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ブクドリ | BOOK DRIP

その「いつか」は、あと何回ありますか

約4分で読めます キャリア・働き方
目次

人生を80年とすると、およそ4000週間です。

オリバー・バークマンが『限りある時間の使い方』で示す数字です。90歳まで生きても、約4700週間。

ただ、正直に言うと、私はこの数字を見てもあまりピンときませんでした。4000という数は、大きいのか小さいのかわからない。

変わったのは、単位を「回数」に置き換えたときです。

実家の親に年2回会うとして、親が90歳まで生きるなら、残りは50回ほど。桜を見るのも、あと数十回。数えられる数字になった瞬間、感じ方が変わりました。

残りは、時間ではなく回数で減っていく

なぜ回数だと効くのか。

精神腫瘍科医の清水研さんは『もしも一年後、この世にいないとしたら。』で、3500人以上のがん患者と向き合ってきた経験から書いています。死は不吉なだけのものではなく、「今生きている瞬間のかけがえのなさ」に気づかせる光の側面を持つ、と。

期限が具体的になると、選択が変わる。これは、ふつうの生活でも同じです。

たとえば、週末の予定。「いつか行こう」と言い続けている場所があるとします。時間で考えると「まだ何十年もある」になる。回数で考えると「動ける週末は、あと何回か」になります。

同じ事実なのに、後者だけが行動を変えます。

清水さんが患者たちの変化から取り出した教訓は、shouldからwantへ、というものでした。他者や社会が求める「こうあるべき」から離れて、自分の「こうしたい」に従う。

ただし、これを「好きに生きよう」と読むと軽くなります。清水さんが見ているのは、極限状態で初めて自分の声が聞こえた人たちです。私たちがそこまで待つ必要はないけれど、待たずに聞くには、意識的な手間が要ります。

時間術では、この問題は解けない

「時間がない」の解決策として、まず思いつくのは時間術です。

研究者の佐藤舞さんは『あっという間に人は死ぬから』で、そこに冷や水を浴びせています。生産性系の時間術も、自己啓発系のマトリックスも、あくまで手段でしかない。「何のために時間を使うのか」という問いには答えていない、と。

佐藤さんが挙げる例が面白いです。

子どもの頃は、20分あれば校庭に行ってドッジボールができると判断して実行していた。大人になると「たった20分では何もできない」と思い込み、スマホで潰してしまう。

時間そのものは同じです。変わったのは、時間の知覚のほうでした。

そして、空いた時間を埋めているのが逃避行動だと佐藤さんは指摘します。過剰な睡眠、SNS、買い物。これらは楽しみというより、不安から目を逸らすための行動です。

彼女はその根っこに、死、孤独、責任という3つの壁を置きます。ここを見ないまま時間術だけを足しても、モンスターは減らない。

だから順番が大事です。効率を上げる前に、何に使うのかを決める。逆にすると、速く走れるようになっただけで、行き先は空欄のままになります。

幸福を左右するのは、所得より「自分で決めたか」

もうひとつ、佐藤さんが紹介している研究が印象に残りました。

神戸大学が日本人2万人を対象に行った実証研究です。幸福感を決める要因として、健康と人間関係に次いで強く効いていたのは、所得や学歴ではなく「自己決定」でした。

自己決定とは、進学先や就職先といった進路を、自分で決めたかどうかの度合いです。

これは実感とも合います。同じ仕事量でも、自分で引き受けたものと、押しつけられたものでは疲れ方が違う。金額の問題ではなく、決めた人が誰かの問題です。

実務に置き換えると、こうなります。転職や異動で悩むとき、条件の比較に時間を使いがちですが、条件が同じでも「自分が選んだ」という事実の有無で満足度は変わる。

たとえば、上司に勧められて受けた異動と、自分から手を挙げた異動。3年後の受け止め方は、かなり違うはずです。

もちろん、すべてを自分で選べる人はいません。ただ、選べる範囲を少しでも自分の側に寄せることには、思っていた以上の効果があります。

明日からできること

誤解:やりたいことができないのは、時間が足りないから → 時間の総量ではなく、行き先が決まっていないことが原因です。行き先が空欄だと、時間はいくらあっても逃避に吸われます。

正しいアプローチ:「いつか」のリストを、回数に換算する → 紙に3つ書き出して、それぞれ「あと何回できるか」を横に書く。海外旅行、親と過ごす正月、子どもと出かける休日。数字にした瞬間、優先順位が勝手に動きます。

もうひとつ、5分でできることがあります。

今週やった予定を見返して、それぞれに「should」か「want」を書き込む。全部がshouldなら、それは忙しさの問題ではなく、決め方の問題です。

佐藤さんは、目標は仮決めして行動し、観察して修正する「仮説と実験」でいいと書いています。回数の計算も同じで、正確さは要りません。桁がわかれば十分です。

おわりに

4000週間は、実感しにくい数字です。

でも「あと50回」は、想像できます。想像できる数字だけが、今日の予定を動かします。

その「いつか」は、あと何回ありますか。


この記事で参考にした本

『もしも一年後、この世にいないとしたら。』清水研 → 3500人以上のがん患者と向き合った臨床から、死を見つめることでshouldからwantへ移る過程を描いた一冊。

『あっという間に人は死ぬから』佐藤舞 → 時間術の限界と、時間を食べつくす逃避行動の正体。自己決定と幸福感の研究も紹介されている。

『限りある時間の使い方』オリバー・バークマン → 人生4000週間という有限性から出発し、効率化では解けない問題があることを示す。


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