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『新版 財務3表一体理解法』國貞克則|仕訳をすっ飛ばして、会計の森を一気に見渡す

戦略・経営・事業 ✍ 國貞克則
約11分で読めます

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『新版 財務3表一体理解法』
目次

決算書を開いて、最初の数ページで本を閉じた経験はないだろうか。

「借方」「貸方」「仕訳」。会計の入門書をめくると、まずこの呪文めいた言葉が押し寄せてくる。意味を辞書で調べても腹に落ちず、ただルールだけが砂のように積み上がっていく。

流れもわからないまま年号だけを暗記させられる歴史の授業に、どこか似ている。覚えても忘れる。忘れてはまた覚え直す。そして「自分は数字に向いていない」と結論づけて本を閉じる。

著者の國貞克則さんは、その敗北はあなたのせいではないと言う。悪いのは学ぶ順番だ、と。仕訳はいったんすっ飛ばしてしまえばいい。先に「森の全体像」を見る。

そうすれば会計は、かけた勉強時間に比例せず、むしろ短時間で腹の底から理解できるようになる——本書が一貫して主張するのはこの一点だ。シリーズ累計80万部を超えるロングセラーの最新改訂版である。

図解

こんな人に効く一冊

想定読者ははっきりしている。仕訳のルール暗記でつまずき、会計書を途中で投げ出してしまった営業職や技術職の人。決算書を眺めても、その会社が元気なのか危ないのかをまるで判断できずにいる人。会議で経費の話が出るたび、自分が使ったお金が会社の利益にどう響くのか実感を持てない人。

これらはいずれも「数字オンチ」の問題ではない。全体像を渡されないまま、いきなり細部から入らされただけの話だ。地図を見せられないまま路地裏を歩かされれば、誰だって迷子になる。本書はその入り口そのものを組み替えてくれる。

苦手の正体は、頭ではなく順番にある

本書の出発点は、従来の会計教育への異議申し立てだ。これまでの入門書は、仕訳のルールを一つずつ覚えるところから始まった。國貞さんはこれを「木を見る勉強」と呼ぶ。一本一本の木を丹念に観察しているのに、自分がどんな森の中にいるのかは最後までわからない。

代わりに本書がとるのは「森を見てから木を見る」という逆順のアプローチである。まず財務3表の全体像とつながりをザックリつかみ、それから細部へ降りていく。順番を入れ替えるだけで、同じ知識が驚くほど素直に頭に入る。

そして、ここで本書の核心が登場する。業種がどれだけ違っても、すべての会社はたった3つの活動しかしていない、というのだ。「お金を集める」「投資する」「利益をあげる」。この3つに尽きる。

事業を立ち上げる場面を思い浮かべればいい。まず株主の出資や銀行からの借入で元手を「集める」。次にそのお金で工場や商品を「投資(購入)」する。そして売上を立てて「利益をあげる」。日本に約360万社あると言われる会社が、突き詰めればこの3ステップをぐるぐる回しているにすぎない。

財務3表とは、この3つの活動を別々の角度から数値に翻訳したものだ。お金の集め方は貸借対照表(BS)の右側に、投資した結果はBSの左側に、利益をあげる活動は損益計算書(PL)に表れる。

複雑怪奇に見える決算書も、書かれているのは結局この3活動だけ——そう腑分けされると、急に視界が開けてくる。

借方・貸方は、ただの記号と割り切る

多くの初学者が最初に殴られて倒れるのが「借方・貸方」だ。これに対する國貞さんの助言は、拍子抜けするほどあっさりしている。あれはシンボルのようなもので、それ自体に深い意味はない、と。

簿記でいう借方、貸方というのはシンボルのようなもので、それ自体に深い意味はありません。

借方は「左側」、貸方は「右側」を指す記号。会計の世界でも、この二語に本質的な意味はないというのが今や一般的な認識になりつつある、と本書は指摘する。だから意味を求めて立ち止まらず、記号として割り切って先へ進めばいい。ここで肩の力を抜けるかどうかが、最初の関門だ。

