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『一瞬で印象を操るズルい話し方』岸正龍|真面目に話してるのに、なぜか損してる人へ

コミュニケーション・文章術 ✍ 岸正龍
約8分で読めます

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『一瞬で印象を操るズルい話し方』
目次

真面目に話している。誠実に伝えている。

なのに、なぜか評価されない。

面接でも、商談でも、プレゼンでも。言いたいことは全部言った。準備もした。それでも相手の反応がいまいちで、後から「なぜ刺さらなかったのか」がわからずモヤモヤする。

岸正龍さんの『一瞬で印象を操るズルい話し方』を読むと、その理由が腑に落ちます。

「事実」より「印象」のほうが、人の判断を先に左右していた。

本書のサブタイトルは「相手の脳にこびりつくコミュニケーション術」。正直は美徳でも、バカ正直は損をする。著者はそう言い切ります。実績がないなら「ありそうに見せる」、自信がないなら「自信満々に振る舞う」。そのハッタリは嘘ではなく戦略だ、と。

読みながら何度も「ズルいな」と思います。でも同時に、これは自分が無意識にされてきたことの種明かしでもある。だとすれば、知っておいて損はありません。


図解

私たちの判断は「直感のシステム1」が握っている

本書の理論的な支柱は、行動経済学でおなじみの「システム1」と「システム2」という二つの思考モードです。

システム1は高速で自動的、直感的な思考。最寄り駅から家まで、道をいちいち確認せずに帰れるのはこれのおかげで、エネルギーをほとんど使いません。

システム2は低速で意識的、論理的な思考。初めての場所へ地図を見ながら向かうときに働き、エネルギーを大量に消費します。

肝心なのはここです。脳はエネルギーを節約する省エネ器官なので、ほとんどの判断を高速で楽なシステム1に任せている。つまり人は、論理ではなく直感で物事を決めている。

このシステム1の落とし穴を、本書は有名なクイズで突きつけます。

父とその息子が自動車事故に遭い、父はその場で即死した。息子も重傷を負い、急いで病院に運び込まれた。手術室で息子を迎えた外科医は顔色を変えて言った。「私は彼を手術できない。彼は私の息子だ!」

父は死んだはずなのに、なぜ。混乱したなら、それこそが証拠です。答えは単純で、外科医は息子の母親でした。「外科医=男性」という思い込みが、システム1に一瞬で働いたのです。

もう一つは「リンダ問題」。聡明で社会問題に関心の強い女性について、「銀行員である」と「銀行員でフェミニズム運動に参加している」のどちらが可能性が高いかを問うと、多くの人が後者を選びます。

けれど論理的には前者が正解です。二つの条件が揃う必要がある後者のほうが、確率は必ず低くなるからです。

私が驚いたのは、確率や統計を学んだスタンフォードの学生でさえ、その多くが間違えたという指摘です。直感は専門知識すら上回ってしまう。私たちが相手にしているのは、論理的なシステム2ではなく、思い込みに満ちたシステム1なのです。


「隣に座っただけ」で評価が下がる

バイアスは「ちょっとした先入観」では済みません。記憶そのものを作り替えるほど強力です。

認知心理学者ロフタスの実験では、同じ事故映像を見せた被験者に、片方には「車が当たった(hit)ときの速度は?」、もう片方には「激突した(smashed)ときの速度は?」

と尋ねました。「激突」と聞いたグループは速度を速く見積もり、さらに後日「割れた窓ガラスはあったか」と尋ねると、実際にはなかったガラスを「見た」と答える割合が高かった。

たった一語の違いが、記憶を歪める。自分の記憶は事実の記録だと思っていた身としては、ここで少しぞっとしました。

視覚でも同じです。ライス大学の実験では、太った体型の人は「自己管理能力に乏しい」というバイアスで採用率が下がりました。ここまでは想像できます。

驚くのはその先です。

普通の体型のAさんが、待合室で太った人の隣に「座っていただけ」で、採用率が下がった。

無関係なはずの隣人の属性が、評価まで汚染してしまう。バイアスは聴覚(言葉)からも視覚(隣の人)からも無意識に入り込み、判断を歪める。「事実を伝えれば伝わる」という前提が、いかに脆いか。だからこそ著者は、この仕組みを管理し、利用する側に回れと説きます。


強みは「語るな、質問させろ」

ここから本書は、印象を操る技術を3ステップで提示します。まず相手の思い込みを逆手に取る「バイアス・コントロール」、次に五感で記憶に刻む「イメージ・マイニング」、最後に自信で決断を後押しする「フェイク・イット」。

この順番には意味があります。心をこじ開けなければイメージは反発で跳ね返され、イメージが浸透していなければ最後の自信演出も効かないからです。

第一段階・バイアス・コントロールの核心は「ギャップ(意外性)」です。人は自分の持つバイアスの逆に強く惹かれる。公式はシンプルで、「〇〇(バイアスの内容)なのに、××(バイアスの逆)」

「女性は理数系が弱い」という思い込みがあるから「女性なのに理系」が刺さり、「口下手は営業に向かない」というバイアスがあるから「元・口下手のトップセールス」が効く。

ただし絶対のルールがあります。ギャップを自分から話してはいけない。

自分から「実は私、〇〇なのに××なんです」と語れば、自慢や売り込みになり、「心理的リアクタンス」が働きます。人は説得されそうになると無意識に抵抗する。「勉強しなさい」と言われるとやる気が失せる、あれと同じ反発です。

