本文へスキップ
ブクドリ | BOOK DRIP

一つのことを、とことんやった人だけが見える景色

約4分で読めます キャリア・働き方
目次

バンドをやっていた。

高校から大学にかけて、毎日スタジオに入って、曲を作って、ライブをやって。プロになるつもりだった。結局ならなかったけど。

でも、あの時間は無駄だったのか。

そんなことを考えていたとき、ある人の話を読んで、ちょっと救われた気がした。


「突き抜けた先に、本質がある」

佐藤可士和さんという人がいる。

ユニクロ、セブン-イレブン、楽天のロゴを手がけたクリエイティブディレクターだ。日本で最も有名なデザイナーの一人だろう。

彼が面白いことを言っている。

「一つのことにフォーカスして入り込むことが大切です。深く入り込めば、いつか突き抜ける瞬間があり、その先の、本質的な部分に行き着けるはずです」

突き抜けた先に、本質がある。

この言葉、最初は「かっこいいこと言ってるな」くらいにしか思わなかった。でも、彼の具体的なエピソードを聞いて、ちょっと見方が変わった。


音楽への没頭が、デザインを変えた

佐藤さんは美大に入る前、音楽に夢中だった。

バンドを組んで、毎日曲を作って、ライブをやって。プロを目指していたという。

結局、音楽の道には進まなかった。でも、その経験が後のデザインに影響を与えたという。

どういうことか。

「作曲するのと絵を描くことは同じだ!」

音楽に没頭する中で、この発見があったという。

音楽には構成がある。イントロがあって、Aメロがあって、サビがある。緊張と緩和のリズムがある。静と動のバランスがある。

デザインも同じだった。

レイアウトには構成がある。視線の流れがある。緊張と緩和がある。静と動のバランスがある。

表面上は全く違うものに見える。でも、深く入り込んだからこそ、その「本質」が見えた。

音楽とデザインは、構造が同じだったのだ。


「役に立つ」と「意味がある」は違う

ここで一つ、考えてほしいことがある。

「それ、何の役に立つの?」

この質問をされたこと、あるだろう。趣味でも、勉強でも、仕事でも。

でも、「役に立つ」と「意味がある」は違う。

佐藤さんの音楽経験は、直接的には「役に立たなかった」。プロになれなかったのだから。

でも、「意味はあった」。

デザインの本質を理解するための、大きな糧になった。

没頭した経験は、必ずどこかで繋がる。

ただし、条件がある。「突き抜ける」まで没頭することだ。


スノーボードで「バランス」を知った

もう一つ、佐藤さんのエピソードがある。

彼はスノーボードにも没頭した時期があるという。毎週末、山に通い詰めた。

そこで体感したのが「バランスという概念の大切さ」だった。

スノーボードは、バランスのスポーツだ。重心が少しでもずれると転ぶ。力を入れすぎても、抜きすぎてもダメ。微妙な調整の連続だ。

この感覚が、デザインにも通じた。

レイアウトのバランス。色のバランス。情報量のバランス。「ちょうどいい」を見つける感覚。

本で読んでも、わからない。頭で理解しても、できない。

体で覚えるしかないのだ。


「器用貧乏」の罠

ここで、逆のパターンを考えてみる。

色々なことを「ちょっとずつ」やる人がいる。

プログラミングも少し。英語も少し。投資も少し。筋トレも少し。

悪くない。でも、どれも「突き抜けない」。

表面をなぞっただけでは、本質は見えない。

器用貧乏という言葉がある。何でもそこそこできるけど、どれも突出しない。

これ、実は「何も見えていない」状態かもしれない。

一つのことを深くやった人には、「本質」が見える。その本質は、他のことにも応用できる。

ちょっとずつ色々やった人には、「表面」しか見えない。応用するための「核」がない。


「好き」を深掘りしろ

じゃあ、何を深掘りすればいいのか。

答えはシンプルだ。好きなことをやれ。

佐藤さんは、音楽が好きだった。スノーボードが好きだった。だから没頭できた。

「これが将来役に立つかどうか」なんて考えなかった。好きだから、やった。

結果として、突き抜けた。本質が見えた。それが他の分野に活きた。

逆に、「役に立ちそうだから」で始めたことは、たいてい続かない。

没頭できないから、突き抜けない。表面で終わる。本質が見えない。

皮肉なことに、「役に立つかどうか」を考えた時点で、役に立たなくなる。


今日から試せること

この記事を読んで、「じゃあ何かに没頭しよう」と思ったかもしれない。

でも、没頭は「しよう」と思ってできるものじゃない。

一つだけ、提案がある。

今、なんとなく続けていることを、もう少しだけ深くやってみろ。

週末の趣味でもいい。仕事の一部でもいい。

「このくらいでいいか」と思っているところを、もう一段深く掘ってみる。

「なぜそうなるのか」を考えてみる。「もっと上手くできないか」を試してみる。

その先に、何かが見えるかもしれない。見えないかもしれない。

でも、掘らなければ、絶対に見えない。


あの頃、バンドに夢中だった自分。

無駄だったとは思わない。

突き抜けたかどうかは、正直わからない。でも、あの時間があったから、見えるようになったものがある。

「一つのことを、とことんやる」

その価値を、今は少しだけ信じている。


この記事で参考にした本

『佐藤可士和のクリエイティブ・シンキング』佐藤可士和 → 「没頭することで本質に到達する」という考え方。音楽やスノーボードの経験がデザインに活きたエピソードが印象的だった。


合わせて読みたい

スペックでは勝っていた。選ばれたのは別の会社だった。 「良いもの」と「選ばれるもの」は違う。表面的な優劣ではなく、本質的な価値の見せ方について。

去年の成功を、今年も繰り返した。通用しなかった。 過去の成功パターンに固執する危険。「突き抜けた」と思った瞬間に、思考が止まる問題。

言われた通りにやった。完璧に仕上げた。『視点が低い』と言われた。 表面をなぞるだけでは見えないものがある。本質を掴むことの重要性について。