そのうえで本書は、BSの構造を専門用語ではなくビジネスの論理で説明する。BSの右側は「これまでどうやってお金を集めてきたか」。左側は「集めたお金が、今どんな形になって会社にあるか」。右と左は同じお金を出所と現在の姿の両面から眺めているだけだから、合計は必ず一致する。

ちなみにBalance Sheetという呼び名も、左右がバランス(一致)するからだと思われがちだが、もともとは「財産残高(Balance)の一覧表」という意味だと本書は教えてくれる。

ある時点での財産のスナップショット、というわけだ。語源を知ると、この表が「写真」なのだと体感的にわかる。

お金の集め方も整理される。ふつうは「他人から借りる(負債)」「資本家に出してもらう(資本金)」の2つを思い浮かべるが、本書は3つ目を強調する。

「自分の会社が稼ぎ出す」、つまり利益剰余金だ。過去の利益の積み重ねこそ、会社が自前で生み出した最も健全な資金源になる。

借りた金でも出してもらった金でもない、自力で得た元手——この視点は、企業の強さを見るうえで決定的に重要になる。

資本金の説明も印象に残る。株主が払い込んだ資本金は、借入金と違って会社が返す必要のないお金だ。株主が急に現金を欲しくなっても、会社に「資本金1千万円を返して」とは言えない。

できるのは、持っている株を市場で売ることだけ。だから株価が2倍になろうと、BS上の資本金の額は1円も動かない。株価は会社の外側で揺れ動く市場の値段にすぎず、会社の財布の中身とは別物なのだ。

利益が5つに分かれている理由

損益計算書(PL)の目的は、現金の出入りを追うことではない。「その期の正しい利益を計算する」ことにある。どの段階でどれだけ儲かったのかを見せるため、PLは利益を5段階に刻んでいる。

1. 売上総利益(粗利) ── 売上高から商品の原価を引いた利益。

2. 営業利益 ── 粗利から人件費や家賃などの販売費及び一般管理費を引いた、本業の儲け。

3. 経常利益 ── 営業利益に、受取利息や支払利息といった本業以外の経常的な収支を加えた、事業活動全体の儲け。日本で特に重んじられる「ケイツネ」がこれだ。

4. 税引前当期純利益 ── 経常利益に、固定資産の売却益のようなその期だけ特別に出た損益を加減した利益。

5. 当期純利益 ── 法人税などを払ったあとに最後に残る、その期の最終的な利益。法人税・住民税・事業税を合わせた税額は、おおむね課税所得の30%程度だと本書は補足する。

なぜわざわざ段階を分けるのか。本業でしっかり稼げているのか、それとも資産を切り売りして見栄えを取り繕っただけなのか——利益の中身を見分けるためだ。

最終利益だけを見て「黒字だから安泰」と判断するのは、料理を口に入れずに見た目だけで味を語るようなもの。営業利益が薄いのに特別利益で最終黒字を化粧している会社は、PLを5段階で読めば一目で見抜ける。

3つの表は、一本の線でつながっている

本書のタイトルにもなっている肝がここだ。PL・BS・CSはバラバラに散らばった表ではなく、何本もの線で結ばれている。

最も重要な結節点が、PLとBSをつなぐ一本だ。PLで計算された「当期純利益」は、BSの純資産にある「繰越利益剰余金」へと流れ込む。1年間の儲け(フロー)が、会社の蓄積(ストック)に積み上がっていく。この一本によって、PLとBSは地続きになる。

つながりはほかにもある。BSの現金残高は、キャッシュフロー計算書(CS)の期末残高と必ず一致する。本書はこうした連動を「5つのつながり」として明示し、ひとつの取引が3表をどう同時に揺らすかを、読者自身の手で追わせる。

