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利益が出ているのに、会社が潰れる理由

約5分で読めます 戦略・経営・事業
目次

黒字なのに、会社は潰れます。しかも、めったにない事故ではありません。

「黒字倒産」という言葉があります。損益計算書は黒字。なのに支払いができず、事業が止まる。

不思議に聞こえます。利益が出ているなら、その分のお金が手元にあるはずだ。多くの人がそう考えます。

でも、利益と現金は別物です。ここがズレていることに気づかないまま、黒字のまま資金が尽きる会社があります。

今日は「利益」と「現金」がなぜ食い違うのか、その構造を一緒に見ていきます。

「利益が出た」は、お金が入ったという意味ではない

会計の利益は、売った瞬間に計上されます。代金がいつ入るかは、別の話です。

石野雄一さんの『ざっくり分かるファイナンス』に、わかりやすい例があります。

200万円の車を売ったとします。ただし、代金の支払いは3年後。車を作るのに150万円かかっていた。

帳簿の上では、200万円マイナス150万円で、50万円の黒字です。でも手元の現金は、作るのに使った150万円が出ていったきり。入ってくるのは3年後です。

黒字なのに、手元はマイナス150万円。これが黒字倒産のいちばん小さな縮図です。

会計とファイナンスは、見ているものが違います。会計は「利益」を、ファイナンスは「キャッシュ(現金)」を扱う。利益は会計基準や判断である程度動かせますが、現金の残高は動かせません。現金は嘘をつかない。

つまり黒字は、「これから入るはずのお金」の約束を含んでいます。約束と現実がズレたとき、会社は黒字のまま詰まります。

利益は、姿を変えて会社の中に隠れている

では、出たはずの利益はどこへ行ったのか。

稲盛和夫さんは『実学』で、こう言っています。利益は現金のまま残っているわけではない。売掛金や在庫、設備に姿を変えている、と。

この感覚をつかむのに、稲盛さんの「バナナの叩き売り」の話が効きます。

たとえば、リンゴ箱や布や棒で道具をそろえます。しめて1500円。そこにバナナを20房、1000円で仕入れる。1房150円で全部売れば、売上は3000円。仕入を引いた利益は2000円です。

帳簿は2000円の黒字。ところが、その日の手元に残った現金は500円しかありません。道具代1500円と仕入1000円が、先に出ていったからです。

道具を「まだ使えるから資産」と考えて費用に落とさなければ、帳簿の利益はもっと大きく見えます。でも財布の中身は増えていない。

利益の数字と、財布の中身。この2つは、いつもズレています。

このズレは、規模が小さい会社や、急に伸びている会社ほど怖い。余裕資金が薄いところに、立て替えたお金が積み上がるからです。大企業だけの話ではなく、むしろ身近な事業の話です。

財務3表は、つながっている

ここで効いてくるのが、財務3表の見方です。

損益計算書(PL)は一年の成績、貸借対照表(BS)はある時点の財産、キャッシュフロー計算書(CF)は現金の出入り。この3つはバラバラの書類ではなく、つながっています。

大手町のランダムウォーカーさんの『会計クイズ』が、この連動をていねいに解いています。

PLで出た最終利益は、BSの「利益剰余金」に積み上がる。でもその利益は、現金として積まれるとは限りません。売掛金や在庫という別の形で、BSの資産側に化けている。だからPLだけ見ても、現金の実像はわからない。

黒字倒産は、まさにこの化けた利益が膨らみ続けたときに起きます。売れているのに現金は入らず、在庫だけが増えていく。PL上の利益は右肩上がりでも、営業キャッシュフローはマイナスのまま。この食い違いを放っておくと、ある日、支払いに回す現金が足りなくなります。

CFを見ると、現金が本当に増えたのかがわかります。とくに本業の現金を示す「営業キャッシュフロー」がプラスかどうか。ここが会社の生命線です。

逆のパターンもあります。たとえば名刺管理のSansanは、上場した頃、広告費を先に使ってPLは赤字でした。でも顧客から一年分の利用料を前受金として先にもらう仕組みだったので、営業キャッシュフローはプラス。赤字でも現金は回っていました。

PLとCFが逆を向くことがある。だから両方を並べて見ないと、会社の本当の体力は見えません。

現金が詰まる場所には、名前がある

利益と現金のズレが生まれる場所は、だいたい決まっています。売掛金、在庫、そして支払いのタイミングです。ここをまとめて「運転資金」と呼びます。

売った代金が入るのは後。仕入や在庫にはお金が先に出ていく。このギャップが大きいほど、黒字でも手元は苦しくなります。

石野さんの本には、こんな試算があります。年間3000億円を売る会社でも、回収が3カ月遅れれば、期末には800億円を超える売掛金が未回収のまま残る。売上が大きいほど、会社が立て替えている金額も大きくなるわけです。

たとえば日産自動車は、この運転資金を経営の課題として扱いました。石野さんの本によれば、販売店ごとの回収期間をランキングにして毎月レポートし、納車日と支払日を同時に決めないと納車できないルールまで作った。回収と支払いのギャップを詰めて、浮いた資金で借金を返していった、と紹介されています。

逆に、現金商売は強い。スーパーのように、お金が先に入って支払いが後なら、運転資金はほとんどいりません。同じ売上でも、入金と出金の順番だけで資金繰りの楽さが変わります。

稲盛さんは、モノとお金と伝票が必ず一対一で対応すべきだと言います。アメリカ拠点で、書類の到着が遅れるからと売上だけ先に立てたら、月次決算が大黒字と大赤字を繰り返した。数字が実態からズレた瞬間、会社は自分の状態が見えなくなります。

だから稲盛さんは「儲かったお金は、いまどこにあるのか」を常に見る。これがキャッシュベース経営です。

明日から、何を見るか

構造がわかったら、見る場所を変えるだけです。

誤解: 利益が出ていれば、会社は安全だ。 → 黒字は「これから入るはず」の約束を含む。約束は遅れるし、焦げつくこともある。 正しいアプローチ: 損益計算書の利益と、手元現金の残高を、別のものとして並べて見る。

誤解: 売上が伸びていれば、資金繰りは自然とよくなる。 → 売上が伸びるほど、売掛金と在庫にお金が先に出ていく。成長期こそ現金は詰まりやすい。 正しいアプローチ: 「いつ入って、いつ払うのか」を数カ月先まで並べ、入金より先の支払いに備える。

誤解: 決算書は経理が見るもので、自分の仕事とは遠い。 → 値引き、在庫の積み増し、支払い条件。現場の判断はすべて現金の流れに直結する。 正しいアプローチ: 自分の仕事が、売掛金・在庫・現金のどこに効くのかを、一つだけ意識してみる。

全部をやる必要はありません。まず、利益と現金を別々に見る。それだけで景色が変わります。

おわりに

黒字倒産は、儲かっていない会社の話ではありません。儲かっているように見える数字と、財布の中身がズレたまま走った会社の話です。

利益は約束、現金は事実。会社を最後に守るのは、事実のほうです。

この記事で参考にした本

  • 大手町のランダムウォーカー『会計クイズを解くだけで財務3表がわかる 世界一楽しい決算書の読み方』 財務3表のつながりと、現金の動きの読み方をクイズ形式で学べる一冊。
  • 石野雄一『ざっくり分かるファイナンス~経営センスを磨くための財務~』(光文社新書) 利益とキャッシュの違い、運転資金という考え方。
  • 稲盛和夫『稲盛和夫の実学』(日本経済新聞出版) キャッシュベース経営、一対一の対応、会計を経営の計器盤にする発想。

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