達成率100%の目標が、組織を小さくする
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期末に、目標がきれいに全部達成されている。
一見、良い状態に見えます。ただ、それが毎期続いているなら、疑うべきはメンバーではなく目標の立て方のほうです。
ジョン・ドーアが『Measure What Matters』で紹介しているOKRは、この問題への処方箋として設計されています。
面白いのは、その出発点が「達成できる目標を立てさせない」ことにある点です。
目標が評価とつながると、目標は縮む
インテルのアンディ・グローブがOKRを組み立てたのは1971年です。
彼が背を向けたのは、当時すでに広く使われていたMBO(目標管理制度)でした。理由は、それが給与や賞与に直結して硬直化し、形骸化していたからです。
構造は単純です。目標の達成度が報酬を決めるなら、人は必ず達成できる目標を出します。合理的な行動であって、怠慢ではありません。
だからグローブは、進むべき方向を示す「目標(O)」と、客観的に測れる「主要な結果(KR)」を分離しました。
そして本書の中でくり返し強調されるのが、OKRを人事評価に直結させてはいけない、という一点です。
「未達を前提にした目標」は、実際に機能する
評価と切り離すと、目標は届かない高さに置けるようになります。
Google Chromeの例が分かりやすい。当時シェア3%に満たなかったこのブラウザに対し、サンダー・ピチャイは初年度の週次アクティブユーザー目標を2000万人としました。結果は1000万人前後で未達です。
2年目は5000万人を掲げて3800万人。これも未達。3年目は、ラリー・ペイジがさらに引き上げて1億1100万人。この年に達成しました。
2年連続で未達でも、目標は下げられていません。追われていたのは達成率ではなく、「なぜ届かないのか、どこを変えれば壁を越えられるのか」という問いのほうでした。
YouTubeも同じです。広告収入に直結する視聴回数という指標を捨て、1日の総視聴時間10億時間という当時としては無謀な数字を掲げ、4年間ほかの誘惑をすべて切り捨てました。アルゴリズムの改善と小さなバグ潰しを150件近く積み上げて、2016年秋に前倒しで達成しています。
評価から切り離すと、人が辞めなくなった
理屈は分かるとして、報酬との分離は現実に可能なのか。
アドビのドナ・モリスは、年1回の年次勤務評定を完全に廃止しました。この制度には、管理職1人あたり平均7.5時間が費やされ、社員を萎縮させていました。
代わりに導入したのが、四半期ごとの目標更新と継続的な双方向の対話です。報酬の決定と目標達成度が切り離された結果、メンバーは守りに入らずストレッチ目標に挑戦するようになりました。
そして、従業員の自発的退職率が31%減少しています。
目標を評価から外すと管理が緩むと考えられがちですが、起きたのは逆でした。目標が本来の役割、つまり方向を示す道具に戻ったということだと思います。
明日からできること
誤解:目標は多いほうが、抜け漏れがない → 学校向けアプリ「リマインド」の創業者は、顧客である教師から最も要望の多かった機能を、全社目標に直結しないという理由で棚上げしました。要望が多いことと、いま優先することは別です。
正しいアプローチ:目標を、達成できるものと、届かないものに分けて書く → 全部をストレッチにする必要はありません。確実に達成すべきコミット型の目標と、7割届けば上出来のストレッチ目標を、最初から別の欄に書く。混ぜるから、どちらも中途半端になります。
そして、目標を書いたら「これは評価に使うのか」を先に宣言しておく。評価に使うなら、人はその目標を低く見積もります。それは避けられません。
麻野耕司さんの『THE TEAM』は、目標を意義、成果、行動の3層に分ける考え方を提示しています。新幹線の清掃を担うJR東日本テクノハートTESSEIは、「新幹線劇場のキャストとして感謝感激を与える」という意義目標の下に「7分で温かな思い出を持ち帰っていただく」という成果目標を置きました。数字だけを置くと、意味が抜けます。
ただし、制度を入れれば動くわけではありません。ヘルスケア企業ルメリスは、期末に人事から急かされて数字を埋めるだけの形骸化に陥り、立て直すために人事部門の85%を18カ月で入れ替えるほどの文化改革を要しました。
おわりに
達成率が100%だということは、その組織が到達点を正しく予測できていたということです。
予測できる範囲のことしか目標にしていない、とも言えます。
未達を許すのは甘さではありません。どこまで行けるかを、まだ測っていないという状態を保つことです。
この記事で参考にした本
『Measure What Matters 伝説のベンチャー投資家がGoogleに教えた成功手法 OKR』ジョン・ドーア → OKRの成立史と、評価から切り離すという原則。Chrome、YouTube、アドビ、ゲイツ財団など、機能した例と形骸化した例の両方が載っている。
『THE TEAM 5つの法則』麻野耕司 → 目標を意義、成果、行動の3層に分ける考え方。数字だけの目標が持たない理由を、チーム運営の側から説明している。
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