体内でコラーゲンを作るにはビタミンCと鉄も要るため、肉や魚にブロッコリーやピーマンを添える、といった組み合わせが効く。
貧血の常識もひっくり返る。貧血といえば鉄不足が定番だが、血中で酸素を運ぶヘモグロビンはヘム(鉄)とグロビン(たんぱく質)の複合体だ。たんぱく質が足りなければ、鉄をいくら摂ってもヘモグロビンは十分に作れない。鉄を意識しているのに改善しないなら、たんぱく質量を見直す番かもしれない。
そして加齢である。筋肉量は20代をピークに減り始め、40歳以降は10年ごとに約8〜10%失われていく。この減少はサルコペニアと呼ばれ、放置すれば転倒や寝たきりのリスクを高める。
厄介なのは、年を取るほど筋肉を作る力そのものが落ちる「同化抵抗性」だ。筋肉の合成を最大化するのに必要な量は、若者が体重1kgあたり0.24gなのに対し、高齢者では0.40g必要になるという研究もある。
実際、本書は高齢者に体重1kgあたり1.06g程度と、若者より多めの摂取を促す。だから高齢者こそ多めに摂る必要がある。「年だから小食でいい」は、筋肉にとってはむしろ逆なのだ。
両手の親指と人差し指で輪を作り、ふくらはぎの一番太い部分がつかめてしまうなら危険信号——本書が示すこの簡易チェックは、家族の食卓を見直すきっかけとして覚えておく価値がある。
明日の食卓に落とす、計算と手のひらの目安
最後に、知識を実装へ変える手順を三つに絞る。ひとつ、自分の1日の必要量を出す。運動しない人は体重(kg)×0.9、する人は×1.6が目安で、体重60kgで運動しない人なら約54gが目標になる。
ふたつ、朝食にたんぱく質を1品足す。ゆで卵1個(約7g)や納豆1パック(約8g)、ヨーグルトを、パンやおにぎりに追加する。みっつ、量は手のひらで測る。
肉や魚は「片手の手のひら分でたんぱく質約20g」を目安にし、そのうえで動物性と植物性を1対1で組めば、献立選びが一気に楽になる。
補足として、筋トレをする日はその前後にたんぱく質を摂り、運動後のアルコールは控えたい。運動後に飲むと筋肉の合成率が約30%下がるという研究がある。
なお「たんぱく質の摂りすぎは腎臓に悪い」という通説について、著者は、もともと腎機能が低下している人を別とすれば、健康な人が高たんぱく食で腎臓を悪くする科学的根拠はないとしている。
とはいえ持病がある人は自己判断せず、医師に相談してほしい。
読み終えて残るのは、ダイエットを「引き算」から「足し算」へ裏返す発想だ。何を我慢するかではなく、筋肉という土台に何を足して燃える体をつくるか。その最初の一手が、明日の朝、いつもの食事に卵を1個足すことである。分解に傾いた体を、合成へ切り替える小さなスイッチだ。