だから、相手の頭に「?」を浮かべる「フック」を仕掛け、相手から質問させる。著者の名刺がその実例です。電話番号の横にこう書いてある。

「(電話あまりでません)」

「電話番号=電話してほしい」という常識とのギャップに、相手はほぼ必ず聞く。「なぜ電話に出ないんですか?」この質問が好機で、著者は「別の事業も経営していて、そちらが忙しくて」と答え、実業家として成功しているイメージを自慢せずに渡せる。

語るのではなく、相手に質問させてから答える。同じ情報でも、自分から押し出すのと、相手の問いへの返答として差し出すのとでは、受け取られ方がまるで違う。ここが本書のいちばん実用的な発見だと思います。

実践は5ステップに整理できます。アピールしたい点を決め、相手が抱きそうなバイアスを予測し、両者を組み合わせてギャップを作り、質問を誘発するフックを考え、聞かれたらアピール点を答えとして語る。

一つだけ注意があります。銀行員や医師のように「こうあるべき」という強い職業バイアスがある場合、奇抜なギャップはかえって不信感を招く。そこでは逆に、バイアスに沿った振る舞いが得策になります。


人は「説明」を記憶しない

心を開かせたら、次はイメージ・マイニング。記憶に刻み、行動を促す段階です。

多くの人がここで罠にはまります。「スペックの説明」です。「豚骨と魚介のダブルスープで、麺は2種類の小麦粉をブレンドした特注品で」。こう説明されても、数日後には「魚介系だったかな」くらいしか残っていない。

スペックや論理はシステム2に届くが、心には響かず、行動を促さない。

人間の意思決定の大半は無意識が握っているからです。著者はハーバードのザルトマン教授を引き、意思決定の九割以上が無意識下で行われるとします。無意識の入り口は五感です。スーパーでフランス音楽を流すとフランス産ワインの売上が伸びるのに、買った人のほとんどはその音楽を意識していない。

だから論理ではなくイメージを直接植え付ける。本書はそのための手法を整理しています。客観的事実で裏づける「ファクト」、独創的なたとえで情景を鮮明にする「シミリ(直喩)」、未知を構造の同じ既知に置き換える「アナロジー(類推)」。

さらに「友人のジョンが」と他人の話として語る「第三者話法」は、自分への直接提案には警戒する人の心をすり抜ける。寓話で教訓を間接的に埋め込む「物語(ロング・メタファー)」は、説得だと気づかせないまま浸透する。

これらを束ねる中心技術が「五感臨場(ファイブセンス・リアリズム)」です。サバの塩焼きを勧めるなら、「脂がのってて美味しい」ではなくこう言う。

「こんがり焼かれた皮に箸を入れると、パチパチと音がして、ジューシーな脂があふれ出す。その香ばしい匂いだけでご飯が進みそうで」

説明ではなく、体験させる。これが記憶に残る伝え方の正体です。


自信は結果ではなく、原因である

最後はフェイク・イット。決断を後押しする段階です。

ここで立ちはだかるのが「ホメオスタシス(恒常性維持)」。体温を一定に保つように、心も変化を避け、現状を維持しようとする。「導入は面倒だ」「今のままでも何とかなる」という感情は、このブレーキが働いている証拠です。

これを越えさせる鍵は、追加のデータではありません。提案者の「揺るぎない自信」です。自信に満ちた態度が「この人に任せれば大丈夫」という安心感を相手の無意識に与え、現状維持の抵抗を無力化する。脳は考えるエネルギーを惜しむので、信頼できる相手に決断を委ねる状態を心地よく感じるのです。

では自信がないときは。著者の答えは「作る」。Fake it till you make it(うまくいくまで、うまくいっているフリをしろ)の精神です。

具体策が「10倍フェイク・イット」。20人の前でのプレゼンなら「200人の聴衆がいる」と思い込み、10万円の仕事なら「100万円の報酬」と設定して臨む。このフレームを置くと立ち居振る舞いが変わり、言葉に重みが出て、それが自信として相手に伝わる。

ただし、はっきりした限界があります。

「0」に10をかけても「0」のまま。

まったく経験がないことに「できます」と言うのは詐欺であり、信用を失うリスクが大きすぎる。あくまで、少しでも経験がある「1」を「10」に見せる技術です。

著者自身も「悪用厳禁」と警告し、フェイクを続けるうちに本当に実力があると勘違いして傲慢になる危険にも触れている。ここは本書の良心が出ている部分だと感じました。


「ズルい」を、何のために使うか

本書が問うのは「事実は伝わる」という思い込みです。人は論理より印象で動く。だとすれば、印象は運ではなく設計の対象になる。

今日から始められることは多くありません。会話の冒頭で本物の笑顔(口角と目元で笑うデュシェンヌ・スマイル)を作る。自己紹介にフックを一つ仕込み、語らず質問させる。食事の感想を五感で語る。この三つだけでも、印象の受け手から設計者へ立ち位置が変わります。

ただ、強力な技術ほど扱いに責任が伴います。上司と部下、専門家と素人のように力の差がある関係では、この技術は特に効いてしまう。著者は「悪用厳禁」と言う一方で、ズルい影響力と有害な操作を分ける線引きは読者に委ねている。

だからこそ、語る前に一度だけ「相手にどう見せたいか」を決めてみてください。その一拍が、損し続ける側から成果を出す側へ変わる、最初の一歩になります。


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