いちばん小さな例がわかりやすい。会社で事務用品を現金5万円で買ったとしよう。まずBSの左側の「現金」が5万円減る。同時にPLに「事務用品費」が5万円計上され、利益が5万円減る。

その減った利益がBSの右側の純資産(繰越利益剰余金)を5万円減らす。だからBSの左右はピタリと釣り合ったまま動く。一つの取引が、3つの表を連動させて同時に動かすのだ。

本書はこの感覚を、ドリル形式で体に叩き込ませる。読者は漆器をネット販売する会社の社長になりきり、資本金300万円を入れる、パソコンを現金50万円で買う、商品を750万円分買掛で仕入れる——といった取引を、一つずつ空欄の財務3表に書き込んでいく。

書いては消し、また書く。頭で理解するのではなく、手を動かして体で覚えるプロセスだ。読むだけの入門書が多いなかで、この「自分で書かせる」設計こそ本書が長く支持される理由だろう。

黒字なのに、現金がない——という恐怖

本書が最も伝えたい現実が、これだ。利益と現金は、別物である。 PLやBSに並ぶ数字は、必ずしも現金の動きを表していない。家計簿のように円単位の数字がずらりと並ぶせいで現金の収支だと思い込みがちだが、それは大きな誤解だ。

ズレが生まれる理由は2つある。1つは、売掛(売った代金を後で受け取る)や買掛(仕入れた代金を後で払う)のように、売上や費用を計上するタイミングと現金が実際に動くタイミングがずれる取引があること。もう1つは、現金は動くのにPLの利益にはまったく響かない取引があることだ。

後者の代表が、借入金の元本返済である。お金を借りたときにそれが売上にならないのと同じで、返したときも費用にはならない。元本返済はPLに一切表れない。

だから多額の返済をしても、それだけで赤字になることはない(ただし利息はPLに費用として計上される)。手元の現金はごっそり減るのに、PLは涼しい顔をしている、というわけだ。

減価償却は逆向きのズレを生む。パソコンや機械のように長く使う資産は、買った年に全額を費用にせず、使う期間(耐用年数)に分けて少しずつ費用化していく。

各期の正しい利益を出すための処理だが、現金は買った時点で一括して出ていくのに、費用は何年かに引き伸ばされる。ここでも現金と利益はずれていく。

こうしたズレが積み重なると、ぞっとする事態が起きる。PL上はしっかり黒字なのに、売掛金が回収できず手元に現金がない。税金を払う段になって、税金を払うためにわざわざ借金をする。

本書はこれを「勘定合って銭足らず」と呼ぶ。いわゆる黒字倒産のメカニズムだ。儲かっているはずの会社が、現金が尽きた瞬間に倒れる。

利益と現金を混同したまま経営していると、足元の地面がいつ抜けるかわからない。

だからこそ、現金の動きだけを抜き出したCSを併せて見る必要がある。CSの作り方には2つある。日々の現金の出入りを直接積み上げる「直接法」と、PLの税引前当期純利益を起点に、減価償却費や売掛金・買掛金の増減を足し引きして現金の動きを逆算する「間接法」だ。

実務ではすべての伝票を集計し直す手間を省けるため、ほとんどの企業が間接法を採用している。なお日本では2000年3月期決算から、上場会社などにCSの作成が義務づけられた。

利益だけでなく現金も見る、という発想が制度として根づいた節目である。

決算書を「箱の大きさ」で読む

附章では、学んだ知識を実際の決算書に当てる方法が示される。鍵になるのは図解だ。

数字の羅列というデジタルなデータを、面積を持った図に「アナログ化」すると、人間は多くの情報を直感的につかめる。本書はPLとBSの数字を、面積を持った四角い箱として描く。

流動資産の箱と流動負債の箱を見比べれば、短期的な支払い能力(流動比率)が一目でわかる。純資産の箱が大きければ、自己資本比率が高く財務が安定している、と即座に見て取れる。

