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『隠れた能力をどこまでも引き出す 苫米地式コーチング』苫米地英人|「がんばっている」時点で、方向が間違っている

キャリア・働き方
『隠れた能力をどこまでも引き出す 苫米地式コーチング』

「もっとがんばらなければ」「努力が足りないから結果が出ないんだ」──そう自分を追い込んでいませんか。認知科学者の苫米地英人氏は、この前提そのものを否定します。がんばっている状態とは、コンフォートゾーン(居心地のいい場所)が現状に留まっている証拠だと。

本書の核心は「心が変われば環境は勝手に変わっていく」という一文にあります。行動を変えて心を変えるのではなく、心を先に変えることで行動が自動的に変わる。この順番が逆になっているから、努力しても成果が出ないのです。

コーチングの世界的権威ルー・タイスのプログラムに最新の脳機能科学を融合させた「苫米地式コーチング」。その骨格は3つの概念で成り立っています。現状の外側に「ゴール」を設定すること。脳の「コンフォートゾーン」をゴール達成後の状態にずらすこと。「アファメーション」でセルフイメージを書き換えること。この3つが揃ったとき、無意識が勝手に目標達成に向けて動き始めます。

こんな人に読んでほしい

毎日がんばっているのに成果が出ないと感じているビジネスパーソン。既存の目標設定に限界を感じているリーダー。「やりたいことが見つからない」と悩んでいる人。自己啓発書を読んでも行動が変わらない人。

既存の選択肢からゴールを「選んだ」時点で、可能性は閉じている

本書が最初に覆すのは、「目標は現実的に設定すべき」という常識です。

著者は断言します。社会に用意された職業一覧や会社の役職から目標を選んでいる限り、潜在能力は発揮されない。Googleの創立者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが、既存のトップ企業を目標にしていたら、検索エンジンのビジネスモデルは生まれなかった。わずか10年で売上106億ドルの企業に成長した理由は、「今ここにないもの」をゼロから創造したからです。

ここで登場するのが「スコトーマ(盲点)」の概念です。人は知れば知るほど、学べば学ぶほど、逆に見えなくなるものが出てきます。過去の成功体験が多い人ほど、それが盲点を作り、新しい可能性を認識できなくなる。著者がタイガー・ウッズを「父親によってすべての可能性を奪われた人間」と表現するのは、他者が設定したゴールの危険性を端的に示しています。

では、どうすればいいのか。著者の答えは明快です。「今の自分には達成方法が見当もつかないほど大きなゴール」を設定すること。ただし必ず期限をつける。達成方法がわからないからこそ、スコトーマが外れ、今まで見えなかった道筋が見えてくる。現状の内側にゴールを置く限り、脳は現状維持を選び続けます。

コンフォートゾーンを「未来」にずらせば、脳が勝手に動き出す

本書の2つ目の核心が「コンフォートゾーン」の操作です。

コンフォートゾーンとは、脳にとって「居心地のいい場所」です。年収500万円の人が年収500万円前後の生活を維持し続けるのは、そこがコンフォートゾーンだから。仮に宝くじで1億円当たっても、多くの人が数年後には元の生活水準に戻ってしまう。脳が無意識に「居心地のいい場所」に引き戻すからです。

著者が提唱するのは、このコンフォートゾーンを「現状」から「ゴール達成後の自分の状態」に意図的にずらすことです。「年収3000万円の自分」がコンフォートゾーンになれば、年収500万円の現状に居心地の悪さを感じます。その居心地の悪さが、行動の原動力になる。努力しているという自覚すらなく、必要な行動を自然にとるようになります。

ここで重要なのが「臨場感」です。ゴールを達成している未来の自分を、あたかも今体験しているかのようにリアルにイメージする。イチロー選手が小学6年生の時に書いた作文は、「契約金1億円以上」「プロ野球選手になる」と具体的な数字まで含む、圧倒的な臨場感を持っていました。子どもの頃から高いコンフォートゾーンが設定されていたからこそ、365日中360日の厳しい練習を「努力」ではなく「当たり前のこと」としてこなせたのです。

