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ブクドリ | BOOK DRIP

センスがいい人は、なぜ王道から入るのか

約4分で読めます 思考法・問題解決
目次

「センスがない」と言うとき、私たちは何かを諦めています。

才能の話だから、努力で変わらないと。

でも、センスの正体は才能ではありません。水野学さん(good design company代表、くまモンのディレクター)は、センスを「数値化できない事象を最適化する能力」と定義し、それは「知識の集積」によって誰でも身につけられると断言しています。

この定義は、静かに衝撃的です。

「ひらめき」や「感性」は存在しない

センスがいい人を観察すると、なぜか「直感で答えが出る」ように見えます。

でも実際には、多くの知識を素早く参照して答えを出しているだけです。「なんとなく違う」「これはいい気がする」という感覚の裏には、膨大なインプットが蓄積されている。

水野さんはこの点をはっきり言います。「センスのよさとは、直感や生まれつきの感性ではなく、豊富な知識の集積から導き出される判断力だ」と。

逆に言えば、センスが「ない」と感じるのは、知識が不足しているだけです。

これは「努力で変わらない」ではなく、「どこを伸ばすかがわかっていなかっただけ」という話です。

「普通を知る」ことが「定規」になる

センスを磨く上で最も重要な概念が、「普通を知る」です。

一般的に「普通」は「没個性」の代名詞のように捉えられます。個性を出したい人が最も避けようとするもの。

ところが水野さんは、これを逆に捉えます。「普通」とは良いものも悪いものも知った上で理解できる基準であり、「あらゆる事象を測る定規」だと。

たとえば、シンプルなTシャツをデザインするとします。「普通のTシャツ」を深く知っていると、「どのくらいの袖丈なら自然か」「ネックラインをこの幅にしたら何が変わるか」が判断できます。「普通」を知らないと、「面白そうだから変えてみた」という根拠のない選択になり、何が良くて何が悪いかの評価もできない。

「定規がない状態で、精密な作業はできない」というのは、デザインに限らずあらゆる創造的な作業に共通します。

だから、センスがいい人は新しい分野に入るとき、まず「王道」を調べます。いちばん歴史があり、長く愛されているものを徹底的にインプットする。そこから始めることが、「定規を持つ」ことになるからです。

「あっと驚く企画」より「あまり驚かないけれど売れる企画」

ここにもう一つ、直感に反する知見があります。

多くの人が「クリエイティブな仕事」と聞くと、「驚きを与える斬新なアイデア」を想像します。ところが水野さんは、そこに罠があると指摘します。

「あっと驚く売れない企画よりも、あまり驚かないけれど売れる企画を目指すべきだ」

これは妥協ではありません。構造の問題です。

「驚き」を与えようとすると、人々が持っているスキーマ(認知的な期待値)から大きく外れたものを作ろうとします。でも、スキーマから外れすぎると「受け取れない」。人間は、まったく新しいものには親しみを感じません。

一方、「あまり驚かない」は「既存の期待を満たす」という意味ではなく、「親しみのある文脈の中で、少しだけ新しい」という構造を意味します。くまモンが好例です。熊本の熊、ゆるキャラ、という親しみやすい文脈の中に、絶妙なデザイン判断が積み重なっている。「あっと驚く新キャラ」ではなく「見た瞬間になんとなく好き」という感覚。

センスのある仕事は、往々にして「説明が難しい」です。でもそれは、感性によるものではなく、知識と知識の掛け合わせが精巧すぎて言語化しにくいのです。

知識を増やす3つのステップ

水野さんが提示する、センスを磨くための実践的な手順があります。

ステップ1:王道を知る 新しい領域に取り組む際、いきなりオリジナリティを出そうとしない。まず「長く愛されている定番」を徹底的に調べる。なぜそれが王道になったのかを言語化する。

ステップ2:流行を把握する 雑誌、SNS、書店などを広く浅くスキャンして「現在のトレンド」を把握する。自分の専門外のジャンルも意識して見る。

ステップ3:共通項を見つける 王道と流行に共通するものは何か。変化しているものと変化していないものは何か。自分なりに仮説を立てる。

このサイクルを回すことで、「なんとなく良い」という曖昧な感覚が、「なぜ良いか」という言語化できる判断基準に変わっていきます。

「センスがいい人は感覚で動いている」という誤解があります。でも実際には、知識が蓄積されることで判断のスピードが上がっているだけです。


センスは、「あるかないか」ではなく「蓄積されているかどうか」の問題です。

生まれつきの才能という壁はありません。知識を意図的に積み上げていくプロセスが、センスを作る。

「王道を知る」という地味な作業が、実は最も速い近道です。


この記事で参考にした本

『センスは知識からはじまる』水野学さん → センスの定義(数値化できない事象を最適化する能力)、「普通を知る」という定規の概念、知識を増やす3ステップ。くまモンなど著者自身が手がけた事例が説得力を持たせている。


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