電卓を叩く前に、まず絵にしてしまうのだ。

判断には目安もある。本書が引く『産業別財務データハンドブック2019』によれば、日本の上場企業の自己資本比率の平均は約44%。ROE(自己資本利益率)は過去10年で3.7%から10.6%の間を動いてきた。

気になる会社の数字を、この平均と並べて置くだけで景色が一変する。「高いのか低いのか」を判断する物差しを持てるからだ。

図解は実在企業でも示される。著者は15年ほど前のイトーヨーカ堂とダイエーのBSを箱にして並べ、会計の素人でも、当時のダイエーが銀行の支援なしには資金が回らない状態だったと一目で見抜けることを示してみせた。専門知識ではなく、箱の大きさの比較だけで危機が見える。

CSの読み方も具体的だ。営業CF・投資CF・財務CFのプラスマイナスの組み合わせから、経営者の姿勢が透けて見える。トヨタはある4年間で、営業活動が生んだ16兆191億円の現金の大半(12兆5097億円)を、将来への設備投資に回し続けた。

営業CFがプラス、投資CFがマイナス、財務CFがマイナス——稼いだ金を投資と借金返済に充てる、長期ビジョンを持つ優良企業の典型パターンである。

スバルの例も鮮やかだ。2000年代初頭に存続が危ぶまれた同社は、ドラッカーの「業績の鍵は集中である」という言葉どおり北米市場へ絞り込み、2008年3月期に1兆5723億円だった売上を、2020年3月期には3兆3441億円へと2倍以上に伸ばした。

利益剰余金は1兆3972億円まで積み上がっている。戦略の選択が、そのまま数字と図に刻まれる。決算書を読むとは、過去の経営判断の答え合わせをすることでもあるのだ。

明日から試せる3つの行動

本書の学びを、明日の仕事で使える形に絞ろう。

1. 経費を「必要な売上」に換算する ── 3万円の研修を受けるとき、「3万円使った」で止めない。自社の粗利率が10%なら、この3万円を取り戻すには30万円の売上がいる、と逆算する。たったこれだけで、経営者と同じコスト感覚が身につく。経費の重みが体感として変わる。

2. 気になる会社のPLとBSを箱に描く ── 細かい数字をにらむのではなく、主要な項目を四角い面積にして描いてみる。流動資産と流動負債の大きさを見比べれば、その会社の安全性が直感でつかめる。

3. 「過去最高益」の報道に一歩踏み込む ── 最高益のニュースを見たら、「で、現金(キャッシュフロー)はどうなっている?」と問う癖をつける。利益と現金を分けて考えられるようになると、ビジネスを見る目が確実に一段深まる。

注意点も一つ。本書はあくまで全体像をつかむための入門書だ。連結会計や税効果会計、IFRSといった高度なテーマは『発展編』に分冊されており、本書では扱わない。実務で細かい仕訳が必要になる人は、まず本書で森を見渡してから次へ進む、という使い方になる。

おわりに——数字が語らないもの

國貞さんは、財務3表が完成度の高い仕組みであることを認めたうえで、それでも数字には表れないものがあると書いている。社員の能力や情熱、社内で育てた特許、先輩たちが築いたノウハウや信頼。そうした「人間」と「知恵」の価値だ。

ゲーテは複式簿記を「人間精神のもっとも立派な発明のひとつ」と讃えた。だが、その精緻きわまる仕組みでさえ、会社の未来を担う見えない価値まではすくい取れない。

会計を学ぶ意味は、数字を妄信するためではなく、数字が語ることと語らないことの境界線を知るためでもある。決算書を読めるようになることは、同時に「決算書に載らないもの」へ目を向けられるようになることでもあるのだ。

まずは、自分が今日使った経費を、必要な売上に換算してみる。その小さな一歩から、会計の森が見えはじめる。


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