言葉でセルフイメージを書き換える──アファメーションの科学

3つ目の視点は、ゴール達成のための具体的なツールです。

著者が提示するのが「アファメーション」──自分に対する肯定的な宣言です。ただし、一般的なポジティブシンキングとは明確に異なります。「社長になりたい」と言ってはいけません。「なりたい」の裏には「今は社長ではない」という現状肯定が含まれるからです。正しくは「私は社長として充実した日々を送っていて、清々しい」と現在形で言い切る。

アファメーションには明確なルールがあります。一人称で書く。否定形を使わない。「遅刻しない」ではなく「朝早く出社して快適だ」。現在形で断言する。他人と比較しない。情動の言葉を入れる。そして、内容は誰にも言わない。なぜなら、否定的な言葉を投げかける「ドリームキラー」を呼び寄せてしまうからです。

北島康介選手のエピソードが象徴的です。アテネ五輪の50日前に風邪を引いて焦る北島選手に、平井コーチは「いつもこうなんだよな」とだけ言いました。過去に困難を乗り気した記憶と結びつけ、マイナスの状況をプラスのセルフイメージに反転させた。これは否定的な指導の対極にあるアプローチです。「ダメだ」と叱れば、相手の脳に「ダメな自分」がコンフォートゾーンとして刻まれ、同じミスを繰り返す原因になります。

実践アクション:今日から始める3ステップ

1. 「今の自分には到底無理だ」と思えるゴールを、期限つきで設定する

今の延長線上にある目標を捨ててください。「今年中に資格を取る」ではなく、「3年後に独立して年商1億円の事業を創る」。達成方法がわからなくて構いません。むしろ、わからないほど大きなゴールでなければ、脳のスコトーマは外れません。よくある失敗は、「大きなゴール」と言いながら既存の選択肢の中から選んでしまうことです。「部長になる」「大企業に転職する」は、誰かが用意した枠組みです。自分にしか描けないゴールを、期限つきで紙に書き出してください。

2. ゴール達成後の自分を「現在形」でイメージする

設定したゴールを達成している自分の姿を、毎日リアルにイメージしてください。「私は年商1億円の事業を経営していて、毎日がワクワクしている」。ポイントは「なりたい」ではなく「している」と現在形で言い切ること。よくある失敗は、「なれたらいいな」と願望のまま終わらせてしまうことです。願望は「今はそうではない現実」を脳に確認させる行為です。すでにそうである自分を、情動(嬉しい、清々しい、ワクワクする)を込めてイメージすることで、コンフォートゾーンがゴール側にずれ始めます。

3. 部下には「教えず」に「質問」する

指示や命令をやめて、「あなたが実現したい目標は何ですか?」「それが達成されたらどうなりますか?」と質問を投げかけてください。教え込めば教え込むほど、相手は意識しすぎて自然な動きを失います。あるプロ野球のコーチは、フォームの指導をやめて「ボールの縫い目を見てください」とだけ伝えました。選手はリラックスし、自然とフォームが改善された。よくある失敗は、質問の形をとりながら実際は「こうすべきだ」と誘導してしまうことです。答えを持たずに問いかけ、相手の発見を待つ姿勢が不可欠です。

おわりに

「自分で成長の限界を決めてしまったら、成長はそこで止まってしまう」。本書のこの一文が、すべてを集約しています。私たちの限界は、能力ではなくセルフイメージが作っています。コンフォートゾーンを現状に置いたまま努力するのは、ブレーキを踏みながらアクセルを踏むようなものです。ブレーキを外すのは、がんばることではありません。ゴールを現状の外に置き、脳の仕組みを味方につけること。その瞬間から、「がんばる」という概念そのものが消え、行動が自然に変わり始めます。


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『神トーーク』星渉|論理的に正しくても、人は動かない セルフイメージの書き換えを「対人コミュニケーション」に応用する一冊。本書の「否定は最悪のコーチング」という主張を、感情と承認の心理学から裏づけてくれます。

『頭のいい人が話す前に考えていること』安達裕哉|知性の見せ方 「教えないコーチング」で質問を投げかける前に、何を考えるべきか。抽象度の高い思考を実際の対話で使うための設計方法が学べます。

『超一流の会話力』西任暁子|「感じのいい人」が無意識にやっていること コーチングの大前提である「ラポール(信頼関係)」を日常の会話から構築する方法論。本書の「相手の臨場感空間を共有する」を実践レベルに落とし込めます。


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