真面目に話している。誠実に伝えている。
なのに、なぜか評価されない。
面接でも、商談でも、プレゼンでも。
言いたいことは言った。でも、相手の反応がいまいち。
岸正龍さんの『一瞬で印象を操るズルい話し方』を読んで、その理由がわかりました。
「事実」より「印象」の方が、人の判断を左右していた。
外科医のクイズ、解けますか?
本書の冒頭に、こんなクイズがあります。
父とその息子が自動車事故に遭い、父はその場で即死した。息子も重傷を負い、急いで病院に運び込まれた。手術室で息子を迎えた外科医は顔色を変えて言った。「私は彼を手術できない。彼は私の息子だ!」
あれ?父親は死んだはずでは?
混乱しませんでしたか?
答えは単純です。外科医は息子の「母親」だった。
多くの人がこのクイズで戸惑います。理由は「外科医=男性」という無意識の思い込み(バイアス)があるから。
私たちの脳は、こうした「思い込み」で瞬時に判断を下しています。
そして、この思い込みを逆手に取れば、印象を操ることができる。
これが本書の核心です。
「隣に座っただけ」で評価が下がる
衝撃的な実験があります。
ライス大学の心理学者が行った実験で、太った体型の人物は「自己管理能力に乏しい」というバイアスから、採用率が低くなることが確認されました。
ここまでは想像できます。
驚くべきなのはその続きです。
普通の体型のAさんが、待合室で太った人の隣に「座っていただけ」で、採用率が下がった。
偶然、隣に座っただけで。
これが「印象」の怖さです。
私たちは、論理的に判断しているつもりでいます。でも実際は、無関係な要素に引っ張られて判断している。
「バカ正直は損をする」という著者の主張は、こういうことです。
事実を伝えれば伝わる、という前提が間違っている。
自分の強みは「語るな、質問させろ」
では、どうすれば印象を操れるのか。
著者が提唱するのは、「フック」を仕掛けて、相手に質問させるという手法です。
人は、他人から説得されると無意識に抵抗します。「勉強しなさい」と言われると、かえってやる気がなくなるのと同じです。
これを「心理的リアクタンス」と呼びます。
だから、自分から強みを語ってはいけない。
相手が「なぜ?」と聞きたくなる「フック」を仕掛ける。そして、質問されてから答える。
著者の名刺には、電話番号の横にこう書いてあるそうです。
「(電話あまりでません)」
相手は必ず聞きます。「なぜ電話に出ないんですか?」
この質問が、絶好のチャンスになります。
「実は別の事業も経営していて、そちらが忙しくて…」
こう答えることで、「実業家として成功している」というイメージを、自慢することなく伝えられる。
相手から質問された答えとして語るから、抵抗なく受け入れられる。
人は「説明」を記憶しない
もう一つ、刺さった話があります。
「スペックやデータを並べた『説明』は、人の記憶に残らない」
たとえば、友人がラーメン屋を勧めてくれたとします。
「豚骨と魚介のダブルスープで、麺は2種類の小麦粉をブレンドした特注品で…」
こう説明されても、数日後には「魚介系だったかな」くらいしか覚えていません。
では、どうすれば記憶に残るのか。
著者が提唱するのは「イメージ・マイニング」という技術です。
論理ではなく、五感を刺激する「イメージ」を相手の脳に植え付ける。
たとえば、サバの塩焼きを勧めるとき。
「脂がのってて美味しい」ではなく、こう言います。
「こんがり焼かれた皮に箸を入れると、パチパチと音がして、ジューシーな脂があふれ出す。その香ばしい匂いだけでご飯が進みそうで…」
視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚。五感に訴えかける描写をすると、相手の脳に鮮明なイメージが焼き付きます。
説明ではなく、体験させる。
これが「記憶に残る伝え方」の正体でした。
自信がなくても「自信があるフリ」をする
最後に紹介するのは、「フェイク・イット」という技術です。
人は変化を嫌います。「現状維持」を好む性質がある。
この心理的な壁を乗り越えさせるには、「この人に任せれば大丈夫」と思わせる自信が必要です。
でも、自信がない場合はどうすれば?
著者の答えは、「自信があるフリをしろ」です。
具体的には、「10倍フェイク・イット」という方法を紹介しています。
20人の前でプレゼンするなら、「200人の聴衆がいる」と思い込む。
10万円の仕事なら、「100万円の報酬をもらっている」と設定して臨む。
この精神的なフレームを設定すると、態度が変わります。
その揺るぎない態度は「自信」として相手に伝わり、「この人に任せれば大丈夫だ」という安心感を与えます。
ただし、注意点があります。
「0」に10をかけても「0」のまま。
全く経験がないことに対して「できます」と言うのは詐欺です。あくまで、少しでも経験があることを増幅させる技術です。
こんな人に読んでほしい
- 真面目に話してるのに、なぜか伝わらない人
- 自己アピールが苦手で、自慢っぽくなりたくない人
- プレゼンや商談で、相手の反応がいまいちな人
- 「印象」で損していると感じている人
この本が教えてくれるのは、「もっと正直に話せ」ではありません。
「印象を設計しろ」。
私たちは、論理や事実よりも、印象で動いています。
それなら、印象を意図的に設計した方がいい。
「ズルい」と感じるかもしれません。
でも、真面目に話して損し続けるのと、印象を設計して成果を出すの、どちらを選びますか。
答えは、明らかだと思います。
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